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無線通信における電波(帯域幅)の有効利用 - 多元接続 FDMA/TDMA/CDMA(1)

1. 無線通信で電波を有効活用するための必須技術

私たちが普段使っているスマートフォンで、音声・画像・動画などのデータを送受信するとき、多くの人が利用しているにもかかわらず、相手から自分に届き、また送りたい相手に送ることが当然のようにできています。これが実現できている背景には、複数のデータの送信および受信において、データ同士の重なりやノイズによる干渉などの障害を防ぐための技術があるからです。今回その技術のなかでも、周波数帯域幅(または帯域幅)*1の利用効率を向上させること、すなわち電波の効率的な活用を目的とした技術である
・複数データの伝送を可能にした「多重化」(Multiplexing)
・多重化技術を利用して、複数ユーザとの同時接続を可能にした「多元接続」(Multiple Access)
について図示しながら解説します。

なお多元接続(多重アクセスとも呼ばれる)は、家電やIoTデバイスなどのモノを含めた超多数接続(100万接続/km²)の対応をめざしている第5世代移動通信システム(5G)に貢献する重要な手法になります。

*1 利用する周波数帯域幅(帯域幅)がより広い無線通信では、データの通信速度(伝送速度)はより速くなる。周波数帯域幅と通信速度の関係については、別ページで解説する予定でいる。

多くのユーザ(端末)が同時に移動体通信を利用するイメージ画像
多くのユーザ(端末)が同時に移動体通信を利用する(写真はイメージ)

2. 無線通信での複数データの伝送

2.1 多重化 -1つ伝送路(空間)の有効活用-

通信システムの基本モデルは、有線通信・無線通信*2に限らず、図1のようにあらわすことができます(無線通信の基礎知識 - 無線の仕組み(1))。このモデルにおいて、送信側/伝送路/受信側を1つ、またあるタイミングで伝送するデータも1つと考えます(これを仮に単純通信と呼ぶことにします)。ここで送信者が複数のデータを同時に受信側に送ることができると、データの送受信の効率向上につながります。そこで、1つの伝送路を通して複数のデータを同時に伝送する技術が考案されました。この技術を多重化といいます。

通信システムにおける基本モデルの構成のイメージ画像
図1 通信システムにおける基本モデルの構成

*2 通信システムの伝送路は、大別するとケーブル類と空間があり、どちらを電気通信として利用するかによって、有線通信と無線通信とに分けられる。

2.2 多元接続 -混信なく複数ユーザ同士で無線通信を実現-

多重化を、複数のデータを同時に重ねて送ることという意味でとらえると、多重化には送信側と受信側の要素は含まれません。無線通信の場合、この多重化に送受信の要素を加えた手法、すなわち複数ユーザで、複数データを伝送するために伝送路を共有するという手法を多元接続(Multiple Access)と呼ぶことにします*3

多重化と多元接続の関係を表1に示します。多重化での送信側・受信側は、多元接続との比較のため、1つとしています。また多重化はチャネル*4の数が複数であり、多元接続も同様に複数であることから、多元接続は多重化がベースになっているといえます。

表1 多重化と多元接続の関係
多重化と多元接続の関係の表

*3 通信関係の書籍や資料、WEBコンテンツでは、解説する内容によって、多重化と多元接続は同じであるような記述もみられる。当記事では上述のように、多元接続とは多重化を利用し、複数ユーザ同士で伝送路を共有して通信できるようにした手法という切り口で解説していく。

*4 チャネル:ここでは簡単に、1つのデータが乗った電波である信号波の通り道(通信路)と考えることにする。この意味でチャネルは回線と呼ばれることもある。無線通信の場合、例えば10個の異なる信号波を伝送(多重伝送)したとき、10チャネルの通信路があるという言い方ができる。

実際の無線通信においては、1ユーザから1ユーザへ、または1ユーザから複数ユーザへと伝送路を共有する事例よりも、例えば移動通信システム(図2)と衛星通信システム(図3)のように、複数ユーザ同士で伝送路を共有する事例が多いため、ここでは多元接続の仕組みを中心に解説します。多重化については、<コラム>多重化の仕組み -FDM/TDM/CDM-にて解説しています。

移動通信システムのイメージ画像
図2 移動通信システムのイメージ
衛星通信システムのイメージ画像
図3 衛星通信システムのイメージ

3. 多元接続の仕組み -FDMA/TDMA/CDMA-

前項でも述べたとおり、多元接続とは、多重化したチャネルを共有することで、複数のユーザ同士が混信のない通信を可能にする手法です。
多元接続の基本的な方式を進化の順に並べると下記のようになります。
・周波数分割多元接続(FDMA:Frequency Division Multiple Access)
・時分割多元接続(TDMA:Time Division Multiple Access)
・符号分割多元接続(CDMA:Code Division Multiple Access)
以下では、これらの仕組みについて、各多元接続方式のイメージ、およびこれらを用いている衛星通信を例として、図3のイメージをもとに説明していきます*5

*5 最近の無線通信、例えば4G-LTEの移動通信やWi-Fi 6/6E、Wi-Fi 7といったパーソナル通信では、直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)という方式が採用されており、そのベースは直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)という変調技術かつ多重化技術である。このOFDMの説明には、データの多値化やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)、データ信号の周波数スペクトラム同士の直交性などの込み入った予備知識が必要なため、ここでは割愛し別ページで解説する予定でいる。

3.1 周波数分割多元接続(FDMA)

FDMAは、複数ユーザからのデータを、分割した周波数帯域のチャネル(Ch)に割り当て、1つの伝送路で伝送するという方式です(図4-1)。1980年代に運用が開始され、アナログ方式であった第1世代移動通信システム(1G)の携帯電話・自動車電話が、このFDMAを採用していました。

