ノイズ対策ガイド

ノイズ対策の基礎【第13回】信号ライン用コモンモードチョークコイルの使い方

今回は信号ライン用コモンモードチョークコイルについての知識を紹介します。

1. コモンモードチョークコイルのスキュー改善機能

信号ラインにおいてコモンモードチョークコイルを使用する目的は主にコモンモードノイズの除去ですが、コモンモードチョークコイルがトランスの応用部品であることから、差動伝送回路のスキュー改善機能も期待できます。

差動伝送回路では両ラインが平衡に設計されていることが理想ですが、製造バラツキなどによって不平衡になってしまうことがあります。そうなると両ラインの信号到達時間のズレから伝送信号にスキューが発生します。(図1)

図1 信号のスキュー

ここにコモンモードチョークコイルを入れるとこのスキューを低減することができます。
図2にコモンモードチョークコイルによってスキューが改善されるしくみを示します。

図2 コモンモードチョークコイルでスキューが改善される仕組み

コモンモードチョークコイルはトランスと同じ構造をしているので、両ラインの立ち上がり・立ち下がりのタイミングにアンバランスがあると、コモンモードチョークコイルが反対側に起電力を発生させて電流のバランスを保とうとします。
この働きが差動信号のタイミングを揃える結果となり、スキューが改善されます。図3に実際の実験結果を示します。

図3 コモンモードチョークコイルによるスキュー改善効果

これは意図的に異なる線路長を設定した差動伝送ラインにおける波形を測定したもので、フィルタ(コモンモードチョークコイル)を入れない場合はDOUT+とDOUT-の立ち上がり・立ち下がりのタイミングがずれていることがわかります。

DOUT+とDOUT-を足し合わせたものは、両ラインのバランスがとれている場合は固定値になるはずですが、この場合はバランスが崩れているためにある程度存在します。
コモンモードチョークコイルを入れた場合は両ラインの立ち上がり・立ち下がりのタイミングが揃えられたためにDOUT+とDOUT-を足しあわせた成分はほぼ固定されており、スキューが改善されたことがわかります。

2. コモンモードチョークコイルの等価回路図

ベテランの方はご存知だと思いますが、ときどき質問を受けることがあるのでこの機会にコモンモードチョークコイルの等価回路図に記載されている黒点の意味について触れさせていただきます。
コモンモードチョークコイルの等価回路図は図4のようになります。

図4 コモンモードチョークコイルの等価回路図

基本的にトランスと同じ形です。このコイルの片方に2箇所、黒点がつけられています。
「これはコイルの巻き始めを示すのですか」という質問を時々受けますが、実はこの点の場所に何かがあるわけではなく、2つのコイルの磁気結合の方向性を示しています。
以前の記事(リンク⇒こちら)で、コモンモードチョークコイルの構造を説明しましたが、コモンモードチョークコイルとして働くためには、ふたつのコイルで発生した磁束が、コモンモード電流に対しては強め合い、ディファレンシャルモード電流に対しては打ち消し合う必要があります。

このため、2つのコイルの巻き方向の関係が違っていると、逆の働きをしてしまうことになります。

 
 
図5 等価回路図の違いによる働きの違い

図5の上のように等価回路上で黒点がコイルの同じ側に並んでいるときはコモンモードチョークコイルとして働く磁気結合となっており、下のように反対側に並ぶ場合はコモンモードチョークコイルとしては働きません。
このように、黒点の位置はそれぞれのコイルの磁気結合の方向性を示しているものであって、黒点がある側に何かがあるわけではありません。なお、この黒点は、もともとはトランスとして考えた場合の電圧の極性を示すためのものです。

 

担当:村田製作所 コンポーネント事業本部 三屋 康宏

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