AMR(自律走行搬送ロボット)の安全走行性を高めるLF通信によるセンシングのメイン画像

AMR(自律走行搬送ロボット)の安全走行性を高めるLF通信によるセンシング

近年、物流倉庫や製造現場で搬送ロボットの導入が進むなか、ロボット自らが最適な経路を判断して荷物を運ぶ自動化のニーズが高まっています。こうした要請に応えて普及が進んだのが自律走行搬送ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robot)です。ここでは、これまでの搬送ロボットとAMRの違いを整理するとともに、AMRがもつセンサの誤作動や死角での検知漏れといった課題に対して、LF通信を用いたセンシングの有効性について解説します。

1. AMRとは―各種センサと無線を活用して自走する搬送機

1.1 AMRの特徴

AMRは高い自律性を備えた自動搬送機であり、人手不足の解消や作業効率の向上が求められる物流倉庫や工場でとくに注目されています。主な特徴は次のとおりです。

  • 多様なセンサを搭載し、環境情報を複合的に取得
    LiDARやカメラ、移動距離や回転角度を検出するエンコーダ、加速度を検出するジャイロセンサといった多くのセンサを搭載し、これらからの情報により周囲の状況を高い精度で把握します。
  • SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を用いた自己位置推定と地図作成
    上記センサ群からの情報により、自己位置を推定しつつ環境地図を生成することで、周辺環境を認識・更新します。
  • ソフトウェアによる柔軟な走行ルートの設定
    走行ルートや挙動はソフトウェアで定義できるため、荷物や設備のレイアウト変更にも柔軟に対応できます。
  • 無線通信による連携と運行管理
    Wi-Fiやローカル5Gなどを介して管理システムや他のAMRと位置情報や稼働状況、制御指令をやり取りし、運行管理や協調動作、安全性向上を実現します。

1.2 AMRとこれまでの搬送ロボットAGVとの走行方式―自律移動と経路誘導

搬送ロボットは、これまで自動搬送ロボットや無人搬送車、AGV(Automatic Guided Vehicle)と呼ばれてきました。AGVでは走行ルートや速度、停止位置が誘導体(磁気テープ、光反射テープ、電磁誘導ケーブル等)によって誘導されていました。一方、AMRは先述のとおり、経路を自律的に計画・変更し、移動・停止します。ここでは搬送ロボットの走行方式を経路誘導式(AGV)、自律移動式(AMR)、追従式(例:人や台車の追従)に分類し*1、表1に各方式の違いをまとめました。AMRでは誘導体が不要であるため、経路に関する運用負荷の軽減が見込まれます。

*1 AGVの中で自律走行する搬送ロボットをAMRとする見方もありますが、ここでは経路誘導と自律移動の対比する点からAGVとAMRを区別しています。

AGVのイメージ画像
経路誘導式ではAGVは誘導体に沿って走行する
AMRのイメージ画像
各種センサや管理システムの情報でAMRは自律走行する
表1 各走行方式の搬送ロボットの比較

比較項目

経路誘導式(AGV)

自律移動式(AMR)

追従式

走行のしくみ

走行ルートに沿って
敷設した誘導体に従って
走行する。

LiDARやカメラなどで周囲を
認識し、またSLAMなどで
自己位置推定・地図を作成
することで、自律的に経路を
決定・変更して走行する。

カメラなどで追従対象を
検出し、その動きに
合わせて走行する。

搭載技術
(走行)

誘導体が必要。
磁気テープや光テープは
導入しやすいが、
電磁誘導ケーブルは
床下埋設など工事が必要。

誘導体不要。
ソフトウェア中心の調整で
柔軟にルート変更可。
地図やパラメータの設定が必要。

誘導体不要。
追従対象やタグの
配置・管理が中心。

搭載技術
(センサ)

誘導体検知センサ
(磁気・光反射)、
誘導体(テープ・ケーブル)

LiDAR、カメラ、
加速度/ジャイロセンサなど

カメラ、近接センサ、
RFIDタグ

運用

誘導体に依存するため、
走行経路・停止位置は
固定的で柔軟性は低い。

ソフトウェア・地図更新で
走行範囲や経路を柔軟に
変更可能。

追従対象に依存するため
ルート自由度は高いが、
対象喪失時の動作は不安定。

用途

定型搬送、
ライン間定常搬送など
(工場の定常運搬)

倉庫、製造ラインの柔軟搬送、
複雑な現場での自律搬送

ピッキング*2の支援、
隊列搬送、
人に合わせた補助搬送

*2 ピッキング:物流倉庫などにおいて、出荷指示に基づき商品を棚から取り出して集める作業のこと

2. AMRの課題―誤作動・衝突・停止位置決め・通信エラー

自ら走行ルートを決定し、障害物を回避しながら人を検知して安全に走行する自律走行型AMRには多くの利点があります。しかし、LiDARやカメラなどの光学センサやSLAMを用いても、走行に支障をきたすことがあります。さらに、これらの問題は導入後に顕在化するケースが多くみられます。以下では、AMRが直面する主な課題をとり上げます。

センサ(LiDAR、カメラ)の誤作動

AMRに搭載されたLiDARやカメラは高精度なセンシングが可能ですが、誤作動する場合があります。
LiDARは、光をよく反射するガラスや光沢のある金属では誤反射が生じることがあり、反射率の低い物体は検出が困難です。また、煙や水蒸気などにより誤検知が発生する場合があり、同一空間に複数台のLiDARが存在するとレーザ信号の相互干渉で見落としや誤検出が起きる可能性もあります。
一方、カメラは画像情報に基づく認識が可能ですが、照度環境に非常に依存します。強い直射光や溶接などの光源によって受光部が飽和(白飛び)すると映像情報が失われ、一時的に検出不能になることがあります。逆に暗所では受光不足でノイズが増え認識精度が低下します。加えて、ガラス面や金属面の映り込み、煙や水蒸気などにより誤認識の原因となります。

