全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説のメインイメージ

私たちの生活を変えるリチウムイオン電池

第4回 全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説

本企画では、リチウムイオン電池の特徴や歴史、今後の可能性について、東京工業大学特命教授の菅野了次氏の監修の下、全5回にわたって紹介します。第4回はリチウムイオン電池と似た特徴を持ち、「次世代の電池」と言われている「全固体電池」にフォーカスし、現在のリチウムイオン電池との違いや想定されている用途、実用化に向けた課題などについて解説していきます。

監修者:菅野了次(かんのりょうじ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授(名誉教授)

1980年、大阪大学大学院理学研究科無機及び物理化学専攻課程修了。1985年、理学博士となる。神戸大学理学部助教授を経て、2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科教授。2016年、同物質理工学院教授。2018年、同科学技術創成研究院教授、全固体電池研究ユニットリーダー。2021年、同科学技術創成研究院特命教授、全固体電池研究センター長となる。

INDEX

1. 全固体電池とは?

2. 全固体電池の仕組みとは?

3. 全固体電池の種類は?

4. リチウムイオン電池との違いは?全固体電池のメリットを解説

5. 全固体電池の用途とは?

6. 全固体電池の安全性は?

7. 全固体電池の実用化に向けた課題は?

1. 全固体電池とは?

全固体電池とは、その名前の通り、電池を構成するすべての部材が「固体」である電池のことです。リチウムイオン電池などの二次電池(充電して繰り返し使える電池)は、基本的に、金属を材料として使う2つの電極(正極と負極)と、その間を満たす電解質によって構成されています。従来の二次電池は、電解質に液体が使われていますが、全固体電池は電解質として固体を用います。

電解質が固体になることで、リチウムイオン電池よりも大容量で高出力の電池が可能になると期待されています。また、電解質を固体にすることでリチウムイオン電池より安全性の面でもメリットがあり、電気自動車などへの搭載にも注目が集まっています。

このように、実用化されればさまざまなメリットがあると言われている全固体電池。現在、大量供給に向けた製品開発と量産化に、各社がしのぎを削っています。

2. 全固体電池の仕組みとは?

リチウムイオン電池と全固体電池の仕組みの図
リチウムイオン電池と全固体電池の仕組み

全固体電池も、電池から電気を取り出す仕組みについては、リチウムイオン電池とほとんど同じです。電極の材料としては金属が使われ、イオンが電解質を通って正極と負極の間を移動することで電気の流れが生まれます。大きな違いとしては、電解質が固体であることです。また、電解質が液体の場合は、正極と負極の間を隔てるセパレータがあり、正極側の液体と負極側の液体が急激に混ざり合ってしまうのを防いでいますが、固体電解質の場合、セパレータは不要になります。

全固体電池の研究は、固体材料の発見・開発が鍵となっています。以前は、イオンが内部で動き回って、電極に十分な電気を流せる固体材料が発見されていなかったのですが、それが見出されたことで全固体電池の開発が活発化しています。電解質が液体から固体になることで、電池内でイオンがよく動き、リチウムイオン電池よりもさらに大容量で高出力な電池が実現できるのです。

3. 全固体電池の種類は?

全固体電池は、製造方法によって大きく「バルク型」と「薄膜型」に分類され、それぞれ蓄えられるエネルギーの量が異なります。

種類 特徴 想定されている用途
バルク型 蓄えられるエネルギーの量が多い。 電気自動車のバッテリなど
薄膜型 蓄えられるエネルギーの量は少ないが長持ちする。 IoTデバイスなど

バルク型全固体電池の特徴

電極や電解質の材料に粉体(粉や粒などが集まったもの)が使われています。より蓄えられるエネルギーが多く、大容量の電池を作ることができます。主に、電気自動車など大きなものに使用することを想定しています。

薄膜型全固体電池の特徴

真空状態で電極の上に薄い膜状の電解質を積み上げるという方法で製造される電池です。蓄えるエネルギーの量が小さくて大きな容量は出せません。ただ、リサイクル寿命が長い、製造しやすいなどのメリットがあります。小型なのでセンサなど小さなデバイスに使用するのに向いています。

4. リチウムイオン電池との違いは?全固体電池のメリットを解説

次世代の二次電池として期待される全固体電池には、以下のようなさまざまなメリットがあると考えられています。

全固体電池の特徴の図
全固体電池の特徴

低温から高温まで耐えられる

リチウムイオン電池の電解質は可燃性の有機溶媒(水に溶けない物質を溶かす液体)を使っているので、高温環境下での使用には懸念があります。一方、全固体電池の電解質は可燃性の材料が使われていないため、より高い温度での使用も可能になります。

