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エッジAIでポカヨケ―進化する製造業のポカミス対策

製造業におけるポカミスは長年の課題であり、人による指導や設備の改善など、これまでにもさまざまな対策が施されてきました。さらに近年では、ポカミス対策にAIを活用する取り組みも進んでいます。
ここでは、従来のポカミス対策の課題からAIカメラシステムを用いた対策について解説。さらに村田製作所がRUTILEA社と共同開発した工程作業モニタリングシステムによるポカミス低減のヒントも紹介します。

1. 製造現場における「ポカミス」「ポカヨケ」とは

製造現場での作業ミスにはさまざまな種類があり、その原因も多種多様です。そのなかでも代表的なミスとされるのが「ポカミス」です。ポカミスとは、単純なヒューマンエラーによって発生する人為的なミスを指します。一方、こうしたポカミスを防ぐための手段が「ポカヨケ」です。ポカミスは些細なミスでありながら、作業工程に重大な影響を与えることもあります。以降の説明を理解しやすくするため、ここではこれら二つの言葉の意味と、ポカミス対策の必要性について解説します。

ポカミスによる現場の混乱のイメージ画像
図1 ポカミスによる現場の混乱

「ポカミス」「ポカヨケ」とは

「ポカミス」とは「不注意などで引き起こされるさまざまなミス」のことを指し、「ケアレスミス」ともいわれます。製造工程においては加工不良や部品の取り付け不良、メーターの読み間違いや数量の間違いなどがその例です。
一方、「ポカヨケ」とは「誰が作業してもミスが発生しない仕組みを作る」という考え方です。ミスが発生してからミスした箇所を発見するのではなく、ミスを未然に防ぐことを目的とします。

「ポカヨケ」の必要性

上記のとおり、ポカミスの原因はヒューマンエラーであり、作業員の注意力に由来するところが大きいとされます。また、ミスを誘発するような作業手順書や、不十分なポカヨケが原因で発生するケースも少なくありません。
多くの場合、ポカミスで発生した不具合品は検査工程で発見され、前工程に戻されるため、手戻り作業により生産性が低下します。さらに検査工程で検出できなかった場合は、不具合品の流出にもつながります。このようなことから、生産性を保ち不具合品の流出を防いでお客様の信用を維持するには、効率的で確実なポカミス対策が必要となります。

2. これまでの「ポカミス」対策(ポカヨケ)の課題

これまでにもポカミスには多種多様な対策が取られてきました。ここでは、そのなかでも代表的な対策と、それぞれが抱える課題について紹介します。

現場での人手・設備による対策のイメージ画像
図2 現場での人手・設備による対策

人的(組織的)対策

作業員や製造ラインのリーダーが作業における問題について討議し、解決方法を文書化して共有する方法(作業手順書の充実)や、熟練作業員による新人作業員への指導(OJT)などが挙げられます。また、タクトタイム(作業時間)の計測による作業効率の状況把握などもそのひとつです。
これらの方法では、熟練作業員が他の作業員に付き添う必要があり、人的負担が大きくなるため、常時作業をモニタリングすることは困難です。さらに、指導内容の属人化による作業品質のバラつきが発生するといった課題があります。

設備での対策

ケーブルや配管の誤挿入、部品の装着ミスを防ぐ「ポカヨケ治具」の設置や、部品の装着状態を検知する各種センサを用いて作業の合否を判断する方法です。これらに加えて作業のようすをカメラで記録し、ポカミスが発生した場合は撮影画像を確認し再発防止に役立てるといった対策などがあります。
このような設備による対策は、いずれも製造ラインの設計段階での導入が前提となるため、工程変更や品種替え、多品種少量生産への対応、さらに他のラインへの展開に対して柔軟性に欠け、段取り時間が長期化するといった課題があります。

AIの活用

これまでにも製造業では検査工程にカメラや各種センサを設置し、不具合品の発生状況をデータ化する方法が多く導入されてきました。また、品質管理の分野では判定収集したデータをAIで解析するといった方法も試みられてきました。しかし、これらの方法は製造作業後に不具合品を検出し、結果を各工程にフィードバックするといった対策であるため、手戻り作業の低減といった効果は期待できません。

3. AIカメラシステムとは

上記のような従来のポカミス対策にAIカメラシステムを導入すると、どうなるのでしょうか。AIカメラシステムを用いた対策では、加工・組み立て工程の作業を常時カメラでモニタリングし、作業の可否を判定します。

AIカメラシステムによる作業モニタリングのイメージ画像
図3 AIカメラシステムによる作業モニタリング

AIカメラシステムとは

AIカメラシステムは、人工知能(AI)を搭載したカメラとカメラから収集した画像データを解析し、結果を集約するサーバや通信環境、それらを管理するシステムなどで構成されます。
AIカメラシステムには大きくクラウドAIカメラシステムと、エッジAIカメラシステムがあります。クラウドAIカメラシステムの場合、撮影した画像はインターネットを介してクラウドAIに送信し、クラウド上のAIで推論処理を行います(図4)。一方、エッジAIカメラシステムの場合、ネットワークの終端である「エッジ」といわれる部分で推論処理を行います(図5)。外部へのデータ送信が不要であるため、機密漏洩のリスクを低減することができます。

