センサデータ×データ解析による設備保全DX
第2回 予知保全におけるデータ解析の進め方
「センサデータ×データ解析による設備保全DX」シリーズ第1回の記事では、設備保全の中でも特に、近年着目されている予知保全(Predictive Maintenance;PdM)について、その概要と導入時の勘所の解説を行いました。
予知保全の導入には考慮すべき勘所が複数存在しますが、その1つが「適切なデータ解析手法の選択」という点になります。予知保全におけるデータ解析の目的は、センサデータに現れる設備劣化の兆候を適切に検出することです。これを実現するためには、センサデータをよく観察し、設備劣化に起因する変動パターンの特徴を理解したうえで、その特徴に適したデータ解析手法を選択することが極めて重要となります。
「センサデータ×データ解析による設備保全DX」シリーズ第2回である本記事では、予知保全のデータ解析に焦点を当て、頻出するデータ解析技術と手法、データ解析を実施するうえでの一連の流れ(センサによるデータ収集からデータ解析手法の選定)について、わかりやすく解説していきます。
INDEX
1. 予知保全で用いられるデータ解析技術と具体手法
表1に、予知保全で多用されるデータ解析技術の一覧を示しています。データ解析技術は表1以外にも故障部位や種類の分類まで行う故障分類などもありますが、これから設備保全DXを導入するのであればまずは表1に示す技術を検討するのが良いでしょう。一方、具体手法について下記に示したものはあくまで一部で、実際には様々な手法が提案されているため、選択肢には事欠きません。
データ解析技術 | 特徴 | 具体手法例*1 |
|---|---|---|
外れ値検知 | 周囲のデータ点の数をもとに判定 | ・k近傍法 |
異常検知 | 正常(異常)パターンからの乖離度合をもとに判定 | ・k近傍法 |
変化検知 | 前の時刻のパターンからの乖離度合をもとに判定 | ・k近傍法 |
*1 本記事では、データ解析の一連の進め方を重点に解説するため、ここでは具体手法の説明を省略します。
ただし、いきなり表1からデータ解析技術や具体手法の選定を行うのは得策ではありません。多くの場合、最初に選んだ手法が適切ではないために泣く泣く手戻りが発生し、結果として検討にかかったコストや時間が無駄になってしまうためです。
センサデータ×データ解析による予知保全の実現には、上記表に示す技術・手法から保全対象設備やそこから得られたセンサデータに対して適切なものを選定し適用することが肝要となります。
2. 予知保全におけるデータ解析の進め方
以下では、予知保全で用いるデータ解析をどのような手順で進めていくか、そのフローを図1に沿って説明していきます。
[Step 1]センサによるデータ収集
データ解析は、解析するセンサデータがないとはじまりません。保全対象設備に合わせて適切なセンサを選定・設置し、本来意図したデータが適切に収集される状態にしましょう。
[Step 2]異常パターンの発見と分類
次に行うのは、収集されたデータに現れる異常*2パターンの発見、およびその分類です。ここで、例としてセンサデータにおいて出現する典型的な異常パターンを図2に示します。
Step 2を行うための手法は数多存在しますが、データの可視化と目視観察が最も基本的かつ有効な手法です。このStepで観測された異常が図2のどのパターンに分類されるかは、より適切なデータ解析手法を選ぶ重要な基準となります(Step 3参照)。
以降では、設備劣化や故障など、検知したい原因に起因する異常*2が発見、分類されたことを想定して話を進めていきます。
*2 本記事にて対象とする「異常」
センサデータ値に現れる異常は、「設備の正常な稼働状態に計測されるセンサデータ値や時系列トレンドとは異なるものすべて」であり、以下の2つ意味があります。
(a)設備の劣化や故障により生じた変化による異常
(b)上記(a)以外の要因により生じた変化による異常
(e.g. 運用改善や設備修繕にともなう人員、製造機械、素材、方法などの変更)
予知保全では、(a)の異常を検知対象とすることが多いため、本記事では(a)の異常を対象に解説していきます。
なお、実運用では、センサデータ値に現れる変化が(a)の異常なのか、(b)の異常なのかを把握する必要があります。しかし、センサデータのみでどちらの異常かを判断することは一般に難しいことから、適宜、保全記録などを参照して判断することになります。
[Step 3]データ解析技術の選定
Step 2で異常パターンを把握したら、データ解析技術を選ぶフェーズとなります。既述の通り、出現した異常パターンは適用すべきデータ解析技術の重要な選定基準となるため、以下では図2で示した各パターンに適したデータ解析技術を紹介します。
