データサイエンティスト×Murata
村田製作所のデータサイエンティストが語る「実用化するチカラ」
村田製作所(以下、ムラタ)におけるデータサイエンスの幅広い取り組みについて、それに関わる人や組織、教育といった観点から紹介。データ戦略推進部で活躍している3名の経験談を交えながら解説します。
1. 幅広い分野の実務に導入。ムラタのデータサイエンスへの取り組み
ムラタでは、データ戦略推進部が中心となってデータサイエンスを通じた課題解決に取り組んでいます。
こうした取り組みは、自社工場における製造や設計開発にとどまらず、営業やWebを含むマーケティング、また、IoT機器・ヘルスケア関連などの新規ビジネスで実用化されています。
以下では、各分野での取り組みの例について担当者のコメントとともに紹介します。
製造現場での取り組み
製造現場での業務効率化や課題解決において、現場と連携しながらデータサイエンスの業務への適用を進めています。
自社で蓄積したビッグデータを活用し、自社工場において最適な生産計画の立案を自動化したり、人による検査結果のバラつきが問題だった検査工程において、製品特性の異常検知を自動化したりといったことにデータサイエンスが活用されています。
東「私は前職も製造業でデータサイエンスを行っていました。ムラタではデータの充実度が私には魅力的でした。自社工場で日々何億個単位の製品を製造し、これだけ大規模なデータを扱える環境は多くないと思います。製造現場では、どんなデータをどのように収集するかが重要です。その点、ムラタでは以前から統計解析を行うためにデータを積極的に収集する風土があります。これは、課題抽出やそれを解決するためのデータ集めの段階から現場と密に連携できる土壌といえます。データサイエンスによる課題解決や業務効率化を速やかに実践することができます」
営業・マーケティングでの取り組み
マーケティング担当者向けのWebアクセス分析ツールを社内でリリースしました。このツールは、AIによってWebアクセスデータからお客様の潜在ニーズを抽出し、最適な製品を提案することができます。
また、お客様の問い合わせ内容に応じて、最適な担当部署に回答作成依頼を振り分けるAIシステムを開発して業務に導入。お客様への返答時間の短縮に成功し、顧客満足度の向上に貢献しています。
これらの社内プロダクトは、すべてデータ戦略推進部で内製されています。
中野「インターンとして来られる方は、営業・マーケティング分野のデータサイエンスに社内で取り組んでいることに驚かれます。私がここに転職活動していたときも同様で、ムラタといえばモノづくり企業のイメージが強かったため、意外性を感じました。前職ではSIerとしてお客様の希望に沿った業務が中心でしたが、ムラタでは自分でアイデアを出してそれを即実用化できることが、私にとっては魅力的です。業務では、現場の方と対話することでニーズや課題を抽出し、データサイエンスを使って意思決定の助けとなるインサイトを提供したり、作業を効率化したりといったことに取り組んでいます」
新規ビジネスでの取り組み
ムラタでは電子部品以外にも、テクノロジーを活かしたハードウェア製品や付帯するソフトウェア、サービスの開発・製造・販売を行っています。たとえば、振動センサを用いた設備異常検知のアプリケーションやヘルスケア関連の新規ビジネスでは、データの取得・分析やAIモデル構築が性能向上に欠かせません。
製品の開発と同時に何のデータを取得し、どのように処理して結果を導くか。ビジネスの付加価値をハードとソフトの両面から検討しています。
松井「私も前職はSIerで、お客様のデータを限定的に扱っていたため、プロジェクトの遂行にはある程度の時間を要しました。一方、ムラタでは、ハードウェアの設計開発部署と連携して利用するデータから検討でき、スピード感を持って新規ビジネスに取り組めます。たとえば、自社製のセンサでどんな信号を取得するかについても、自分のアイデアを出したり周囲から意見が得られたりするのは、ハードウェアとアルゴリズムの両方を内製しているムラタならではだと思います」
2. 社内外との連携によるプロジェクト進行
ムラタでは、データ戦略推進部のみで各種の取り組みを行っているわけではありません。プロジェクトをスピーディーに進めるうえで、垣根のない横断的な連携が実用化を成功させる鍵となっています。
データサイエンスにおける社内での連携
ムラタでは数多の製品の製造や新製品の開発、営業・マーケティング、サービスなど各分野のプロフェッショナルが、データ戦略推進部との密な意見交換を行うことにより、各業務でのデータサイエンス導入が促進・加速されています。
東「データを見るだけではわからないことが沢山あります。その点、社内でデータサイエンスを行っているので、製造現場で該当する設備を日々メンテナンスしている人と直接会話できます。社内ゆえの包み隠さないコミュニケーションの中に、数値だけでは得られない気づきがあります。課題に直面している当事者との密な連携は、データサイエンスでの課題解決や効率化の実現において、とても重要なことだと常々実感しています」
中野「業務では、現場から困りごとを聞いてデータサイエンスで解決したり、こちらから企画提案したりとアプローチはさまざまです。部内では自発性も尊重されるので、今後は私たちから企画提案する割合が増えてくると思います。ムラタでは、アイデアを出しながらスピード感を持ってプロジェクトを推進できるので、たとえばコンサルを志望している方にも満足度の高い職場といえるかもしれません」
データサイエンスにおける社外との連携
新規ビジネスでは、必要に応じて医療機関など各分野における社外のプロフェッショナルと連携することで、データサイエンスを用いた新しい製品・サービスにおける新しい価値の創造にも積極的に取り組んでいます。
松井「医療機器関連の新規ビジネスでは、医療機関との共同研究を行いました。医師にはどんなデータを取得するかの検討からご協力いただき、さまざまなフィードバックを得ながら進めることができました。データサイエンスの分野においても、医師のような外部の専門家と共に取り組む機会が得られるのは珍しいことだと思います」
