「水中CO2センサ」と「バイオマス素材を用いた軽量伝熱材料」で脱炭素化を後押しのメインイメージ

CEATEC 2023

「水中CO2センサ」と「バイオマス素材を用いた軽量伝熱材料」で脱炭素化を後押し

あらゆる業界・業種の製品/サービスにおいて、脱炭素化やリサイクルなどを後押しする環境性能の優劣が、購入する商品を決める際の検討項目として重要視されるようになりました。いまや商品の環境性能は、社会貢献に対する商品の作り手や使い手の意識の高さを示す以上の価値を持ち始めています。

村田製作所(以下、ムラタ)では、既存事業の中で培った技術と知見を活かして、サステナブルな社会の実現に貢献する新技術や新事業を創出しています。そして、2023年10月17日~20日に幕張メッセで開催された「CEATEC 2023」において、その成果の一端を披露しました。展示した開発成果の中から、脱炭素化と海洋環境の回復を後押しする「水中CO2センサ」について、技術・事業開発本部 技術企画・新規事業推進統括部の天白から、サステナブルな電気電子機器の実現に貢献する「バイオマス素材を用いた軽量伝熱材料」について、同マテリアル技術センター 環境技術開発部の大西から話を聞きました。

水中CO2センサ:ブルーカーボンの吸収・貯留量を可視化

――水中CO2センサとは、どのような機能を実現して環境保全に貢献する技術なのでしょうか。

天白 ムラタでは、大気中のCO2を直接減らす自然界の仕組みの1つであるブルーカーボンの働きを後押しする事業の創出に取り組んでいます。ブルーカーボンとは、海藻や海草が光合成を行うことで吸収・貯留するCO2のことです(図1)。そして、これまで定量化が困難だったブルーカーボンの吸収・貯留量を測定できるようにするのが水中CO2センサです。ブルーカーボンは、森林の樹木が吸収・貯留するCO2であるグリーンカーボンと並ぶCO2の吸収・貯留手段として注目されています。

藻場を保全して、ブルーカーボンを増やし、同時に生物多様性も回復していることを表した図
図1 藻場を保全して、ブルーカーボンを増やし、同時に生物多様性も回復

ブルーカーボンは、主に「藻場」と呼ばれる海藻や海草が生い茂る海中の森で吸収・貯留されます。藻場を維持・拡大することでブルーカーボンの吸収・貯留量を増やすことができます。また、藻場には、多種多様な小魚や海洋生物が住んでおり、藻場を増やすことは、生物多様性の保護にもつながります。

取り引き可能になったブルーカーボン、ただし吸収したCO2の定量化に課題

――ブルーカーボンの定量化は困難だったとのことですが、そもそもなぜ定量化が求められるのでしょうか。

天白 近年、ブルーカーボン生態系の保全・拡大を促進するため、藻場で吸収したCO2の量を経済価値に換算して取り引き可能にする「Jブルークレジット®認証」と呼ぶ制度が創設されました。脱炭素化目標の達成を目指す企業は、クレジットを購入することで取り組みを補うことが可能になり、藻場を育成・管理する企業や団体はクレジットを販売することで藻場の保全・拡大を加速させることができます。

Jブルークレジット®は、Jブルークレジット - ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)を通して取り引き可能になります。クレジットの申請に際しては、対象となる藻場でのCO2吸収量を定量化する必要がありますが、この作業は簡単ではありません。現在、藻場のCO2吸収量は、ドローン空撮やダイバーによる目視確認で藻場の面積や海藻の種類を調査することで算出しており、高い専門性と調査コストを要しています。このため、クレジットで得た資金が調査費用に消えて、藻場の管理に回らないといった、本末転倒な状況になりかねません。

こうした問題を解消するため、ブルーカーボンとして吸収・貯留されたCO2の量を簡単かつ低コストで測定できる手段が求められています。

新規事業推進統括部 天白のイメージ画像
新規事業推進統括部 天白

藻場でのCO2吸収量を手軽に測定可能な水中CO2センサを開発

――開発した水中CO2センサは、どのような原理で水中に溶け込んだCO2の量を測定しているのでしょうか。

天白 ムラタの既存製品である、ビルの空調管理や農業用ハウスのCO2濃度管理などにむけた非分散型赤外線吸収法(Non-Dispersive InfraRed)方式のCO2センサをベースに開発しました(図2)。このセンサは、校正不要で長期に亘って正確かつ安定的に利用可能です。ただし、これは大気中のCO2を検知するためのセンサであり、水に溶けたCO2は検知できません。そこでムラタは、水中のCO2を取り出す機構を付加して、水中CO2センサを実現しました。

村田製作所が開発した水中CO2センサと、それを活用した実測評価の結果を説明している図
図2 村田製作所が開発した水中CO2センサと、それを活用した実測評価の結果

すでに、藻場に持ち込んでその機能を検証し、水中生態系での光合成によるCO2濃度が日中の日照量の変化によって変動する様子などを検知できることを確認しています。藻場の機能を高め、効果的に面積を拡大していくための方法に関する知見も培われていくのではないでしょうか。このセンサを皮切りに、生物多様や海の見える化に貢献したいと考えています。また、児童や学生を対象にして、環境教育の中で藻場の役割をハッキリと感じてもらうといったことにも利用できると考えています。

