空間省エネ 空調省エネルギーシステム
近年、温暖化をはじめとした環境問題の顕在化が世界的な課題として認識される中、エネルギー消費量の大きい設備に対して適用可能な省エネルギー技術に関心が高まっています。例えば、ビルなどの大規模施設における空調設備は膨大なエネルギーを消費していることから、空調設備に対し省エネルギー技術の適用が積極化するのは当然と言えるでしょう*1。村田製作所(以下、当社)でも、省エネルギーに関するさまざまな施策に取り組んでおり、空調設備に対する省エネルギー施策もその1つです。
空調設備の省エネルギー技術を適用すべき箇所は、その性能を引き出している空調制御です。空調制御はまた、快適な空間の創出も担っていますが、省エネルギーと快適さを両立するのは容易ではありません。この両立には、常に変化するさまざまな関連要素を考慮しながら、空調設備の稼働状態を自動的に最適化する必要があるからです。
本記事では、大規模施設の空調制御を対象に、省エネルギーと快適さの両立を実現するためにおさえるべきポイント、とくに空調制御技術として大きく注目されているAIによる自動制御を中心に解説していきます。
*1 大規模施設のエネルギー消費量の約40~50%は空調に由来するとされています。
ビルやショッピングモールといった大規模施設で使用される空調設備は、大きく分けて個別空調とセントラル空調の2種類があります。それぞれの空調方式の特徴を表1に示します。施設内の快適性は、これらの空調方式の特徴をいかし分担させることで生み出されます。
| 空調方式 | 特徴 |
|---|---|
| セントラル空調 | ・建物全体を一括で空調を制御する ・熱源機で発生させた冷暖房の熱を、熱媒体を通して搬送設備のダクトや配管から 各フロアの空調機に送る |
| 個別空調 | エアコンのように、部屋ごとに独立に空調を制御する |
空間がとくに巨大である大規模施設においては、全館にわたって温度を効率的に一括制御できるセントラル空調(図1)が、省エネルギー(以下、省エネ)と快適性の実現のカギであると考えられています。しかし、セントラル空調は一括制御のため柔軟性が低く、天気や人流により動的に変化する省エネと快適性の最適条件に追随することは決して得意ではありません*2。したがって、大規模施設のセントラル空調では、設定温度を一定とする条件で固定されている場合がほとんどです。
*2 個別空調とセントラル空調の両方式を併用することで、省エネと快適性を両立できる場合もあります。
セントラル空調にはこのような課題がありますが、それをカバーするため以下のような施策があります。
以降で、この施策を展開し、省エネと快適性の数値化と評価の方法、および最適な稼働条件の探索方法について解説していきます。
空調方式によらず、空調の省エネ評価のため用いられる数値指標の1つがエネルギー消費効率(Coefficient of Performance:COP)です。COPは、式1のように定義されています。
冷暖房能力:冷暖房を行う際に、外部から取り除く熱量(冷房の場合)、または内部に供給する熱量(暖房の場合)のこと
冷暖房消費電力:冷暖房を行うために必要な電力のこと
したがって、COPが大きいほど、空調が優れた省エネ性能を発揮していることになります。COPは、いわば自動車の燃費の空調版の指標ということができるでしょう。
ただし、COPは、ある一定の外気温条件を仮定した指標であることから、外気温が変動する実使用条件での真の省エネ性能から乖離する可能性があることは、注意が必要です。
館内の快適性に影響を与える要因には温度、湿度、CO2濃度、照度、気圧などがあります。これらを数値化し取り込むデバイス一般のことを環境センサと呼ばれます。
環境センサから得られるデータは環境データの数値化であり、さまざまな快適性評価指標の計算に用いることができます。快適性評価には温熱指標が使われることが多く、例えば予想平均温冷感申告(Predicted Mean Vote:PMV)や不快指数(Discomfort Index:DI)がその例として挙げられます。定義や使用方法を表2に示します。
温熱指標 | 定義式 | 指標の見方 | 適用対象 | |
|---|---|---|---|---|
予測平均 | PMV = M:代謝率[W/m²] | +3 | 暑い | 適温範囲内での |