(1)突発的な外れ値として現れる異常(図2上段)
異常が突発的な外れ値として現れる場合は、外れ値検知と呼ばれるデータ解析技術の適用を検討します。外れ値検知では、対象データの周りにデータがない、もしくは少ない場合に異常と判定します(図3)。なお、正常ラベルを付与できる場合は、以下の[Step 3](2)の異常検知も適用可能です。
- 特徴:データに対して正常か異常かのラベルを付与する必要がないため、技術適用のためのデータ収集の難易度が低い
- 注意点:正常データを誤って異常と判定する誤検知のリスクが高い
(2)ドリフトとして現れる異常(図2中段)
異常がドリフトのような連続的な変化をともなう場合、外れ値検知は適用できず、異常検知の適用を検討します。異常検知では、正常パターンからどの程度乖離しているかを基準に、異常の判定を行います(図4)。
同じ考え方を用いることで、異常データが十分にある場合は、そのパターンとの類似度をもとに異常の判定を行う故障検知も検討可能です。ただしこちらの場合、異常データをある程度網羅する必要があります。このような状況は一般に多くはないので、適用には注意が必要です。
- 特徴:正常パターンからの乖離度または類似度をもとに異常を検知するため、ドリフトのような変化に対応可能
- 注意点:参照元である正常パターンを明確に定義し、ラベルの付与が必要となるため、外れ値検知に比べてデータ収集・整理の難易度とコストがやや高くなる
(故障検知の場合)設備劣化や故障に由来する異常データが十分に確保できている場合にしか適用を検討できない
(3)傾向の変化として現れる異常(図2下段)
データの取り得る範囲が正常稼働時と大きく変わらず、傾向(傾き、周期、変動パターンなど)のみが変化する異常の場合、単一データのみで判定する外れ値検知、異常検知の適用は困難な場合があります。この場合は変化検知の適用を検討します。
変化検知は前述の技術と異なり、複数のデータをまとめて評価する形式をとります。判定対象のデータ群を少し前の時間のデータ群と比較することで、傾向変化がないか調べるイメージです(図5)。
変化検知には、データの取り得る範囲が正常稼働時から継続的に外れる場合のみを検知するアプローチも含まれます。設備や測定対象の特性上、正常稼働時でも単発的な外れ値が発生しうる場合はこちらが有用です。
- 特徴:傾向変化がある程度継続して発生する異常の検知に特化
- 注意点:突発的かつ単発的に生じる異常の検知には向いていない
[Step 4]データ解析手法の選定
データ解析技術の選定後、さらに具体的な手法選定を行います。すべての手法の選定基準を網羅するのは現実的にではないため、ここでは手法選定で一般的に考慮すべきポイントについて、2点紹介したいと思います。
手法が仮定する前提条件
データが特定の分布に従うことを前提とする手法がその代表例です。その前提を満たしていないと適切に異常を検出できないという事態に陥る可能性があります。例えば、表1の異常検知の具体手法として例示しているマハラノビス・タグチ法は様々な場面で適用される手法ですが、データが正規分布に従っていることを前提としています。そのため、多用されているからという理由だけで選定しても、対象のデータが正規分布に従わない場合は適切に異常を検出することができません。手元のデータが前提条件を満たしているか、十分確認を実施しましょう。
手法の解釈性
データ解析を行う最終的な目的は予知保全であるため、異常であると判定した場合、その結果を受けてメンテナンスの実施を判断するのは人間になります。この点を考慮すると、異常と判断した根拠を解釈しやすい手法を使う方が保全を実施するうえで好ましいと言えるでしょう。
ただし、手法の解釈性と異常の検知能力がトレードオフになる場合も存在します。どちらをより優先すべきかはケースバイケースになるので、データ解析者と予知保全実施者と十分にすり合わせを行い、相互に認識の齟齬がない状態としておくのが良いでしょう。
3. まとめ
本記事では、予知保全で利用される代表的なデータ解析技術と手法と、その選定フローについて解説しました。
データ解析手法選定のコツは、いきなり手法選定からはじめないことに尽きると言えます。センサにより意図したデータが取得されているか、観測された異常がどのような特徴を有しているのか、丁寧に確認することからはじめると手戻りが少なくなります。このステップをクリアすると、芋づる式に適用すべき技術や具体手法が見えてくるはずです。
昨今は、機械学習や深層学習といった解析手法そのものにスコープが当たりがちですが、「センサデータ×データ解析」による予知保全を実現するうえでは、解析手法そのものだけでなく、適切な手法を選定するためにおさえるべき基本事項をしっかり把握することがなによりも重要であると言えます。