ノイズ対策ガイド

ノイズ対策の基礎【第14回】コモンモードチョークコイル電源ライン用の使い方

今回は電源ライン用コモンモードチョークコイルについての知識を紹介します。

1.コモンモードチョークコイルの種類によっては磁気飽和に対する注意が必要

以前の記事で、コモンモードチョークコイルではそれぞれのコイルにディファレンシャルモードの電流によって発生した磁束はお互い打ち消しあうので磁気飽和の心配がないと説明しました。(以前の記事

ただし、一部のコモンモードチョークコイルはディファレンスモードのノイズもある程度低減できるように設計されているものがあるので注意が必要です。図1にこのような種類のコモンモードチョークコイルの構造について説明しています。

 

通常のコモンモードチョークコイルはディファレンシャルモードの電流によって2つのコイルに発生した磁束は出来る限りお互い打ち消し合うよう設計されていま すが、一部のコモンモードチョークコイルは図のように、すべての磁束がぶつかり合うのではなくある程度磁束が漏れるように設計されています。

こうすることによってある程度の磁束が残り、ディファレンシャルモードのインピーダンスを発生するようになります。
このように設計されたコモンモードチョークコイルはコモンモードノイズとディファレンスモードの両方に効く一方、電源ラインにおいては高速の信号は通さないので信号への影響も考慮する必要がなく、効果的に電源ラインのノイズを除去することができます。

ただ、このようなコモンモードチョークコイルはディファレンシャルモードの磁束が残るので、ディファレンシャルモード電流が大きくなると漏れ磁束も大きくなり磁気飽和が発生しやすくなります。
電源ラインでは大きなディファレンシャルモード電流が流れるので磁気飽和の影響が大きくなります。
このため、このようなタイプのコモンモードチョークコイルを使用するときは、磁気飽和による性能低下が起きない範囲で使用する必要があります。また、コモン モードチョークコイルを使ったのに電源ラインのノイズがあまり落ちないという時は、ディファレンシャルモードのインピーダンスが大きめの部品を使っていて磁気飽和が発生している可能性があるので、この点を確認してください。

なお、ディファレンシャルモードのインピーダンスが大きいのが悪いということではなく、磁気飽和が発生しない範囲で使えば効果の高い部品になりますので賢く選んでください.図2にディファレンシャルモードインピーダンスが 大きなコモンモードチョークコイルの特性例を示します。
(注:電源ライン用の製品のいい特性図が入手できなかったので、この特性図は信号ライン用の製品のものとなっています)

 

2.AC電源ライン用コモンモードチョークコイル

これまでは比較的電圧の低いところで使われるコモンモードチョークコイルを紹介してきましたが、実際はスイッチング電源の1次側など、AC電源ライン(商用 電源ライン)につながる回路で使われるコモンモードチョークコイルがたくさんあります。ここで使われるコモンモードチョークコイルは「ラインフィルタ」と 呼ばれることも多いです。
ここで使われるコモンモードチョークコイルは2次側の回路で発生したノイズが1次側に漏れたものや、電源回路そのもので発生したノイズが電源コードを伝わって出て行くのを防ぐために使用され、アクロスザラインコンデンサ(Xコンデンサ)やラインバイパスコンデンサ(Yコンデンサ)とともに使用されます。
図3がフィルタ構成例です。

 

アクロスザラインコンデンサがディファレンシャルモードのノイズを除去し、ラインバイパスコンデンサとコモンモードチョークコイルがコモンモードノイズを除去します。ラインバイパスコンデンサの静電容量を大きくするとより低い周波数のコモンモードノイズを除去することができますが、この容量を大きくするとグランドに漏れる電流が大きくなり危険なので一定値以下に抑える必要があります。コモンモードチョークコイルはラインバイパスコンデンサがカバーできない周 波数の低い領域を主に担当することになります。
また、場合によってはノーマルモードチョークコイルを使用してディファレンシャルモードのノイズ除去効果を強化する場合もあります。

AC 電源ラインで使用されるコモンモードチョークコイルは電圧が高いところで使用されるため、これに対応したものが必要になります。セットの安全規格で絶縁性能などに規定があるので、AC電源ラインで使用されるように設計されたコモンモードチョークコイルはこれらの規定を満たすように設計されています。定格電圧がAC250Vとなっている製品はほぼこれらの規定をおおむね満たしています。ただし、セットによっては特別な要求がある場合がありますのでその場合は メーカーに確認ください。

 014

担当:村田製作所 コンポーネント事業本部 三屋 康宏

記事の内容は、記事公開日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

関連製品

関連記事