車載インダクタ部品のイメージ

タイムリーかつ的確な製品開発で車載ネットワークの進化を支えるムラタの車載用インダクタ製品(前編)

CASE時代のクルマの進化は車載ネットが鍵

現在、世界中の自動車業界の企業が、「CASE(コネクテッド、自動化、シェアード&サービス・セーフティ&セキュリティ、電動化)」を軸とした、クルマの機能と構造の大変革に取り組んでいます。クルマを再発明するかのような抜本的刷新が進められており、これからの10年間に起きるクルマの変化は、過去50年間に起きた変化よりも大きなものになることでしょう。

CASE時代のクルマは、もはや電子機器と呼んだ方がふさわしいものになりそうです。1978年に、「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)*1」が初めて市販車に投入されて以来、電子制御する車載メカニズムが徐々に増えてきました。いまでは、走る・止まる・曲がるといった基本機能から、安全性・快適性・効率性・付加価値などを盛り込むための機能まで、クルマに搭載されるありとあらゆる機能が電子制御システムで動いています。そして、1台に制御用コンピュータ(ECU)*2を数十台以上、メカニズムの稼働状況や走行環境を検知するセンサも数えきれないほど搭載するようになりました。

*1 アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)とは、滑りやすい路面でブレーキング中に起こる、ホイールロックを防ぐシステムを指します。ホイールがロックしそうな状況をセンサで検知した時、ブレーキ圧を自動調節して、ブレーキを踏み切った状態でも安全にハンドル操作を可能にします。ABSは、現代のADAS(Advanced Driver A ssistance System)につながる、事故の発生を未然に防ぐ「予防安全(アクティブセーフティ)」の先駆けです。

*2 ECU(Electronic Control Unit)とは、車載機器を制御するコンピュータを指します。既に、1台当たり100個以上のECUを搭載する車種も登場し、車載機器制御の高度化に伴い搭載台数は増加する傾向にあります。

電子化の集大成と言える完全自動運転車の実現を目指し、車載電子制御システムの進化はまだまだ続きます。そして個々のECUやセンサの性能向上は着実に進みます。加えて近年では、多くのECUやセンサの間をつなぎデータをやり取りするための車載ネットワーク性能や信頼性の向上が、クルマ全体の機能向上により色濃く影響を及ぼすようになりました。これは、カメラで得た走行環境の情報、GPSで得た位置情報などを考慮しながらステアリングを自動制御するような、多様な機能の連携動作が行われるようになったからです。

 

車載ネットではノイズ対策と構造のシンプル化が不可欠に

車載ネットワークの性能と信頼性を向上させることは、それほど簡単ではありません。ネットワークの高速化と複雑化によって、ECUやセンサをつなぐケーブルの信号に外部からノイズが混入することで、不具合を起こす可能性が高まるからです。狭い空間の中に高速通信用ケーブルが密集する車内環境は、車載ネットワークの信頼性を向上させるうえで極めて過酷な環境にあると言えます。より高速な車載ネットワークの実現に、ノイズ対策部品を活用した信頼性向上が不可欠になりました。

また、車載ネットワークの構成をよりシンプルにするための工夫も求められています。既にクルマに搭載されているケーブルの重量は、大型車では50~60kgにも達しています。より少ない数のケーブルで車載ネットワークを構成し、軽量化できれば、燃費(電気自動車の場合には電費)やクルマの運動性能の向上につながります。

インダクタ部品の役割と利用法

CASE時代の電子部品では、民生用で培ったムラタの技術が生きる

村田製作所(以下、ムラタ)では、車載ネットワークの進化を後押しするための多種多様な製品を提供しています。その代表例が、ノイズ対策部品*3のひとつであるコモンモードチョークコイル(CMCC)*4と、信号線と電源線を一本化する技術である「PoC(Power over Coax)」*5用のインダクタです。高い周波数を通しにくい特性を高周波ノイズの除去に利用したのがCMCCです。また、同じケーブルで送った交流の制御信号と直流の電源から交流の制御信号を分離し、直流電源だけを通すのがPoCフィルタです。

*3 ノイズ対策部品とは、ネットワークやコンピュータで扱う制御信号やデータの中に混入する不要なノイズを吸収・除去して、意味のある信号だけを通過させる電子部品のことを指します。

*4 コモンモードチョークコイル(CMCC)とは、差動伝送、平衡伝送、電源、音声ラインなどで問題になるコモンモードノイズを、向かい合わせた2つのコイルで信号に影響を与えることなく除去するフィルタのことを指します。ここでいうコモンモードノイズとは、信号伝送路と接地(機器の筐体や地面など)間の微小な浮遊容量で流れる電流に、接地の状態が揺れることで発生するノイズのことです。状態管理が難しい接地が介在しているため、伝送路での厳密な対策が求められます。CMCCには、積層型、フィルム型、巻線型がありますが、このうち高性能が求められる車載用には、巻線型が利用されます。

*5 PoC(Power over Coax)とは、車載カメラなどにつながる、データ伝送のためのラインと電力供給のためのラインを統合し、1本の同軸ケーブルでデータと電力の両方を送る技術です。

