LFアンテナ(アンテナコイル)
近年、物流倉庫や製造現場で搬送ロボットの導入が進むなか、ロボット自らが最適な経路を判断して荷物を運ぶ自動化のニーズが高まっています。こうした要請に応えて普及が進んだのが自律走行搬送ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robot)です。ここでは、これまでの搬送ロボットとAMRの違いを整理するとともに、AMRがもつセンサの誤作動や死角での検知漏れといった課題に対して、LF通信を用いたセンシングの有効性について解説します。
AMRは高い自律性を備えた自動搬送機であり、人手不足の解消や作業効率の向上が求められる物流倉庫や工場でとくに注目されています。主な特徴は次のとおりです。
搬送ロボットは、これまで自動搬送ロボットや無人搬送車、AGV(Automatic Guided Vehicle)と呼ばれてきました。AGVでは走行ルートや速度、停止位置が誘導体(磁気テープ、光反射テープ、電磁誘導ケーブル等)によって誘導されていました。一方、AMRは先述のとおり、経路を自律的に計画・変更し、移動・停止します。ここでは搬送ロボットの走行方式を経路誘導式(AGV)、自律移動式(AMR)、追従式(例:人や台車の追従)に分類し*1、表1に各方式の違いをまとめました。AMRでは誘導体が不要であるため、経路に関する運用負荷の軽減が見込まれます。
*1 AGVの中で自律走行する搬送ロボットをAMRとする見方もありますが、ここでは経路誘導と自律移動の対比する点からAGVとAMRを区別しています。
比較項目 | 経路誘導式(AGV) | 自律移動式(AMR) | 追従式 |
|---|---|---|---|
走行のしくみ | 走行ルートに沿って | LiDARやカメラなどで周囲を | カメラなどで追従対象を |
搭載技術 | 誘導体が必要。 | 誘導体不要。 | 誘導体不要。 |
搭載技術 | 誘導体検知センサ | LiDAR、カメラ、 | カメラ、近接センサ、 |
運用 | 誘導体に依存するため、 | ソフトウェア・地図更新で | 追従対象に依存するため |
用途 | 定型搬送、 | 倉庫、製造ラインの柔軟搬送、 | ピッキング*2の支援、 |
*2 ピッキング:物流倉庫などにおいて、出荷指示に基づき商品を棚から取り出して集める作業のこと
自ら走行ルートを決定し、障害物を回避しながら人を検知して安全に走行する自律走行型AMRには多くの利点があります。しかし、LiDARやカメラなどの光学センサやSLAMを用いても、走行に支障をきたすことがあります。さらに、これらの問題は導入後に顕在化するケースが多くみられます。以下では、AMRが直面する主な課題をとり上げます。
AMRに搭載されたLiDARやカメラは高精度なセンシングが可能ですが、誤作動する場合があります。
LiDARは、光をよく反射するガラスや光沢のある金属では誤反射が生じることがあり、反射率の低い物体は検出が困難です。また、煙や水蒸気などにより誤検知が発生する場合があり、同一空間に複数台のLiDARが存在するとレーザ信号の相互干渉で見落としや誤検出が起きる可能性もあります。
一方、カメラは画像情報に基づく認識が可能ですが、照度環境に非常に依存します。強い直射光や溶接などの光源によって受光部が飽和(白飛び)すると映像情報が失われ、一時的に検出不能になることがあります。逆に暗所では受光不足でノイズが増え認識精度が低下します。加えて、ガラス面や金属面の映り込み、煙や水蒸気などにより誤認識の原因となります。
レーザ光を用いるLiDARやカメラは、いずれも見通し線上での検出しかできないため、物陰に隠れた物体や人を必ずしも検出できない場合があります。したがって、急な曲がり角がある、通路幅が狭いといった死角の多いエリアでは、これらのセンサだけでは障害物を検知しきれず、荷物や設備に衝突する可能性があります。また、人の往来が頻繁な場所では死角にいる人を検出できず、衝突事故の原因になるおそれがあります。
AMRの停止位置決めや境界管理では、精度と信頼性の確保が課題です。LiDARやカメラなど各種センサの測定誤差により、またSLAMの推定誤差やセンサ間の校正ずれにより、停止位置のずれを招きます。さらに床の傾斜や段差も検知精度を低下させます。その結果、AMRではWPT*3のように数cm単位の精度が求められる運用や、立ち入り禁止区域の境界判定が困難になります。
*3 WPT:Wireless Power Transferの略で、ワイヤレス給電、無線給電、無線電力伝送とも呼ばれる。ケーブルを接続することなく電子機器へ電力を供給するシステムのこと
AMRは自己位置推定と環境地図の同時作成を実施するSLAMを用いて周囲を把握し、自律的に走行ルートを決定します。走行中は管理システムからの搬送指示を受けて移動するため、管理システムとの無線通信が重要な役割を果たします。
しかし、製造工程などでは各種設備が電磁ノイズや無線信号を発生させることがあり、その干渉や通信エラーによりAMRと管理システム間の通信が不安定になる可能性があります。その結果、動作停止や本体制御不能に陥るなどの問題が発生することがあります。
LFとは、Low Frequencyの略で、30kHz-300kHzの周波数帯をいいます。LF通信は、この周波数帯(LF帯)を使用する無線技術になります。具体的には、LF帯のうち135kHz未満の周波数をLF通信では使用し、送信アンテナのLFアンテナと、受信アンテナのLFアンテナまたはRFID(Radio Frequency Identification)タグとの間を磁界で通信することでセンシングします。
このLF通信を用いたセンシング(以下、LFセンシング)には次の特徴があります。
2項であげたAMRがもつ課題であるセンサの誤作動、障害物や人との衝突、停止位置決め・境界管理に対して、LF通信は解決に向けた有望な選択肢となり得ます。以下、それぞれについて説明します。
AMRのLiDARやカメラは環境要因(ガラスや金属の反射、煙・水蒸気、強い光や暗所など)で誤作動することを示しました(2項参照)。ところでLFセンシングでは、3項のとおり磁界を利用しているので、強い光や暗所での影響を受けることなく、また低反射の物体も検知可能です。煙や水蒸気のある環境も含めLiDARとカメラが苦手とするシーンでも、LFセンシングでは支障なくAMRの走行を効果的に補完できる可能性があります。
AMRは衝突リスクがあることを示しました(2項参照)。磁界を利用するLFセンシングでは、障害物の背後にも磁界が届きやすいという特徴があります。これにより、設備機器や壁などが作る死角にある障害物や人も、LiDARやカメラでは検知が難しいですが、LFセンシングでは検知できる可能性があります。
LiDARやカメラの測定誤差、SLAM推定誤差やセンサの校正ずれ、床の傾斜などの位置ずれは、停止位置の数センチレベルの精度の確保や、立ち入り禁止境界の判定を困難にします(2項参照)。
充電のためのケーブルの抜き差しは不要なWPTですが、AMRを給電可能な位置に誘導する必要があります。LFセンシングの測位測距の精度は数cmと高く、AMRの給電位置への誘導や立ち入り禁止境界の精度の高い判定が期待できます。
AMRは高度なセンサ技術を搭載した搬送ロボットです。現場におけるAMRの有用性を検討する際は、安定した走行と運用が重要なポイントであり、操作性・安全性・保守性といった使用者の視点が欠かせません。したがって、現場へのAMR導入では現場の声を取り入れ、トライアル等でこれらを確認することが大切です。こうした背景を踏まえ、LFセンシングはAMRが現場で直面する課題の解決に寄与すると期待されます。