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センサデータ×データ解析による設備保全DX

第1回 センサデータ×データ解析による予知保全とその勘所

製造業の一般的な工場では、収益性の向上のため、故障やトラブルの予防、および迅速な復旧を支える設備保全の重要性が極めて高くなっています。この設備保全の取り組みにおいて、工場設備の高度化・大規模化による設備保全自体の高度化や、生産年齢人口の減少にともなう省力化などに対応することが喫緊の課題となっています。
この課題に対して大きく着目されているのが、IoT・センシング技術やセンサデータの利活用を前提とする予知保全(Predictive Maintenance;PdM)です。近年では、官民あげてのDX推進ブームもあって設備保全のDX化も進み、その中心となっている予知保全に対する注目度は日に日に増す一方です。

そこで、主にセンサデータの解析を視点とした予知保全について、その基本を知りたい、理解しておきたいと考えている方に向け、「センサデータ×データ解析による設備保全DX」と題したシリーズ記事を提供しようと考えました。本シリーズがそのような方々にお役に立てればと思います。
シリーズ第1回である本記事では、センサデータのデータ解析による予知保全の概要と、予知保全の導入前に注意すべき勘所を解説していきます。

1. 予知保全の定義とその立ち位置

保全方式は、その実施基準により各種提案されており、一般的には図1のような分類がなされています。予知保全は設備保全に分類される保全のうち、予防保全を構成する1方式で、状態基準保全(Condition-Based Maintenance;CBM)と呼称されることもあります。各保全形式の概要や、メリット・デメリットについては以下の記事を参照ください。

関連記事:設備保全のあるべき姿-予知保全を実現する技術

保全方式の分類
図1 保全方式の分類

予知保全とは、「センサなどから取得されたパラメーター変化より検知される劣化状態に応じて保全を実施する形式」、と定義されています(英国標準)。予知保全はエビデンスをもとに保全実施の意思決定を行うため、その他の保全方式と比較して合理的な判断基準に基づく保全方式と言えます(図2)。そのため、設備状態を把握可能とする種々のセンサ、およびそのデータをもとに保全実施の意思決定を可能とする診断技術(データ解析)が予知保全の要となっています。

予知保全の概念図
図2 予知保全の概念図

2. 予知保全に用いられるセンサとデータ解析技術

予知保全で使用されるセンサは多岐にわたりますが、一般的には設備運転に付随して発生する特徴的な現象の検知に特化したセンサが使用されます。運転時に生じる熱や振動を検知する熱センサ、振動センサはその代表例と言えるでしょう。3章でも言及しますが、保全対象に合わせたセンサ選択や設置位置に加え、センサそのものの価格などが重要なポイントとなってきます。
センサ同様、予知保全で用いられるデータ解析技術も多く存在しています。その代表例は異常検知(Anomaly Detection)技術です。異常検知は、あるデータがどれだけ正常データから離れているか、その乖離度を数値化することにより、異常かどうかの判断を可能とします。一方、設備劣化においては、正常な稼働状態からの乖離度を1つの判断基準とすることができます。そのため、設備劣化と予知保全の目的とは関連性が強いと言えます(図3)。
なお、乖離度の算出には、センサの生データを使用することもあれば、ノイズ除去などの前処理したデータや、データに見られる顕著な特徴(e.g., 周期性)を別のデータとして抽出した特徴量を使用する場合もあります。

異常検知を用いた予知保全の概念図
図3 異常検知を用いた予知保全の概念図

異常検知を含め、予知保全に用いられるデータ解析技術の分類や特徴、具体手法などについては、本シリーズ第2回以降の記事にて順に解説していく予定です。

3. 予知保全導入前にすべきこと―予知保全の勘所

予知保全を支えるセンサ技術やデータ解析技術は日進月歩で進化しており、各社から様々なソリューションサービスが提案されています。これらのサービスをそのまま導入すれば設備の予知保全が実現可能であるかと言えば、そうではありません。以下の表1では、予知保全を導入する上で注意すべき代表的な勘所をまとめています。予知保全の導入検討を行う際はぜひ参考にしてみてください。

表1 予知保全の代表的な勘所

考慮すべき勘所

詳細

最適な保全方式の選択

・すべての保全対象で予知保全が最適とは限らない
・例えば、故障が少なく、故障時に生産全体へ与える影響が
 少ない設備であれば、事後保全で十分に対応可能

保全対象に最適なセンサの選択

・保全対象に応じて最適なセンサを選択・設置する必要あり
 (e.g., 回転機器:振動センサ)
・保全対象において、継続・安定してセンサデータが
 取得可能であるかも注意が必要

導入・運用コスト

・予知保全の欠点の1つは、高い初期導入コスト
 (e.g., センサ、通信機器、データベースなど)
・一般に、導入コストは保全対象設備投資額の2%以内が目安
・センサなどの運用コストは、保全全体の1%程度が目安

予知保全人員・運用体制整備

・従来の保全方式以上に、専門人材や保全体制の整備が必要
・専門人材の教育体制も併せて必要

適切なデータ解析手法の選択

・設備劣化に起因したセンサデータの変動パターンがに応じて、
 適切な技術・手法が存在
・準備可能なデータ数、故障検知性能と結果の解釈性の
 トレードオフ関係、異常閾値設定など、考慮すべき事項は多い
 (第2回以降の記事で解説予定

保全対象設備の性質や予算、リソース状況に応じて、最適な予知保全はケースバイケースとなります。そのため、天下り式で予知保全やその関連サービスを導入するのではなく、導入前に利害関係者とその実現可能性について十分なすり合わせを行い、自社にフィットするであろう予知保全を見つけ出す必要があると言えるでしょう。

4. まとめ

工場の生産設備保全の高度化・省力化が社会的な要請となる中で、現在着目されている設備保全方式が予知保全になります。予知保全は設備状態の劣化状態をセンサや計測されたデータから明らかにし、その結果・エビデンスをもとに保全実施の意思決定を行う合理的な保全方式です。
予知保全の技術的なコアは、IoT・センシング技術、データ解析技術の2つになります。いずれも日進月歩の発展を遂げているため、設備保全の更なる高度化・省力化を達成する可能性を秘めていると言えるでしょう。
その一方で、予知保全を導入する前に考慮すべき勘所は多く存在します。この勘所を無視して天下り的に予知保全を導入してしまうと、保全のコストパフォーマンス低下を招くリスクさえあります。

工場設備や生産体制、サプライチェーンに加え、予算や人員など、各社により設備保全を取り巻く状況は様々です。各設備に適した保全方式はどれなのか、予知保全により保全の高度化・省力化を実現するにはどのような体制が必要なのかなど、自社に最適な保全とはどのようなものなのか、今一度考えなおすことが重要なのかもしれません。

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