土壌センサ
IoTを活用した農業データ分析サービス「RightARM」を開発し展開するテラスマイル株式会社(以降「テラスマイル」と表記)。株式会社村田製作所(以降「ムラタ」または「村田製作所」と表記)は、土壌や水質を継続的に測定する土壌センサをテラスマイルへ供給してきました。農業コンサルティング企業であるテラスマイルとムラタが協業することで得られた成果などについて、テラスマイルの代表取締役である生駒祐一氏とカスタマーサクセス担当の渡辺浩基氏にお伺いしました。
――農作物の生育に影響を与える環境としては日照時間やCO2濃度、温度と湿度のバランスなどを連想しますが、土壌センサは土の中の状態を測定するセンサです。なぜ、土の中の状態を測定する必要があるのでしょうか。
生駒氏:以前からテラスマイルでは圃場の状態をセンサで測定し、データ収集することに取り組んできました。そして各種センサメーカーと協業してきましたが、これらのセンサでは日照、温度と湿度のバランスなど、土から上のデータしか得られませんでした。実は、農作物の生育に影響を与える要因は土から上が2-3割、下が7-8割といわれています。したがって、農作物の安定収穫を実現するには土の中、つまり土壌の正確なデータが必要なのです。
――そこで土の下、つまり土壌の正確な状態を測定する方法を模索することになったわけですね。従来の測定方法では不十分だったのでしょうか。
生駒氏:土壌に鉄板を差し込んでの測定や、土を採取しての測定などの方法にも挑戦してみましたが、どれも正確でないうえに、サンプル数もサンプル期間も限られています。さらに常時データを収集することもできません。これでは農作物の育成に重要な土壌水分量などのデータを得ることはできませんでした。
――ムラタの土壌センサを知ったきっかけについて、お聞かせください。
生駒氏:きっかけは、2017年、福岡県で行われたイベントです。村田製作所の新規事業を担当する方とお話しする機会があり、村田製作所が農業分野で事業を展開しようとしていることを知りました。そこでテラスマイルが持つ土壌のデータ測定に関する課題を担当の方にお話ししたところ、村田製作所の土壌センサなら、より精密な土壌のデータを容易に、かつ常時収集できるとのご提案をいただきました。
――ムラタの土壌センサを使い始めて、正確なデータを収集することができましたか。
渡辺氏:土壌の環境は、圃場によってさまざまです。たとえば株元や灌水ホースからの距離は、生産者ごとに異なります。このため、導入当初は正確なデータが取れないケースがありました。また、土壌センサが土にしっかりと接していなかったなどの設置不良もありました。
しかし、現地に村田製作所の技術者が来られて、設置方法の指導をしていただいたおかげで、早期に正確な土壌データの収集を開始することができました。
――収集したデータの活用についての指導はありましたか。
渡辺氏:導入当初から、弊社と県やJA、生産者が参加したワークショップに村田製作所の技術者が同席くださいました。そこで村田製作所の技術者から収集したデータの比較方法や、着眼点についてレクチャーしていただきました。その後、データの収集はもちろんデータ解析などについても両社でディスカッションを進めてきました。そして現在ではさまざまな分析が可能になりました。これらの分析結果は、農家の経営データとしても活用できています。
――2017年以来、さまざまな形でムラタと協業されました。そのなかで感じられたムラタの印象についてお聞かせください。
生駒氏:土の中の状態を知るということは、「植物の声を可視化する」ということです。植物の声である土壌データを高精度で測定するという点において、やはり村田製作所の土壌センサの性能は素晴らしいと感じました。村田製作所の土壌センサは、土に刺すだけで正確なデータを収集することができます。この技術との出会いはテラスマイルにとっては画期的でした。
――ムラタの技術陣については、どのような印象を持たれましたか。
生駒氏:村田製作所の技術者は農家や農業指導者の意見を聞いて説明したり、指導したりといった対応まで行ってくれます。また、ほとんどの質問に対し、その場で答えが得られるというスピード感には村田製作所の技術に対する情熱を感じました。
――ムラタとの協業で、得られた成果についてお聞かせください。
生駒氏:分析力とソフトウェアを専門とするテラスマイル、扱いやすく高精度な土壌センサを開発した村田製作所。専門とする分野が異なる両社がパートナーシップを持って事業を推進できたことは、大きな成果であると感じています。
たとえば、同じデータを見てもテラスマイルと村田製作所では、分析の切り口が異なります。テラスマイルや農業指導員が見逃しそうな不自然なデータの変化を、村田製作所の技術者は見逃さずデータの信頼性に疑問を呈するといった助言もいただけました。このように、協業する両社がデータを共有し知識を提供し合うことで、より多角的な分析を行うことができています。
――一方で、スマートフォンやPCなどデジタル端末の操作は、農家の方々には不評ではなかったでしょうか。
生駒氏:導入当初は、そういう懸念もありました。しかしデジタル端末に表示される情報を見て土壌の状態を把握することのメリットを感じていただいてからは、むしろ農家の方から積極的に、より緻密な分析結果の提供を求められるようになりました。
――農家の方々は解析結果を見ることで、行動や意識が変わりましたか。
生駒氏:解析結果を活用することで収穫量が増えたというメリットはもちろんですが、栽培期間中は、頻繁にスマートフォンアプリでセンサのデータをチェックするようになりました。そして、データに基づいて灌水量や、天窓の開け閉めの工夫を凝らすようになりました。こういった意識と行動の変化こそが、一番重要だと考えています。
――これからのテラスマイルとムラタの協業の方向性とムラタへの期待についてお聞かせください。
生駒氏:農業の施策は、年に一度の収穫で成果を判断します。村田製作所との協業は長く続けてきましたが、年に一度という成果の判断の間隔なので、まだまだ続けていかないと判断できない成果も多くあります。現在テラスマイルでは「傾向予測技術」というアルゴリズムによる分析をテスト中です。これは圃場の状況を予測する技術であり、今後は傾向予測技術での協業が必要であると考えています。そしてなにより、この技術の確立に村田製作所の土壌センサは欠かすことができません。これからも強力なパートナーシップを持って、お互いのビジネスを成長させていければと思っています。
インタビューの最後に、生駒氏が農業の将来とテラスマイルの役割について、以下のような言葉を残されました。これをこの記事の結びといたします。
生駒氏:世界的に農業従事者の減少と高齢化は著しい傾向にあります。したがって必要なものを作って食べるという、生産と消費の関係性の構築が不可欠です。それには生産と消費のグランドデザインが必要であり、グランドデザインを描くにはデータが欠かせず、村田製作所の土壌センサは不可欠です。
テラスマイルが農業に果たす使命は、村田製作所の土壌センサを活用し、テラスマイルが分析した結果をグランドデザインとして関係各省庁または未来の農業従事者に届けることであると思っています。
さらに、食糧難に陥る地域に食料を供給するという役割。これが日本から海外にできるのであれば、やっていかなければならないことです。データで土壌の状態を可視化して「ここなら何が作れる」という情報を提供し収穫につなげる。そこで最も求められるのは高精度な土壌センサであると信じています。
左:生駒祐一 様 代表取締役
右:渡辺浩基 様 カスタマーサクセス担当