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HAPSや人工衛星からなる非地上系ネットワーク(NTN)とは―Beyond 5G/6G時代に向けた技術動向(1)

非地上系ネットワーク(NTN)とは

非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network(s) 、NTNs)とは、移動体通信をはじめとする無線通信ネットワークの一種で、地上の基地局や海上の船舶、高高度の無人飛行機(HAPS)、宇宙に配置した通信衛星を多層的に繋げたネットワークを指します。
それにより、地上系ネットワークの弱点を克服すると同時に、山間部や海上を含む地球上における通信インフラのカバー領域を飛躍的に拡大します。

この記事では非地上系ネットワークの中でも、地上や海上よりも高い高度に構成される無線通信ネットワークにフォーカスして解説します。成層圏や宇宙空間に展開される非地上系ネットワークの計画は、次世代の通信規格であるBeyond 5G(第5世代通信システムの次の世代:以下、B5G)/6G(第6世代移動通信システム)時代の到来に向けて研究開発やテストベッド、デモンストレーションへと進展しはじめています。

成層圏から宇宙まで。非地上系ネットワーク(NTN)の構成と特徴

非地上系ネットワークにおける各通信設備の高度と通信エリアの概念図
図1 非地上系ネットワークにおける各通信設備の高度と通信エリアの概念図

上空に展開する非地上系ネットワークでは、図1のように通信設備が位置する高度が高ければ高いほど、カバーする通信エリアが広くなります。もちろん地表から距離が離れるほど通信に遅延が発生しますが、宇宙から成層圏、地上までの各種通信設備は用途に応じて活用されます。それにより、「地球上から通信圏外がなくなる」とも表現されるほど、これまでになく広い範囲をカバーする通信インフラが実現します。
以下では図1に挙げた非地上系ネットワークを構成する人工衛星(GEO・LEO)や無人飛行機(HAPS)の概要や特徴を紹介します。

静止軌道衛星(GEO)

静止軌道衛星(GEO)のイメージ
静止軌道衛星(GEO)のイメージ

静止軌道衛星または静止衛星(GEO:Geostationary Earth Orbit satellite)とは、B5G/6G時代に向けた非地上系ネットワークの中でもっとも高い高度、赤道上空約3万6千kmの宇宙空間に位置する人工衛星です。地球の自転と同じ速度で軌道を周回しているため、地上からは静止しているかのように見えます。一般的に、広範囲の気象状況から天候を予測するための気象衛星もこれに属します。

通信ネットワークにおけるGEOは高度が高い分、通信可能なエリアが広く、3~4基ほどで地球全体の表面をほぼカバーできるといわれています。ただし、地上から遠く離れている分、他の通信設備と比べデータ伝送に遅延が生じ、一般的な通信速度は数Mbps程度といわれています。また、電波を地上まで届けるには、高い出力を要するため衛星のサイズは次に紹介する低軌道衛星(LEO)に比べて大きく、打ち上げに使われるロケットの規模にも影響します。

低軌道衛星(LEO)

低軌道衛星(LEO)の衛星コンステレーションのイメージ
低軌道衛星(LEO)の衛星コンステレーションのイメージ

低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit satellite)とは、宇宙空間でも比較的地球に近い地球周回軌道*1を含む数百から2,000kmの高度に配置された人工衛星のことです。静止軌道衛星(GEO)とは異なり、地球の自転とは同期しません。
ハッブル望遠鏡や国際宇宙ステーション(ISS)は高度400km付近と低軌道の中でも低高度にありますが、NTNにおけるLEOは高度1千数百kmあたりに配置されるといわれています。

LEOはGEOに比べて高度が低い分、低遅延・低出力でのデータ伝送が可能で、衛星のサイズも小さくすることができます。LEOと地上間では最大で数百Mbps程度の通信速度が得られるため、スマートフォン端末から衛星に直接通信を行うサービスにも活用されるといわれています。
一方で、GEOに比べて低高度である分、1基でカバーできる通信エリアは狭くなり、低軌道上では衛星の周回速度は速くなります。こうした条件下で通信を安定させるために、複数の小型なLEOを連係動作させて運用する「衛星コンステレーション」と呼ばれる手法が活用されることがあります。コンステレーションは星座を意味し、複数配置されたLEOの連係を表しています。

