6G通信の時代を切り拓く周波数帯域「FR3」
第5世代移動通信システム(以下、5G通信)の商用化から数年が経ち、世界各国の企業・通信関連機関は、2030年代の実用化を見据え、次世代の第6世代移動通信システム(以下、6G通信)に向けた研究・開発や標準化を加速させています。近未来には、IoT、自動運転、スマートファクトリ、スマートシティなどが本格化しますが、一部のユースケースでは、5G通信では通信速度や遅延時間、同時接続数といった性能面に加え、AIとの高度な連携、環境や状況を把握するセンシング機能、災害時などにも通信を維持するレジリエンスといった点で、対応が難しくなると見込まれています。そのため、5G通信より高度な通信基盤を実現する6G通信が期待されています。
その6G通信の標準化、とりわけ重要な仕様として注目されているのが、一般に「FR3」と呼ばれる7.125GHz-24.25GHz付近の周波数帯です。FR3*1は、すでに4G・5G通信に割当てられている410MHz-7.125GHzのFR1*1と、24.25GHz-71GHzのFR2*1の間に位置します。移動体通信にも使われる広い通信カバレッジを実現できている周波数をもつFR1より、FR3の周波数帯を活用した通信では、伝搬距離は劣るものの広い帯域を確保できることから、通信速度の向上をはかることができます。そのため現在、このFR3が6G通信の周波数帯として国際的に検討が進んでいる状況です。
当記事では、このFR3に関する国際動向と当社が6G通信に対して支援する技術について紹介します。
*1 FR1/FR2/FR3の“FR”は、Frequency Rangeの略で、周波数範囲を意味する。
1. 6G通信における重要な仕様―周波数帯域
2020年代に、高速大容量、超低遅延、多数同時接続を特徴とした5G通信が通信インフラとして実用化されました。しかし、2030年代の実用化を目指す次世代の6G通信の要件として、5G通信で実現している通信速度10Gbpsクラスや遅延時間10ミリ秒以下より、さらに高い性能、例えば、100Gbpsクラスの高速通信やミリ秒レベルの低遅延時間が期待されています。加えて、膨大な端末の同時接続、低消費電力化、広い通信カバレッジなども要件に含まれてきています。
また6G通信では、通信性能の向上だけでなく、AIと連携した高度な制御や最適化、環境や物体の状態を把握するセンシングとの融合、災害時や非常時においても通信を維持する高い信頼性(レジリエンス)といった、通信の役割そのものを拡張する要件も期待されています。
とくにこれらの要件を支える基盤として高速通信を実現するための広い周波数帯域の確保が不可欠です*2。電波の周波数は、5G通信などの移動体通信だけでなく、放送や衛星、航空・船舶、Wi-Fiなどの個人向け通信まで、さまざまな用途に対して割当てられています。こうした状況の中、6G通信に対して世界共通で広い周波数帯域を確保する動きが進んでいます。
*2 シャノン=ハートレーの定理により、通信速度を向上させるには周波数帯域を広くする必要があることが示されている。
2. FR1・FR2・FR3とは―5G通信と6G通信に向けた周波数帯域
2.1 6G通信向け周波数帯を検討する電気通信の国際専門機関―ITU
6G通信における世界共通の周波数帯域の確保に向けて、電気通信―有線通信/無線通信における公的標準化や規制を国際的に担っている国際電気通信連合(International Telecommunication Union:ITU)*3を枠組みとして、国際的な議論や合意形成が進められています。
ITUは、基本的文書である国際電気通信連合憲章(ITU憲章)、国際電気通信連合条約(ITU条約)、そしてITU憲章とITU条約を補足する業務規則の無線通信規則(Radio Regulations:RR)と国際電気通信規則(International Telecommunication Regulations:ITR)に基づいて運営されている機関です。
以下にITUの主な部門を示します。6G通信(後述するIMT-2030)に向けた周波数帯の検討を担っている主体は、無線通信部門であるITU-Rになります。