さらに、液体の場合は低温になるとイオンの動きが鈍くなって電池の性能が下がり、電圧が下がってくることがあります。固体の場合は、低温になっても液体のように凍ることがないため、それほど内部の抵抗が上がらず、電池の性能はそれほど下がりません。

急速充電が可能

高熱に強いというメリットは、急速充電をする場合にも有利になります。電池は急速に充電するほど熱を持つので、高温に強い全固体電池は現在のリチウムイオン電池よりもさらに急速で充電させられると考えられています。

寿命が長い

電池の寿命は電解質の性質によって変わってきます。リチウムイオン電池は、他の二次電池のような電池反応を利用しないことから、電極の劣化が少なく寿命が長いのですが、長く使用していると電解質の劣化が見られるようになります。その点、全固体電池の電解質は液体よりも劣化が少ないので、さらに寿命を延ばすことが可能になるのです。

形状の自由度が高い

液体の電解質は、液漏れを防ぐために構造上の制約がありましたが、全固体電池の場合はその縛りがないので小型化・薄型化しやすく、重ね合わせたり折り曲げたりして使用することも可能なのでさまざまな形状で利用することが可能になります。

5. 全固体電池の用途とは?

想定されている全固体電池の用途の図
想定されている全固体電池の用途

全固体電池の用途として期待されているものの一つは電気自動車です。現在、電気自動車にはリチウムイオン電池が使われていますが、全固体電池であれば、可燃性の有機溶媒を含まないので、事故による発火などのリスクがより小さくなることが期待されています。また、現在の電気自動車はガソリンによる給油に比べると時間がかかりますが、全固体電池であればより急速に充電することが可能になります。

加えて、全固体電池の実用化が積極的に進められている背景の一つには、リチウムイオン電池が抱える高温に弱いという弱点が補えることが挙げられます。熱に強い特徴を生かせば電子基板に直接ハンダ付けできるので、電子機器のバックアップ電源やIoTセンサなどでの活用も想定されています。パソコンやスマートフォンなどに使用すれば、より長時間、パワフルな作動が実現できるでしょう。

さらに、リチウムイオン電池に比べて、より大容量、大出力が実現できることから、飛行機や船などでの活用も期待できますし、高温から低温まで温度変化に強いことから、宇宙空間で使用されるデバイスなどにも用途が広がることが期待できます。

6. 全固体電池の安全性は?

全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説のイメージ画像1

リチウムイオン電池は、気化しやすい有機溶媒を電解質として使うため、高温環境下での使用には懸念があります。また、液体の電解質を利用するには、正極と負極が衝撃によって直接繋がった状態(ショート)とならないように、その間を隔てるセパレータを使うなどの工夫が必要でした。

全固体電池は電極が固体で隔てられているためショートが起きにくく、耐熱性の高い電解質を使用しているためより高い温度でも使うことができます。とはいえ、電池はすべて“エネルギーの缶詰”であるため、全固体電池もリスクがないということはありません。何らかの原因で電極がショートする可能性もあるため、取り扱いには注意が必要です。

7. 全固体電池の実用化に向けた課題は?

全固体電池とは?基礎知識や従来の電池との違い、実用化の可能性について専門家が解説のイメージ画像2

全固体電池は2020年代前半での実用化を目指して、より高性能な固体電解質材料の研究・開発が進められています。また、実用化にあたっては以下のような課題の解決が求められています。

固体電解質の課題

電池が高い性能を発揮するには、電極と電解質が常に密着している必要があります。液体の電解質であれば、常に変形するので電極が少々変化しても密着し続けることができます。これに対して、固体同士では常に密着することが難しいという課題があります。

電極物質の課題

全固体電池が既存のリチウムイオン電池よりも大幅にエネルギー密度を向上させるには、同じ重さ、大きさでより大きな電力を蓄えられる電極を開発する必要があります。

製造工程の課題

電解質が液体から固体に変わるため、リチウムイオン電池とは異なった製造工程が必要となります。例えば、全固体電池は、材料によって酸化物系、硫化物系、窒化物系などがありますが、主流の一つである硫化物系の全固体電池に使用されている固体電解質は、大気中の水分に触れても変質するくらい、水分に弱いという性質があります。したがって、厳格な水分管理が求められる全固体電池の生産にはドライルームなどの専用設備が必要になるでしょう。

以上のように、リチウムイオン電池の性能をさらに高められる電池として期待されている全固体電池については、現在さまざまな企業で実用化に向けた取り組みが進められています。その一方で、リチウムイオン電池も幅広い分野で活躍しています。次回の第5回では、リチウムイオン電池が持続可能な社会の実現にどのような役割を果たしていくかを解説します。

関連製品

関連記事