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スマートファクトリー・ケーススタディ

スマートファクトリー化への第一歩を踏み出すには?小諸村田製作所編(後編)

INDEX

3. 製造現場と同じ目線で会話することの大切さ

4. できることから始めて、現場と一緒に作り上げていく

5. 課題感なくして改善意識は生まれない

3. 製造現場と同じ目線で会話することの大切さ

2018年に構築したエネルギーマネジメントシステム(EMS)は、電力を削減するという効果以上のものをもたらしたと飯島は言います。

 

飯島「見える化から数値化を進めることでさまざまな気づきが生まれ、『こうすればもっと良くなるかもしれない』『別のものに応用できないか』と、システムに携わった社員の間に改善の意識が生まれました。その流れで導入したのが、EMSのセンサを用いた予知保全と、一元的に設備稼働状況を見える化できるシステムです」

 

塚田「真空ポンプや排気ダクト、モーターなどにムラタのセンサを装着し、真空圧や圧力のレベルと経過時間から劣化状況を分析、メールで通知して予知保全に活かす仕組みです」

電流や圧力を検知するセンサのイメージ画像
電流や圧力を検知するセンサを設備に付け、予知保全や設備稼働状況を見える化している

岡野「予知保全のみならず、品質に影響する設備因子をモニタリングし、消耗部材を無駄なく最後まで使い切ることにも活かされています。設備稼働状況については、EMSや設備稼働状況のモニタリングシステムなどの各システムをBIでつなぎ、稼働台数や稼働率、生産数を一元的に見える化しました。それらのデータは関係するメンバーにメール通知することで、課題の共有や優先順位づけなどに活用しています」

モニターに一元的に表示された工場内の稼働状況のイメージ画像
モニターに一元的に表示された工場内の稼働状況
データを共有するイメージ画像
データを共有することで気づきや改善のアイデアが生まれる

予知保全、設備稼働状況の見える化と、スマートファクトリー化が加速する流れを踏まえ、2019年には工場全体のスマートファクトリー化を担うDXチームが発足。そこには、スマートファクトリー化を推進する体制づくりのヒントを読み解くことができます。

 

塚田「個別にスマートファクトリー化に取り組んでいたメンバーを集め、ひとつのチームとして生産技術課内に組織しました。ポイントは、保全チームの中にDXチームを位置づけたことです。チーム内のメンバーは設備の修理やメンテナンスに携わった経験とスキルを持ち、設備を熟知しています。だからこそ、どのように設備に適したシステムを構築すればいいかを見通せますし、製造現場のスタッフと同じ目線で会話ができるのです」

 

仮にスマートファクトリー化の旗振り役となるチームを組織しても、現場との意思疎通に乖離があればプロジェクトは円滑に進みません。現場レベルの知識や課題を共有しているスタッフでチームを組織することに、スマートファクトリー化のカギがあります。

 

飯島「とはいえ、製造現場からの要望が増えたのはここ1〜2年。最初の5年くらいは手探りの状態で、システムは導入したものの、現場で使ってもらえないこともありました。今では幅広い部門からシステム導入の要望がありますが、決して平坦な道のりではありませんでした」

4. できることから始めて、現場と一緒に作り上げていく

では、製造現場と二人三脚でスマートファクトリー化を進めるには、どのようなことが重要でしょうか? DXチームでエンジニアを務める川上、山浦、河野、設備稼働状況モニタリングシステム構築担当の坂口はこう語ります。

 

川上「DXチームでは、私がシステムの構築をメインに担当し、河野と山浦がバックオフィス業務の改善策を担っており、プロジェクトごとに役割が変わる柔軟な体制を敷いています。外部のソリューションを使うこともありますし、自分たちで一からシステムを開発することもあります」

DXシステム構築エンジニア・川上のイメージ画像
DXシステム構築エンジニア・川上

山浦「以前は製造現場のスタッフから意見が出ることが少なかったので、こちら側から積極的に働きかけました。例えば、試作品でもいいので、まずはシステムを利用してもらう。そこから現場スタッフの気づきや意見を吸い上げ、改善に役立てています。最初から100点のシステム構築を目指すのではなく、10点でも30点でもいいので、まずは試してもらう。できることから始めて、現場と一緒に作り上げていくことを大切にしています」

