デジタル変調―デジタル通信の基礎
スマートフォンで写真を撮り、その写真[データ]を知人に送り[送信]、知人が受け取る[受信]というプロセスを通信といいます(この例では、電気を利用しているので電気通信といえます)。本記事では、デジタルデータとは―デジタル通信の基礎にて解説した「データ」について、その移動である信号とデータの伝わる速度である通信速度、およびデータを遠くに届けるための操作―デジタル変調―の基本について説明します。
1. データの送信と受信
1.1 データの移動と信号
データは記号や符号の集まりであり、デジタル機器や記録メディアに保存されているときは静的な状態にあります。以下、そのデータがケーブルや空間といった伝送路(通信路)を経由して動的に伝わることに目を向けていきます。
この静的な状態のデータが、加工され送信機から伝送路を通じて移動しているとき、そのデータを信号と呼ぶことにします(図1)。スマートフォンからインターネットを経由して写真を知人に送ったときに、データは信号として送られるということです。信号は時間軸の特性であり(一方で周波数軸の特性の面もありますが)、ここでは単純化し「データを時系列で移動させると信号になる」と考えることにします。
1.2 データが移動する速度
データの単位には、bit(ビット)と8bitをひとつにまとめたbyte(バイト)があり、この単位を使ってデータ量を示すことをデジタルデータとは―デジタル通信の基礎にて説明しました。同様に、データの移動である信号(図2)にも単位があります。いわゆる通信速度(伝送速度)のことで、1秒あたりに伝わるデータ量のことです。データ速度の呼び方はいくつかあり、一般的な名称を表1にまとめました(状況により使われる名称が異なる場合があります)。
図2の信号では、データの早く伝わっている順に“01001101”になっています。また、信号レベルは電圧あるいは電流であり、高い(H)と“1”、低い(L)と“0”という対応になっています。
なお、このような波形は、矩形波(くけいは)または方形波(ほうけいは)と呼ばれます。
| データ速度 | 単位 | |
|---|---|---|
| 通信速度 (伝送速度) | 信号速度 | bps(ほかにbit/s、b/s) |
| 転送速度 | B/s(ほかにbyte/s、Byte/s)、bps(ほかにbit/s、b/s) | |
| 変調速度 | baud(「ボー」と呼びます) | |
データ速度において、一般によく使われるのは「通信速度」です。スマートフォンやWi-Fiのスペックなどで伝送速度として使われるので、目にすることが多いでしょう。
このうちbps(bit per second)の単位だけ用いる場合は「信号速度」、主にB/s(byte per second)の単位を用いる場合は「転送速度」と呼ばれます。転送速度は、伝送されるデータ量により、bit数、byte数、文字数などが使われます*1。
*1 たとえば、1文字が1byteで、これを100文字まとめて伝送する場合の転送速度は100文字/秒であり100B/sになります。1byteは8bitなので、bitに換算すると800bpsの転送速度になります。このように転送速度で単位[B/s]が使われていた場合、これを[bps]に換算すると転送速度と信号速度は同じになります。
もうひとつの「変調速度」については、変調速度と信号速度の関係などを含め、通信速度の高速化―デジタル通信の基礎にて説明していますので、ここではデータ速度に変調速度があることのみ紹介しておきます。
2. デジタル変調
2.1 長距離のデータ伝送に必要な技術―変調
電気通信では、データを遠くに伝送するには、送信側で「変調」という操作が必要です(図3)。たとえば、大声を出してみても10m先、20m先までは声は届くかもしれませんが、せいぜい数十m届かせるのが精一杯と思われます。しかし、音声の振動を電気信号に変え、これを電気の波(搬送波)に乗せること(変調)で遠くまで届けることができます。この技術はアナログ電話やアナログラジオの基本原理になっており、アナログ変調の応用例です。
同様に、“0”と“1”で表現されたデジタルデータも、変調によって遠くに伝送できます。この技術のおかげで、スマートフォンの中の写真のデータは、変調されて電波に乗り知人の手元に届くということになります。
2.2 デジタル変調の代表例
デジタルの原信号(ベースバンド信号*2)を遠くに伝えるために、上述の搬送波という連続波(正弦波)が必要になります。ベースバンド信号により、搬送波の振幅や周波数、位相を変化させることがデジタル変調で、これにより変調波が生成されます。デジタル変調にはさまざまあり、ASK、FSK、PSK、QAMが代表的な方式です(表2)。以下、ASK、FSK、PSKについて、そのイメージを説明します(QAMについては、別記事にて説明いたします)。
