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LoRaWAN(ノンセルラーLPWA)入門 - 基礎からIoT活用事例まで(1)

1. LoRaWANとは

LoRaWAN(読み方:ローラワン)は、広域・長距離かつ低速・低消費電力という特徴を持つLPWA(Low Power Wide Area)無線通信のうち、無線局免許を不要のアンライセンスバンド(Sub-GHz帯)を利用する規格です。LoRaWANはノンセルラーのLPWAであり、非営利団体LoRa Allianceが定め、国際電気通信連合[ITU]の承認により2021年12月に国際標準規格となりました。

LoRaWANは、1台または少数のゲートウェイと多数のLoRaWANモジュール搭載のエンドデバイス*1と接続することで利用するワイヤレスネットワークシステムです。キャリア事業者の通信網を必要とせず、ネットワークの構築と運用を自社でまかなうこともできるLoRaWANは、用途や事業の規模を問わず導入しやすいことから、利用者は年々増加しています。

*1 例えば、一般照明やカメラなどのセンサといった末端のアプリケーションを制御する通信端末。

1.1 LoRaWAN(ノンセルラーLPWA)とセルラーLPWAの比較

ノンセルラーLPWAの規格であるLoRaWANは、キャリア事業者と契約してその回線を利用するセルラーLPWAに比べ、運用コストを低く抑えることができます。また、使用する場所もキャリア事業者の基地局との安定した通信が可能かどうかを考慮する必要がありません。   
さらに、自社のみで完結するネットワーク環境を構築することもできるため、社外の事業者の回線を介すことなくプライベートかつセキュアな無線通信環境が実現できます。

参考:3.3 セルラーLPWAとノンセルラーLPWAの仕様の比較|LPWA(Low Power Wide Area)無線通信とは - LPWAの基礎知識

1.2 LoRaWANの主な用途

主要な用途として、生活インフラにおけるスマートメーターやスマートシティ、スマートビルディング、公共交通機関のスマート化、製造業でのIoT化、物流貨物や人の位置情報によるトラッキング、環境センシング、スマート農業などがあげられます。セルラーLPWAとは異なりキャリア事業者のサービス提供エリアの制約を受けず、比較的低コストでの運用が可能であるため、多種多様な分野におけるIoTやM2Mに適した無線通信の手段として世界中で注目が高まっています。

以下のページにて、LoRaWANを活用した事例をいくつか紹介しています。    
4. LoRaWANを活用したIoTソリューションの事例|LoRaWAN(ノンセルラーLPWA)入門 - 基礎からIoT活用事例(2)

2. LoRaWANの通信プロトコルスタック - LoRaとLoRaWANの役割 -

実装されている通信プロトコルスタックをみることによって、多くの場合、その通信方式の特徴がわかります。   
(通信プロトコルスタックに関しては当ページ下段のコラム - 通信プロトコルスタックとはで解説しています。)   
図1に、LoRaWANの通信プロトコルスタックを示します。ここでは、LoRaWANのプロトコルスタックと、プロトコルにおけるLoRaとLoRaWANそれぞれの意味や役割などについて説明します。

LoRaWANの通信プロトコルスタックのイメージ画像
図1 LoRaWANの通信プロトコルスタック

2.1 LoRa(物理層)とは

図1の下段、物理層にあるLoRaとはLong Range(長距離)の略で、米国のSEMTECH(セムテック)社によって、スペクトラム拡散の一種であるCSS(Chirp Spread Spectrum:チャープ・スペクトラム拡散)をベースに開発された無線の変調方式を指します。
なお、LoRaのISMバンド*2は、表1のように国や地域ごとに設定されています。

表1 LoRaのリージョン別(一部)の 周波数帯域

リージョン   
(国または地域)

名称

周波数帯域   
(MHz)

ヨーロッパ

EU868/EU433

863-870/433-435

アメリカ合衆国

US915

902-928

中国

CN779/CN470

779-787/470-510

日本

AS923

920-928

オーストラリア

AU915

915-928

インド

IN865

865-867

インドネシア

AS2

923-925

韓国

KR920

920-923

マレーシア

AS1

920-923

ニュージーランド

AU915

915-928

シンガポール

AS1

920-923

台湾

AS2

923-925

タイ

AS2

923-925

*2 ISMバンドとは、国際電気通信連合(ITU)によって制定された、産業(Industry)・科学(Science)・医療(Medicine)などの分野において、免許不要で電波競合を気にせず使用できる周波数帯域のこと。ISMバンドには世界共通のものと、リージョン(国・地域)別のものがあり、LoRaでは後者が設定されています。

2.2 LoRaWAN(MAC層)とは

MAC*3層のLoRaWANは、ノンセルラーLPWAとしての規格名であると同時に、LoRaWANネットワークの通信プロトコル(通信における規約)を指します。LoRaWANでは、エンドデバイスそれぞれがIPを持たず、MAC(デバイスID)でゲートウェイに接続して無線通信を行います。  
   
また、MACオプションとしてClass A / Class B / Class Cがあり、それぞれエンドデバイスとゲートウェイ間での双方向通信における上り下りの通信スキームや間隔、消費電力にかかわるデバイス側の受信スロットの開閉挙動などが異なります。  
デバイスを長期電池駆動させる場合、デバイス側の受信待機時間が少なく消費電力が低いClass Aが多く用いられます。一方、デバイスに常時給電しながら低遅延での通信を行う場合など、目的や環境に応じて他のClassを使い分けることができます。

*3 MACとは、Media Access Controlの略で日本語ではメディアアクセス制御とも呼ばれ、階層化された通信プロトコルのうち、機器を識別するMACアドレスの定義や割り当てのほか、信号送信のタイミング制御、送信するデータの分割、宛先アドレスなどの制御データを付加したフレームの組み立て(送信)と分解(受信)、誤り検出などの方法が定められている。

