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AI(人工知能)/ML(機械学習)を活用した通信ネットワーク管理―Beyond 5G/6G時代に向けた技術動向(2)

Beyond 5G/6Gの展望とそれを実現する技術

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B5G/6Gでは移動体通信システムが飛躍的に高度化

Beyond 5G(第5世代以降の移動体通信システム:以下、B5G)/6G(第6世代移動通信システム)は、2030年代から新たな情報通信インフラとして実用化と普及が見込まれています。B5G/6Gでは超高速・大容量や低遅延、同時多数接続といった5G(第5世代移動通信システム)の機能の高度化に加え、超低消費電力やカバーする通信エリア(カバレッジ)の拡張性、ネットワークの自律性、超安全・信頼性といった機能が期待されています。

当サイトでは、B5G/6Gの特徴を実現する技術として、テラヘルツ波(及びサブテラヘルツ波)による高速通信やセンシング、非地上系ネットワーク(NTN)によるカバレッジの大幅拡張といった今後の技術動向について取り上げました。
この記事では、5Gよりもさらなる高度化が見込まれる、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やML(Machine Learning:機械学習)を用いた通信機器の低消費電力化や自律制御での多数同時接続における通信リソースの最適化などの展望について解説します。

B5G/6GにおけるAI/MLとその必要性

5Gとその次世代の移動通信システムにおいて欠かせない存在となるといわれている、AI(人工知能)とML(機械学習)は、それぞれコンピュータサイエンスの用語です。これらの概要や違いについておさらいします。

AIとMLの概要と違い

AIとは、コンピュータや機械が人間の行動を模した包括的な能力を指します。
一方、MLとは、AIの応用分野で、ニューラルネットワーク*1を用いて大量のデータ(ビッグデータ)の照合や分類などを行うようシステムを訓練することを意味します。これを繰り返すことにより人が明示的なプログラムを行うことなく、コンピュータや機械が学習して予測や自動処理などを実施します。

*1 ニューラルネットワークとは、人間の脳の仕組みから着想を得てコンピュータ上で脳の働きの一部を簡素化して数理モデル化したもの。一般に入力層と出力層、それらの間に中間層を設けた3層で構成される。

B5G/6GにおけるAI/MLの必要性

B5G/6GではAI/MLを前提としたネットワークにのイメージ画像
B5G/6GではAI/MLを前提としたネットワークに

冒頭で述べたようなB5G/6Gに望まれる超高速・大容量や低遅延、同時多数接続、超低消費電力、予測・制御の自立性といった高度な機能を鑑みると、従来のようにネットワークの設定を固定したまま運用したり、ネットワークの最適化や制御を適宜手動で行ったりすることは困難であるといえます。また、通信インフラの強化に伴う消費電力の増加と環境への負荷も見過ごせない課題といわれています。

AI/MLは、こうした課題を解決するために必要不可欠な技術として、2020年頃から商用利用が本格化した5Gの高度化、そして2030年頃に到来するといわれるB5G/6G時代に向けて、通信ネットワークの管理や制御、最適化を実現するための研究が進められています。また、5GではAI/ML技術を付加的に導入していることに対し、B5G/6GはAI/MLの活用を前提としたAIネイティブな移動通信システムであることも大きな特徴といえます。

B5G/6GにおけるAI/MLの導入目的と活用展望

先述したように、AI/MLは今後の移動体通信システムの課題解決手段のひとつとされている技術です。ここではAI/MLを導入する目的と今後望まれる活用例をいくつか紹介します。

通信ネットワーク管理にAI/MLを導入する目的

5GやB5G/6Gにおいて通信ネットワーク管理にAI/MLを導入する主な目的として、下記のようなことが挙げられます。

  • スループット*2向上
    通信リソースの管理・最適化による効率的な無線通信
  • 省エネルギー化
    ムダを省いたネットワーク運用による消費電力の低減
  • 通信トラブルの予測と対応
    通信の遅延や接続障害などの迅速な予測と自律的な対応

*2 スループットとは、たとえばコンピュータなどの機器が単位時間あたりに処理できるデータ量を指し、通信回線においては単位時間あたりの実効伝送量を意味する。

以下では、これらの目的を見据えた今後のAI/ML活用における展望を紹介します。

AI/MLを用いた自律制御による通信の最適化

AI/MLの導入でB5G/6Gに望まれる仕様を実現のイメージ画像
AI/MLの導入でB5G/6Gに望まれる仕様を実現

B5G/6Gでは、より多くの端末で高速かつ大容量通信するために、送信側・受信側ともに通信リソース利用の最適化をリアルタイムかつより高度に行う必要があります。
たとえば、地上の基地局や非地上系ネットワーク(NTN)の次世代通信衛星におけるビームフォーミング*3、通信距離が短く雨などの水分で電波が減衰しやすいテラヘルツ波(及びサブテラヘルツ波)といった技術では、各端末と基地局の位置関係、天候、電波需要など条件の変化によってパフォーマンスを左右することがあります。
そこで、AI/MLを活用し、時間帯や場所による、天候、電波需要などに関するデータを学習させて迅速に予測させます。それに応じて通信機器の制御を最適化することで、学習力と自律性による通信リソース利用の効率化や消費電力の低減、通信・接続の安定性向上が実現するといわれています。

*3 ビームフォーミングとは、特定の方向にだけ集中的に電波を送信するよう制御する技術を指す。複数または多数のアンテナから電波を出力する際、各電波の位相や電力強度を調整することで、ある方向では電波を強め合い、別の方向では打ち消し合って弱まる特性を利用して制御する。

また、スマートシティやスマートファクトリー、スマートホームといった社会のスマート化を背景に、無線通信を利用するIoTデバイスやシステムの導入は増加の一途で、クラウドサーバとのデータ通信にセルラー回線を利用するケースは少なくありません。
たとえば、画像センサが特定の条件を認識したときに限定してデータを送信するなど、数多のIoT機器が自律的に必要なデータたけを判別して送受信するためのAI(エッジAI)を活用することも、消費電力や通信リソースへの負担の軽減に有効なAI活用術のひとつといえるでしょう。

デジタルツインでの学習強化、通信遅延・障害などの予測・自律対応

デジタルツインでの学習強化がAI/MLの自律性を助長のイメージ画像
デジタルツインでの学習強化がAI/MLの自律性を助長

B5G/6G時代に期待されているAI/ML活用法のひとつとして、デジタルツイン*4での学習強化やシミュレーションが挙げられます。たとえば、スマートシティの構築において、仮想空間上にさまざまな条件を与えてシミュレートし、現実世界の機器やシステムの概念実証(PoC)を行うといった用途があります。

関連記事:「3D都市モデル」で加速する、スマートシティやデジタルツインの構築、エレクトロニクス分野のデータドリブン

仮想空間の通信ネットワークにおいて、起こりうる通信遅延や通信障害をAI/MLの学習強化に用いたりシミュレーションを行ったりすることにより、AIによるネットワーク不具合の予兆検知に役立てます。こうして学習した機能を現実世界に投入することにより、高度な自律性を持った通信システムが実現するといわれています。

*4 デジタルツインとは、コンピュータ上の仮想空間に、現実世界と同様の環境やシステムを再現した仮想のレプリカのこと。

なお、村田製作所では各種の無線通信モジュールや画像・音声認識に活用できるエッジAIモジュールなどの開発・製造を行っています。詳しくは下の関連製品リンクからご覧ください。
また、現行製品以外に今後の無線通信技術の発展に貢献する新製品の研究開発にも積極的に取り組んでいます。

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