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目指すべきは住人の多様性に対応できる生活支援技術 スマートホームの要素技術を提供するメーカーへの期待

理想のスマートホームの構築、いかなる技術をどのように導入すべきか?

住宅には、老若男女、生活習慣や価値観などプロフィールが異なるさまざまな人が暮らします。スマートホームは、そうした多様な場に高度な情報通信技術を導入することで実現します。いかなる技術を導入すべきか、効果や使い勝手、さらには安全性まで多角的な視点から事前にキッチリと検証しておく必要があります。

北陸先端科学技術大学院大学が立地する、いしかわサイエンスパークには、将来のスマートホームに導入する技術を検証するための実証実験棟が建てられています。そこは建築学会の標準設計に基づいた間取りで、住人のプロフィール(家族構成や住人それぞれの一日の行動など)を明確に定めた住環境です。実証実験棟の内部と周辺には、多種多様なセンサやスマートホームを構成するさまざまな装置・設備が備えられ、市場投入する前のスマートホームの構築にむけた新たな技術や装置・設備を事前検証しています。さらには系統電力網や広域通信ネットワークを模擬的に実現するシステムもつながれ、スマートホームと社会が円滑・安全に連携・機能できることも検証しています。

同大学の丹 康雄副学長・教授の下には、スマートホーム用の技術や装置・設備を実際に検証したからこそ知り得る知見が豊富に蓄積されています。同教授は常に住人を中心に置き、寄り添って、さりげなく暮らしを支援することが目指すべきスマートホームの役割だとしています。そうした理想的なスマートホームを実現するためにはいかなる技術が必要になるのでしょうか。また、スマートホームを実現する高度な情報通信技術を家庭へと円滑に導入するためには、どのような点に留意して技術開発を進めればよいのでしょうか。さまざまな研究成果と実証実験から得られた知見を基に見解を伺いました。

家庭に導入する情報通信技術はどうあるべきか。業務/産業用技術との違い

――スマートホーム向けの要素技術やシステムを開発する際には、住人の導入目的や属性が千差万別であることを想定する必要があるという示唆を丹教授からお聞きしました。建物自体を賢くしようとする動きとして、「スマートビルディング」というものもあります。スマートホームとスマートビルディングでは、システムを構成する技術にどのような違いがあるのでしょうか。

プライベートな空間である住宅と、オフィスや商業施設などが入居する公共な場であるビルでは、スマートな自動化システムを構築する際と運用する際の管理体制が大きく異なります。技術開発時、さらには開発した技術を標準化する際にはこの点に留意する必要があります。

丹 康雄氏のイメージ画像1

一般的な住宅の場合にはシステムを構築・運用する管理者がいません。しかも住人が、住宅完成後に当初想定していなかったような機器/設備を導入しホームネットワークにつないでいきます。つまり後からどんどん多様化、複雑化していくことを前提とした、スマートホームの技術を開発する必要があるのです。

――技術を標準化する際にも違いに留意する必要があるとのことでしたが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

スマートホーム向けに標準化する技術は、プラグ&プレイで、つないだら簡単・確実に機能する状態にしておく必要があります。スマートホームでは専門知識が必要な技術では広く普及することはありません。高度な情報通信技術を導入し、扱う際は電源コンセントにプラグをつなげば家電が使えるようになるのと同等の使い勝手が要求されます。

スマートホームの進化にむけた、センサなど電子部品を供給するメーカーへの期待

――理想のスマートホームを実現する上で、住宅の内外の状態や状況をつぶさに把握するためのデータを収集するセンサの重要性が高まるというご指摘でした。今後、スマートホームの進化を後押しするためには、センサや電子部品はどのように進化していく必要があるのでしょうか。

まず、データをクラウドに転送するための通信技術とそれに関わる電子部品の進歩に期待します。理想的には一般的な住宅に約1000個の多様なセンサを設置したいという話をいたしました。ただし、私たちが新しい技術の検証に利用している実証実験棟では、多くのセンサを有線でつないでいます。そのままではセンサの設置に膨大な労力とコストが必要であり、適切かつ確度の高いデータを収集することが困難です。

もちろん無線技術を使うという方法もあります。ですが、その技術規格上で数万個つながるフィールドが用意されている仕様だったとしても、実際には1000個のセンサをつないだ状態では任意のタイミングで転送したいサイズのデータを確実に転送することができません。1個1個のノードが独立して機能し、1000個オーダーのセンサがつながり円滑にデータ転送できるシステムが必要なのです。

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有線ならば確実なデータ転送が比較的容易になりますが、もっと簡単に施工できる有線技術が必要になってきます。私たちは「シングルペアEthernet(SPE)」と呼ぶ低コスト、省スペースでのセンサ接続を可能にするIoT向け通信技術を日本国内で推進する団体を設立しました。この技術は、住宅内で多数のセンサを容易にネットワーク化するために非常に有効な技術であり、ひとつの解決策になると考えています。