3. LoRaWANネットワークの構築 - LPWAデバイス・ゲートウェイ・サーバなどの構成 -

LoRaWANはノンセルラーLPWAの規格であるため、セルラーLPWAデバイスの無線通信のようにキャリア事業者の基地局および通信網を利用しません。
LoRaWANでは、LoRaWANモジュールを搭載したセンサなどのエンドデバイスとLoRaWANに対応するゲートウェイの間で、無線でのデータ通信がおこなわれます。このゲートウェイを介してLoRaWANと通信プロトコルの異なるネットワークサーバやアプリケーションサーバなどにデータが伝送されます。
下記では、LoRaWANを用いた主なネットワーク構築の例を紹介します。

3.1 自作のLoRaWANネットワークの構築例

ノンセルラーLPWAは無線局免許が不要であるため、LoRaWANモジュールを搭載したエンドデバイスに加え、LoRaWAN対応のゲートウェイ、ネットワークサーバ、アプリケーションサーバなどを自社で用意してシステムを構築することも可能です。

自作・自営のLoRaWANネットワークの構築例のイメージ画像
図2 自作・自営のLoRaWANネットワークの構築例

図2に示すように、すべてを自社で環境を構築して運営することにより、プライベートかつセキュアなワイヤレスソリューションが利用できることが利点といわれています。なお、各サーバはオンプレスミス(自社環境)の場合もあれば、自社で契約したクラウドサーバを利用する場合もあります。

3.2 事業者を利用したLoRaWANネットワークの構築例

一定期間の利用や、SIやネットワークに関与する人材が社内にいない場合など、LoRaWANの環境を自社で構築することが適していなければ、LoRaWANの通信プロトコルに対応したゲートウェイの販売またはレンタル、クラウドサービスなどを提供する事業者を利用するという方法もあります。

事業者のサービスを利用したLoRaWANネットワークの構築例のイメージ画像
図3 事業者のサービスを利用したLoRaWANネットワークの構築例

図3のようにLoRaWANに対応したゲートウェイやネットワークサーバ、また場合によってはアプリケーションサーバも事業者と有償契約して使うといったケースもあります。サービス内容は事業者によってさまざまですが、ゲートウェイの導入やサーバの保守などを事業者に一任できることが利点といえます。
なお、多数のデバイスと接続・通信できるLoRaWAN対応のゲートウェイは、契約者専用で利用できるものもあれば、複数の契約者と共用することにより利用料金を抑えるプランなどもみられます。

また、一般的にゲートウェイを除きクラウドサービスが提供されます。ゲートウェイやサーバを契約すると月額料金などがかかります。しかし、携帯電話の通信網を使うためキャリア事業者との契約が必須となるセルラーLPWAに比べ、ノンセルラーLPWAであるLoRaWANの運用にかかるネットワークサーバ事業者などのサービス利用料は低額であるといわれています。

コラム - 通信プロトコルスタックとは

電気通信は無線/有線を問わず、通信プロトコルに準拠することによって機能します(参考:6. 通信プロトコルとは|無線通信の基礎知識 - 無線の仕組み(2))。表2は、LoRaWANモデルとOSI参照モデル*4における通信プロトコルスタック各層の役割と対応を示しています。 

表2 OSI参照モデルと各層の役割、LoRaWANモデル
OSI参照モデル役割と例LoRaWAN モデル
アプリケーション層 
Application Layer

ファイルの送受など、アプリケーションとして

必要な機能を規定

(HTTP, FTP, DNS, SMTP, POPなど)

アプリケーション
プレゼンテーション層 
Presentation Layer

データの表現形式(暗号化方式、文字コード

など)を規定(SMTP, FTP, Telnetなど)

-
セッション層 
Session Layer

通信の開始と終了(ログインとログアウトなど)

に関する手順を規定(TLS, NetBIOSなど)

トランスポート層 
Transport Layer

送受データの誤り検出や回復といった

通信品質を確保する規定

(TCP, UDP, NetWare/IPなど)

ネットワーク層 
Network Layer

異なるネットワークへ中継する機能などを規定

(IP, ARPなど)

データリンク層 
Data Link Layer
MAC層

データを伝送するための制御手順を規定

(Ethernetなど)

LoRaWAN MAC 
(Class A / Class B / Class C)
LLC層-
物理層 
Physical Layer

コネクタの形状など通信路にデータを伝送

させるための物理的な仕様(RS232Cなど)や

無線の場合は変調方式を規定

LoRa変調

*4 OSI参照モデルは、プロトコルスタックの国際標準モデルです。現在、このモデルのプロトコルスタックはそのまま使われていませんが、プロトコルスタックの基本となる参考モデルであるため、機器に実装されるさまざまなプロトコルとよく比較されます。

表2より、LoRaWANモデルのスタックは3層であり、インターネットの通信プロトコルであるTCP/IPモデルでは4層であることから、よりシンプルなプロトコル構成になっていることがわかります。このことは、プロトコルのアップデートがより容易になることや応答時間の向上につながっています。

INDEX - LoRaWAN(ノンセルラーLPWA)入門 - 基礎からIoT活用事例まで(2)

4. LoRaWANを活用したIoTソリューションの事例

4.1 LoRaWANと環境監視センサを使った防災システム

4.2 LoRaWANと土壌センサを使ったスマート農業

4.3 LoRaWANを使った生活インフラのスマートメーター

4.4 LoRaWANを使った太陽光発電施設のスマート化

5. 村田製作所のLoRaWANモジュール

5.1 村田製作所のLoRaWANモジュールの特長

5.2 LoRaWANモジュールのラインアップ

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