*1 地球周回軌道の定義は国や団体等により異なります。たとえばESA(欧州宇宙機構)では1,000㎞以下を、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)では2,000km以下を地球周回軌道と定義しています。

高高度プラットフォーム(HAPS)

飛行機型の高高度プラットフォーム(HAPS)のイメージ
飛行機型の高高度プラットフォーム(HAPS)のイメージ

HAPS(High Altitude Platform Station)とは、一般にハップスと読み、日本では高高度プラットフォームや高高度基盤ステーション、成層圏通信プラットフォームなどとも呼ばれ、高度約20kmの成層圏を飛行して空中の通信基地局の役割を担う無人飛行機(飛行機型の他に気球型や飛行船型など)のことを指します。
一般的なジェット旅客機の飛行高度は10km程度なので、HAPSが飛行する成層圏はその約2倍の高度に相当します。この高度では気流や天候が比較的安定しており空気抵抗が少なく、無人飛行機が揚力を得るために必要な空気密度が低すぎないことから、HAPSに搭載されたソーラーパネルやバッテリで数週間連続運用できる仕様になるといわれています。

一般的な地上基地局の通信エリアは半径数kmから最大十数km程度である一方、1機のHAPSがカバーする通信エリアは半径100km程度といわれています。また、宇宙空間の人工衛星に比べて地上に近い分、通信遅延が小さいため、B5G/6G時代における新しい通信インフラとして大いに期待されています。ただし、宇宙空間とは違い、成層圏は各国の領空となるため、HAPSの国際的な実用化と通信サービス提供において各国での法整備が重要といえます。

B5G/6G時代における非地上系ネットワーク(NTN)のメリットと動向

最後に非地上系ネットワークのメリットや動向について解説します。

非地上系ネットワーク(NTN)がもたらすメリット

山間部でスマートフォンを使って通信するイメージ
山間部でスマートフォンを使って通信するイメージ

地上系ネットワークと異なり、成層圏や宇宙空間に構成する非地上系ネットワークは、地震や津波などの自然災害に強い通信インフラであることが大きなメリットとして挙げられます。
また、地球上から圏外がなくなると表現されるほど通信エリアが飛躍的に拡大することにより、従来は通信が困難であった山間部や海上においてスマートフォンなどの端末から緊急時の通信が可能となります。
これにより場所を問わず災害や事故などの緊急時に通信インフラを確保したり、移動体通信のネットワークが広域において途絶えないことにより、入山中や海上航行中のトラブルを未然に防いだりといったことが実現するでしょう。

非地上系ネットワーク(NTN)の動向

世界中で多くの民間企業が宇宙事業に参入のイメージ
世界中で多くの民間企業が宇宙事業に参入

非地上系ネットワークの大きな特徴であり、目を見張る動向として、民間企業の積極的な参入が挙げられます。従来の宇宙プロジェクトの多くは国家主導でしたが、いまやハードウェア分野のみならず通信サービス分野など、世界中のさまざまな企業が連携して非地上系ネットワーク事業を含む航空・宇宙事業に携わるようになりました。
たとえば人工衛星やHAPS、それらを構成する部品や搭載する通信機器(ペイロード)の開発や製造、そして人工衛星を宇宙に輸送するロケットの打ち上げまで、広範囲にわたり数多くの企業が関わるようになりました。特にB5G/6Gという次世代の移動体通信を起点に、世界規模の市場を持つ大きなビジネスへと急成長しています。

なお、村田製作所では各種の無線通信モジュールの開発・製造を行っています。その一環として、非地上系ネットワーク(NTN)にも対応した通信モジュールなど、ニーズの変化に対応した製品の開発に取り組んでいます。詳しくは下のリンク先をご覧ください。

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