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DX×Murata:DXによって進化する製造業の未来

開発プロセスのAI×バーチャル化が実現する未来とは?

商品開発などの領域で必要とされる技術を確立し、多様なデジタルツールの提供と人的サポートを行っている共通基盤技術センター。AI(人工知能)やCAD(三次元モデル設計支援ツール)、CAE(シミュレーションツール)といったデジタルツールを駆使するエンジニアが所属するこの部署では、DXを推進した先にどのようなムラタの未来を思い描いているのでしょうか?AIを活用したサイバーフィジカルシステムの構築を中心に、共通基盤技術センターの台が構想や事例を紹介します。

1. DXを積極的に活用するための風土やマインドを生み出す

「共通基盤技術センターの業務の軸は、ムラタに必要な技術を新たに生み出し、確立すること。そして、その技術をオールムラタに提供し、業務上で活用できるように支援することです」

そう語る共通基盤技術センターの台は、これまでにさまざまな事業部やR&D部門と連携し、技術の提供を通じたDX推進に取り組んできました。事業部を横断して技術支援や課題解決を行ってきたからこそ、DX推進における課題を肌で感じていると言います。

「DXという言葉は社会に広く浸透している一方で、いざ自分たちの業務で何をすべきか、何を変えられるかと問われると、なかなか想像しづらい側面があります。他方、共通基盤技術センターのエンジニアはデータサイエンスなどの領域には長けているものの、商品開発や製造の現場感、臨場感を掴みづらい側面があります。その課題を解決するためには、両者ががっちりと手を組むことが重要です」

そのため、共通基盤技術センターでは“現場に溶け込む”ことを目標に掲げ、「技術は現場で使われてこそ価値がある」という考えの下、自律支援をサポートしています。

「例えば、モビリティ分野ではAD(自動運転)/ADAS(高度運転支援システム)が進化を遂げ、機能検証もシミュレータで行うようになってきています。シミュレータ上でモジュールの性能を可視化するためのアルゴリズムやモデルの作成・提供、実機での評価環境の構築はもちろん、それらを現場のスタッフが使える環境を整え、使いこなせるスキルを育てることも私たちの役目です。技術を作り、環境を整え、人を育てる。その3つをセットで考えることで、初めて現場に技術が根づくと考えています」

その上で、DXを浸透させていくためには成功事例が必要だと続けます。

「現場のスタッフがデジタルの知識を深めていくことも大切ですが、小さなものでもいいので成功事例を積み重ねていくことが不可欠です。DXによって業務が効率化し、作業が楽になった、生産性や品質が上がった。そういった成功事例によって、DXに対して前向きになることができます。DXを全社的にダイナミックに浸透させるには、私たちが現場に入り込み、DXを積極的に活用しようという風土やマインドを醸成していくことも重要な役割だと認識しています」

2. ソフト×CAE×CAD×AIによって開発プロセスを効率化

そんな共通基盤技術センターが思い描くのは、開発プロセスにおける要件定義や試作、シミュレーション、評価などをバーチャルに移行する未来。場所に依存せず、バーチャルな世界で開発設計ができるサイバーフィジカルシステムの構築です。

「商品や材料の開発プロセスは試行錯誤と改良の繰り返しです。それらのプロセスのデジタルデータを核にして、CADやCAEを活用してバーチャル環境で性能を担保し、試作や評価を1回で終わらせることができれば、イノベーティブな業務効率化を実現できます。CAEやCADの活用は進んでいるので、そこにAIをかけ合わせることで効率化にさらなるブーストをかけていきたいと考えています」

共通基盤技術センターが目指す開発プロセスの未来のイメージ画像
共通基盤技術センターが目指す開発プロセスの未来

CAE×CAD×AIの組み合わせによって、さまざまな効果が得られると言います。

「現在はスーパーコンピューターによる大型計算機環境を構築しており、多くのパラメータの組み合わせでのシミュレーション計算を可能にしています。そこに評価やシミュレーションのデータを学習したAIをかけ合わせることで、計算リソースの削減に加え、計算時間が短縮され、ゴールまで最短の時間でたどり着くことが可能になると思います。AIの学習データが増えれば増えるほど精度が高まり、開発スピードも加速していくのです」