3. 実用化させるチカラを育む、強い組織
データ戦略推進部は、昨今のDXやAIブームに乗った一過性の組織ではありません。社内におけるデータサイエンスの専門家集団として、常に最新技術を学びながらAIモデルの開発やシステム構築に取り組み、実用化に繋げています。
社内には国立の研究機関出身者や博士号を持っているスペシャリストも在籍しています。関係者同士でスキルやナレッジを積極的に共有し、互いに高め合う風土があります。
他にも、ハッカソンや社内Kaggle(カグル)といったイベントを開催するなど、新しいアイデアを生み、それを実践するチカラを育む活動も盛んです。
松井「過去に開催されたハッカソンでは、課題創出から解決方針、その実現方法の検討、実装(デモアプリの作成)までを1、2日間で実施しました。また、あらゆる技術を使って各々が構築した機械学習モデルの精度を競い合うイベントであるKaggleを社内向けに開催し、社内の技術力向上や技術交流を図っています」
また、全社および部課の研修だけではなく、データサイエンスへの深い理解に繋がる取り組みが重層的に行われています。以下ではそれらの例について紹介します。
入社後の教育や最新技術へのキャッチアップ
新入社員の方向けに「テクニカル・オンボーディング」というガイドラインがあり、統計学やディープラーニングなど、必要な知識を効率よく学ぶための基本指針を示しています。また、在籍者も含め、日々進歩する最新技術を学んで共有し合うことも、業務の一環となっています。データ戦略推進部では、継続的な技術習得に業務時間の約20%を使っており、学びによる技術発展を尊重する風土があるといえます。
松井「新卒の方やキャリア採用された経験者、もちろん既存のメンバーも最新の技術や情報について学び続けなければなりません。最新の技術や情報にキャッチアップし続けるために、部内ではいつも新しい論文や参考になる専門書を互いに紹介し合っています。また、学会への積極的な参加からも学びが得られるので、魅力的な活動だと感じています」
OJTによるスキルの向上
入社後すぐに業務を牽引することは難しいため、業務経験豊富な先輩からOJT(On the Job Training)を受ける機会があります。データサイエンスの知識や経験が少なくても、入社後に実務の中でトレーニングを受け、実践的なスキルを獲得することができます。
中野「私は前職がSIerだったため、データサイエンスよりもエンジニアリングの実務経験が豊富でした。ムラタ入社後、データサイエンスのOJTを担当してくれた先輩から『高度な分析手法の理論を理解することがデータサイエンティストの仕事だから』と親身な指導を受け、スキルを身につけることができました。その後、新入社員のOJTを担当し、その従業員は入社2年目で実案件のAIモデル開発とそれを組み込んだシステム構築を独力で実装するなど活躍しています」
各拠点におけるデータサイエンスの伴走支援
各事業所・工場においてもデータ活用への理解やスキルを深め、ムラタ全体におけるデータサイエンスを底上げする取り組みもあります。全社で進めているデータサイエンスを用いた課題解決スキルの向上を支援する取り組みの一環として、データ戦略推進部による伴走での教育支援が行われています。
東「私自身、自社工場に行って伴走支援を実施しました。参加者が課題設定からデータサイエンスを用いた解決法を発表するまでをサポートする活動です。発表当日は、社員食堂で特別メニューが出るなど、イベントのような雰囲気づくりも見られました。データサイエンスへの関心や、取り組みを盛り上げようというムードが全社的にあります」
自発的な勉強会の企画と実施
データ戦略推進部では、メンバーがボトムアップでアイデアを出し、一定の裁量を持って実行することができます。勉強会の企画と実施もその一環として行われています。
中野「データ戦略推進部のメンバーは、担当案件においてオーナーシップを持って推進することが求められます。同時に、自発的なチャレンジが評価される風土でもあります。転職してすぐは少し戸惑いましたが、徐々にムラタでの動き方に慣れていきました。たとえば、最近では研修で知り合った人と意気投合し、ある製品の製造部門でのAIアイデア検討会*1を企画し実施しました。その後、商品部門や他の製品の製造部門からも開催の要望が増えていき、いまや大きな活動へと発展しつつあります」
*1 AIアイデア検討会では、最初にデータサイエンスにおける11の厳選した手法を紹介。参加者がブレインストーミングを行い、現場の課題抽出とそれを解決するための手法を11のソリューションカードから選択して紐づける。こうした紐づけによって、データサイエンス手法の学習とアイデア創発を同時に行う。
このように人材や教育、挑戦の機会が充実した「強い組織づくり」は、電子部品の高いシェアを下支えとしながらも、今後なくてはならないデータサイエンス分野への積極的な投資といえます。
それと同時に、データサイエンスの技術向上やノウハウの蓄積が、製品の製造や検査、開発、供給、サービスの高度化や効率化などに活かされているという好循環を実現しているといえます。
4. データもハードウェアも充実。データサイエンスを加速させる環境
ムラタは、電子部品やセンサ、モジュールなどさまざまなハードウェアの開発・製造を行っていると同時に、多様かつ膨大なデータを利用したデータサイエンスに取り組むことができる環境です。
データサイエンスでハードウェアの課題を解決したり、ハードウェアを使ったデータ活用のアイデアを提案したりといった活動を可能としています。このように、ハードとデータの双方向からスピーディーにアプローチできることが、ムラタでデータサイエンスを行う環境の大きな特長といえます。
※この記事の内容は、記事公開日時点の情報です。組織の名称などは変更となる場合があります。