IoTやドローンを活用した“スマート農業”最前線

“スマート農業”が農業における課題解決策に

農業×先端技術=スマート農業。今、日本の農業は、このかけ算で新たな農業を切り拓こうとしています。

農林水産省によれば、基幹的農業従事者と呼ばれる自営農業就業者は、2000年の約400万人から2010年には約250万人に減少。2020年には136万人にまで減り、約70%の95万人を65歳以上が占めています。平均年齢は67.8歳。こうした農業就業人口の著しい減少、高齢化という課題を前にすると、農業のスマート化は急務だと言えるでしょう。

スマート農業のキーワードは、ロボット、AI、IoT、ICTなどの先端技術の活用です。自動走行トラクター、自動航行ドローン、収量コンバイン、収穫ロボット、ドローンなどを農業に導入することで課題を解決し、省力化、省人化しながら熟練者の作業力を確保。収量や品質の向上、コスト削減、所得も増える新たな農業を目指しています。

農林水産省は2019年からスマート農業実証プロジェクトをスタートさせ、全国148地区で技術実証実験を実施。ロボット、AI、IoTなどの先端技術を生産現場で使い、生産から出荷までの一貫した実験で経営効果を見極め、社会実装へとつなぐ取り組みを進めています。では、いくつかスマート農業の事例をみてみましょう。

IoTを活用し、トラクターの自動運転化が加速

日本を代表する農機具メーカーは、2018年に業界に先駆けて衛星、固定基地局を使った自動運転のオートトラクターとロボットトラクターを市場投入しました。衛星で自己位置を確認し、固定基地局からの補正情報を加えて位置精度を高めるシステムを採用しています。オートトラクターは、使用者が搭乗した状態でハンドル操作など一部を自動化した自動運転(自動運転レベル1)を実現し、熟練度に関わらず高精度な作業ができます。一方のロボットトラクターは、使用者監視下で無人自律走行(レベル2)し、無人自立作業が可能となっています。

こうしたIoT搭載のロボットトラクター(無人)と有人トラクターを組み合わせることで、作業者1人で2人分の作業面積をこなせる協調作業が実現できます。また、連続する2つの作業を1人で一度に行う複数作業の同時進行も可能となり、天候に左右されない適期作業を行うことも可能です。

無人作業領域も発売当初は圃場(ほじょう)面積(農作物を栽培する範囲)122×76メートルで69%でしたが、枕地(田植え機などが旋回するスペース)まで広げることで72%に引き上げました。さらに、外周作業工程を追加して88%にまで拡大。限りなく100%に近づけるチャレンジを続けています。

ロボットトラクターには多周波アンテナを搭載し、位置情報を安定させることで低速での自動走行が可能となり、同時播種作業を高精度化する技術開発にも取り組んでいます。また、自動で旋回するオート田植え機も商品化し、長時間作業の運転疲労軽減を図っています。将来的にはハンドルのあるものはすべて無人化するスマートパイロット化を掲げ、開発、商品化を進めています。

ドローンを活用した農薬散布やデータ取得

別の農業機械専業メーカーは、ベルト挟持(きょうじ)搬送技術を応用し、傷をつけずに人参、大根、スイートコーン、キャベツ、はくさいを自動収穫する自動収穫機の商品化を活発に行い、農業の自動化範囲を広げています。キャベツ収穫機の自動運転開発プロジェクトでは、カメラ、GPSアンテナ、自動操舵装置、制御装置を使い、キャベツの無人自動運転収穫機、自動運搬車の開発を進めています。

今年1月には大手通信会社、ドローンメーカーらがドローンを使った農薬散布や施肥(せひ)、農作物の生育の点検などのスマート農業の推進・普及、点検・保守サービス、ドローンで取得したデータを活用する各種ソリューションビジネスを手がける新会社を設立しました。ドローンを活用したIoT化によって、作業の自動化、情報の共有化、データ活用などに乗り出す動きもみられます。

こうした動きを受け、国内ドローンビジネス市場(サービス/周辺サービス/機体の合計)は2017年度の503億円から18年度はほぼ倍の931億円になり、20年度はさらに倍の1932億円と著しい伸長を続けています。市場予測として、23年度に4086億円、25年度に6427億円になるとみられています(インプレス総合研究所「ドローンビジネス調査報告書2020」調べ)。

ドローン市場をけん引するサービスの分野別市場推移をみると、農業が20年度まで2位以下を大きく引き離してトップに立っています。21年度は点検分野にトップを譲りますがその差はわずかで、3位以下の土木・建築、防犯、空撮分野などとの差は大きなものがあります。25年度には点検のほか、物流が大きく伸びると予測され、農業は全体の約2割の2位となりますが、1000億円市場になると期待されています。

こうした市場全体の動きに呼応し、農業の担い手側も、スマート農業に向けて圃場拡大、農地集約、荒廃農地・耕作放棄地対策、二毛作などの経営改革、改善に力を入れています。同時に、IoTを駆使したスマート農機を導入することの省人化・省力化の効果も現れています。たとえば、「経営耕作面積規模別動向」によれば、1経営体の経営面積は年々増加。10ヘクタール以上の経営体が占める農地割合は、2005年の34%から2020年には56%に上昇したという調査結果があります。農業が抱える課題解決に向けて、現場ではスマート農機の成果の最大化を図るさまざまなチャレンジが続いています。

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