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6次産業化を実現するデジタル技術

6次産業化とは

6次産業化とは、生産者(1次産業)が加工(2次産業)と流通・販売(3次産業)も行い、経営の多角化を図ることです。1次・2次・3次といったそれぞれの産業の融合を図ることで生産物の卸売りによる価格変動を抑制し、付加価値を高め生産者の所得を向上させると同時に、地域を活性化することを目的とします。

農業の現状と6次産業化の必要性

農業従事者の人口は、世界中のほとんどの国々で減少の一途を辿っています。たとえば、EUでは2017年から2030年の間に農業従事者の人口は約28%減少することが予測されており*1、米国では1950年に760万件であった農家の数が2000年には206万件と、約73%減少しています*2。さらに日本では、1990年に482万人であった農業従事者の人口が2015年には209万7000人と、25年の間に半数以下へ減少しました*3。同時に農業従事者の高齢化も進んでおり、先進国での農業従事者の平均年齢は約60歳といわれています*4。農業従事者の減少や高齢化は農家の所得減少につながり、さらなる悪循環の大きな原因になります。

このような現象は農業本来の役割である食料の安定供給を困難にし、国家の安全保障にも大きな影響を与えます。

そこで各国ではこの悪循環を止め、逆に経済的発展を促進すべくデジタル技術を積極的に活かした農業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するとともに、生産と加工、販売を一体化した6次産業化の実現に向け、さまざまな取り組みがなされています。

*1 欧州委員会の農業に関する直近の展望
*2 米国農務省(USDA)経済調査局
*3 農林水産省「2015年の農林業センサス報告書」
*4 食糧農業機関(FAO)

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6次産業化が1次産業による新しい価値を創造するカギに

6次産業化のメリット

6次産業化のメリットには、所得の向上だけでなく、雇用の創出や地域の活性化、生産物のブランド化などが挙げられます。ここでは、これらのメリットについて説明します。

価格の安定化と所得の向上

生産者が加工・流通・販売までを一貫して行うので、収益が卸売市場の価格変動の影響を受けません。通常、生産以外の工程は異なる事業者が行うため、関与する事業者が増えると価格が上昇します。このため、消費者に生産物を安く提供するには、生産者の収益を低く抑えなければなりません。これに対し6次産業化すると、中間コストを削減することができるため、生産物を安価で消費者に提供することが可能になるとともに、収益の向上が実現します。そして、価格の決定権を生産者が持つため、生産者の所得を安定させることができます。

中間コストのカットで所得を向上のイメージ画像
中間コストのカットで所得を向上

雇用の創出と地域の活性化

6次産業化すると、生産者が加工・流通・販売も行うため、業務量が増加し生産地での雇用が発生します。また、生産以外の部署では年間を通じて人員が必要となるため、安定した雇用が可能です。さらに、生産以外の収入は通年確保できるため、企業経営が安定します。そして、安定した雇用と経営の安定化は都心部への人口流出を防ぎ、地域の活性化に大きく貢献することができます。

雇用創出で地域の活性化を実現のイメージ画像
雇用創出で地域の活性化を実現

生産物のブランド化

生産者が加工・流通・販売を行うことで、産地の独自性や加工技術を特長とした生産物のブランド化が可能になります。たとえば、新鮮な素材の使用やこだわりの製造方法を特長として打ち出し、ブランド化することで他の製品との差別化を実現でき、付加価値を高めることができます。

ブランド化で付加価値向上を実現のイメージ画像
ブランド化で付加価値向上を実現

6次産業化の課題

6次産業化とは、すなわち新規事業を始めるということです。新規事業を始めるにあたっては、デメリットを事前に把握し各課題を解決することが必要です。ここでは、6次産業化を実施する際の課題について説明します。

多額の初期投資とランニングコストが必要

従来と同様、6次産業化においても生産物の安定供給は最も重要です。生産物を安定供給するために、自動化や機械化、加工機や輸送機などへの投資が必要です。また、他の商品と差別化するための商品開発や梱包箱のデザイン、衛生管理面でのHACCP(ハサップ)への対応、マーケティングへの投資など、生産物を商品として販売するための費用がかかります。

