スマートゴミ箱ソリューション

山下剛史(ムラタ)、Johannes Ollech(Sentinum)

ゴミの収集は、自治体が定期的に行う必要のある不可欠なサービスです。EUではある加盟国に住む国民1人あたり、平均して毎年505kgのゴミを排出しています。(2020年発表)これを全人口に当てはめれば、物流という観点においても大きな課題となってきます。

従来、ゴミの収集作業は定期的に巡回することで行われてきました。しかし、この方法では収集時にゴミ箱が実際に一杯になっているかどうかが考慮されていないため、効率的な収集方法とはいえませんでした。しかし今では、IoT技術の利用により、ゴミ箱の中の蓄積量を測定しデータ取得することで、自治体や民間の廃棄物処理業者が適切なタイミングで各ゴミ箱に蓄積されたゴミを収集することができます。現在、この種のスマートシティプロジェクトが数多く実施されています。

IoT対応センサ技術がゴミ収集の効率化に貢献するのイメージ画像
図1:IoT対応センサ技術がゴミ収集の効率化に貢献する

もしデータに基づいて収集が行われれば、さまざまな地域の需要に合わせて収集が行われるようになるでしょう。また、ゴミ箱の蓄積量を定期的に測定し、その情報を得ることで、次の収集をいつ行うべきか判断することができる。これによりゴミの収集業務がより効率的になり、関連コストの削減、ゴミ収集車による炭素排出の抑制、人材への負担軽減につながるでしょう。

収集されたすべてのデータは、リアルタイムで確認できるだけではなく、長期間のデータ蓄積も活用できます。蓄積されたデータにより、どの場所でいつ頃にゴミ箱のゴミ収集が必要になるか予測し、その計画を立てることができるようになります。

技術的観点

データドリブンによるゴミ箱の収集管理ソリューションでは、管理対象のすべてのゴミ箱の内部にレベルセンサを設置する必要があります。これはゴミ箱の中のゴミの量を正確に計測する必要があります。
また、取得したデータを管理業務責任者にフィードバックするために何らかの形の通信手段が備わっている必要があります。

ゴミの蓄積量監視ソリューションの機能を実現するにはいくつかの重要な特徴を持つ必要があります。
第一に、各ゴミ箱にデバイスを取り付ける必要があり、その数は大規模になります。また各自治体や業者がデバイス費用分の予算を確保する必要があるので、このデバイスは低価格である必要があります。また、このデバイスは遠隔地に設置されることもあり、修理やバッテリー交換ができない地域もあります。バッテリーを長持ちさせるためには、(手荒な扱い等された場合であっても)信頼性の高い動作を保証するための堅牢な構造と併せて、超低消費電力動作が不可欠となります。

レベルセンサはゴミ箱の中に設置する必要があり、センサを損傷させるような物質がゴミ箱に捨てられる可能性があります。この物質は、水、化学物質、油、脂肪、酸などがあります。したがって、それらがセンサを破壊しないように対策する必要があります。最後に、レベルセンサの精度が保証されていなければなりません。つまり、得られる結果が気候や動作条件の変化により悪影響を受けることなく、高品質の測定データを提供できなければなりません。

超音波センシングはゴミの蓄積量の計測にいくつか利用されていますが、このアプローチには重大な欠点があります。超音波センサ計測方法では近距離のセンシングの差異は、事実上死角になる可能性があります。つまり、測定精度が劣る可能性があるため、特に小さくて狭いゴミ箱での使用には適していません。また、超音波センサは他の光源の干渉により精度が悪くなる可能性もあり、本ソリューションには適していません。そのため他の光源の干渉を緩和するような対策も必要になります。

さらに、どの無線プロトコルを使うべきかを決めることも重要になります。それをサポートする既存のインフラが利用可能な状況では、LoRaWANを使用するのが最良の選択です。その他の例としては、セルラーIoT(LTE-MやNB-IoTなど)が選択肢となるでしょう。これは、自治体や処理業者が独自のアクセスポイントを展開することによる追加費用を回避できるからです。

ソリューション提案

SentinumのApollon-Qスマート廃棄物センサソリューションは、現在ヨーロッパ中のゴミ箱管理業務で広く導入され始めています。プラグアンドプレイの簡単なセンサユニットが、監視対象のすべてのゴミ箱に設置されています。校正の必要もなく、動作させるのも簡単です。所定の地域に分散配置された多数のユニットによって取得されたデータは、直感的なウェブインタフェースを介して調べることができます。

このセンサユニットは、複数のポイントからの光信号を利用して曲面近似を行うため、ゴミ箱内部のゴミの蓄積量を推定することができます。つまり、ゴミが不均一に分布している場合でも、正しいな蓄積量を計測することができます。さらに、測定領域内の干渉を無視することができます。

