DX×Murata:DXによって進化する製造業の未来
「全社でつながる未来のモノづくり」を実現するためのロードマップ
目まぐるしく変化する市場環境に対応すべく、村田製作所(以降「ムラタ」と表記)が推し進めるDXを通じたモノづくりの変革。将来的に「全社でつながる未来のモノづくり」を実現するために、ムラタはどのような戦略とマインドを全社に浸透させ、取り組みを加速させているのか?モノづくり統括部モノづくり強化推進部の下八重が、現状と課題、見据える未来について解説します。
1. 組織としてロードマップに基づいて活動することが重要
「全社でつながる未来のモノづくり」を目指す背景には、AIがドライブするエレクトロニクス領域の飛躍的な成長、成長市場におけるポジションの確立という大きな狙いがあります。加えて、「モノづくりの現場である国内外の工場を視察し、ヒアリングする中で、DXなどに関連する中長期的なロードマップが描けていないという課題が浮かび上がってきた」と下八重は言います。
下八重「DX人材育成に関してヒアリングを行ったところ、さまざまな取り組みが加速している一方、目的と乖離しているケースが見られました。DX人材は育っているけれど、育成自体が目的化してしまい、どのように人材を活用するのか、その先に何を達成するのかというロードマップが描けていないという課題感を強く感じました。ムラタの従業員は改善意識が非常に強いので、中長期的なロードマップを策定すれば、モノづくりの変革に必ず結びつくと考えています」
もちろん、ロードマップを策定し、円滑に取り組みを進めている国内外の工場も数多く存在します。しかし、スキルを自ら学び、意識を改革してDXに取り組んでいる部署もあれば、DXという言葉を頭では理解しつつも、成果に結びつけるためのアクションに至っていない部署もあり、こうした“温度差”も課題の1つだと下八重は続けます。
下八重「工場内の各部署で生まれたDXに対する温度差を解消するためにも、組織としてロードマップに基づいて活動し、現場のスピード感と効率を高めていくことが極めて重要だと考えています。加えて、モノづくりを広義に捉え、製造現場を中心としたSCM(サプライチェーンマネジメント)軸のみならず、開発設計段階のECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)軸、お客様とのつながりを高度化するDCM(デマンドチェーンマネジメント)軸へと取り組みを広げ、事業部全体で連携していくこともモノづくりの変革に欠かせません」
2. 小さな取り組みを積み重ね、成功体験を手にし、DXに対する意識を変える
改善のロードマップを描くにあたって、短期目標、中期目標、長期目標の3つを意識してモノづくりDXを推進することに加え、損益改善やコストダウンなど、工場の経営課題解決につながる活動と直結させることが重要だと下八重は言います。
下八重「モノづくりDXには業務効率化や属人化の解消など、さまざまなメリットがありますが、それらはあくまでも個々の効果であり、最終的な目的は損益改善やコストダウンだという認識を忘れてはいけません。実行しても成果があがらないという結末を避けるためにも、損益改善をモノづくりDXの指針に据えるべきだと考えています」
さらに、短期目標における小さなデジタリゼーションの取り組み、すなわちスモールスタートのポイントをこう解説します。
下八重「近年はAIがビジネスの現場にも浸透していますが、検索エンジン代わりに使っている人もいれば、プレゼン資料や動画を作成している人もいます。同じように、DXも人によって利用方法や活用範囲に大きな差があります。だからこそ、できる範囲から小さな取り組みを積み重ね、成功体験を手にし、DXに対する意識を変えること。その先に仲間を増やし、モノづくりDXの未来を提案できる人材を増やす必要があるのです」
スモールスタートを切ることでコストを抑え、失敗したときのリスクを最小限に留めることもポイントの1つです。
下八重「DXによってすべての課題が解決する、目的が達成されるという認識も改める必要があります。DXは数ある手段の一部に過ぎないからです。DXも含めた複数の施策を並行して走らせ、PDCAを回すことで後戻りしない仕組みを構築し、効果を波及させ、徐々に各工程をつないで全体最適化を図ることが大切です。短期目標をクリアし、中期目標、長期目標を経て、全社的なシステム統合を実現したいと考えています」
