ワイヤレス給電(無線電力伝送)でより快適な社会を実現する技術とアイデアのメイン画像

ワイヤレス給電(無線電力伝送)でより快適な社会を実現する技術とアイデア

1. ワイヤレス給電の現状と課題、そして展望

ワイヤレス給電とは、無線電力伝送、無線給電、WPT(Wireless Power Transfer)とも呼ばれ、文字通りケーブルを接続することなく電子機器や電動機器などに給電するシステムのことを指します。

はじめに、その現状や技術発展における課題、今後の展望などについて解説します。

1.1 ワイヤレス給電の現状 ―技術発展が求められる背景―

現在普及しているワイヤレス給電のイメージ画像
現在普及しているワイヤレス給電のイメージ

現在、一般的に普及しているワイヤレス給電システムといえば、スマートフォンなどの機器を給電器の上に置いて充電するものが代表的です。これによりケーブルの抜き差しは不要になったものの、給電できる距離が極端に短く、ほぼ接触した状態を維持しなければなりません。また、給電器の上に対象物を置く際、コイルに対して位置ズレがあると充電されないというトラブルが生じます。そこで、給電器をマグネットで固定するタイプも多用されていますが、ケーブルの抜き差しとさほど手間が変わらないともいわれます。

一方、今後のワイヤレス給電システムは、さまざまな分野と用途でストレスなく効率的に使えるよう、研究や開発が進められています。
その背景として、産業用/民生用ともに多くの機器がワイヤレスでのデータ通信が可能である一方、ケーブルでの給電や内蔵したリチウムイオン電池を充電するための配線が必要であることが挙げられます。
たとえば、産業用途では多数のワイヤレス機器に対して同時に給電や充電を要する場合があります。ワイヤレス給電システムは、このようなシーンにおいて、給電用ケーブルの接続やチェックを行うための工数やコスト、トラブルを削減し、給電や充電の作業を劇的に効率化できる技術といえます。

1.2 ワイヤレス給電の未来 ―あらゆる分野への応用―

ワイヤレス給電の将来像として、まずはIoT機器をある場所に無造作に置くだけで給電・充電するようなシステム、そのさらに発展形としてEV(電気自動車)へのワイヤレス給電などの登場と普及が考えられます。技術の発展に伴い、使用者が給電という行為を意識することなく生活したり業務を行えたりすることが、この技術が目指すひとつの姿です。

将来期待されるEV(電気自動車)へのワイヤレス給電のイメージ画像
将来期待されるEV(電気自動車)へのワイヤレス給電のイメージ

ワイヤレス給電の技術発展がメリットをもたらす分野も多岐にわたります。先に挙げた個人ユーザ向けのガジェットやEV(電気自動車)のほかにも、たとえば、製造や物流、医療、遊興娯楽施設、スポーツやコンサートといったイベントなど、さまざまな分野で機器のIoT化が進むなか、ワイヤレス給電の進化は大きなメリットをもたらすでしょう。

1.3 ワイヤレス給電の発展における課題 ―安全性確保や法整備など―

将来的にはワイヤレス給電のイノベーションによってバッテリ残量や充電を気にすることがなくなり、またワイヤレス給電を前提にメインのバッテリを搭載しない機器など、利便性が向上し、未来の生活や社会活動に寄与することが望まれています。
こうしたワイヤレス給電のイノベーションに必要な要素として、ワイヤレス給電の技術や技法の研究、人体への悪影響の回避など安全面の追求のほか、電磁波を扱ううえで使用可能な周波数や出力などを規制する法整備も世界各国において必要不可欠といえます。

1.4 ワイヤレス給電の技術発展における展望 ―モバイルからモビリティへ―

先述の課題から、ワイヤレス給電の発展はスマートフォンやウェアラブル端末、さまざまなIoT機器、小型の撮影用ドローンなど比較的小さな電力でまかなえる小電力の「モバイル分野」からイノベーションが始まっています。
技術開発や法整備などの観点から、その次に人や荷物を輸送できるだけの動力を持ち、より大きな電力を必要とする輸送用ドローンや電動アシスト自転車、そして電動バイク、EV(電気自動車)といった大電力の「モビリティ分野」へと発展していくことが考えられます。

