メトロサーク™
DX×Murata:DXによって進化する製造業の未来
2024年1月1日16時10分ごろ、能登半島一帯を襲った最大震度7の地震により石川県和倉の株式会社ワクラ村田製作所(以下、ワクラ村田)も甚大な被害を受けました。しかし同工場はわずか4か月後、震災前と比べて生産能力を100%にまで回復させました。その背景には、長年蓄積されてきたムラタのつながる力がありました。当時ワクラ村田で工場長を務めていた坪内、生産技術課シニアマネージャーの宮本、モノづくり企画課シニアマネージャーの仕子へのインタビューを通じて、震災からの復旧の舞台裏と、DXが果たした役割、そしてムラタの強みを紐解きます。
北陸地方一帯には村田製作所の工場や事業所など多くの拠点があります。ワクラ村田はそのなかの一つで、メトロサーク™という樹脂多層基板の製造および開発を行っている拠点です。震災直後の状況を当時の工場長である坪内はこう振り返ります。
「2024年元日、能登半島を襲った地震は、ワクラ村田にも大きな爪痕を残しました。建屋の損壊、床の隆起、空調機器の落下など、工場の再稼働には数か月を要すると判断されるほどの被害でした。幸い、主要な生産装置は倒壊を免れたものの、設備の設定データや加工データを格納していたストレージはすべて破損。生産の再開には、データと設備の復旧が急務でした」
ワクラ村田はサプライチェーンの一端を担う重要な拠点です。その復旧に向けた時間との戦いは、被災直後から始まりました。
ワクラ村田では、震災以前からモノづくりにおけるDXを積極的に推進してきました。産業用ロボットによる自動化、センサによるセンシング、そして加工・評価データの蓄積と活用。これらの取り組みが、復旧のスピードを大きく左右しました。
特に、生産の効率や精度に直結するデータのバックアップ体制が功を奏しました。破損したストレージのデータは、データセンターに保存されていたバックアップから迅速に復旧。さらに、社内のローカルサーバに保存されていた評価用データも無事で、設備の立ち上げに大きく貢献しました。坪内はDXにおけるデータ管理について「災害からの復旧では、モノづくりに必要なデータを“どこに、どう残すか”が極めて重要です。今回の経験を通じて、DXの価値を改めて実感しました」と述べました。
再稼働に向けた復興プロジェクトの遂行と同時に、お客さまへの製品の供給を絶やすわけにはいきません。復旧までの間、製品供給を止めないために選ばれた手段が国境を越えた「代替生産」です。そして、同じ製品を製造している中国拠点での生産移行が即座に決定されました。
当時中国にいた宮本は、現地での対応をこう振り返ります。
「震災直後から、応援人員の調整やデータの受け入れ準備を進めました。チームのメンバーは、代替生産プロジェクトの立ち上げから実行に至るまで、大いに貢献してくれました。提供された設計図面や加工データを関係部署で分析し、わずか2週間で生産可能な状態まで準備が整いました。このスムーズな移行を支えたのは、これまでに蓄積された加工・評価データ、課題解決のノウハウなどグローバルでの“同じモノづくり”を目指すムラタの思想です」
また、仕子は「村田製作所では、これまでも海外の工場でも同じモノづくりができることを目指し、設備機器も同じものを使ってきました。ワクラ村田と中国拠点はこれまでも品質、設計に対する考え方をしっかりと共有し、変化や変更があった場合にはすぐに展開してきました。現地へ出張して設備管理を行ったり、日本に技術者を招いて教育したり、このようなひとつひとつの取り組みが代替生産へのスムーズな移行を可能にしました」と、当時を振り返りました。
ワクラ村田における、復旧作業では多くの課題も浮き彫りになりました。代替生産や復旧作業を通じて感じた課題について坪内はこう語ります。
「災害からの復旧では、モノづくりに必要なデータを特定して、モニタリング・管理することの難しさを感じました。さらに、重要な知見やスキルの形式知化、言語化が十分でないことも課題です。何をもって設備や加工状態を評価するのか、また保証するかということを自分たちが確立していたか。そして、モノづくりに関する重要なポイントが、他の組織とどこまで共有できていたかということ。こういった課題の解消には、DXを見据えた精度の高いデータの収集と分析が必要であると感じました」
また、モノづくりにおける重要課題である生産性の向上において、AI活用によるさらなる飛躍を目指します。「人によるトライアンドエラーに限界が見えてきた今、AIを使ったデータ解析による最適化は必要だと考えています。もうひとつ重要なことは、人にやさしいDXの推進です。外観検査や異物混入、汚れなど品質管理のカギとなっている検査にAIを導入することで基準のバラツキもなくし、生産性の向上と人への負担を軽減したいと考えています」
さらに宮本はDXによる見える化の重要性について言及しました。「たとえば、ラインの立ち上げ効率と電力消費量のバランスを見える化し、最適化した事例があります。工場では立ち上げ効率を優先するために、工場の操業を停止している期間でも一部の電源は入れた状態だったのですが、再起動にかかる電力よりも操業停止中の待機電力のほうがロスが大きいと判明しました。このように電力消費量をデータ化し見える化することで、最適な電源管理が可能になります。またメンテナンス工数と設備規模のバランスや部品のサイクルの見える化も重要なポイントだと思います」とデータ化の重要性を強調しました。
ワクラ村田は代替生産や本社、他の事業部や工場などからの多くの支援を受けて復旧を果たしました。被災した従業員へのケアや日常にはない業務への対応など、それはワクラ村田単独では成し得なかったと、3人は口を揃えます。災害を経験し、そのなかで感じたムラタの強みについて聞きました。
坪内「企業としての総合力だと思います。たとえば代替生産であったり、物資の運搬であったり、さらに高度な技術が必要な場合の支援であったり、そういったことのフォローがすごいスピードで実現されていきました。特に震災を経て、北陸地域のムラタの工場の連携が強くなったと感じています。今後こういう関係はDXの推進やAIの導入にも大きな力になると感じました」
宮本「ムラタグループ全体でしっかりとワクラ村田をサポートしてくれたことです。その対応に我々は本当に救われました。普段は感じないことですが、今回のような有事においては、そのつながりを強く感じました」
仕子「私は横のつながりを強く感じました。前工程の工場や生産設備のプロフェッショナルである方々などとの情報の共有や助け合う力の強さ。これは今後のDXに欠かせない協力関係であり、そこにムラタの総合力を感じました。確かに、完全復旧までには多くの困難がありました。しかしそれらを乗り越えた経験は大きな資産であると思っています」
震災という困難を乗り越えた製造現場は、今なお進化を続けています。より強靭で、より柔軟なモノづくりを目指すワクラ村田。その挑戦は、次のフェーズへと向かっています。