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生成AIが支える未来の社会

開発言語を操る生成AIで、高度な機器やシステムを自動開発

自然言語を自在に操る生成AIを活用したチャットボットなどが生活やビジネスの中で利用されるようになりました。チャットボット自体は、比較的古くからクラウドサービスとして提供されていましたが、生成AIをベースにしたサービスが登場して以降、操る言語と内容の精度が格段に向上しました。学習が未熟で回答が不自然な部分は残ってはいますが、対話の中での言葉使いは以前の文書の自動生成とは見違えるほど流暢になっており、その点に驚いた人も多いのではないでしょうか。生成AIは英語にとどまらず、日本語やドイツ語、中国語など、多言語を自在に操り、世界中の人々がコンピュータと対話できる時代が到来しています。今後のさらなる進化が期待されています。

しかも、生成AIが使いこなすのは、人間の話し言葉だけではありません。人とのコミュニケーションとは別の領域で利用する開発言語を操ることで、ロボットや高度な機器、システムの開発にも大きな貢献をしています。

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生成AIが、ロボットなどの高度な機器やシステムの開発で効果を発揮

現代の機器やシステムは開発言語で開発されている

現在、電子機器や家電製品、ITシステム、産業ロボット、さらには自動車まで、多くの工業製品が何らかの開発言語を使って設計されています。開発言語を使えば、開発者が開発対象の構造や仕組み、挙動を把握しやすくなるからです。

機器・システムに組み込まれる電子回路とそこに搭載されている半導体の動作モデルの設計ではVerilog HDLやVHDLと呼ばれるハードウエアの機能と挙動を記述するための言語が用いられ、その上で動かすプログラムの開発でもC/C++などが多用されています。AIを活用したシステム開発ではPythonなどが使われ、ロボットなどを制御する手順もC/C++、Python、Javaなどが利用されているのです。

現代の機器やシステムは言語とデジタルモデルで開発されているのイメージ画像
現代の機器やシステムは言語とデジタルモデルで開発されている

機器・システムの開発者は、これらの開発言語を駆使し、日々アイデアを実現していますが、今や生成AIもそれらの言語を使いこなし、開発プロセスの一翼を担うようになっています。たとえ、開発者の開発イメージが抽象的な状態のままであっても、抽象的な指示を解釈して具現化して、機器やシステムを開発言語で記述して出力できるようになりました。ただし、抽象的な指示を基に具現化しているため、一度で要求に沿った機能や性能を確実に実現できるわけではありません。AIと対話しながら出力の検証と修正を繰り返し、AIが具現化した開発対象を基にして、目的に合った機器やシステムへと近づけていくことができるようになります。

生成AIで生み出せるのは、開発言語だけではありません。さまざまな意匠の3Dモデルやイラストなどを自動生成することも可能です。言語で入力した指示や開発目標に応じてイラストを自動生成するといった、形式の異なる情報を変換し、最適な処理を実行する能力を備えているからです。この特性を活かすことで、デジタルデータを扱う多くの機器やシステムの開発で生成AIの応用が期待されています。

機器やシステムの開発における生成AIの使い所

生成AIの活用は、機器やシステムを開発する企業の技術力を拡張する可能性があります。一般に、製造業のメーカー各社は、長期にわたって蓄積してきた開発・設計データなどの莫大な開発資産を保有していますが、ディープラーニング(深層学習)をはじめとする従来AIにこれらのデータを学習させるためには、学習用に同一の表現形式で整理されたデータを用意する必要がありました。ところが、一般的に過去に蓄積されたデータは、多様な形式の生データのまま言語化されていないものや、言語化されていても比較参照可能なかたちに整理されていないものがほとんどで、学習に適していませんでした。例えば、モータの振動に関するデータを表現する場合、動作条件や振動計測の条件と結果など定量的に示した技術レポートの形式で示されたものもあれば、センサで収集した振動データの生データもあります。また、技術レポートにまとめられたデータ同士でも、測定条件が違う場合もあることでしょう。AIの世界では、こうしたデータの質の違いを「モード」と呼んでいます。一般に人間は、こうしたモードの異なるデータ間でも、知識や経験を基に間を埋めて、総合的な判断を下す能力を持っています。しかし、従来のコンピュータでは、モードの異なるデータを横並びにして比較したり、データ間の相関を洞察したりすることが困難でした。

これに対し生成AIは、こうした言語化・整理(構造化)されていないデータも活用対象にできます。これは、生成AIのベース技術である基盤モデルでは、こうしたモードの違いを超えた、または変換したマルチモードの学習ができることによります。これによって、自社データだけでなく、パートナー企業のデータも併せて学習し、より高度な活用が可能になると期待されています。

