ノイズ対策ガイド

ノイズ対策の基礎 【第4回】 チップフェライトビーズ

今回から、代表的なノイズ対策部品について紹介します。まずは、チップフェライトビーズです。これは、フェライトビーズインダクタをSMD(表面実装)対応のチップ形状にしたものです。

<フェライトビーズとは、フェライトの中にリードを通したもの>

図1がリードタイプのフェライトビーズインダクタの形状の例です。その構造はシンプルで、フェライトでできたビーズの中にリード線を通した形状になっています。通常のコイルのように巻かれたものではありませんが、リード線に電流が流れるとフェライトビーズの中に磁束が発生します。このため、フェライトビーズはインダクタとしての働きをします。また、ここで使用されるフェライトは高周波での損失の大きな材料が使われているため、高周波領域では電流のエネルギーがフェライトにおける損失となって失われるため、ノイズを効果的に吸収することができます。

図1. フェライトビーズインダクタの形状例

<チップフェライトビーズは積み重ねでインダクタ構造を構成したもの>

チップフェライトビーズは、このフェライトビーズインダクタをチップ化したもので、図2がその代表的な構造となります。生フェライトのシートの積み重ねの間にコイルパターンを構成し、一体化させて焼成することにより、立体的なコイル構造を実現しています。

図2. チップフェライトビーズBLMシリーズの構造例

単にチップ化するだけでなく内部をコイル構造にすることにより、単にリード線が貫通しているだけのリードタイプのフェライトビーズインダクタよりも大きなインピーダンスを得ることができるようになっています。(実際には、単に貫通しているだけの構造のチップフェライトビーズもあります)この構造は積層タイプのチップインダクタと基本的には同じですが、使用しているフェライト材料がよりノイズ対策に適したものである点が、インダクタと異なります。図3がチップフェライトビーズのインピーダンス周波数特性の例です。基本的にインダクタと同様に、周波数が高くなるにつれてインピーダンスが高くなるので、回路に直列に接続することによってローパスフィルタとして働くことがわかります。一般的なインダクタはインピーダンス値(Z)のうち、リアクタンス成分(X)が主体的ですが、チップフェライトビーズでは高周波における損失が大きなフェライト材料が使用されるため、高周波領域では、レジスタンス成分(R)が主体的になります。リアクタンス成分は損失を伴わないですが、レジスタンス成分は損失を伴うため、チップフェライトビーズは一般的なインダクタと比べてノイズのエネルギーを吸収する性質が高く、ノイズ除去効果が高いことがわかります。

図3. チップフェライトビーズのインピーダンス周波数特性例

<用途に応じてインピーダンスカーブが選べる>

チップフェライトビーズは慣習的に100MHzにおけるインピーダンス値で規格化されています。ところが、同じインピーダンス値の商品が多数用意されています。これは、インピーダンスカーブの急峻さを選べるようになっているためです。図4がバリエーションの一例です。BLM18AG601SN1とBLM18BD601SN1はいずれも100MHzにおけるインピーダンス値が600Ωのチップフェライトビーズですが、インピーダンスカーブをみると、BLM18AG601SN1はなだらかに立ち上がっているのに対してBLM18BD601SN1は急峻に立ち上がっています。

図4. チップフェライトビーズのインピーダンスカーブの違い

なだらかにインピーダンスカーブが立ち上がるタイプは低い周波数からインピーダンスが増加するため、低周波から高周波まで広い周波数帯域にわたったノイズを除去できますが、信号周波数が比較的高い場合、信号周波数も減衰させてしまうおそれがあります。これに対して、急峻に立ち上がるタイプは周波数の高い領域だけインピーダンスが高くなるので、比較的周波数の高い信号が使用されていてもあまり信号に影響を与えずにノイズ対策をすることができます。このため、信号の周波数と落したいノイズの周波数を考慮してチップフェライトビーズを選ぶことが重要になります。

<高周波でのインピーダンス改善は内部構造の見直しで対応>

さきほど図3でチップフェライトビーズのインピーダンス周波数特性を紹介しましたが、400-500MHzを境にインピーダンス値が低下しています。これは、チップフェライトビーズの構造が影響しています。基本的にインダクタは周波数が高くなるとインピーダンスがどんどん高くなっていきます。ところが、通常のチップフェライトビーズは、内部で図5のように巻き始め(入口)と巻き終わり(出口)付近にお互い接近している場所があります。この部分で静電結合(微小なコンデンサがあるような状態)が発生するため、高周波の電流はここを通過してしまい、インダクタのインピーダンスの影響を受けにくくなります。静電結合部は周波数が高くなればなるほど通過しやすいので、周波数が高くなるほど見かけ上のインピーダンスが低くなります。

図5. 高周波におけるインピーダンス低下の原因

この問題を改善するためには、巻き始めと巻き終わりが接近する構造を見直す必要があります。図6が高周波特性を改善するために内部構造を変更したチップフェライトビーズの例です。一般的なチップフェライトビーズはコイルパターンの軸が垂直方向になっている(いわゆる縦巻き)のに対して、高周波特性を改善したチップフェライトビーズはコイルパターンの軸が水平方向になっています。これにより、コイルの巻き始めと巻き終わりが離れることになり、インピーダンスが低下し始める周波数が大幅に高くなっています。

図6. 高周波特性を改善したチップフェライトビーズ(横巻きタイプ)

チップフェライトビーズはこの他にも、大電流対応や、小型化など、さまざまなバリエーションが用意され、用途に合わせて最適なものが選択できるようになっています。

チップフェライトビーズ (BL□ シリーズ)の製品情報はこちら。

 

担当:村田製作所 コンポーネント事業本部 販売推進企画部 三屋 康宏

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