ワイヤレス給電は小電力の「モバイル分野」から開発・普及が進み、大電力の「モビリティ分野」に発展のイメージ画像
ワイヤレス給電は小電力の「モバイル分野」から開発・普及が進み、大電力の「モビリティ分野」に発展

また、送電する電力の大きさに関わらず、人が搭乗した状態のEV(電気自動車)や、医療機器の分野ではインプラント機器への給電など、高い安全性を確保したワイヤレス給電の技術も画策されています。
次項では、既に研究開発や実証実験などが進行されており、先行して普及するであろう、モバイル分野のワイヤレス給電の用途に関するアイデアを紹介します。

2. モバイル分野におけるワイヤレス給電の活用アイデア

現在一般化に向けて研究開発や実証実験が進んでいるのが、モバイル分野のワイヤレス給電です。ワイヤレス給電にはさまざまな方式がありますが、ここでは主に安全にワイヤレス給電を実践する方法として、電磁波を遮蔽する空間(容器内やロッカー内、庫内など)に対象物を入れておくだけで給電できるワイヤレス給電システム(空洞共振方式WPT)の活用アイデアをいくつか紹介します。

2.1 出荷後のリチウムイオン電池(LiB)搭載製品の過放電防止

店頭の在庫品を棚の中で一括ワイヤレス給電するイメージ画像
店頭の在庫品を棚の中で一括ワイヤレス給電するイメージ

ノートPCやタブレット、スマートフォン、ウェアラブル端末、完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)など、いまや多様な製品がリチウムイオン電池を搭載しています。
一方で、製品が梱包・出荷され、店頭陳列または倉庫保管されている間に、リチウムイオン電池が放電し、そのまま放置すると一部の製品では過放電が発生します。
そこで、梱包された状態の製品に対し一括でワイヤレス給電を行えば、輸送車庫内や店頭の陳列棚、店舗のバックヤードや倉庫での保管時に充電でき、リチウムイオン電池の過放電を防止することができます。

2.2 業務用ウェアラブルデバイスへのワイヤレス給電

設備点検にARグラスを使用するイメージ画像
設備点検にARグラスを使用するイメージ

製造現場や建設現場において、IoT機器のひとつとしてウェアラブルデバイスが浸透してきています。たとえば、作業者の健康状態をモニタリングして事故を防止したり、設備点検などにおけるチェック項目をARグラスで確認したりといった活用がみられます。また、IoT機器以外にも過酷な気候での作業による身体への負担を軽減するために、ファンやヒーターを搭載したウェアなどにも給電が必要です。
休憩時間や業務後、これらの機器を位置合わせなどなく無造作にワイヤレス給電用のボックスへ入れておくだけで充電できれば、作業者や設備の安全に関わる機器のバッテリを確実に充電し、ストレスなく安心して使用することができます。

2.3 遊興・娯楽施設や音楽・スポーツなどのイベント備品へのワイヤレス給電

施設やイベント会場のウェアラブル端末など

インカムを使用するイベントスタッフのイメージ画像
インカムを使用するイベントスタッフのイメージ

たとえば、テーマパークや遊園地、大規模なコンサートやスポーツなどのイベントでは、数多くのスタッフがインカムやトランシーバなどの無線通信機器を使用します。それらをボックスに入れてワイヤレス給電することで、多忙な現場で1台ずつ給電用ケーブルを繋ぐ手間を省き、複数同時充電が可能です。

娯楽施設のアトラクションで使用するVRゴーグルなど

VRゴーグルを使ったアトラクションのイメージ画像
VRゴーグルを使ったアトラクションのイメージ

エンターテインメントのハイテク化が進む昨今、娯楽施設では来場者がVRゴーグルなどの機器を身につけるアトラクションも増加しています。利用客の入れ替わり時に素早く確実に複数台の機器に同時にワイヤレス給電することで、充電切れのミスなく娯楽を提供できます。