不快指数 | DI = Td:乾球温度[°C] | ~50 | 寒くてたまらない | 冷房時のみ |
*3 熱負荷項QLは、温度、湿度、気流、放射、代謝、着衣に関連した数値より求められる。
セントラル空調(以下、空調)の省エネを実現するには、COPを高水準に保つための制御が必要です。それには、前項の式1から、冷暖房消費電力を低減する制御が必要ということがわかります。そして、この冷暖房消費電力は、
・建物全体にわたり冷暖房に必要なエネルギー(負荷熱量)
・熱源機から放出された直後の熱媒体の温度(送水温度)
によって大きく変化することが知られています。
例えば、夏場において、外気温が高いほど、建物内を一定の室温に保つために必要とされる冷却能力が増すことから、その分だけ負荷熱量が増加、すなわち冷房消費電力が増加することになります。
一方、熱媒体(ここでは冷水)の送水温度がより室温に近いほど、熱源機の冷房消費電力を低減させることができます。したがって、省エネのためにCOPを高水準に保つための制御とは、送水温度の制御を意味することになります。
一括制御の空調は設定温度を一定、すなわち送水温度を一定とするのが一般的ですが(上記1項)、最近の急速なAI技術の進展もあり、AIを活用することで送水温度の自動制御を可能とする空調制御技術が提案されてきました。当社においては、以下のような考え方のもとで制御を試みています(図2)。
なお、上記2のとおり、予測負荷熱量を求めるためには環境データが必要です。このデータには、外気温データや湿度データなど環境センサの測定データも含まれます。このことは、環境センサからのデータは、プロセス1におけるAIモデル1の生成に対して重要な貢献をしており、したがって空調の自動制御にはなくてはならないデータ取得方法であることを示しています。
また、上記2項の表2のとおり、館内の快適性変化の可視化にも、これらの環境データが用いられます。とくに、当社ではDIを用いた可視化を行っています。
上記3項にて解説した、AIの活用でCOPを高水準に保ち省エネに寄与する送水温度の制御(以下、AI制御)において、これを実施することで熱源機の消費電力量やCO2排出量の削減にどれくらい効果があるのか、ここでその検証方法を紹介します。
通常であれば、同じ条件下でAI制御を採用する/採用しない場合の消費電力量やCO2排出量を比較することで、その効果を確認するという検証が妥当と思われます。しかし、現実には日時や天気、収容人数などの条件が両者の場合で一致することはなく、また、熱源機の消費電力量やCO2排出量の直接計測も困難であることから、ここではこの検証方法を適用することができません(図3)。
そこで、これに代わる方法として
(a)AI制御を採用した場合のCOP
(b)AI制御を採用しない(送水温度を一定とする)場合のCOP
のCOPの比より、省エネ効果を確認する検証方法が示されています。
なお、(a)のCOPは、図2のプロセス2で求まり、(b)は同じくプロセス2のAIモデルを用いて、送水温度を一定として算出します。
具体的な検証方法は、以下のような検証になります。
はじめに、COP比=[(a)AI制御を採用した場合のCOP/(b)AI制御を不採用時のCOP]を考えます。この比を用いた以下の式2と式3により、省エネ効果とCO2排出量の削減効果を確認できます。
*4 熱源機のCO2排出係数(単位:kg-CO2/kWh)
上の2式より、COP比が1より大きければ大きいほど、電力量の削減効果すなわち省エネ効果と、CO2排出量の削減効果が大きいことがわかります。
本記事では、大規模施設の空調設備における省エネと快適性の両立について、AIを活用した制御によってそれを実現する考え方を紹介してきました。
人流の盛んな大規模施設において、省エネと快適性を両立した空調稼働を実現するのは決して容易な問題ではないのですが、そこで要となるのが3項で取り上げているAIと環境センサを活用した空調制御技術です。この制御技術はまだ発展途上ですが、この技術を用いることで省エネと快適性を考慮した最適な空調稼働条件を自動的に維持することが可能となりつつあります。
今後も当社では、環境と人の暮らしに優しい世界の実現に向け、AIやセンサを利用した省エネの取り組みを進めていきます。私たちの取り組みが、より良い環境づくりへ貢献できることを願っています。