センサ/エミッターの各ペアは、周波数940nmの赤外線(IR)信号を利用しています。2.5mの範囲に対応しているため、街頭や公園で見かける小型のものから、一般家庭で使用される中型のもの、商業施設やリサイクルステーションで必要とされる大型のものまで、あらゆるサイズのゴミ箱にセンサユニットを取り付けることができます。また、特別に設計されたレンズの採用により、クロストークが低減されています。このレンズは防水性と帯電防止性を併せ持っており、湿気やホコリがあっても対応することができます。

SentinumのApollon-Qスマートゴミ箱センシングソリューションのイメージ画像
図2:SentinumのApollon-Qスマートゴミ箱センシングソリューション

Apollon-Qには、NB-IoT、LTE-M1、LoRa、およびMIOTY無線プロトコルに準拠したバージョンが用意されており、(性能、コスト、導入の容易さなどに関して)さまざまなケースに対応することができます。センサモジュールは、一度取り付けると、超低消費電力のため、同じバッテリーで5年間動作し続けます(LoRa通信を使用し、データを1日3回送信した場合)。

Apollon-Qは、寸法が109mm×54mm×33mmと、コンパクトなデバイスであり、どのようなサイズのゴミ箱にも簡単に導入することができます。また、ユニットの重量はわずか160gなので、搭載されたゴミ箱に影響はありません。(作業員がゴミ箱を移動したり、積み下ろしたりするのに影響はありません)。センサユニットが収納される筐体はIP67であり、液体の浸入を防ぎます。また、さまざまな化学物質に対する耐性を備えているため、センサユニットの構成部品に障害を与える心配はありません。動作温度範囲は−30℃~+75℃に対応しています。また、湿度は5%~99%に対応しています。

これらのユニットのコストは低コストで実現できており、スマートゴミ箱ソリューションを町や都市全体に適用するために必要な費用はそれほど大きくなく、コストメリットが大きいソリューションです。さらにコストを削減する必要がある場合、SentinumのApollon-Qデバイスの低コスト版であるApollon-Zetaシリーズがあります。ハードウェアに加えて、Sentinumでは、データ管理ソフトウェアとクラウドサービスをお客様に提供し、それにより完全なエンドツーエンドのソリューションを実現することができます。

ムラタのLoRaWAN®対応 小型通信モジュール(Type-ABZ)のイメージ画像
図3:ムラタのLoRaWAN®対応 小型通信モジュール(Type-ABZ)

Apollonスマートゴミ箱センサ製品の開発の中心は、導入した無線技術にあることは明らかです。他の事業を通じてムラタと強固な関係を築いていたSentinumでは、再び同社のRFモジュールを指定することにしました。結果として、ムラタのABZモジュールがApollon-Q LoRaに採用され、ムラタの1SCモジュールがApollon-QのNB-IoTバージョンが選ばれました。また、Apollon-Zeta LoRaには1SJモジュール(LoRaWAN®対応)を使用することが決まりました。

ムラタは、低消費電力広域ネットワーク(LPWA)アプリケーション向けに高度なモジュールをいくつか提供しており、これらは、スマートシティ、産業、環境モニタリング、スマート農業、ウェアラブル医療などのユースケースに対応し、IoT技術をより普及させる上で重要な役割を果たしています。また、これらは、さまざまな通信プロトコルを幅広くカバーし、高性能とコスト効率の魅力的な組み合わせを実現しています。それらのコンパクトなフォームファクタは、システム統合を容易にすると同時に、継続的な振動、激しい衝撃、および極端な温度に耐えるために必要な堅牢性を示しています。さらに、高水準の機能が組み込まれているため、部品点数を抑え、開発期間を短縮することができます。Sentinumスマートゴミ箱センサは、ムラタモジュールが、実現したいソリューションに必要なさまざまな制約をクリアし、製品化できることを可能にした一例です。

ルート選定のためのウェブインタフェースを通じてアクセスされるスマートゴミ箱センサのデータ例のイメージ画像
ルート選定のためのウェブインタフェースを通じてアクセスされるスマートゴミ箱センサのデータ例

Sentinumのスマートゴミ箱センサ技術は、自治体に真の変化をもたらすことができるということを示してきました。お客様の導入事例から集計した数字によると、比較的小さな市街地であっても、収集に必要な時間を1日あたり8時間以上短縮することができます。つまり、ゴミ収集車の人件費と炭素排出量をどちらも削減できるのです。現在、ムラタの無線モジュールを採用したさらなる展開プロジェクトが進行中です。

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