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スマートファクトリーの目-マシンビジョンとは

マシンビジョンとは

「マシンビジョン」とは、広い意味ではデジタル技術を用いた視覚情報、光学情報の活用を指します。しかし、なかでも製造業の生産現場への導入が進んでいるため、マシンビジョンは工場での自動検査や工程自動化などで活用されるデジタル画像技術を指すことが一般的です。 
マシンビジョンは、

・撮像部(カメラ) 
・インターフェース部(ボード/汎用インターフェース) 
・処理エンジン部(コンピュータ) 
・処理制御部(ソフトウェア)

などで構成されています。 
撮像部で得た画像データは、インターフェース部を介して処理エンジン部に取り込みます。処理エンジン部では処理制御部が二値化*1やエッジ検出*2など画像処理を行います。そして、画像処理が終わった画像データをロボットや産業機器へ出力します。

*1:画像をあらかじめ設定した画素値(しきい値)で白と黒の2色に変換する処理。
*2:画像内の明るい部分と暗い部分の境界を検出する処理。

マシンビジョンの構成のイメージ画像
図1:マシンビジョンの構成

マシンビジョンは自動検査や自動認識・自動測定などに利用されます。たとえば、自動検査や自動認識は人による検査に比べて高速です。また、自動測定では人では測定できない小さな値の差も正確に判別することが可能です。さらに今後はAI機能と連携することで、よりインテリジェンスな利用が期待されています。

マシンビジョンとコンピュータビジョン、ロボットビジョンの違い

マシンビジョンに似た技術としては、コンピュータビジョンとロボットビジョンがありますが、それぞれ役割が異なります。ここでは、これら役割の違いについて解説します。

マシンビジョンとコンピュータビジョンの違い

「コンピュータビジョン」とは、マシンビジョンの機能に機器の制御機能を付加した技術です。コンピュータビジョンは、マシンビジョンが出力するデータを基にさまざまな機器を動作させることができます。たとえばマシンビジョンが出力する画像データとコンピュータが生成するCADデータを組み合わせて加工機を制御したり、ライン作業の進行状況を撮影した画像データを基にコンベアの搬送速度を調整したりといったことが可能です。
また、コンピュータビジョンの活用範囲は広く、スマートファクトリーはもちろん、スポーツでは審判補助システムやバーチャルリプレイ、エンターテインメントではプロジェクションマッピングなどにも活用されています。

コンピュータビジョンの活用例のイメージ画像
図2:コンピュータビジョンの活用例

マシンビジョンとロボットビジョンの違い

「ロボットビジョン」とは、ロボットの視覚機能をマシンビジョンに付加した技術です。マシンビジョンではさまざまな装置にカメラを取り付けて画像データを得ますが、ロボットビジョンではロボットアームの先端にカメラを取り付けて画像データを得ます。これにより、ロボットは自らが得た視覚情報を基に動作することが可能になります。
たとえば、ロボットビジョンを使用しないロボットは、あらかじめプログラムした、一定の動作しか実行することができません。一方ロボットビジョンを搭載したロボットは、ロボットアームが対象物の近くまで移動すると、後はカメラからの画像データを基に逐次対象を特定して動作を実行します。
このような動作制御が可能であることから、ロボットビジョンを搭載したロボットはプログラムでは指定できない細かくて正確かつ臨機応変な動作が可能です。

ロボットビジョンの活用例のイメージ画像
図3:ロボットビジョンの活用例

スマートファクトリーにおけるマシンビジョンの活用事例

スマートファクトリーでマシンビジョンは、さまざまな作業に活用されています。ここでは、マシンビジョンの活用事例を紹介します。

超高速で文字を読み取る-OCR(Optical Character Recognition/Reader)

OCRは、手書きまたは印刷された文字をイメージスキャナやデジタルカメラで読み取る技術です。マシンビジョンは、製品に印刷された二次元コードやシリアル番号、製造年月日などを読み取ります。読み取ったデータは、印字品質や正しい文字が印刷されているかといった検査や、次の工程の選別などに活用されます。多くの場合、OCRが読み取る対象の製品は高速でラインを通過します。このため、マシンビジョンには高速度で撮影できるカメラや、高速処理が可能な画像処理システムが使用されます。