- 無線通信部門(Radiocommunication Sector:ITU-R)
- 電気通信標準化部門(Telecommunication Standardization Sector:ITU-T)
- 電気通信開発部門(Telecommunication Development Sector:ITU-D)
*3 1890年代に無線通信がイタリアで発明されたのち、船舶通信として利用されました。その後、電波の広がりで生じる国境越えの混信を防止すること、世界各国での電波利用の公平性を確保することなどといった国際ルールが求められるようになり、電気通信の国際運用を目的として、ITUは1932年に発足し、1947年には、現在WHOやIMFを含む国際連合の専門機関の一つとなりました。
2.2 3GPPの定義したFR1・FR2とITU-Rで検討されているFR3
前述のとおり、FR3を6G通信向けの周波数帯として検討している主体はITU-Rです。
ITU-Rでは2023年に、6G通信の基本構想であるIMT-2030*4勧告として承認され、6Gに求められる性能要件や評価の枠組みが示されました。
これと並行して、後述するITU-R主催の世界無線通信会議(World Radiocommunication Conference:WRC)においても、IMT-2030(6G)に向けた周波数帯の検討が進められており、2023年12月にドバイにて開催されたWRC-23ではFR3の周波数範囲内の一部帯域がIMT用として一部地域で特定されるなど、6G通信に向けた周波数検討が具体化しました。
こうしたITU-RにおけるIMT-2030およびWRCでの議論を背景として、3GPP*5では、5G通信の技術仕様で便宜的に定義されているFR1/FR2とは別に、FR3と呼ばれる周波数区分を6G通信の検討対象としています(図1参照)。
[補足]
FR1/FR2/FR3は、次項目で触れるITUの無線通信規則(RR)に記載はなく、呼称の使用にあたっての法的な拘束力はありません。
*4 International Mobile Telecommunications 2030の略。IMT(International Mobile Telecommunications)とは、ITUが定める、移動通信システムに求められる性能要件や評価方法、周波数利用の考え方を整理した国際的な枠組みの総称です。このうちIMT-2030は、ITU-Rが主導する6G通信に向けた性能要件および評価フレームワークを示した枠組みを指します。IMT-2030を踏まえた上で、3GPPが6G通信に関する具体的な技術仕様を策定します。
*5 3rd Generation Partnership Projectの略。移動通信システムに関する技術仕様を作成するために、複数の標準化機関(例えば、米:ATIS、欧:ETSI、日本:ARIB、TTC)が参加して運営する国際的な標準化プロジェクトです。技術仕様は、Release 19、Release 20といったリリース単位で策定されます。
3. ITU-R主催のWRCにおける6G通信に向けたFR3の検討
ITU-Rは、世界を第1地域/第2地域/第3地域に区分し、電波の周波数の管理を目的として、それぞれの地域へ割当てた周波数を配分しています(図2)。
具体的な配分や変更は、ITU加盟国が参加する世界無線通信会議(WRC)で協議・合意され、その結果が無線通信規則(RR)に反映されます。そして、このRRの国際合意をもとに、各国の規制当局(ex. 米:FCC、英:Ofcom、中国:MIIT、日本:総務省)が自国の周波数割当や免許条件を決定します。
したがって、ITU-R主催のWRCでの議論を経てRRに反映されることで、各地域への周波数配分が決まるということになります。よって、WRCで合意されない周波数は、原則として国際的な無線通信には使えないことになります。
ここで、6G通信向け周波数帯域と期待されるFR3のWRCにおける検討状況を紹介します。