DXシステム構築エンジニア・山浦のイメージ画像
DXシステム構築エンジニア・山浦

川上「システムを構築して失敗することもありますが、必ず将来的に役立ちます。新しいシステムを構築するときに『以前やってみたことにもう一度トライしてみよう』『前回の反省をここに活かそう』と、経験の積み重ねが活きてくるからです。裏を返せば、失敗を恐れず、どんなことにもチャレンジできる環境が大事だと思います」

 

坂口「なんらかの設備やシステムを立ち上げると、自然と現場スタッフから意見が上がってきます。そうした意見をエンジニアチームで共有し、話し合いながら進めていくことで、課題を共有することができます。現場スタッフも、改善の効果が出れば喜んでくれる。感謝の声をもらえば、私たちのモチベーションも上がる。現場の役に立っているという双方の実感も大切だと思います」

設備稼働状況モニタリングシステム構築担当・坂口のイメージ画像
設備稼働状況モニタリングシステム構築担当・坂口

河野「DXチームの活動を周知することの大切さも実感しています。というのも、DXチーム発足当初は存在自体が認知されておらず、機会を損失するケースもありました。それを踏まえ、社内のポータルサイトに問い合わせ窓口を設け、DXチームの活動事例や実績を紹介し、分科会などで取り組みを発表する機会も設けています」

DXシステム構築エンジニア・河野のイメージ画像
DXシステム構築エンジニア・河野
稼働状況を見える化したモニターのイメージ画像
工場内に設置された、稼働状況を見える化したモニター
小諸村田製作所のスマートファクトリー化に携わる社員たちのイメージ画像
小諸村田製作所のスマートファクトリー化に携わる社員たち

5. 課題感なくして改善意識は生まれない

スマートファクトリー化において、現場の意見を採り入れながら改善を繰り返すこと、失敗を恐れずにチャレンジできる環境が重要である一方、大前提として忘れてはいけないことがあると塚田は言います。

 

塚田「製造業の工場なので、現場が中心、そこで働く人が中心。この考え方をベースに持つ必要があると思います。つまり、私たちの目的はスマートファクトリー化でも、システム構築でもなく、製造現場で働くスタッフの作業が楽になることにほかなりません」

 

そして、現場に目を向けることは、DXチームと現場スタッフ、双方の改善のマインドを生み出すことにつながると飯島は付け加えます。

 

飯島「改善意識をゼロから生むことは難しいかもしれませんが、現場にはなんらかの課題が必ず存在します。課題感を現場から吸い上げれば、そこを取っ掛かりに改善策を掘り下げていくことができます。だからこそ、現場に寄り添い、『どこか気になるところはありますか?』『困っていることはありますか?』と課題をヒアリングすることが重要だと思います」

 

塚田「現場スタッフは当たり前のように日々作業していますが、その当たり前の中にある課題を引き出す力、聞き出す力がDXチームには求められています。その際、未完成でもいいので、現場の人が使えるシステムを提供し、気づきや意見を引き出す。それをもとに改善策を練って、データを蓄積していく。そのデータはやがて共通言語になり、コミュニケーションも活性化していくと思います」

 

そして、岡野は「スマートファクトリー化に正解はない」と言います。

 

岡野「労働人口の減少、それに伴う外国人労働者の増加などに対応することは、製造業全体が抱える共通の課題です。一方で、企業によって扱う製品が異なる上に、働く人も、言語も、モノづくりの価値観も違う。ゆえに、スマートファクトリー化のプロセスや形に正解はないと思います。そうした中で、現場が課題感をもって取り組むことはひとつの理想形だと思います。そして、スマートファクトリー化を推進する側は、積極的に現場に耳を傾け、課題を抽出し、現場と一緒に改善策を練っていく。それが、スマートファクトリー化における最も重要なポイントではないでしょうか」

 

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