センサ

GISとは、Geographic Information Systemの略で、日本語では「地理情報システム」と訳され、目的に応じたさまざまな情報を地図上に可視化するシステムを指します。こうした空間上の地点または区域の位置情報に関連付けられた事象に関する情報は、「地理空間情報」と呼ばれます。たとえば、目的に応じてあるエリアまたは地点の人口分布や地価、建物の属性情報、水害時の浸水レベルなどを色分け表示したり、人・物の流れや気象の変化など流動的な情報を可視化したり、また、種類が異なる地理空間情報を重ね合わせて表示したりすることで複数の情報を同時に可視化できます。それにより、目的の情報を視覚的に把握できるため、迅速かつ高度な分析や判断が可能となります。
GISの活用目的は、都市計画や災害時のハザードマップ、防災計画、生活インフラの監視などのほか、不動産物件から駅などへのアクセス性の評価、商業施設の出店計画に必要な商圏分析など多岐に亘ります。
また、生活に身近なシーンでは、GPSで取得した地図上の地点またはエリアに建物の情報や交通状況などの地理空間情報を付加して表示する、カーナビゲーションシステムやスマートフォンの地図アプリケーションなどがGISの代表的なサービスといえます。
従来は、2D表示のGISが大多数でしたが、技術の進展により、利用目的によっては地理空間情報をより分かりやすく可視化できる3D表示も多用されるようになりました。いまではスマートフォンの地図アプリケーションなどでも手軽に3D表示のサービスが利用できます。
しかし、代表的なサービスにおける3D表示は、地上の状態を幾何形状(三角形または多角形)で構成した3Dポリゴンによる「ジオメトリモデル」であるため、地形と建物、隣接する建物、街路などが区別されていない状態で可視化されています。そのため、位置情報と3Dデータ、詳細な地理空間情報を高精度に結びつけることが困難でした。
たとえば、都市計画や防災計画など緻密な分析とシミュレーション、スマートシティの実現に欠かせない街のデジタルツイン化といった高度な用途においては、土台となる正確かつ精緻な3Dデータの作成に多くの工数と費用を要してしまうことが課題となっていました。このような背景から、オープンかつ高精度な3D都市モデルの必要性が高まり、各国でデータの整備と活用が行われるようになりました。
国や自治体はもちろん、企業や個人など、さまざまな人が多種多様な目的で3Dデータを利用するには、共通のプラットフォームに則ることが必須条件となります。そこで、地理空間情報分野の国際標準化団体OGC(Open Geospatial Consortium)が国際標準として策定した「CityGML」の規格を採用することで、国内外で幅広く3D都市モデルのデータを利用することが可能となります。
また、CityGMLでは、従来の一律に幾何形状で構成した「ジオメトリモデル」だけではなく、各建物・街路を区別して定義し、それぞれに高さや属性情報が付与された「セマンティックモデル」を採用しているため、緻密さと高い精度が求められる高度な用途に対応することができます。
日本では、Society5.0の実現を見据え、国直轄で国土交通省が主導するCityGMLに準じた3D都市モデルのオープンデータ「PLATEAU(プラトー)」が公開されています。PLATEAUは、先行してCityGMLを活用する国々に比べると遅れてのローンチとなったものの、全国56都市・面積約1万Km2・建物約1千万棟を誇る世界最大規模のオープンな3D都市モデル(国土交通省 報道発表資料・2022年8月より)として、アップデートやユースケースの拡充が重ねられています。
PLATEAUは主に以下の3種類のデータで構成されています。
ひとつは、従来は2Dデータの作成が主要な用途だった、航空機からレーザープロファイラーで「航空測量」した高さデータや「航空撮影」した画像データ。もうひとつは、自治体・市町村による2D地図データである「都市計画基本図」。そして、これまで地域内での使用が主だった「都市計画基礎調査」と呼ばれる、都市計画法に基づいて調査した各建物の属性や構造、仕様、種類、築年数などのリッチデータです。