クラウドAIカメラシステムの図
図4 クラウドAIカメラシステム
エッジAIカメラシステムの図
図5 エッジAIカメラシステム

AIカメラシステムのメリット

AIカメラは工程作業の常時撮影はもちろん、映像から特定の対象物を自動で検出したり、映像内の人物を識別・特定したりできるため、対象物や人の動きを学習し異常を検知することができます。一方、ポカヨケ治具の設置や各種センサなど設備による対策では、工程変更や品種替えなどの際に新たに設備を作り直す必要があり、段取り時間が長期化する可能性があります。AIカメラシステムでは設備を作り直す必要がないため、これらの作業工数を低減することができ、スムーズなラインの立ち上げが可能になります。

4. エッジAIによる「ポカミス」対策(ポカヨケ)―工程作業モニタリングシステム導入のヒント

村田製作所は、エッジAIカメラを用いた工程作業モニタリングシステムをRUTILEA社と共同で開発し、さまざまな工程で活用しています。ここでは、工程作業モニタリングシステムによるポカミス対策のヒントを紹介します。

村田製作所のエッジAIカメラのイメージ画像
図6 村田製作所のエッジAIカメラ

エッジAIカメラによる工程作業モニタリングシステムとは

工程作業モニタリングシステムは、エッジAIカメラで物体を検知し、ユーザーが事前に定義した正しい作業(作業フロー)が実行されたかをチェックします。物体の検知では、AIが認識した物体(工具や部品など)の使用の有無をカメラ映像から判別します。続いて、定義された作業フローのとおりに作業が行われたかを照合します。作業員が必要な作業を行わなかったり、必要な工具や部品を使用していなかったりする場合は、高速な応答性を活かしてリアルタイムに検出することが可能です。

部品の不完全な装着の検出―工具の使用の有無でチェック

部品を取り付けるねじは、締め付け後にトルクレンチを使用し、規定トルクまで増し締めする必要があります。このとき増し締めを忘れると、完成後にねじが緩み、部品の脱落などにつながり、特に輸送機器製造においては事故の原因となり得ます。しかし、ねじの増し締め忘れはセンサによる外観検査では検出が難しく、検査工程ではねじを一本ずつトルクレンチで確認する必要があるため、多くの工数を要します。
工程作業モニタリングシステムは、作業員がトルクレンチを使用したこと、さらに対象のねじに対して使用したことをカメラ画像から検出します。トルクレンチが使用されていない場合や対象と異なるねじに使用した場合は、間違いをリアルタイムで検出することが可能です。さらにこの機能は、ロボットやマシニングセンタなどが、正しい工具を使用して作業を行ったかどうかのチェックにも活用することができます。

トルクレンチによる増し締め作業チェックのイメージ画像
図7 トルクレンチによる増し締め作業チェック

危険区域への立ち入り装備チェック―安全対策装備品の装着忘れ

工場内には、高所や落下物の危険がある場所、高温や低温の場所などがあるため、ヘルメットや安全靴、熱暑対策グッズなどの安全対策装備品の着用が義務付けられている場合があります。
工程作業モニタリングシステムでは、安全対策装備品の装着有無を検知し、装着にモレがあった場合には、リアルタイムで検出することができます。

安全対策装備品の確認のイメージ画像
図8 安全対策装備品の確認

製造ライン変更への対応―段取り・調整ロスの削減

近年、比較的容易に動作認識AIを構築できる作業モニタリングシステムが開発されています。しかし、AIモデル構築の初期段階は簡素化されつつあるものの、モデル精度の担保や現場の判断基準との連携段階では、依然として外部委託が必要となるケースが多くあります。
工程作業モニタリングシステムでは、AIは物体の検知のみを行います。これにより、作業に関係のない情報(作業員の不在や他の作業員の立ち入りなど)をAIが学習することを防ぎ、作業認識の精度向上を実現しています。
また、AIモデルや作業フローはノーコードで作成できるため、外部委託することなく現場の作業員自身で構築することが可能です(図9)。
村田製作所の工程作業モニタリングシステムは、モデル精度の担保や現場の判断基準との連携において外部委託を必要としないため、製造ライン変更やレイアウト変更に伴う段取りロス・調整ロスを削減することが可能です。

ノーコードでの作業フロー作成が可能のイメージ画像
図9 ノーコードでの作業フロー作成が可能

5. エッジAIを用いたポカミス対策(ポカヨケ)の可能性

ポカミスは長らく製造現場の悩みであった課題であり、それは今後も続くと思われます。しかし、進化の著しいAIを積極的に活用したエッジAIによるリアルタイムなポカミス対策(ポカヨケ)は、作業後の検査が中心としてきた従来手法とは一線を画す技術であるといえます。
今後は検出精度のさらなる向上はもちろん、現場への導入と継続利用で課題となりやすい操作性や、作業員の心理への配慮なども重要となってくるでしょう。さらに作業分析による生産性の向上への活用の広まりや習熟度、手順達成率をスコア化・可視化し、日々の改善を楽しめるような仕組みを取り入れるなど、作業員が自発的に作業に取り組める環境づくりも考えられています。
エッジAIカメラによるポカミス対策は、作業ミスを低減し生産性の向上を目指すだけでなく、人間の嗜好を取り入れた人間中心的な考えに基づく生産活動を実現する技術であると注目されています。

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