藻場のイメージ画像

バイオマス素材を用いた軽量伝熱材料:サステナブルな電気電子機器を実現

――開発したバイオマス素材を用いた軽量伝熱材料とは、いかなる機能を実現し、どのような応用機器のサステナブル化に貢献する技術なのでしょうか。

大西 開発したバイオマス素材を用いた軽量伝熱材料は、その名のとおり、環境負荷の低減に貢献できるバイオマス素材を原料の一部として作った新たな軽量伝熱材料です。半導体やバッテリーなどの電気電子機器の発熱部と外側の金属部との間に適用することで放熱効率を高め、消費エネルギーを低減させます。

一般に、電気電子機器では、発熱する部品を機器の金属製筐体に接触させることで熱伝導の経路を作り、熱を外部に逃がしています。しかし、効果的に熱を逃がすための安定した接点を維持・確保することは困難なため、発熱部品と筐体の間に樹脂ベースの伝熱材料を充填して密着させています。開発した新伝熱材料は、ここに用いる従来材料の代替を狙ったものです。  
 

伝熱材料を構成するフィラーと樹脂の両方を見直し

――開発した新伝熱材料には、いかなる技術を投入し、どのような効果を実現したのでしょうか。

大西 一般に伝熱材料は、熱を伝える役割を果たすセラミックスなどの微粒子(フィラー)を樹脂で固めた構成を取っています。ムラタは、伝熱材料の環境性能をより高めるため、フィラーと樹脂の双方を見直しました。

マテリアル技術センター 環境技術開発部 大西のイメージ画像
マテリアル技術センター 環境技術開発部 大西

高性能な電気電子機器では、放熱用の伝熱材料が思いの外多く使われています。たとえば、スマート化が進む自動車の領域では、1台当たり5~6kgの伝熱材料が使われており、今後も増加していく傾向です。自動車メーカは、電気自動車(EV)の電費と消費する電力を作り出す際に排出するCO2の量を削減するため、部品材料レベルから車両重量の軽量化に取り組んでいます。

従来の伝熱材料では、フィラーとして、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムなど比較的重たい素材が使われていました。ムラタが開発した新伝熱材料では、より軽量で熱伝導率の高いフィラーを開発、伝熱材料の重量を従来比で40%削減させました(図3)。

村田製作所が開発したバイオマス素材を用いた軽量伝熱材料の効果のイメージ画像
図3 村田製作所が開発したバイオマス素材を用いた軽量伝熱材料の効果

さらに、従来の伝熱材料では、樹脂としてシリコーン樹脂を使っていました。ところがシリコーンは廃棄する際に高温での焼却もしくは埋め立て処理されており、1kgのシリコーンを廃棄する際に約2kgのCO2を発生させていました。ムラタは、樹脂としてバイオマス素材を採用、実質的なCO2の排出量をゼロにしました。バイオマス素材は、500℃と比較的低温で完全分解可能であり、フィラーと分離させて、容易にリサイクルできます。

バイオマス素材を用いた軽量伝熱材料のイメージ画像

加えて、開発した新伝熱材料は、従来のシリコーンよりも線膨張係数が1ケタ小さい特長も備えています。温度変化の激しい環境で伝熱材料を利用すると、温度変化にともなう樹脂の膨張と収縮の繰り返しによって、フィラーが分離する現象が起きる可能性があります。新伝熱材料では、この現象の発生を防ぎ、電気電子機器の信頼性向上と寿命延長を実現できます。

新材料の中に息付くムラタのDNA

――伝熱材料は、これまでムラタが扱ってきた商品とは異なるカテゴリーの商品です。なぜ、こうしたユニークな新伝熱材料を開発できたのでしょうか。

大西 開発した新伝熱材料は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造などで培ってきた、均質で微粒な材料を作成し、それを均等分散させる技術を応用して生み出しました。ムラタの技術の蓄積があったからこそ実現した材料だと言えます。

開発した新伝熱材料は、自動車以外にも、高性能化によって電子回路での発熱量が増大している携帯電話の基地局など、さまざまな分野に応用できます。放熱材料の軽量化や環境性能の向上が求められる電気電子機器は、これからますます増えるとみています。

培ってきた技術と知見を活かし、環境保全に貢献

今回、CEATECでの水中CO2センサやバイオマス素材を用いた軽量伝熱材料の展示を通じて、ムラタがこれまで培ってきた技術や知見を活用すれば、意外な切り口からサステナブル化に貢献できる革新的技術が生まれる可能性があることを知っていただきました。そして、ムラタブースを訪れたお客様からは、「自社で扱う商品の価値を高めるためには、こうした環境性能を向上できる技術を積極導入していく必要があると感じています」といった声が多く聞かれました。社会と時代の要請に応えるため、ムラタが貢献し、提案できることはたくさんありそうです。

※記事の内容は、記事公開日時点の情報です。記事内で紹介している製品の仕様、外観は予告なく変更する場合があります。

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