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私たちの生活を変えるリチウムイオン電池

第5回 リチウムイオン電池が持続可能(サステナブル)な社会の実現に貢献する理由とは?鉛蓄電池から置き換えるメリットやリサイクル方法、未来の可能性を解説

リチウムイオン電池のさまざまな可能性や将来性を全5回にわたって紹介する本企画。最終回となる第5回では、リチウムイオン電池が「持続可能(サステナブル)な社会の実現に貢献する電池」と言われている理由について、東京工業大学特命教授の菅野了次氏の監修の下、環境負荷の低減や、リサイクル、SDGsなどの観点から考察し、持続可能(サステナブル)な社会に向けてリチウムイオン電池がどのような役割を果たすのかについて解説します。

監修者:菅野了次(かんのりょうじ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授(名誉教授)

1980年、大阪大学大学院理学研究科無機及び物理化学専攻課程修了。1985年、理学博士となる。神戸大学理学部助教授を経て、2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科教授。2016年、同物質理工学院教授。2018年、同科学技術創成研究院教授、全固体電池研究ユニットリーダー。2021年、同科学技術創成研究院特命教授、全固体電池研究センター長となる。

INDEX

1. 環境負荷が低いリチウムイオン電池

2. 鉛蓄電池からリチウムイオン電池に置き換えるメリット

3. リチウムイオン電池はリサイクルできる?

4. 持続可能(サステナブル)な社会作りに貢献するリチウムイオン電池

5. リチウムイオン電池が作る未来とは

1. 環境負荷が低いリチウムイオン電池

リチウムイオン電池が持続可能(サステナブル)な社会の実現に貢献する理由とは?鉛蓄電池から置き換えるメリットやリサイクル方法、未来の可能性を解説のイメージ画像1

リチウムイオン電池は、なぜ「持続可能(サステナブル)な社会の実現に貢献する」と言われているのでしょうか。その答えの一つが、さまざまな用途でリチウムイオン電池が活用されることで「電化」が広がり、石油やガスなどの化石エネルギーの使用量が減少し、地球温暖化の抑制にも繋がると考えられているからです。

一方でリチウムイオン電池は、材料にカドミウムや鉛、水銀などといった物質が使用されていないことからも、環境負荷が低いと言われています。カドミウムや鉛、水銀などの物質はもともと自然界に存在しているので、自然環境そのものに大きな影響を与えるわけではありません。ですが、過剰に摂取すると生き物にとっては害をもたらす可能性があると言われています。その点、リチウムイオン電池の材料に使用されている主な物質は、リチウム、炭素、マンガン、ニッケル、コバルトなどで、これらは比較的環境負荷が低いとされています。

2. 鉛蓄電池からリチウムイオン電池に置き換えるメリット

リチウムイオン電池とよく比較されるのが鉛蓄電池です。電池は電気を発生させるエネルギーの種類によって「化学電池」「物理電池」「生物電池」の3種類に大別されます。「化学電池」は内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出す電池ですが、乾電池などの使い捨てタイプの「一次電池」、充電して繰り返し使うことができる「二次電池」、化学反応により発生した電気を継続的に取り出す「燃料電池」の3種類に分類されます。 リチウムイオン電池は鉛蓄電池と比較されることが多いですが、どちらの電池も「化学電池」の「二次電池」に分類されます。

電池の分類の図
電池の分類

同じ二次電池の中でも、使用されている材料から考えると、鉛蓄電池よりもリチウムイオン電池の方が環境負荷は低いと考えられます。しかし、鉛は世界的に手に入れやすい物質なので、リチウムイオン電池よりも価格が安いこと、ほぼ技術が確立された信頼性の高い電池であることなど、別のメリットがあるので自動車のバッテリなどをはじめ多くの分野・用途で使われています。

しかし、今後はリチウムイオン電池の活用シーンがますます増えていき、現在は鉛蓄電池が使用されているものも、徐々にリチウムイオン電池に置き換わっていくことが考えられます。鉛蓄電池の代わりにリチウムイオン電池を使用するメリットとして、以下のことが挙げられます。

環境面でのメリット

鉛などは過剰に摂取すると生き物に害をもたらす可能性がありますが、リチウムイオン電池の主な材料であるリチウム、炭素、マンガン、ニッケル、コバルトなどの物質は環境に対する負荷が低いと言われています。そのため、リチウムイオン電池は鉛蓄電池と比べて、環境面でメリットがあると言えるでしょう。

性能面でのメリット

リチウムイオン電池は鉛蓄電池よりもエネルギー密度が高く、パワフルです。エネルギー密度とは、質量または容積当たりで取り出せるエネルギー量を表す数値で、値が大きいほど電池の性能が高いと言えます。このエネルギー密度を単位重量(体積)当たりで比べると、鉛蓄電池は約25〜50Wh/kg(50〜100Wh/L)でリチウムイオン電池は約100〜250Wh/kg(200〜700Wh/L)です。

また、化学電池は「自己放電」といって、使っていない時も内部で少しずつ化学反応が起こり、電気が減っていきます。しかしリチウムイオン電池は自己放電がないので、電池が劣化しにくく、長持ちします。

3. リチウムイオン電池はリサイクルできる?