このように、以前から調査・取得されてきた有効なデータを発掘し、3D都市モデルという新たなフォーマットに活用したことで、ゼロからスタートすると膨大なコストがかかる3D都市モデルの構築費用を大幅に削減することができたといわれています。
なお、PLATEAUでは、各種3Dグラフィック用のソフトウェアでの利用に対応したオープンデータのダウンロードだけでなく、Webブラウザ上で任意のエリアや地点の3Dモデルや各種の情報を表示できる「PLATEAU VIEW(プラトー・ヴュー)」も公開されています(図1)。
国際標準規格CityGMLに準じた3D都市モデルPLATEAUのオープンデータは、多くのアプリケーションに対応し、商用利用も可能であるため、国や自治体だけでなく、あらゆる業種の企業や個人のクリエーターなど、さまざまな人が多様な目的で利用することができます。
また、大きなメリットとして、高い精度で座標と連動した3Dモデルと建物のテクスチャやその属性情報などを目的に応じて利用できることが挙げられます。座標と高精度に連動するため、目的のエリアや位置の3Dモデルに目的のデータを正確に付与することができます。これにより、たとえば、より高度なシミュレーションや都市計画、現実社会とサイバー空間が連動するデジタルツインへの活用が可能です。また、精緻な3Dモデルを利用したゲーム用の3D背景や精度の高いVR(仮想現実)/AR(拡張現実)を使ったエンターテインメントやコミュニケーションなどにも活用することができます。
なお、CityGMLでは、3Dオブジェクトの詳細さをLOD(Level of Detail)という概念で一元管理することができます。現在、キューブ状のオブジェクトで建物を表現するLOD1から、建物の外観の緻密さに加え、屋内の3Dデータとも連係が可能なLOD4の最大4段階で構成されています(図2)。従来の3Dオブジェクトでは、縮尺の変化に対して煩雑化しがちだった同一オブジェクトの詳細さが異なるデータを一元的かつ効率的に管理・蓄積・利用することができるようになりました。これにより、俯瞰で見た街と近くで見る建物、そして建物の内部までシームレスな3D表示が可能となるため、たとえば、サイバー空間の商業施設に入店して、実際に買い物ができるというような商業のデジタルツイン化も実現します。
また、CityGMLには、 ADE (Application Domain Extension)という地物や属性の定義を拡張する機能があり、目的に応じてこれらの情報を追加することが可能です(図3)。さらに、ADEのフォーマットに則って拡張した情報は、他の目的・用途に再利用することもできます。
ここでは、CityGMLをフォーマットとした3D都市モデルの活用例について、PLATEAUのユースケースを基に目的別で紹介します。
ここまでは街や人に作用するDXへの活用例を中心に挙げました。一方で、街をモニタリングしてデータを取得したり、業務を自働化したり、それらに必要不可欠なデータ通信を行うためにはエレクトロニクス機器の利用が欠かせません。こうした機器の効率的な運用を検討する際に、3D都市モデルでのシミュレーションやデータを活用することも可能です。
たとえば、人流のモニタリングを行う際に、センサやカメラを無制限に設置するわけにはいきません。そこで、3D都市データでシミュレーションを行って、センサやカメラの配置計画を検討し、限られた台数で効率的なセンシングとデータ取得につなげることができます。
また、無線通信に不可欠な基地局の配置計画にも、3D都市モデルでの分析やシミュレーションを活用することができます。さらに、今後の導入拡大が期待される物流ドローンのフライトシミュレーションにも、3D都市モデルの活用が期待されています。建物それぞれの高さ情報を持つ3D都市モデル上で、安全な立体的飛行ルートを選定できれば、人による現地調査の工数の課題を解決することができるためです。
このように、CityGML規格の3D都市モデルは、政策や計画、サービスなどに留まらず、ハードウェアやデバイスに求められる仕様、運用方法の検討など、さまざまな活用法が期待できそうです。3D都市モデルの活用は、本格的なデジタルツイン実現への大きな進展であり、ユースケースの増加にともない、あらゆる業種・立場の人が新しいアイディアで多彩に活用できる、よりリッチなオープンデータへと成長していくことでしょう。