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発電する繊維「PIECLEX」開発秘話(活用・展望編)

前回の技術解説編では、PIECLEX*の生産と開発を行うチームの責任者である塩見、製品開発・評価を担当する宅見から、圧電のメカニズムやPIECLEXの強み、開発を始めたきっかけや製品化における困りごとなど技術的側面を中心に聞きました。
今回は、PIECLEXの可能性や将来性、さらに環境問題など社会に与えるインパクトについてお聞きします。

*PIECLEXは株式会社村田製作所と帝人フロンティア株式会社の合弁企業であるピエクレックス社(株式会社ピエクレックス)が開発した抗菌・防臭繊維です。

PIECLEXの可能性

――すでに、マスクやTシャツ、靴下といった製品を販売されていますが、今後の商品展開についてお聞かせください。

PIECLEXの魅力は、高い抗菌性と優れた環境性だけではありません。合成繊維でありながら肌触りがシルキーでドライタッチであり速乾性にも優れ、ゴルフやサイクリングなど激しく体を動かすスポーツウェアには最適です。近年では伸縮性を持つジャケットも多く販売されているので、その裏地に使用すると高い抗菌・消臭効果が望めます。また、においが気にならないレベルの消臭機能を達成しているため、他の多くの繊維製品に使用できます。

――デザイン性については他の繊維と同様の表現が可能でしょうか。

多少の工夫が必要と考えています。たとえば染色技術難易度が高いという、一般衣料品に使われている汎用性のある合繊と異なる特性があります。このため現在、安定した染色を実現するための研究を進めています。一方で、生地の裏面にPIECLEXを、表面に綿やポリエステルなどを使うことで自由自在な色の表現が可能です。

PIECLEXで作られたTシャツと原糸のイメージ
綿やポリエステルなどと組み合わせることで自由自在な色の表現も可能

PIECLEXの将来性

――「でんき(電気)のせんい(繊維)で世界を変える」をコンセプトとして掲げるPIECLEXですが、どのような将来性をお考えでしょうか。

製品を手に取り話し合う宅見と塩見

たとえば医療に従事する方々が着用する衣服(ユニフォーム)や、病棟で使用する寝具、自動車関係ではシートの表面素材への利用を考えています。いずれも、アパレル業界とは異なる衛生・安全などの基準がありますが、PIECLEXの抗菌能力は衛生や防臭の面でお役に立てると思います。

また、PIECLEXとムラタの電子部品を繋ぐことで、新たな可能性を生み出していきたいと考えています。PIECLEXは加わる力の向きや強さに応じて発生する電気の量が変化するため、繊維に触れる・押す・撫でるといった動作を判別することができます。これを利用して、たとえば、ムラタのセンサや電池などを衣服に組み込み、繊維から電気を集め蓄電して給電するといったモジュールの開発が可能になります。

PIECLEXが環境問題に与える影響

――PIECLEXには生分解されるポリ乳酸が使われていますが、環境への影響についてお聞かせください。

PIECLEXについて語る塩見

PIECLEXはポリ乳酸でできており、さらにその原材料はトウモロコシなどの植物です。まず、これを育てる過程で大気中のCO₂を吸収します。そして、不要になったPIECLEXは土に埋めて処分します。ポリ乳酸は、土に埋めると生分解されます。したがって、焼却処理によるCO₂は発生しません。これは、大量生産した場合、カーボンニュートラルに大きく貢献することを意味します。

PIECLEXの開発で感じたことは?

――非常に優れた繊維であるPIECLEXですが、開発当初から現在まで、PIECLEXに関わりさまざまな経験をされたと思います。その間の心境の変化や、開発を通じて得られた満足感などがありましたら、お聞かせください。

宅見: 学生時代は生命医科学を専攻し、人体を意識した機械工学に没頭していました。入社当時は企画業務に従事していましたが、PIECLEXのプロジェクト発足をきっかけに、開発業務に携わるようになりました。PIECLEXのプロジェクトは、体の動きやフィット感など学生時代に蓄積した知識を活用し実践できる場であり、靴下の抗菌素材の開発という具体的な目標もあったので、開発には大きな夢やわくわく感がありました。そしてPIECLEXの商品化という念願が達成された今、さらなる高みを目指した研究・開発を続けています。もちろん、苦しいときもあります。しかし、PIECLEXを開発し始めた頃のわくわく感は、今も変わりません。

製品開発・評価担当の宅見のイメージ画像
製品開発・評価担当 宅見

塩見: ピエクレックス社に入社するまでは、繊維業界に従事していました。繊維業界からエレクトロニクス業界に来て、電気を使った抗菌という繊維業界では見ることができない夢と可能性を感じることができました。さらに環境問題への取り組みなど、PIECLEXの開発を通じて現在の社会が抱える問題に一石を投じることができたと感じています。

セールスと開発チームの責任者の塩見のイメージ画像
製造と開発チームの責任者 塩見

「PIECLEX」で伝えたいことをお聞かせください。

――最後に、PIECLEXの開発者として「これだけは伝えたい」ということとは、何でしょうか。

宅見: PIECLEXの抗菌効果は、一度着けていただければ、その価値がわかると信じています。その機能性の高さや価値は、徐々にではありますが社会に浸透しつつあることを実感しています。我々としては、まず素材開発+オリジナル商品で消費者の心を掴みたいと思います。

塩見: まず、PIECLEXは環境配慮型の繊維製品であるということを知って頂きたいと願っています。PIECLEX以外にも、環境への配慮を謳った繊維製品は多くあります。しかし、PIECLEXは材料や抗菌性能の付与、衣料製品としての快適性から廃棄処理、再利用にいたるまで、環境に配慮し尽くした繊維です。このようなPIECLEXの環境性能が本物であることを伝えていきたいと思います。

製品開発・評価担当の宅見のイメージ画像
セールスと開発チームの責任者の塩見のイメージ画像

ムラタにとってPIECLEXとは-取材後記

理工系である宅見と繊維業界出身である塩見。専門性が大きく異なる二人が出会ったピエクレックス社、それは電子業界と繊維業界の協業を象徴することなのだと感じました。そこから生み出されたPIECLEXは、電気と繊維の出会いであり、異業種協業による新しい開発スタイルの成果なのです。
この先、機能性や環境性、安全性などで多様化する社会のニーズに応える製品を開発するには、単一分野の知識や経験だけでは困難です。自らが持つ過去からの技術の蓄積や知識はもちろん、多種多様な分野の技術を高いレベルでまとめあげる能力が問われます。
抗菌力と快適さを高いレベルで実現し、利用者にストレスを与えることなく環境保護に貢献できるPIECLEXは、次世代の開発手法を取り入れたムラタの先進テクノロジーであると感じました。

宅見と塩見のイメージ画像

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