スポーツ分野のIoT化した道具や備品など

さまざまな競技の道具がIoT化されていく可能性のイメージ画像
さまざまな競技の道具がIoT化されていく可能性

スポーツの分野でも、より迅速かつより正確なジャッジを実現するためにボールなどにセンサを導入するなどIoT化が進んでいます。
多くの球技では多数のボールを入れ換えて使用するため、ボールを格納場所に入れておくだけで内蔵されたセンサに対し複数台同時にワイヤレス給電すれば、電池切れによるトラブルの心配がありません。ジャッジに関わる大切な備品の準備をワイヤレス給電でスムーズかつ確実に実行し、運営の効率化を図ります。

2.4 製造業・物流業のIoT機器へのワイヤレス給電

スマートファクトリーのIIoT機器へのワイヤレス給電

FA(ファクトリーオートメーション)工程と作業者のイメージ画像
FA(ファクトリーオートメーション)工程と作業者

ワイヤレス給電は、スマートファクトリー化に伴いIIoT(Industrial Internet of Things:産業のIoT)機器が数多く導入されている製造現場との親和性が高いといえます。
部品や製品の有無やOK/NG品の判別、位置決め、加工後の寸法測定、設備・機械のデータ取得による予知保全を目的としたセンサ類などにおいて、データ伝送をワイヤレス化したものやバッテリで駆動するものが増加しています。
小型部品または製品の自動加工工程は、多くの場合クリアケースで覆われていたり、電子部品の製造工程であればクリーンルームが多用されたりします。このような限られた空間の中でIoT機器にワイヤレス給電を行うことにより、配線なしでの給電が可能となります。

倉庫で使用する無線コードリーダーへのワイヤレス給電

倉庫のラインサイドで無線コードリーダーを使用のイメージ画像
倉庫のラインサイドで無線コードリーダーを使用

製造現場や物流倉庫では、在庫管理や出入庫管理、トレーサビリティ実現のためにバーコード/2次元コードリーダーが多用されています。インラインでの自動読み取りを導入していても、急な変更や読み取りエラーなどへの対応では人の手での対応が必至です。バッテリ駆動かつ無線通信でデータの送受信が可能な手動コードリーダーが普及していくなか、こうした機器も棚状のボックスに入れるだけで複数台同時にワイヤレス給電すれば、効率的かつ確実な運用が可能となります。
また、トラックの荷台や貨物コンテナなどにワイヤレス給電システムを搭載することにより、輸送中も梱包された状態のリチウムイオン電池搭載製品を格納しておくだけで、複数台を同時に充電しておくことができます。

3. 村田製作所が研究開発を進めるワイヤレス給電技術

村田製作所が研究開発を進めているワイヤレス給電技術のひとつに「空洞共振方式WPT(Wireless Power Transfer)」という方式があります。

空洞共振方式WPTの活用シーンとしては、2. モバイル分野におけるワイヤレス給電の活用アイデアで挙げたようなモバイル分野を対象としたワイヤレス給電が考えられます。

空洞共振方式のイメージ画像

空洞共振方式を用いたワイヤレス給電システムでは、小型な受電器を接続した対象物を、電磁波を遮蔽できる筐体の中に入れておくだけで給電が可能です(筐体の大きさや形状、素材、受電デバイスの形態は給電対象に合わせて開発します)。

これにより、従来のワイヤレス充電器のような位置ズレによって給電されていないというトラブルがなく、複数の対象物を箱の中にさえ入れておけば、複数同時に給電・充電を行うことができます。また、電磁波の漏洩がないこともメリットといえます。

村田製作所では、空洞共振方式の活用アイデアをともに考えていただける共創パートナー様を募集しています。詳しくは関連リンクをご覧ください。

関連リンク

関連記事