ノーベル賞も受賞!リチウムイオン電池の普及の歴史のメインイメージ

私たちの生活を変えるリチウムイオン電池

第3回 ノーベル賞も受賞!リチウムイオン電池の普及の歴史

電池の性能向上に30年以上携わってきた東京工業大学特命教授の菅野了次氏の監修の下、リチウムイオン電池とはなにかから、次世代のリチウムイオン電池と呼ばれる全固体電池の研究状況についてまで、全5回にわたって解説します。第3回では、リチウムイオン電池の実用化に向けた研究の歴史や、リチウムイオン電池がなぜここまで普及したのかについて紹介します。

監修者:菅野了次(かんのりょうじ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授(名誉教授)

1980年、大阪大学大学院理学研究科無機及び物理化学専攻課程修了。1985年、理学博士となる。神戸大学理学部助教授を経て、2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科教授。2016年、同物質理工学院教授。2018年、同科学技術創成研究院教授、全固体電池研究ユニットリーダー。2021年、同科学技術創成研究院特命教授、全固体電池研究センター長となる。

INDEX

1. リチウムイオン電池はノーベル賞も受賞している

2. リチウムイオン電池の歴史

3. リチウムイオン電池の普及を支える電池寿命

4. 進化するリチウムイオン電池

1. リチウムイオン電池はノーベル賞も受賞している

ノーベル賞も受賞!リチウムイオン電池の普及の歴史のイメージ画像1

2019年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池の開発に貢献したエンジニアの吉野彰氏をはじめ、物理学者のジョン・グッドイナフ氏、化学者のスタンリー・ウィッティンガム氏という3人の研究者に授与されました。なぜリチウムイオン電池は、ノーベル賞も受賞するほど世界から注目されているのでしょうか。

その理由は、リチウムイオン電池の実用化は、電池の歴史のみならず、人類の歴史において重要な意味を持っているからと言えるでしょう。リチウムイオン電池のように、小型で軽量な二次電池が実用化されなかったら、今みなさんが使っているスマートフォンやパソコンはここまで小さくできなかったかもしれません。電気自動車も1回の充電で走れる距離が短くなり、実用化の目処が立たなくなっていたかもしれません。他にも、今や映像撮影だけでなく、空からの見回りや荷物搬送などさまざまな分野で活躍が期待されている、ドローンのような新しいツールも生まれてこなかったかもしれません。

リチウムイオン電池は、鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池では難しかった小型軽量化の実現で、社会の仕組みを変えていくほどにさまざまな道具を生み出しました。3人の研究者へのノーベル賞の授与は、単に電池を発明したというだけでなく、そうした社会貢献を含めて称えているのです。

実はこのノーベル賞の受賞の前にも、リチウムイオン電池は工学分野のノーベル賞と言われる「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を2014年に受賞しています。リチウムイオン電池の普及と基本構造の開発の功績が讃えられ、ジョン・グッドイナフ氏、西美緒氏、ラシド・ヤザミ氏、吉野彰氏が受賞しています。

2. リチウムイオン電池の歴史

人類の歴史に残るほどの大発明とも言えるリチウムイオン電池は、どのようにして生まれたのでしょうか。

電池にリチウムを利用する技術は、1976年に当時アメリカの石油会社の技術者だったウィッティンガム氏によって提案されました。その時は、正極の材料に二硫化チタンを使い、負極の材料にリチウムを使うといった構造でした。ところが、二硫化チタンとリチウムを組み合わせた電池は二次電池としては安定して動作できませんでした。そこで、リチウム電池は、釣りで使う浮き用の電池や使い捨てカメラのフラッシュ用電源など、充電ができない一次電池として実用化されることになりました。

1980年になると、当時リチウム電池の研究をしていたグッドイナフ氏が、正極の材料としてコバルト酸リチウムの使用を提案し、その翌年には吉野氏がコバルト酸リチウムの正極にカーボンを負極として組み合わせる方式を提案しました。

そして1983年に、グッドイナフ氏が安価なマンガン酸リチウムも正極材料として使えることを証明し、その後吉野氏が正極と負極の間のイオンのやりとりを安定して行う技術を確立することで、二次電池としてのリチウムイオン電池実用化の目処が立ったのです。