2.2項でも触れたとおり、2023年に実施されたWRC-23におけるIMTに関する議論(議題1.2)において、第2地域のブラジルやメキシコ、ペルーなどの12か国が、FR3の周波数範囲内の10-10.5GHzをIMT周波数として特定に合意しました。なお、このとき米国とカナダはこれに合意していません。
またWRC-23では、IMT-2030(6G通信)を念頭に置いたIMT周波数特定について、次回の2027年に開催されるWRC-27においても継続審議することが確認されており(議題1.7)、その候補周波数はFR3の範囲内に位置しています(図3)。なお、日本は第3地域に属しており、日本の移動体通信で使われている周波数とIMTの候補周波数とは現時点では重なっていません。
実際には、地域によってはFR3の範囲内で衛星通信などの既存システムがすでに利用されている周波数があります。そのため、ITU-Rでは、6G通信無線局から既存システムへの干渉影響について評価が実施されてきました。その一方で、既存システムから6G通信無線局への干渉評価をどのように扱うかについては、引き続き議論の対象となっており、この点についてもWRC-27における審議の結果が注目されています。
このような干渉評価の結果を踏まえて、共存条件や運用ルールがWRCを通じ国際的に整理されていきます。
4. 周波数帯域FR3の特徴―FR1とFR2との比較
上述のように、6G通信向けの周波数帯域として、FR1とFR2の間のFR3が検討されています。ここでFR3の周波数帯域を利用するメリットについて、FR1とFR2の比較で考えてみます。
FR1の周波数帯は、移動通信システム(スマートフォンなど)でも使われている帯域です。電波が遠くまで届きやすい周波数帯であるため、通信カバレッジを広げられるという特徴があります。しかし、通信事業者が単一の周波数帯として利用できる帯域幅は、数十MHz~100MHz程度にとどまることが多く、一定以上の高速通信は期待できない状況です。
一方、FR2の周波数帯はFR1と同じく移動通信システムでも使われており、例えば400MHzもの広い帯域を確保できるため、今後の実用化が期待される数十Gbpsといった高速通信が可能になります。しかし、この周波数帯の電波の伝搬特性として、直進性が強い、伝搬損失が大きい(通信距離が短い)ことから、ビル街や屋内での利用には膨大な数の基地局が必要になります。そのため、FR2の周波数を利用した通信機器やサービスは、現状では利用シーンが限定されています。このように、FR1は広いエリアをカバーできる一方で速度に制約があり、FR2は超高速通信が可能な反面、利用環境が限定されるという特徴があります。
そしてFR3の周波数帯は、FR1とFR2の中間的な性質があり、FR1より広帯域を確保できること、FR2と比べ電波の直進性が強くなく通信距離も長くなります。具体的には、FR2と同様な広い帯域を確保できる可能性があります。また、電波の回り込みも大きくなるため、屋外・屋内が混在した環境でも、安定した通信になると期待されています。
5. MIMOとビームフォーミング―FR3の活用に必要な技術
3項でも触れたように、FR3の周波数帯の一部では、衛星通信などの既存システムが利用されているため、6G通信の導入にあたっては共存と干渉影響が重要な課題になります。これらの課題解決には、FR2の周波数帯を用いた実運用や研究を通じて発展してきた技術を、FR3の特性に応じて応用することが想定されています。とくに、アンテナ技術であるMassive MIMOとビームフォーミングを組み合わせた空間多重技術(独立した空間チャネルを同時利用する技術)は、有効な対策の一つと考えられています(図4)。
MIMOは複数のアンテナを用いて、同時に複数の信号を送受信することで、周波数帯域幅や送信電力を増やすことなく、空間多重などの効果によって実効的な通信速度や通信の安定性を高めることができるアンテナ技術です。MIMOには2×2 MIMO、4×4 MIMOといった表し方があります。前者の2×2 MIMOは送信側と受信側がそれぞれ2本のアンテナをもつ構成、後者の4×4 MIMOはそれぞれ4本の構成を示します。そして、アンテナ素子の数を大幅に増やして構成したアンテナをMassive MIMOといいます。その特徴は以下になります。
