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大阪・関西万博技術記事―「一生ものの仕事」「ムラタの一員であることの誇り」が生まれるまで(前編)

2025年10月13日、大盛況のうちに幕を閉じた大阪・関西万博。村田製作所(以下、ムラタ)はシグネチャーパビリオンBetter Co-Beingに「ふしぎな石ころ“echorb(エコーブ)”」を提供し、多くの来場者に好評を博すと同時に、社内外で大きな反響を呼びました。今回の技術記事では、プロジェクトの指揮をとった事業インキュベーションセンター長の安藤正道氏にインタビューし、大阪・関西万博がムラタにもたらした成果や効果の振り返り、そして安藤自身が感じた大きな感動と誇りについて紹介します。

©Expo 2025

※本インタビューには、万博推進事務局の林田・金川・村岡も同席しました。

1. ムラタの一員であることの誇りを生んだプロジェクト

今回のプロジェクトには200名を超える従業員が関わり、「ふしぎな石ころ“echorb”」はそのユニークさから多くのメディアに取り上げられ、会期中には大勢の来場者や取引先関係者がパビリオンを訪れました。社内外を問わず、多岐にわたる接点で大きな成果と効果をもたらした大阪・関西万博。中でも安藤は「従業員にもたらしたものは計り知れない」と強調します。

安藤「プロジェクトの大きな目標として、従業員と来場者、つまりはエンドユーザーが触れ合う機会を作ることを掲げていました。なぜなら、我々が一生懸命作っている製品は、お客様の目に見えない、手に触れられないものがほとんどだからです。ましてや、製品を手にしたお客様の笑顔や驚きの表情に出会ったこともありません。だからこそ、従業員のみんなが作り上げたものを手にして、喜んだり感動したりしているお客様の姿を見せたかったのです」

振動するechorbに導かれて体験できるパビリオンの様子
振動するechorbに導かれて体験できるパビリオンの様子

パビリオンを訪れたある従業員の「来場者がechorbに触れ、驚く姿を見て、『自分たちが良いと信じて作り上げたものは間違っていなかったんだ』と自信を持つことができた」という言葉が示す通り、多くの従業員が来場者の反応に刺激を受けたと言います。

安藤「プロジェクトのメンバーからはたくさんのメールをもらって、中には『ムラタの一員であることを誇りに思います』と書かれたものがあり、心を打たれました。当初から、今回のプロジェクトは一生ものの仕事になる、誇りとなってモチベーションを高めるきっかけになると考えていたので、感慨はひとしおでした。プロジェクトに参加しなかった従業員からは『あれほど多くの人に感動を与えられるなら自分も参加すれば良かった』という声もありました。その後悔は、これから先、人に感動を与えたいというポジティブなものだと受け止めています」

2. 従業員一人ひとりの“想い”が集まって完成したechorb

大阪・関西万博への参画が社内承認されたのは2022年5月のこと。以来、プロジェクトは3年以上に及びましたが、最初の1年は「社内からアイデアや技術の提案は集まるものの、手応えがない“モヤモヤ期”」が続くなど、決して順風満帆ではありませんでした。そうした中で、ターニングポイントとなったのがふしぎな石ころのアイデアです。

安藤「ミーティングを重ねても意見が噛み合わず、良からぬ方向に行ったら軌道修正をして、モヤモヤする日々が続きました。振り返れば、虹を作るために雨を降らせるパビリオンの演出に合わせて、雨傘と3Dハプティクス(錯触力覚)技術をかけ合わせた試作品を作ったこともありました。要は試行錯誤の連続です。そんな中、ふっと天から降りてきたのがふしぎな石ころのアイデアです。私が『ふしぎな石ころはどうか』と口にすると、その場がわっと盛り上がりました。従業員一同が共鳴した瞬間は今でも忘れられません」

ふしぎな石ころという方向性が定まってからは、グループ会社のミライセンスのエンジニア達も加わり、一気にプロジェクトが加速していきました。従業員の“ギア”が上がり、成長していく様子を間近で感じたと安藤は振り返ります。

安藤「文字通り一致団結し、従業員が自発的にプロジェクトを前に進めていったことを覚えています。それぞれが自分の立場でなし得る最大限のことを思考し、『ここを工夫したら来場者をもっと驚かせられるかもしれない』『echorbが故障しないためにこうしよう』と、創意工夫を重ねていきました。従業員一人ひとりの“想い”が集まって完成したのがechorbであり、パビリオンなのです」

echorbを手にインタビューに応じる安藤
echorbを手にインタビューに応じる安藤

3. 技術力と総合力、妥協を許さないモノづくりの“プライド”

従業員の成長やモチベーションが高まる様子を感じると同時に、ムラタならではの技術力、総合力、モノづくりの“プライド”も目の当たりにしたと安藤は続けます。

安藤「複数の技術開発や仕様検討、設計が並行して動く中で、足並みを揃えて前に進むことができたのは、一貫生産体制を構築しているムラタならではだと思います。これは裏話ですが、echorbは製品として販売するものでも、5年10年と長く使うものでもありません。正直なところ、開催期間の半年持てばいい。けれど、半年で壊れるようなモノづくりはしない、したくないというのが全員の意思でした。その意思に基づき、できるだけ通常の品質保証プロセスに近づけました。会期中、日々1%の盗難や故障があると想定し、2000個程度、余分に作っていましたが、半年の会期中、故障したechorbは十数個でした。加えて、運営側の努力により、悪意のある持ち帰りなどは全く発生しませんでした」

万博に参加することの誇り、モノづくりのプライド。その根底にあるのは、「従業員一人ひとりの胸の中にある誰かを喜ばせる気持ち」だと言います。

安藤「普段の仕事において、お客様の顔は見えません。けれど、近くにいる上司や部下、仲間の顔は見えます。彼らを喜ばせるにはどうするか。常日頃からそのことを追い求めて仕事をすれば、自ずと良いものができますし、ムラタの社是にも『これをよろこび、感謝する人びととともに運営する』と書かれています。翻って、今回のプロジェクトは『どうやったら喜ばれるか』を考えることの連続でした。その想いがつながって、伝播したからこそ、来場者を感動させることができたと思います。もっと喜ばせたいという気持ちによって仕事のやり方が変わるし、技術革新も生みます。さらには従業員同士の横のつながりを生んで、チームワークやアイデア、イノベーションの下地もできました。従業員に芽生えた誇りも含め、今回のプロジェクトには尋常ならざる価値があったと思います」

写真左から村岡、林田、安藤、金川
写真左から村岡、林田、安藤、金川

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