クルマの機能と構造が一変するCASE時代のクルマを実現するため、電子部品サプライヤであるムラタには、これまで以上に高い技術要求を満たす製品を、タイムリーに開発、提供することが期待されています。加えて、クルマに搭載される電子制御システムの規模が大きくなるため、これまでよりも多くの製品を安定した品質で供給していく体制も求められます。スマートフォンなど民生機器用の電子部品の供給を通じて、小型・高性能な電子部品をタイムリーに開発し、高品質な製品を安定して大量生産する力を保有するムラタの強みが、CASE時代のクルマに搭載する車載用電子部品の開発と供給で大きな効果を発揮することでしょう。

車載ネットワークの進化を支えるムラタのインダクタ製品

ムラタは、高度な車載ネットワークを構築する際に欠かせない多種多様なインダクタ製品を開発・供給しています。車載ネットワーク関連の技術開発は日進月歩で進み、CASE時代を目前に控えその進化はますます加速しています。ムラタには、最新の車載ネットワーク規格に対応した製品をいち早く開発し、必要な時に、必要な特性を備える電子部品を、必要とされる数だけ供給できる開発・生産体制が求められています。車載用インダクタ製品の開発に取り組むムラタのエンジニアに、この分野での強みと、技術革新が著しい環境下でタイムリーな製品開発をしていくための取り組みについて聞きました。

左からマネージャー 後藤/シニアプロダクトエンジニア 菊地

技術トレンドを見据えて、将来求められる電子部品を先回りして開発

⸺ムラタでは、どのような車載用インダクタ製品を提供しているのでしょうか。

フェライトビーズ、CMCCなどノイズ対策部品、電源回路、高周波回路用のインダクタなど、車載電子システムを構成する際に必要なインダクタ製品を網羅的にラインナップしています。

⸺車載用インダクタの品揃えが豊富なことで、お客様である自動車業界の企業にとっては、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。

ムラタは、インダクタ製品以外にも、コンデンサやサーミスタなど多様な電子部品を車載用として提供しています。ムラタにお声掛けいただければ、ワンストップで、様々な用途に向けて必要な電子部品がほとんど揃う点が、お客様の直接的なメリットになります。

また間接的には、クルマの電子制御システムの技術トレンドに沿った、効果的なソリューションをいち早く用意し、お届けできるメリットもあります。システムを構成する電子部品を包括的に提供することで、車載システムの最新ニーズに関する知見がムラタに蓄積し、将来求められる製品を先回りして開発できるからです。

⸺現在、自動車業界は大変革の渦中にあります。将来のクルマに搭載する電子部品には、これまでとは異なるニーズが次々と出てくることでしょう。新たなニーズが出てきた際に、必要とされる機能や特性を持つ電子部品をタイムリーに提供することは、極めて重要に思えます。

その通りです。特に、技術革新が著しい車載ネットワークの信頼性を高めるために不可欠なノイズ対策部品では、市場投入する時期よりもかなり早い段階で、将来必要になる特性を備える電子部品を、先回りして用意しておく必要があります。高度な自動運転システムが完成したとしても、ノイズ対策部品が手に入らなくて実車に搭載できないといった状況は、あってはならないことです。

大規模化、複雑化、高速化が進む車載ネットワーク

⸺車載ネットワーク関連で、ノイズ対策部品で対応すべき技術トレンドは、どのようなものでしょうか。

ADASの高度化や自動運転車の実現に向けて、クルマに搭載されるカメラやセンサの数が急激に増えています。同時に、ECUも高性能化し、データ処理能力が格段に高まっています。その結果、カメラやセンサとコンピュータの間をつなぐ車載ネットワークの高速化が進み、ケーブルの数も増え続けています。

こうした車載ネットワークの大規模化、高速化は、新しい車載ネットワーク規格の導入も伴いながら進められることになります。新しい車載ネットワーク規格ではノイズ対策部品に求められる要求も従来部品とは異なっており、多様化してきています。ムラタは、続々と登場する新しい車載ネットワークの技術標準に対応したノイズ対策部品を、タイムリーに提供していくことで、車載ネットワークの進化に貢献します。また、ノイズ対策部品という切り口とは少し異なりますが、車載用カメラで採用が広がっているPoCインダクタも車載ネットワークの進化を後押しする製品のひとつとして挙がります。

⸺ノイズ対策部品やPoCフィルタのようなインダクタ製品は、車載ネットワークの進化に欠かせない電子部品なのですね。

私たちには、もうひとつ重要な役割があります。自動車業界のお客様に向けて、新しい車載ネットワークに対応した新たなノイズ対策手法や評価手法を開発し、提案することです。現在の自動車業界は、自動運転や電気自動車、コネクテッド、サービス開発など、経営リソースを投入すべき開発案件が数多くあります。このため、ノイズ対策にまで手が回らないのが現状ですが、ムラタではこの分野での技術的な知見やノウハウを豊富に蓄積しています。社内に電波暗室を設け、そこで効果的なノイズ対策手法を研究し、提案して、自動車業界の要求に応えています。

⸺車載ネットワークなどの標準化活動は、主に欧米で進められています。ムラタは、海外での次世代技術開発や標準化活動の動きを、どのように把握し、対応しているのですか。

ムラタの海外拠点の営業オフィスメンバーが標準化団体の会合などに積極的に参加し、最新の情報を収集しています。さらに、その前段階として、標準化の対象となる技術に対応する車載ネットワーク用ICを先行開発する半導体メーカーと連携を取りながら、アプリケーションに必要なインダクタやノイズ対策部品を開発しています。

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