1990年代になって、携帯電話やノートパソコンのような個人向け商品で使用されるリチウムイオン電池が発売されるようになりました。初めは携帯電話の分野で活用され、その後はポータブルオーディオやノートPCでの利用が広がりました。その理由としては、本体が小型化することで必要とされる電圧が下がり、5.5V必要だった電圧が3Vになったことが挙げられます。これによって、1.25Vまでしか電圧が出せないニッケルカドミウム電池を3本使うよりも、3V以上の電圧を出せるリチウムイオン電池を1本使う方が効率的であると判断されるようになったのです。

90年代のIT関連商品のモバイル化に続き、2006年以降のET(Environment&Energy)革命により、電気自動車のニーズが高まり、電圧やエネルギー密度が高いなどの自動車用二次電池として適した性能を持ったリチウムイオン電池は、電気自動車関連の用途でも使われるようになっていきます。

こうして、リチウムイオン電池は積極的にさまざまな商品に採用されるようになり、製造本数の増加とともにコストダウンされ、活躍の幅が広がっていくようになりました。

リチウムイオン電池の歴史の図
リチウムイオン電池の歴史

3. リチウムイオン電池の普及を支える電池寿命

リチウムイオン電池の活躍の幅が広がっていった理由は、他の二次電池と比べて寿命が長いという特徴も上げられるでしょう。リチウムイオン電池の寿命は、他の電池に比べてどのくらい長いのでしょうか。

電池の寿命を決める要素はいくつかあります。リチウムイオン電池は電気を取り出す時に他の二次電池で起きる電池反応とは少し違った反応を用いるので電極の劣化が少なく、また充電・放電による繰り返しや自然放電に強いことも、寿命を長くする要因となっています。

電池の寿命を数字で表す場合には、サイクル回数とカレンダー寿命という数字が使われます。サイクル回数とは、電池を極限まで放電して充電量が0%になった状態から100%まで充電し、その電気を0%の状態になるまで放電し切ることを1サイクルとした場合に、その繰り返しが可能になる回数を表します。また、カレンダー寿命とは、所定の充電状態で電池を放置しても使用できる期間を表します。

これらの寿命を表す数値は、電池のメーカーや製品、使用する環境や状況、保守条件などさまざまな要因によって左右されるので、一概に決められません。例えば、経済産業省が発表した「蓄電池戦略」の資料を参考にすれば、鉛蓄電池はサイクル回数が3,150回まででカレンダー寿命は17年、ニッケル水素電池はサイクル回数が2,000回まででカレンダー寿命は5~7年、リチウムイオン電池はサイクル回数が3,500回まででカレンダー寿命は6~10年となっています。

こうしてみると、リチウムイオン電池よりも鉛蓄電池の方が寿命は長いのですが、鉛蓄電池は自動車に積まれているものを見ても分かるように大きくて重いので、大きさと重量から見ればリチウムイオン電池とは比べられないでしょう。

  サイクル回数 カレンダー寿命
鉛蓄電池 3,150回 17年
ニッケル水素電池 2,000回 5〜7年
リチウムイオン電池 3,500回 6〜10年

鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池の寿命の比較

4. 進化するリチウムイオン電池

ノーベル賞も受賞!リチウムイオン電池の普及の歴史のイメージ画像

リチウムイオン電池の基本構成は、1983年に吉野氏が正極と負極の間のイオンのやりとりを安定して行う技術を確立してから大きく変わっていませんが、材料や蓄えられる電気量、重量などについては改良が進められています。

正極の材料については、1980年にグッドイナフ氏が提案したコバルト系のリチウムから、マンガン系、ニッケル系、鉄系などといった材料が採用されるようになり、コスト削減やサイクル寿命の変化が見られるようになりました。材料以外に関しても、少しでも多くの電気を貯められるように、電池内に材料をできる限り詰め込んだり、電池の材料を詰めるケースをステンレスからラミネートにして軽量化を図ったりするなど、あらゆる部分で改良がなされて今に至っています。

このように電池は、研究者によるこうした努力や技術の進化の積み重ねにより、進化してきました。次は次世代電池の有力候補と言われている「全固体電池」について解説をしていきます。

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