3. DXの取り組みや人材を根付かせ、組織として成長させる狙い
下八重の所属するモノづくり統括部が各工場のロードマップを後押しする中で、キーとして位置づけているのが全社標準機能(標準ソリューション)の活用です。標準ソリューションとは、日常点検システムや治工具管理システム、作業者スキル管理システムなどを指し、工程の要所要所に導入することで生産性向上などを図るものです。
下八重「さまざまな工場で何年もかけて蓄積したデータをもとに、最適化した機能を全社的に提供しているのが標準ソリューションです。一方で、品種グループごとに標準ソリューションの活用状況にバラつきがあります。工場によっては、製品や市場に即した独自ソリューションを導入しているためです。独自ソリューションは数多くの成功事例とイノベーションを生み出すためには不可欠なものとして捉え、そのベースとして標準ソリューションやMES(Manufacturing Execution System)の活用を推進していく考えです」
標準ソリューションやMESの活用の後押しをはじめ、各工場のロードマップに準じた活動をサポートしていくのがモノづくり統括部の大きな役割です。
下八重「あくまでも工場が掲げる重要テーマ、例えば品質向上や生産性向上といった柱に対して最適なDXを提案し、合理的に支援していくことが我々の役割であり、無闇に標準ソリューションを展開していくわけではありません。その際、意識していることが2つあります。まず、標準ソリューションやMESの機能に加え、思想やポリシーも含めて理解してもらい、納得したうえで活用してもらうこと。もう1つは、人材を適材適所に配置するサポートも行いますが、我々のサポートが終わった後に自立し、自走してDXを推進してもらうことです。DXの取り組みや人材を根付かせ、組織として成長していくことを大きな狙いとして定めています」
4. DX人材の適確な配置、蓄積したデータの活用でモノづくりの変革を
標準ソリューションやMESの活用に加え、デジタルツインやサイバーフィジカルシステムの適用領域・情報範囲の拡大を推し進めることで実現するのが「全社でつながる未来のモノづくり」です。
下八重「Cyber System とPhysical systemが連携することにより、業務上で生まれるデータを活用し、『全社でつながる未来のモノづくり』を目指します。これを実現するために重要なことは、部門間の連携です。情報システム部門をはじめとする関連部門とロードマップをすり合わせ、事業部との取り組みも連携することで、スピード感のある全社連携を目指します。その先に、SCM・ECM・DCMへと取り組みを広げ、モノづくりの変革と強化を実現するイメージが下の図です」
下八重「中長期的なロードマップを各工場とすり合わせることで、モノづくり統括部としてどのタイミングで、どういった形でサポートできるかが明確になります。加えて、製品の事業部との連携も強化することで、工場への投資判断もスピーディーに行うことができます。ただし、劇的にスピードを上げるというよりは、きちんと計画に沿って、適確にパズルのピースをはめていくことを重視しています」
「全社でつながる未来のモノづくり」を実現するために、ムラタには2つの強みがあると下八重は言います。1つは、人材です。
下八重「ムラタはこれまでさまざまな教育を通じてDX人材を育成してきました。ここからは、自分たちの工場にはどういったスキルが足りないかを見極め、人材を適確に配置していくフェーズだと捉えています。すべての部門・個人が変革推進の主役であることを自覚し、モノづくりDXを加速させていきたいと思います」
2つめの強みは、データの蓄積力です。
下八重「ムラタは1990年代からMESを活用し、多くのデータを蓄積してきました。これは、データ活用が必須となった現代において大きな強みであり、膨大なデータは成長のためのジャンプ力になると考えています。まさに今がデータを活用するフェーズであり、ムラタの飛躍のためにも、『全社でつながる未来のモノづくり』を実現したいと考えています」