*2 デジタルデータそのものが移動したときの信号
| 変調方式 | 説明 |
|---|---|
| ASK変調 (Amplitude Shift Keying modulation) | 振幅偏移変調: ベースバンド信号が“1”のときに、振幅が一定の搬送波が出力される変調 |
| FSK変調 (Frequency Shift Keying modulation) | 周波数偏移変調: ベースバンド信号が“1”のときに高い周波数が、 “0”のときに低い周波数が出力される変調 |
| PSK変調 (Phase Shift Keying modulation) | 位相偏移変調: ベースバンド信号が“1”のときに位相の違いが0°の搬送波が、 “0”のときに位相の違いが180°の搬送波が出力される変調 |
| QAM (Quadrature Amplitude Modulation) | 直交振幅変調/直角位相振幅変調: 位相が90°異なる2つの搬送波を用い、 それらの振幅を変化させた搬送波が出力される変調 |
2.2.1 ASK(Amplitude Shift Keying:振幅偏移)
デジタル変調で最も基本的な方式がASKです。図4に示すように、搬送波の振幅を変化させて「0」「1」を表します。ベースバンド信号と同じように、搬送波の振幅(電圧)が高いところを「1」、低いところを「0」とする変調波が生成され、ベースバンド信号の1ビットの時間長(ビット長)に対して、同じビット長で振幅が変化します。
*3 変調波の時間変化の単位をシンボルと呼ぶ。「0」「1」の2値(1ビット)を1回の変調で表現する2値信号の場合は、ビット長とシンボル長が等しくなる。
2.2.2 FSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移)
図5に示したように、搬送波の周波数を基準に、より低い周波数とより高い周波数に偏移(シフト)させることで、「0」「1」を表します。図5では、搬送波の周波数をfとしたとき、fより高い周波数のf1にシフトさせた場合を「1」に、fより低い周波数のf0にシフトさせた場合を「0」としています。
2.2.3 PSK(Phase Shift Keying:位相偏移)
搬送波の位相をずらすことで「0」「1」の表現をします。図6に示すように、位相が「0」と半周期(180°)ずれた状態の「π」の正弦波を使って、それぞれ「1」と「0」を表現することができます。
上記で紹介してきたASK、FSK、PSKの各変調の特徴を、表3に整理しました。それぞれ長所短所があり、目的や用途、環境によってどの変調方式を採用するか決めることになります。
変調方式 | ノイズ耐性*4 | 周波数利用効率*5 | 消費電力 | コスト(回路規模) |
|---|---|---|---|---|
ASK変調 | 低 | 低 | 低 | 低(シンプル) |
FSK変調 | 中 | 中 | 中 | 中(やや複雑) |
PSK変調 | 高 | 高 | 高 | 高(複雑) |
*4 ノイズ耐性:図7のように、データが乗った変調波が伝送路(空間)を通っている間に受ける外部ノイズに対する耐性のこと。ノイズ耐性が高いと、通信品質が高い(変調波信号のエラーの割合が小さい)ことになります。
(無線通信の基礎知識 - 無線の仕組み(1)の図2再掲)
*5 周波数利用効率:ここでは、単位時間あたり同一周波数帯域内でどれだけ多くのデータを伝送できるかを示す指標と考えます。これについては別記事にて解説します。
<コラム>信号とは
通常「信号」といえば、たとえば、道路の交差点や鉄道で使われている交通信号が思い浮かびますが、本文ではデータを無線通信で伝送する際に、それに適した形式に変換(変調)したものとしています。実は電気的な「信号」は、数学の表現を含めた言い方になりますが、現在では以下のように複数の意味があるようです(本記事では1の意味で使っています)。なお、信号のレベルは電圧または電流になります。
- 情報*6としてのデータが元になっており、時間関数(横軸が時間軸)のアナログ波形(ex. 音)とデジタル波形(ex. 文字・画像)のこと
- 情報*6としてのデータとは関係のない、時間関数のアナログ波形(ex. 搬送波)とデジタル波形(ex. DC-DCコンバータにて直流から直流へ高効率に変換するために生成されるパルス変調波)のこと
- 空間関数である静止画と、時間空間関数である動画のこと
*6 情報:人が解釈でき物事の判断や行動などに利用できるデータ(ex. 文字、画像など)
1と2においては時間の軸上における「信号」、3においては位置の軸上の「信号」を示しています。これらについて説明するには、フーリエ変換という数学の知識がどうしても必要になります(フーリエ級数・変換については、別記事にて説明予定です)。