周波数分割多元接続(FDMA)のイメージ画像
図4-1 周波数分割多元接続(FDMA)のイメージ

衛星通信におけるFDMAでの通信イメージを図4-2に示します。図4-2は、図3の送信側を1つとし(地球局E0)、複数の受信側(地球局E1-E3)に多重化したデータ信号を送信している様子になります。
地球局E0からは、地球局E1-E3に向けた各データを変調して周波数に乗せた信号を、衛星中継器が対応している帯域内に等間隔に並べ、隣接する信号周波数帯域が重ならないよう(混信が起こらないよう)に、データの信号が送信されます。そして、それらの信号を受信する地球局E1-E3では、それぞれの局が受信対応可能な周波数の信号を分離し、データを取り出します。

周波数分割多元接続(FDMA)での衛星通信の例のイメージ画像
図4-2 周波数分割多元接続(FDMA)での衛星通信の例

3.2 時分割多元接続(TDMA)

TDMAは、複数ユーザからのデータを一定の時間間隔で分割し、それをチャネルに割り当て、1つの伝送路で伝送するという方式です(図5-1)。1990年代に運用が開始され、デジタル方式となった第2世代移動通信システム(2G)の携帯電話(GSM、PDC、PHSなど)に、このTDMAが採用されました。

時分割多元接続(TDMA)のイメージ画像
図5-1 時分割多元接続(TDMA)のイメージ

衛星通信におけるTDMAでの通信イメージを図5-2に示します。前項と同じく、図5-2は、図3の送信側を1つとし(地球局E0)、複数の受信側(地球局E1-E3)に多重化したデータ信号を送信している様子になります。
地球局E0からは、時間をフレームで区切り、さらにそのフレームの中を基準バースト信号*6を除いて分割した区間(スロット)をチャネルとし、そのチャネルごとに地球局E1-E3向けのデータを割り当てることで、データ信号が送信されます。そして、地球局E1-E3のそれぞれの局において、地球局E0の送信タイミングと合った信号を分離してデータを取り出します*6。  なお、衛星通信では、1985年頃からFDMAに加えてTDMAも採用されるようになりました。

*6 TDMAでの通信で混信のないよう安定させるために、送信側と受信側においてチャネル切り替え速度などとのタイミング合わせ(同期)が必要である。地球局E0がフレームの初めにバーストと呼ばれる信号を収めておくことで、同期をコントロールしている。

時分割多元接続(TDMA)での衛星通信の例のイメージ画像
図5-2 時分割多元接続(TDMA)での衛星通信の例

3.3 符号分割多元接続(CDMA)

CDMAは、ユーザそれぞれのデータに異なる識別符号をかけ合わせた信号を生成し、同一周波数帯域に全ユーザの信号を重ねたまま、1つの伝送路で伝送するという方式です(図6-1)。2000年代に運用が開始された第3世代移動通信システム(3G)の携帯電話が、このCDMAを採用しています。

符号分割多元接続(CDMA)のイメージ画像
図6-1 符号分割多元接続(CDMA)のイメージ

衛星通信におけるCDMAでの通信イメージを図6-2に示します。前項と同じく、図6-2は、図3の送信側を1つとし(地球局E0)、複数の受信側(地球局E1-E3)に多重化したデータ信号を送信している様子になります。

地球局E0において、受信側の地球局E1-E3にそれぞれ割り当てられている識別符号を、各局向けのデータ信号とかけ合わせ、データ信号の周波数帯域より広い周波数帯域をもつ信号を生成し、それらを加算した多重化信号を衛星中継器に伝送します。
衛星中継器から多重化信号を受信した地球局E1-E3側では、それぞれの地球局の識別符号を信号の分離のためにかけ合わせ、それにマッチした信号のみデータを取り出します。
なお、衛星通信でCDMAが採用されるようになったのは、1990年代以降のことです。

符号分割多元接続(CDMA)での衛星通信の例のイメージ画像
図6-2 符号分割多元接続(CDMA)での衛星通信の例

4. まとめ

混信なく複数ユーザ同士で無線通信を実現するという側面から、無線通信において多元接続が重要な手法であることを解説してきました。ここでもう少し掘り下げておわりにしたいと思います。
FDMA/TDMA/CDMAの流れで進化してきた多元接続方式ですが、その進化とともに周波数利用効率*7が向上してきたことが、無線通信の発展におけるキーポイントであるといっても過言ではありません。例えば、移動体通信において周波数利用効率を向上させるということは、利用ユーザ数と全データ通信量を増やすことにつながっているからです。
本文中でも少し触れましたが、現在主流の移動体通信である4Gの多元接続方式は、直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)であり、3GのCDMAと比べ2倍ほど周波数利用効率が向上したといわれています。また5Gでは、OFDMAより周波数利用効率が高くなる非直交多元接続(NOMA:Non-Orthogonal Multiple Access)という方式が採用されています。
繰り返しになりますが、このように周波数利用効率の向上をめざして進化してきた多元接続は、今後の無線通信の発展や利用拡大に欠かすことができないといえます。

*7 周波数利用効率:ここでは簡単に、周波数帯域あたりのデータ通信速度(単位はbps(bit per second)/Hz)と考えることにする。なお、周波数利用効率はスペクトル効率(スペクトラム効率)や帯域幅効率と呼ばれることもある。

INDEX - 多元接続 FDMA/TDMA/CDMA(2)

<コラム>多重化の仕組み -FDM/TDM/CDM-

<コラム>スマートフォンの技術仕様に記載されているFDD-LTEとTD-LTEとは

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