計算機/データサイエンスを用いた開発サイクルのイメージ画像
計算機/データサイエンスを用いた開発サイクル

AD/ADASが進化を遂げるモビリティ分野を例に、効果の解説をこう続けます。

「モビリティ分野では2つの変化が起こっています。1つは、ADASなどの性能評価が実証実験ではなく、バーチャル環境でのシミュレーション評価に移行していること。もう1つは、市場のプレイヤーの変化に伴い、お客様に対して製品の特性をわかりやすく、可視化してソリューション提案していく必要があること。この2点を踏まえると、AI・アルゴリズムやシステム設計を活用したシミュレーションで性能を予測できるというソフト×CAE×CAD×AIの効果はますます重要になってくると考えられます」

モビリティシミュレータ開発/システム開発の事例のイメージ画像
モビリティシミュレータ開発/システム開発の事例

3. 企業価値を維持するためにはスケールの大きなイノベーションが必要

サイバーフィジカルシステムの構築、ソフト×CAE×CAD×AIの活用をムラタが推進する背景には、社会の変化が大きく影響していると台は言います。

「コロナ禍がきっかけとなり、オンラインで製品に使う部品のシミュレーションモデルを探し、シミュレーションで性能を検証し、採用検討するお客様が増加しました。従来の営業活動や対面での商談に変化が生じ、お客様のシミュレーションに組み込める部品モデルを作らない限り、検討の土俵にすら上がれなくなる危険性があります。そのため、ムラタではモジュールやMLCC(積層セラミックコンデンサ)を中心に、顧客シミュレータ用の部品モデルの提供を進めています」

モビリティ分野における部品モデルの開発は、すでに一定の成果を得ていると台は続けます。

「カーシミュレータにモデルを組み込み、モビリティの自動駐車をシミュレーションで可視化しました。これによって、ムラタの超音波センサであれば少ない切り返しで駐車できることを示すことができました。こうした取り組みは、お客様にムラタの優位性やポテンシャルを理解してもらうことにも効果を発揮しています」

ChatGPTの出現によって世界的な注目を集めている生成AIも含め、データサイエンスの活用についても「ムラタとして後れをとってはならない」という危機感があると言います。

「従来、特許申請時に特許の効果を証明するためには、実験データを提示することが一般的でした。ところが、アメリカではシミュレーションデータで効果を示し、特許を申請するケースも現れ始めています。つまり、シミュレーションで効果を示せれば、試作検証なしで特許取得が可能になるということです。これはムラタにとって非常にインパクトが大きな出来事です。これまで蓄積してきた技術やノウハウを活かしながら、こうした社会の変化にいかに対応していくか。ムラタの企業価値や競争力を維持するために、開発プロセス全体を見直すスケール感でイノベーションを起こす必要があると考えています」

台は「生成AIは資料の作成やアイデア出しといった身近なところで活用方法があり、デジタルに疎い人たちにDXを浸透させるためには最適なツール」だと続けます。

「生成AIは議論の壁打ち相手になってくれますし、膨大な量の情報をアウトプットしてくれるので、アイデアを生み出すきっかけを与えてくれます。将来的には、新規事業や技術伝承につながるイノベーションが生まれるトリガーになるかもしれません。開発プロセスにおいては、AIによって材料探索の領域が広がり、思いもよらない材料が見つかる可能性も圧倒的に広がります」

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ChatGPTで変わる仕事の未来

4. デジタルを活用することで創造的な営みに集中できる

生成AIが社会に浸透し、ムラタでも活用が進む中で、人の役割や価値についても変化が生じていると台は分析します。

「生成AIは世界中のさまざまなことを学習していますが、倫理観は未熟で、常に正しい答えを提示してくれるとは限りません。デジタルツールはあくまでもツールです。価値判断をしていくのは人間であり、そのために倫理観や専門的な知識・スキルを養い続けなくてはなりません。過去のデータを学習している生成AIに対して、目まぐるしく変化する社会と向き合い、未来に向けた新しいアイデアを生み出していくのは人であり続けると思います」

DX推進にあたって、人間の創造性は重要なポイントだと台は締めくくります。

「開発プロセスの効率化を目指すサイバーフィジカルシステムの構築もまた、人間がより創造的な営みに集中するための取り組みです。DXはイノベーションを起こすための大きな武器となり、創造力を発揮することがムラタの次の飛躍につながっていくことは間違いありません」

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ムラタでは一緒にDXを推進するメンバーを募集しています。

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