製造ラインでのOCRのイメージ画像
図4:製造ラインでのOCR

2D、3Dで形状を読み取る-外観検査

製造ラインでの外観検査は、マシンビジョンの活用が最も有効とされます。マシンビジョンによる外観検査は、たとえば切削や成形後の製品の精度や部品の装着状態などの検査を高速かつ正確に行えるため、生産効率の向上と品質維持に欠かせません。対象物の表面は、光沢の有無や照明の吸収率などが多種多様です。マシンビジョンに使用する照明は、照明の方法や光線の色を変えることで、さまざまな表面状態の製品の検査を可能にしています。また、ステレオ方式*3やToF(Time of Flight)方式*4などの測定方式、構造化照明*5などの撮影方式を備えた3Dカメラでは、奥行き(深さ)を測定することもできます。

*3:2台のカメラで三角測量を行い対象物までの距離を測定する方法。
*4: 光源が照射した光が対象物で反射して、光検出器に返ってくるまでの時間で対象物との距離を測定する方法。
*5:ある特定の濃淡パターンの光を照射する照明方法。

3Dカメラによる外観検査のイメージ画像
図5:3Dカメラによる外観検査

特定の部品をつかみ取る-ピッキング

製造ラインでの「ピッキング」とは、必要な部品や製品を集める作業(ピックアップ)を指します。マシンビジョンを活用すると、一つのケースにさまざまな色や形状の部品や製品が混在していても、指定した色や形状の部品を特定しピッキングすることができます。

ロボットによるピッキングのイメージ画像
図6:ロボットによるピッキング

ロボットに視覚機能を与える-ロボットの動作制御

昨今の産業用ロボットは、動作精度の高さから精密作業にも用いられています。たとえば、微細部品の取り付けやはんだ付け、溶接などで活躍しています。しかし、このような作業をプログラミングで制御するには高精度な位置決め装置が必要となります。マシンビジョンを活用したロボットビジョンなら、ロボットアーム先端に取り付けたカメラからの画像データでロボットが精密な位置合わせを行うため、高精度な位置決め装置は不要です。

ロボットによる微細部品の取り付けのイメージ画像
図7:ロボットによる微細部品の取り付け

これからのマシンビジョン-AIビジョン

さまざまな産業機器のAI化が進む中、マシンビジョンの進化の一つの形として期待されているのが「AIビジョン」です。

AIビジョンとは

AIビジョンはカメラやカメラ機能をもつスマートフォンなどに軽量なAIチップを搭載し、撮影した画像データを推論するシステムです。AI(人工知能)を使用する点でコンピュータビジョンに似ていますが、コンピュータビジョンは主にクラウドAIサービスで推論します(図8)。
一方のAIビジョンはエッジデバイスにAIモジュールを搭載し推論を行い、推論結果はエッジサーバに保存します。クラウドAIとの通信は、必要な場合にのみ行います。(図9)。

コンピュータビジョンのイメージ画像
図8:コンピュータビジョン
AIビジョンのイメージ画像
図9:AIビジョン

このため、AIビジョンはコンピュータビジョンに対し
・クラウドAIサービスとの通信量を減らすことができる
・センサで収集したデータの外部への漏えいを防ぐことができる
・即答性に優れる
などのメリットがあります。なお、AIビジョンで使用するカメラやスマートフォンを「エッジAIデバイス」といい、エッジデバイスで推論する方式を「エッジAI」といいます。

AIビジョンの実現に必要な技術とは

上記のような利点があるAIビジョンですが、エッジデバイスに搭載するAIモジュールには、以下のような機能が求められます。
・バッテリー容量に制限があるため、省電力性に優れていること
・即答性を求められるため、高速処理できること
・限られたスペースに搭載するため、放熱性に優れていること
そしてなにより、小型であることが重要です。

まとめ

マシンビジョンについて、また似た言葉であるコンピュータビジョンとロボットビジョンについて、さらにAIビジョンについても説明しました。今後は、画像データに対するディープラーニングの進化に伴い、マシンビジョンとAIは密接な関係をもって進化していくことが予想されます。また、AIもクラウドAIとエッジAIを使い分けることによって、新たなシステムやプロダクトの開発が見込まれます。
これらのトレンドは、より人の目に近い視覚情報と人を超える判断能力を求めるスマートファクトリーのロボットや自動検査・自動認識・自動測定装置などにとって、欠かすことのできない技術となっていくでしょう。

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