障害物や人との衝突

レーザ光を用いるLiDARやカメラは、いずれも見通し線上での検出しかできないため、物陰に隠れた物体や人を必ずしも検出できない場合があります。したがって、急な曲がり角がある、通路幅が狭いといった死角の多いエリアでは、これらのセンサだけでは障害物を検知しきれず、荷物や設備に衝突する可能性があります。また、人の往来が頻繁な場所では死角にいる人を検出できず、衝突事故の原因になるおそれがあります。

停止位置決め・境界管理

AMRの停止位置決めや境界管理では、精度と信頼性の確保が課題です。LiDARやカメラなど各種センサの測定誤差により、またSLAMの推定誤差やセンサ間の校正ずれにより、停止位置のずれを招きます。さらに床の傾斜や段差も検知精度を低下させます。その結果、AMRではWPT*3のように数cm単位の精度が求められる運用や、立ち入り禁止区域の境界判定が困難になります。

*3 WPT:Wireless Power Transferの略で、ワイヤレス給電、無線給電、無線電力伝送とも呼ばれる。ケーブルを接続することなく電子機器へ電力を供給するシステムのこと

通信エラー・制御不能

AMRは自己位置推定と環境地図の同時作成を実施するSLAMを用いて周囲を把握し、自律的に走行ルートを決定します。走行中は管理システムからの搬送指示を受けて移動するため、管理システムとの無線通信が重要な役割を果たします。
しかし、製造工程などでは各種設備が電磁ノイズや無線信号を発生させることがあり、その干渉や通信エラーによりAMRと管理システム間の通信が不安定になる可能性があります。その結果、動作停止や本体制御不能に陥るなどの問題が発生することがあります。

3. LF通信によるセンシングの特徴

LFとは、Low Frequencyの略で、30kHz-300kHzの周波数帯をいいます。LF通信は、この周波数帯(LF帯)を使用する無線技術になります。具体的には、LF帯のうち135kHz未満の周波数をLF通信では使用し、送信アンテナのLFアンテナと、受信アンテナのLFアンテナまたはRFID(Radio Frequency Identification)タグとの間を磁界で通信することでセンシングします。

このLF通信を用いたセンシング(以下、LFセンシング)には次の特徴があります。

  • 距離測位が可能
    磁界は、反射や回折の影響が数百MHzの電波より少なく、LFアンテナを中心に等間隔な通信エリアを作るため、磁界の強度を測定することで送受信間の距離を測位することができます。
  • 高い測位測距の精度
    一般的なLF通信の検知距離は数cmから最大でも5m以内と短距離ですが、測位・測距の誤差は数cmと高い精度を有します。また測距値のバラつきもほとんど無く極めて安定しています。
  • 人体・水による影響が小さい
    磁界によるセンシングのため、人体や水の影響を受けにくいという特徴があります。
  • 金属による反射の影響が小さい
    LF通信は、高周波通信方式に比べて、金属による反射の影響を受けにくい特性があります。したがって、反射によって生じる多経路の干渉(マルチパス)は少ないといえます。

2項であげたAMRがもつ課題であるセンサの誤作動、障害物や人との衝突、停止位置決め・境界管理に対して、LF通信は解決に向けた有望な選択肢となり得ます。以下、それぞれについて説明します。

4. LFセンシングによるAMRの課題への貢献

4.1 誤作動

AMRのLiDARやカメラは環境要因(ガラスや金属の反射、煙・水蒸気、強い光や暗所など)で誤作動することを示しました(2項参照)。ところでLFセンシングでは、3項のとおり磁界を利用しているので、強い光や暗所での影響を受けることなく、また低反射の物体も検知可能です。煙や水蒸気のある環境も含めLiDARとカメラが苦手とするシーンでも、LFセンシングでは支障なくAMRの走行を効果的に補完できる可能性があります。

4.2 物陰の障害物や人の検知

AMRは衝突リスクがあることを示しました(2項参照)。磁界を利用するLFセンシングでは、障害物の背後にも磁界が届きやすいという特徴があります。これにより、設備機器や壁などが作る死角にある障害物や人も、LiDARやカメラでは検知が難しいですが、LFセンシングでは検知できる可能性があります。

4.3 停止位置決め・境界管理

LiDARやカメラの測定誤差、SLAM推定誤差やセンサの校正ずれ、床の傾斜などの位置ずれは、停止位置の数センチレベルの精度の確保や、立ち入り禁止境界の判定を困難にします(2項参照)。
充電のためのケーブルの抜き差しは不要なWPTですが、AMRを給電可能な位置に誘導する必要があります。LFセンシングの測位測距の精度は数cmと高く、AMRの給電位置への誘導や立ち入り禁止境界の精度の高い判定が期待できます。

停止位置決めのイメージ画像
給電位置へ高い精度で誘導をサポート
境界管理のイメージ画像
立ち入り禁止の境界を高い精度で判定

5. AMRにおけるLFセンシングの有効活用

AMRは高度なセンサ技術を搭載した搬送ロボットです。現場におけるAMRの有用性を検討する際は、安定した走行と運用が重要なポイントであり、操作性・安全性・保守性といった使用者の視点が欠かせません。したがって、現場へのAMR導入では現場の声を取り入れ、トライアル等でこれらを確認することが大切です。こうした背景を踏まえ、LFセンシングはAMRが現場で直面する課題の解決に寄与すると期待されます。

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