機器やシステムの開発では、大きく2つの目的に向けて、生成AIの活用が進められています。1つは、機器やシステムの研究・開発・設計の効率化や成果物の性能と品質の向上を目指して生成AIを利用するものです。もう1つは、開発対象となる機器・システム自体に生成AIの機能を組み込み、利用する環境や状況の変化に高度かつ臨機応変な対応ができるようにするというものです。それぞれについて、活用例を紹介します。

生成AIを機器・システムの開発に活用

すでに、機器やシステムの開発に生成AIを適用する試みがさまざまな領域で始まっています(図1)。

機器やシステムの開発に生成AIを適用して効果を得た例(ロボット開発、家電製品開発、半導体設計、自動車設計)のイメージ画像
図1 機器やシステムの開発に生成AIを適用して効果を得た例

例えば、ロボット制御システムの開発の領域では、生成AIを用いて、ロボットの動作制御プログラムを自動生成できるようになりました。動作環境のデータや作業内容を学習させ、最適な動作パターンを自動生成することによって、複雑な作業をこなせるロボットを効率的に開発可能になりました。

家電製品の機能開発では、新しい機能やユーザーインタフェースの提案などに生成AIを活用する試みが行われています。AIを活用して利用状況に関するデータを分析することで、ニーズに合った新機能の提案や、より直感的な操作方法の生成を行い、製品開発の短期化と品質向上を図るために利用しています。

また、半導体チップの設計効率化に向けた生成AIの利用も検討されています。具体的には、チップ上のレイアウトや回路パターンの最適化、回路設計の自動化などへの適用が想定されています。過去の設計データを学習し、性能や消費電力などの要件を満たす新しい回路構成を提案することで、設計期間の短縮やチップ性能の向上を実現します。

さらに自動車メーカーの中には、生成AIを、車両デザインの提案や最適化に活用する試みも出てきています。大量の既存デザインのデータを学習することで、新しい車両形状のアイデアを生成したり、空力性能を向上させるデザイン案を提示したりすることが可能になります。こうした生成AIなどコンピュータプログラムを利用して設計や意匠デザインを支援する手法は「ジェネレーティブデザイン」と呼ばれており、近年、特に建築の分野や工業製品の構造設計などで広く利用されるようになりました。

開発者が発想しにくい新しい視点を生成AIが提案

生成AIは、開発支援ツールとして、極めて有用であることが明確になってきています。「開発は経験とセンスの世界」と考える人が少なからずいるように見受けます。しかし現在は、先入観を拭い去って生成AIの使い所を考える開発者も増えています。
生成AIは開発者の経験やセンスに完全に取って代わるものではなく、むしろ多様な選択肢を提供し、創造的な活動をサポートする役割を果たしています。

エンジニアや研究者に限らず、何か新しいことを考える際、どうしても自分の過去の経験や知識によって発想が制約されやすくなります。定型業務を正確に繰り返す際にはこうした属人的な経験や知識は大きな力になりますが、創造的活動をする際には発想の飛躍を阻む足かせになってしまう傾向が高いのではないでしょうか。生成AIを活用することで、過去の知識に縛られない新しい発想が生まれ、革新をもたらすことが期待されています。

ロボットや家電製品などに適用した実例

ロボットやドローン、家電製品などの機能の1つとして、生成AIによる動作制御を組み込み、高度な動きを可能にする取り組みが、多くの企業や研究機関で進められています。

生成AIを組み込み、柔軟で複雑な作業が可能な機器やシステムを実現(スマートホーム、スマート農業、人と機械の協調連携)のイメージ画像
生成AIを組み込み、柔軟で複雑な作業が可能な機器やシステムを実現

生成AIを活用すれば、自然言語による指示に基づいた制御コードを自動生成できます。ロボットに組み込んでおけば、お客様との会話の中で要求された想定外の行動や、状況に合わせた臨機応変な行動を取ることが可能になります。スマートホームのように、住人の行動や会話に応じて家電を最適化する技術も現実味を帯びています。

また、生成AIを機器に組み込めば、指示や動作環境の複合的な違いや変化を理解して、多様な作業を組み合わせた多段階の作業を自律的に実行できます。例えば、植物工場などでは、生育状態が異なる個々の作物を対象にして、複数手順で個々に最適化した農作業を、人が補助することなく遂行させるといったことが可能になります。

まとめ

生成AIの活用が、機器やシステムの開発で広がっています。今後は、接客や介護などの場面で、周辺環境と利用者の指示の両方を勘案しながら最適行動する高度な判断ができるロボットなども実現しそうです。ユーザーの行動や声、表情などのデータをカメラやセンサで収集・解析することで、感情や好み・求めていることを洞察し、指示されることなく、適切な行動ができるようになる可能性さえあります。

これからの機器やシステムの開発・設計では、生成AIの活用が当たり前になることでしょう。現在は開発対象機器の機能を開発言語などで表現していますが、将来は表現形式もAIに適したかたちに進化し、これまで以上に効率的により効果的な機器・システムを開発できるようになることが期待されます。

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