日本において、電池の再利用に関しては、まだ容量の残っている電池の用途を変えて利用するケース(リユース)や、完全に使えなくなった電池から、工場で有用な資源を取り出してリサイクルするケースがあります。

日本における電池のリユース・リサイクルの方法例の図
日本における電池のリユース・リサイクルの方法例

用途を変えてリユースする

電気自動車の場合、一度の充電で走行できる距離が短くなってくると、電池が劣化したと判断されます。ところが、車両用のリチウムイオン電池はサイズが大きく高容量であるため、車での利用はできなくなっても、まだまだかなりの容量が残っています。したがって、それらの電池をそのまま、あるいは一部を交換・修理することで別の用途でリユースすることは可能です。

有用な資源をリサイクルする

鉛蓄電池などのリサイクル過程は確立されていますが、リチウムイオン電池のリサイクルはまだ開発途上の段階にあります。一般的に、工場で使用後の電池から有用な資源を取り出す場合には、下処置によって金属やプラスチックなどを仕分け、正極の原料を分離します。リチウムイオン電池は正極の材料として希少金属であるリチウムやコバルトが使われているので、リサイクル技術が確立すればそれらを有効に活用することができます。しかし現在の技術では、まだリサイクルにかかるコストが高いことが課題です。

4. 持続可能(サステナブル)な社会作りに貢献するリチウムイオン電池

リチウムイオン電池が持続可能(サステナブル)な社会の実現に貢献する理由とは?鉛蓄電池から置き換えるメリットやリサイクル方法、未来の可能性を解説のイメージ画像2

現代社会では、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料がエネルギー源として大きな役割を果たしています。しかし、化石燃料には資源の枯渇や二酸化炭素の排出などの問題を抱えています。今後、持続可能(サステナブル)な社会に向かうには、「化石燃料から脱却する」ことが重要なポイントとなります。その解決策の一つとして注目されているのが、「電化」です。電気を動力源とするものが増えれば、化石燃料を燃やしてエネルギーを生むことは少なくなるかもしれません。

例えば、リチウムイオン電池を電気自動車のエネルギー源として捉えると、化石燃料を燃やして排気ガスを排出しながら移動するのに比べれば、環境への負荷は少ないと言えます。

また、リチウムイオン電池の活用によって環境負荷を低減するスマートシティ構想も進んでいます。例えば、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」では、太陽光発電とリチウムイオン電池などを活用して分散型の電力供給ネットワークを構築し、街全体での電力の有効活用に貢献しています。その他にも、リチウムイオン電池を活用した持続可能(サステナブル)な社会作りに関しては、さまざまな実験が日本各地のコミュニティレベルで進められています。

一方で、単純に「電化=環境に優しい」とは言い切れない面もあります。電化した場合でも、電気を作り出す過程では引き続き化石燃料が使用されることもあるため、再生可能エネルギーの導入拡大なども並行して進めることが重要です。また、リチウムイオン電池の製造工程の一部では環境や人の健康への影響が懸念されているNMP溶剤が使用されています。すでに溶剤の再利用や環境に配慮した除去といった取り組みが行われていますが、使用量の低減や代替溶剤への切り替えといったさらなる取り組みが求められています。

5. リチウムイオン電池が作る未来とは

1970年代から研究されてきたリチウムイオン電池は、安定利用できるようになっても、まだまだ新材料の研究などによって性能向上を目指しています。今後もリチウムイオン電池の用途が広がっていくことで、どのような未来が期待できるのでしょうか。

リチウムイオン電池の普及の歴史の図
リチウムイオン電池の普及の歴史

これまでも、リチウムイオン電池の性能が向上するとともに、さまざまなデバイスが生まれてきました。1991年に世界で初めてリチウムイオン電池が商品化され、それを搭載した携帯電話が発売されました。その後はビデオカメラやスマートフォン、ドローンや電気自動車など幅広い用途で使われるようになりました。パソコンやスマートフォンがより便利で使いやすくなり、これほどまでに身近な存在になったのはリチウムイオンの存在があったからと言えるでしょう。

今後、リチウムイオン電池の性能がさらに向上すれば、電気自動車の普及がさらに進み、さらには電動航空機などの新たな移動手段も実用化されるかもしれません。また、医療分野でもすでにリチウムイオン電池の活用が進んでいます。例えば、手術用のさまざまな医療機器が電池で動くようになれば、持ち運びなども簡単になり、事故が起きた現場ですぐに緊急の手術を行うといったことも可能になるかもしれません。

リチウムイオン電池の可能性は無限大です。それは私たちの生活を便利にするだけでなく、社会のあり方も変えてしまうほどのインパクトを持ったツールと言えるでしょう。

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