- Massive MIMOでは、電波の波長が短いほどアンテナ素子と素子間隔を小さくできるため、FR2やFR3といった比較的高い周波数帯での利用では、アンテナの小型化・素子の高密度配置が可能になります。
- 特定方向に電波を集中的に送信するビームフォーミングの技術を用いることで、アンテナ素子の高密度配置と位相・振幅制御により指向性を高め、伝搬損失の低減と干渉抑制を実現します。
Massive MIMOのこのような特徴により、FR3の周波数帯を利用するときの課題である既存システムなどへの干渉を抑制するために、Massive MIMOとビームフォーミングを組み合わせたアンテナ技術は重要な技術と位置付けられています。3GPPではRelease 19の活動の中で、すでにMIMO技術の検討が進められています(図5)。
なお、図5に示すとおり、6G通信の技術検討をするRelease 20の活動は2025年6月からはじまっており、2027年に開始予定のRelease 21の活動で、6G通信の初版仕様が作成される予定です。
その後、初版仕様は、IMT-2030提案として2029年に3GPPからITU-Rへ提出され、6G通信の商用化に向け大きく前進することになります。
6. FR3と6G通信技術の展望―課題に対する当社の技術紹介
6G通信に対してFR3の周波数帯の利用が見込まれる中で、さまざまな要素技術の発展が不可欠です。当社はこのニーズに応えるため、パワーアンプ、高周波フィルタ、モジュール、低誘電率のLTCCやLCPフレキシブル基板などの技術開発と商品化を進めています。
ここでは、近年、量産出荷を開始した3GHz以上の高周波帯に対応したXBARフィルタについて紹介します。XBARフィルタは、当社の保有する表面波(SAW)フィルタ技術と、くし型電極により圧電単結晶薄膜にバルク波(薄膜内部を伝わる波:BAW)を励振させる技術を融合させて実現した高周波フィルタです。これまでSAWフィルタでは実現できなかった4-7GHz帯での広帯域・低損失・帯域外での高減衰といった特徴を有しており、FR3の10GHz超でもこの特徴を実現可能とする技術です。
XBARは、横方向(X軸方向)のバルク波を利用した共振子という意味で、その構造を図6に示します。この構造において、金属のくし型電極に交流電圧を印加すると、単結晶圧電薄膜に横方向のバルク波が励振し、電気的な共振が生じます。この共振子を直列と並列に交互に配置する構成を考え、配列数と個々の共振周波数を最適化する設計によって、所望の帯域や減衰特性をもつXBARフィルタが作製されます(図7)。
<コラム>5G通信の周波数帯“Sub-6”について
本文でも触れていますが、移動体通信の分野においては、複数の周波数区分が目的や文脈に応じて使われます。
- 3GPPによる区分:FR1(0.41-7.125GHz)、FR2(24.25-71GHz)
- 3GPPによる4G通信での個別区分:ex. Band 1(2.1-2.17GHz)
- 3GPPによる5G通信での個別区分:ex. n40(2.3-2.4GHz)
- 慣用区分:Low-band(1GHz以下)、Mid-band(1-24GHz)、High-band(24GHz以上)など
- 慣用区分:Sub-GHz(1GHz以下)、Sub-6(6GHz以下)、Sub-THz(約100-300GHz)
ここでSub-6の範囲が注目されています。通常、Sub-6は6GHz以下の周波数帯のことであり、3GPPによる個別区分である5G通信専用の新規周波数帯*6のn77(3.3-4.2GHz)とn79(4.4-5.0GHz)のことを指していました(図8)。
しかし、3GPPが5G通信に対してn104(6.425-7.125GHz)を割当てたことで、FR1の上限周波数でもある7.125GHzまでをSub-6まで含める傾向がでてきています。なお、7.125GHzを含めた場合でも、Sub-6は、同じく慣用区分であるMid bandの範囲にあたります(図9)。
*6 5GNR周波数帯とも呼ばれます。NRはNew Radioの略。