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Beyond 5G/6Gで期待される、テラヘルツ波での通信とセンシング

Beyond 5G/6Gで活用が期待される「テラヘルツ波」とは

テラヘルツ波は、電磁波*の分類において、マイクロ波やミリ波などの「電波」と可視光などの「光」の間に位置します(図1)。一般的に、周波数領域では100GHz - 10THz(テラヘルツ)、波長領域では3mm - 30μm辺り、つまり電波と光が重なり合う領域を指します。

光に近い電波といえるテラヘルツ波には、物質を透過したり物質に吸収されたりする性質があります。この性質を利用して測定される光吸収パターンによって、物質の成分分析から無人探査機での惑星探査まで、幅広い分野でのセンシングやイメージングなどへの応用が可能といわれています。
また、エネルギーが可視光よりも低いためX線のような被ばくリスクがなく、管理資格が不要なことも大きな特長です。人体に悪影響がないため、たとえば空港のゲートなど公共の場で利用者が武器や不審物を所持していないかのセキュリティチェックにも活用可能です。

* 電磁波:運動や熱と同じくエネルギー形態のひとつ。電場(電気的な力が働く場)と磁場(磁気的な力が働く場)が変化しながら伝搬する波をいいます。

電磁波(電波・光)の中でのテラヘルツ波の領域のイメージ画像
図1 電磁波(電波・光)の中でのテラヘルツ波の領域

B5G/6Gに用いるテラヘルツ波について、米国の通信電波を管理・監督する連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)では、95GHz - 3THzと広い帯域を研究・実験用に開放していますが、ミリ波における94GHzと同様に宇宙開発など特別な用途を考慮していると推測されます。
日本ではB5Gの特定実験試験局の使用帯域において、主に5Gのミリ波の10倍以上も広い帯域幅を利用できる90GHz - 300GHzの「サブテラヘルツ波」と呼ばれる帯域から研究・検討が進められており、2030年代に予想されているB5G/6Gの汎用的な帯域として、100GHz - 1THzのテラヘルツ波の実用化が期待されています。
グローバルなサプライチェーンにおいて、デバイスの仕様や規格による互換性は新しい電波の規格に大きく関わるため、新デバイスの研究開発にともない、国際規格の整備に対する関心も高まっています。

5Gでは、4Gに比べ通信速度が高く、少ない基地局で広範囲に電波が届くSub6(3.7GHz/4.5GHz)や、その約16倍の通信速度で通信エリアが狭いミリ波(28GHz/39GHz)が利用されています。B5G/6Gにおいても、用途によって帯域を使い分ける効率的な電波利用が予想されます。

テラヘルツ波のネットワークに期待されるセンサとしての機能

前述のように、テラヘルツ波は物質を検出・分析するための装置に活用されていますが、将来はテラヘルツ波の通信ネットワークを使って物体や人を検出、つまり、ネットワーク自体をセンサとして活用する「リモートセンシング」の技術も研究されています。
現在は、光や電波の反射を利用したリモートセンシング技術として、赤外線やLiDARが自動車などに用いられています。一方、光に近い電波であるテラヘルツ波では、より広域なセンシングと高速・大容量のデータ通信の機能を併せ持つことが期待されています。
たとえば、テラヘルツ波の透過・吸収といった性質によって、複数の基地局で構成した無線ネットワークをまるで透過型センサや、空間分解能を活かしたイメージングで画像センサかのように活用するという構想もあります。

テラヘルツ波ネットワークを用いた通信とセンシングのイメージ画像
図2 テラヘルツ波ネットワークを用いた通信とセンシングのイメージ

地上の基地局で構成したテラヘルツ波の無線ネットワークを使ったリモートセンシングが実現すれば、たとえば、天候や交通量、路上の障害物、人流などに関する詳細な情報をよりスピーディーに得ることができます(図2)。また、リモートセンシングと通信する端末のセンサから取得したビッグデータを基にAI(人工知能)が交通渋滞や人の混雑などをより詳細に予測して、それを回避するためのルートを選択する機能を実現。さらに、敷地内への人の侵入を検出できるため、防犯用セキュリティセンサとしての機能も併せ持つなど、多種多様な用途が考えられます。

なお、テラヘルツ波は水に吸収されやすい性質が課題となる場合がありますが、この性質は同時に天体上の微量な水分の探索にも利用できるといわれています。地上では、水分による電波の伝搬減衰によって雨量をセンシングできるため、局所的な降雨などの気象情報をより低遅延かつ高精度に得ることができます。
このように、テラヘルツ波のネットワークを用いた通信とセンシングの両立は、超スマート社会の実現において大きなステップとなるでしょう。

テラヘルツ波の通信用ネットワークでリモートセンシングを行い、超スマート社会を実現のイメージ画像
テラヘルツ波の通信用ネットワークでリモートセンシングを行い、超スマート社会を実現

テラヘルツ波の無線ネットワークの課題と求められる技術

テラヘルツ波の無線ネットワークの実用化に向けて、技術的な課題は少なくありません。これまで述べたように、光に近い電波であるテラヘルツ波は、ミリ波よりもさらに電波の直進性が高く、水分(雨水や大気中の湿気など)や障害物(ビルや樹木、人など)の影響を受けやすいという性質があります。これにより生じる電波の伝搬減衰量とその特性から降雨量や物体、人の存在などを検知できることがメリットです。
しかし、その一方でテラヘルツ波のこうした性質は、無線ネットワークにおける電波伝搬での大きな課題となります。なぜならテラヘルツ波を無線通信用の電波として利用するには、水分や障害物による損失・吸収・遮へい・透過損・乱反射が、電波を遠方まで伝搬させるという目的においてはデメリットとなるためです。

また、B5G/6Gの送受信には、通信制御技術やアルゴリズム、デバイス管理、センシングしたデータから利用価値のある情報を導いたり制御を最適化したりできるAIなど、システムやソフトウェア面に関わる技術が必要となります。
それと同時に、基地局や端末に必要なデバイスとして、高周波かつ広帯域な電波に対応したアンテナ・フィルタ・増幅器・ミキサー・局部発振器などが挙げられます。これらの開発にはサブテラヘルツ波やテラヘルツ波の伝搬特性による課題のクリアと同時に、小型化や低消費電力性、放熱性、安定性が求められます。

B5G/6Gにおける昨今の研究と今後の技術革新は、2030年代、さまざまな産業で新しいUX(ユーザーエクスペリエンス)を与えると同時に、多くの国が抱える労働人口や自然環境の変化、自然災害など、未来に予想される諸問題の解決策のひとつとして大きな期待が寄せられています。

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