KUMIHIMOとアフリカの宙(そら)に描いたイノベーション-1のメインイメージ

KUMIHIMOとアフリカの宙(そら)に描いたイノベーション-1

文化を発展させるアイデア、世の中を創るアイデアを募集し、 共にカタチにしていくムラタの共創プロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata(以降「KUMIHIMO」と表記)」。2022年度、KUMIHIMOにエントリーいただき、最優秀賞を受賞されたSORA Technology株式会社(以降「ソラテクノロジー」または「当社」と表記)は「宙(SORA)から人の生き方に変革」をテーマに、ドローンによる空撮やAIによる画像解析といった技術を駆使したマラリア予防事業に取り組んでいます。

そこで、ソラテクノロジーでドローンのハード・ソフトの開発を担当されている福島さま、それらの技術に加えAI技術の取りまとめを担当されている加藤さま、マーケティングおよび広報を担当されている小島さまにインタビュー。KUMIHIMOにエントリーした動機やマラリア予防事業に取り組んだきっかけ、さらに今後のKUMIHIMOに期待する活動などについてお伺いしました。

小島さま、加藤さま、福島さまのイメージ
左から小島さま、加藤さま、福島さま

1. KUMIHIMOへ応募することになったきっかけ

――これまでムラタはドローンなどエアモビリティ分野へは積極的には参入していませんでした。そのムラタが展開するKUMIHIMOに応募することになった経緯やきっかけについて、お聞かせください。

加藤さまのイメージ

当社では、主に西アフリカ地域でドローンを活用したマラリア対策事業を展開しています。マラリアは、2021年には世界で約2億4,700万人の患者が発生し、死亡者数は約619,000人という恐ろしい病気です。そのおよそ9割がアフリカで発生していると言われています。

マラリアを媒介するのはハマダラカです。その幼虫であるボウフラが発生するのは水たまりです。したがって、アフリカに点在する水たまりに殺虫剤を散布してボウフラを駆除すればマラリアの媒介を防ぐことができます。   
しかし、ボウフラは大きな池や沼はもちろん、数十cmの小さな水たまりにも生息することができます。ボウフラが生息するアフリカは広大であり、そこに点在する池や沼、水たまりを徒歩で捜索するには多くの人手と時間が必要で、人件費も膨大になります。また、農薬のように空から殺虫剤を空から散布するのでは、大量の殺虫剤が必要になり環境汚染も心配です。

そこで、ボウフラが生息すると思われる地域一帯を空撮し、その中からボウフラが生息すると思われる水たまりにだけ殺虫剤を散布する方法を模索しました。

マラリア (who.int)

地上画像の撮影ということについては、まず衛星画像を使用する方法が考えられます。しかし、衛星画像の解像度では小さな水たまりを発見することはできません。そこで、ドローンにカメラを搭載し地上を撮影することにしました。これなら、小さな水たまりでも発見することができます。

水たまり検出の手段比較をした資料の画面イメージ

しかし、撮影する範囲をある程度限定しても、アフリカの大地は広大であり空撮に使用するドローンには正確な機体制御、長時間飛行と長距離飛行の性能が求められます。この条件を充足するには、優れたフライトコントローラと充放電特性を持つバッテリが必要です。そこで、フライトコントローラの肝とも言える6DoF慣性力センサとバッテリの開発・製造技術を有するムラタの知見と製品を得るべくKUMIHIMOに応募しました。

2. KUMIHIMOを通して感じたムラタの印象について

――KUMIHIMOを通じて、さまざまなムラタの技術に触れられたと思います。そのなかで得た印象についてお聞かせください。

福島さまのイメージ

まず感じたのは、村田製作所技術陣のジャイロセンサに関する知見の高さです。

ドローンの機体制御にはフライトコントローラを使用しますが、これにはジャイロセンサが搭載されています。ジャイロセンサは飛行中のドローンが風を受けて姿勢が変化しても、絶えず正確に飛行するには欠かせない部品です。また、飛行中のドローンに搭載されているバッテリの劣化状況を把握することは困難であり、劣化原因の特定には苦慮していました。

そこで村田製作所にご相談したところ、ジャイロセンサにムラタ製のMEMS慣性力センサを搭載したフライトコントローラがあることをご紹介いただきました。また、バッテリに関しても、高い技術と確かな実績をお持ちであることを知りました。

そして、これらの情報に対し当社からは機体設計・運用の立場から、村田製作所からはエレクトロニクス部品の設計・開発の立場から意見を出し合い検討することで、ドローンの性能を大きく前進させることができました。
 

3. KUMIHIMOにおけるコミュニケーションの課題

――ソラテクノロジーはスタートアップベンチャー企業であり、ムラタは電子部品メーカーです。この二社には企業文化の違いがあると思うのですが、コミュニケーションにおいて課題はありましたか。

小島さまのイメージ

技術情報の交換という点での問題はなく、むしろ多くのメリットがありました。一方で、製品を提供していただくには、使用温度や使用電圧など、村田製作所社内における製品の使用規定をクリアする必要があります。これはムラタの量産を前提とした品質管理の思想と、研究・開発をビジネスの礎とする当社との企業理念の違いです。また、ドローンといった特殊な使用環境も原因の一つであると認識しております。

現在、先に述べましたフライトコントローラの活用や村田製作所技術陣との交流により、ドローンの性能向上に向けて努力しています。当社としては、これらの課題はドローンの量産化に向けた取り組みとして、助言もいただきながら必ず解決しなければならないと考えています。

4. 今後のKUMIHIMOへの期待

――今回、KUMIHIMOを通じてムラタの製品や技術者に触れられましたが、今後、スタートアップ企業としてKUMIHIMOに期待することをお聞かせください。

福島さま、加藤さま、小島さまのイメージ

当社としては、ドローンの実証実験を成功させることと、製品として品質を担保しつつ社会に提供することの間にある検討段階の知見がより深まりました。すでにマラリア対策事業のビジネス化は目前であり、ほかにもドローンを使ったビジネスを考えています。そこでは、より長時間飛行・長距離飛行が可能なドローンが必要であり、具体的にはソーラープレーンといった新機軸の研究開発にも着手しております。また、このようなイノベーションを起こすには他社より優れた技術が必要であり、それには一社が持つ知見では限界があります。

今後はムラタとの協業をさらに発展させ、ドローンの飛行距離や飛行時間の改善はもちろん、安全性の向上、さらに量産化を目指したいと思います。また、今回のKUMIHIMOで得たさまざまなノウハウをさらに発展させるべく、たとえば一般では入手が不可能な電子部品の提供や、村田製作所技術陣の知見の提供を期待したいと思います。

5. まとめ

さまざまな分野でハードウェアを通じたイノベーションを目指すムラタと、アフリカという地でドローンを使ったスタートアップを目指すソラテクノロジー。通常、この二社が交わることは稀有であるといえます。しかし、その二社はKUMIHIMOによって結ばれ、意見を交換し、さらに新たなイノベーションを目指しています。

後編では、ソラテクノロジーのドローンへの取り組みやイノベーションについての考え方について紹介します。

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