正確な在庫管理と厳しい品質管理が必要

設備投資や販売先との契約を有利に進めるには、需要と供給のバランスを考慮し、明確な生産計画を立てなければなりません。明確な生産計画の立案には、生産から販売までの経路において、どの工程でどれだけの在庫があるのかを正確に把握する在庫管理が欠かせません。また、在庫商品の賞味期限や消費期限といった品質管理も重要です。明確な生産計画がないと供給不足や余剰在庫が発生し、販売先との契約打ち切りや廃棄商品の増加による収益悪化の原因になります。

各分野での専門知識が必要

多くの場合、生産者は生産の技術や知識、経験は豊富です。しかし、これまで携わってこなかった加工や流通、販売に関する知識は未知の領域です。生産して加工し商品が完成しても、流通や販売の方法に問題があると、余剰在庫を抱えることになってしまいます。また、生産の技術においても自動化や機械化、さらにスマート農業を目指してIoT技術を活用するとなると、やはり従来とは異なる知識が必要になります。

6次産業化の成功例

6次産業化を成功させるには多くの課題がありますが、ここでは課題を解決し成功に導いた例を紹介します。

協業法人化により初期投資の集中運用と生産コストの削減を達成した酪農経営の例

複数の酪農家による協業法人化により、大規模酪農経営を行う株式会社を設立。初期投資を集中運用することで、多数の搾乳ロボットを導入し大規模酪農経営での省力化と効率的な飼養管理などを実現できます。また、搾乳ロボットと連動して個体ごとの生乳中の成分を分析する機器も導入。これにより疾病や繁殖管理を可能にし、繁殖効率の向上などを可能とします。

このように、単独の農家では導入が困難である高価な装置でも、協業法人化し投資を集中運用することで導入が可能です。また、繁殖効率の向上という、高度なデジタル技術を要する取り組みも実現することができます。

IoT技術で正確な在庫管理と厳しい品質管理を実現した農家の例

IoT(Internet of Things)とは、「モノのインターネット」という意味です。たとえば、人による肥料・農薬などの農業用品や農作物の在庫管理は、不正確で煩雑です。

これらをデジタル機器で計測し、IoT技術を活用してインターネット上で管理することで、人手不足による出荷や納品の遅れ、手書き伝票による記入や発送のミスといった問題を解決することができるようになります。同時に最適な在庫管理が可能で、消費期限や賞味期限の商品も正確に把握できます。これにより、期限を過ぎた商品が出荷・販売されるといったトラブルを回避することもできるようになります。

各分野のプロフェッショナルを活用した例

商品開発やパッケージデザイン、加工や流通、衛生管理など各分野の専門家と相談しながら取り組むことで、効率良く6次産業化に取り組むことができます。事業プランの作成や補助金・助成金の申請方法、ドローンやロボット、コンピューターシステムといったデジタル機器の導入、そのオペレーターのマッチングまで、幅広い分野の知識をアウトソーシングすることで高度な6次産業化を素早く実現することが可能です。

6次産業化の成功にデジタル技術は欠かせない

消費者のニーズの多様化や1次産業従事者の減少と高齢化が進む中、農林水産業の成長を実現するには1次産業従事者がいかにして消費者のニーズを正確に捉え、効率的かつ効果的にこれに応えていくかがカギとなります。それには、経営情報の分析・解析ツールの活用や、徹底したコスト管理と生産の合理化が欠かせません。

たとえば、ロボットやドローン、各種自動機による生産の効率化はもちろん、CO2センサや土壌センサによるほ場管理、IoT技術を活用した在庫管理や品質管理体制の確立といったデジタル技術の導入は必須条件です。

これまで、1次産業従事者の視点は商品の原材料・部品の調達から販売に至るまでのサプライチェーンの川上である生産工程に向けられてきました。6次産業化とは、サプライチェーンのすべてに視点を向け、流通や消費者との関係を構築する事業に取り組むということです。その実施には多くの課題がありますが、成功すると大きなメリットを得ることができます。

ビジネスの基本をしっかりと押さえて戦略を明確にし、デジタル技術を正しく活用して新たなサービスを展開することは、付加価値を創造し所得を上げるという6次産業化を成功に導く秘訣といえます。

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