――確かに1000個ものセンサを設置するためには何らかの技術革新が必要になりそうです。

より多くのセンサを住宅に導入する方法として、まったく違った見地からのアプローチもあります。

まず、既存の家電製品や住宅設備の中に組込まれているセンサを利用するという方法です。より少ない投資で、より多くのセンサを活用することを目指した利用法です。例えば実際にその効果を検証した地域では、ネットワークにつながる空気清浄機などIoT家電に内蔵されているセンサから得られる気温や湿度などのデータを収集し、デジタル田園都市データ連携基盤のクラウドに蓄積。そこで住人の情報に紐づけて個々の高齢者の生活リズムや在宅状況を把握できるようにしようとしています。高齢者を対象にしたヘルスケアや災害対策、エネルギーマネジメントを狙った取り組みです。近年の家電製品には、効率的で付加価値の高い機能を実現するためのさまざまなセンサが標準搭載されています。中には、空気質やにおい、ほこり、CO2など価値ある情報を収集できる機種もあります。家電製品をネットにつないで、それぞれの機器を機能させるためのセンサを別の目的のデータ収集に利用しようとするものです。もちろん、より多様で高精度のデータを収集できるセンサが、家電製品に搭載されていればそれに越したことはありません。

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また家庭用では実現していないのですが、センサ自体に移動機能を持たせるという方法も検討する余地があります。近年、橋梁などの道路インフラの点検・保守を効率化するためにドローンを使った点検が行われるようになりました。IoTセンサを橋梁の要所に設置してもデータ収集は可能ですが、ドローンを使った方が目的と状況に応じた柔軟なデータ収集が可能になります。住宅内においても固定設置したセンサだけでは対応できない部分が必ず出てきます。状況に応じて集中的に情報収集したい場面もあります。例えば住宅内の家電、設備が稼働しているかどうかは、それぞれに付けられた可動表示用LEDなどを見れば一目瞭然です。個々を監視するためのカメラを設置することは非効率ですが、掃除ロボットのように住宅内を動き回る装置にセンサやカメラを搭載すれば機動力のある情報収集が可能になります。

センサ技術の新機軸、標準仕様の汎用マルチファンクション・センサが登場する可能性

――現時点での家電製品には、その機器が機能するために機能・性能を最適化したセンサを選択して搭載していると思います。スマートホームが本格的に普及する時代には、スマートホーム全体の機能・性能を向上させるため、家電製品単独で見ればオーバースペックなセンサを搭載しておくことに一定の価値が生まれてくるということでしょうか。

その通りだと思います。いかなる家電製品にも、さらにはメーカーが異なっても、多様なデータをより高精度で収集できる標準化した汎用マルチファンクション・センサが広く搭載されるような状態が理想だと思います。もちろん同様のセンシング機能を持つデータ収集専用のIoT端末を住宅内の各所に配置してもよいのですが、センサ機能だけの機器を置くことやそこで電力を常時消費することに抵抗を感じる声もあるでしょう。ですから家電製品などに汎用マルチファンクション・センサを搭載する方法の方が自然だと思います。実際ある家電メーカーは、すでにオーバースペックにも見えるセンサやスピーカーを通信モジュールと一体化したものを自社の家電製品に搭載するようになってきています。そして、IoT家電として高い評価を得ています。

一般に、センサは機能や性能ごとに品種が細分化された多品種な製品です。汎用マルチファンクション・センサのニーズが高まれば少品種大量生産化して、センサメーカーにとっても事業効率が高まるメリットが出てくる可能性もあり、センサビジネスの新機軸になるかもしれません。

スマートホーム関連企業が多様、理想的な連携にむけて用意すべき標準・枠組み

――スマートホームの構築と運用に関わる企業の業界・業種は多様です。こうした多様な企業が同じ方向を向いて目指すスマートホームの実現に取り組むためには何をしたらよいのでしょうか。

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多様な企業がスマートホームについて共に考え、議論し、連携・合意しながら技術開発や製品開発、サービス提供をしていく場が必要になります。各企業の連携が円滑に進まないと、スマートホームが機能しないので、各企業が他社の立場を許容しながら開発や事業化を進めなければなりません。スマートホームの実現にむけた全体マップを明確にし、各業界の役割、立ち位置を明確にしてコンセンサスが取れた方向に向かっていくことが重要です。どの企業のビジネスにもならない部分も出てくるでしょうから、そうした領域は大学や国が方向性を示す必要があるかと考えています。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)のスマートホーム部会では、まさにこうした業界・業種を超えたコンセンサスを促す活動をしています。

――センサや通信機能の実現に欠かせない電子部品など、スマートホームに欠かせない技術を供給しているサプライヤには、どのような役割を期待しますか。

まずデバイスメーカーは、応用市場の規模が見えてから、企業間連携や業界団体の取り組みに参画しがちです。スマートホームのように、これから生まれる市場を共に創出する段階から参加していただけるとデバイスレベルからのシステムの進化が加速すると思います。その際、スマートホームのシステム全体のあるべき姿を議論することになるので、システム的発想を持つデバイス開発者の参加に期待したいところです。

Society5.0の時代には、あらゆる種類の機器やシステム、行政のシステムまでもがデジタルでつながるようになります。眼の前の見えているビジネスだけでなく、そうした来るべき時代にいかなるデバイスが必要になるのか共に洞察していければと思います。

まとめ:センサなど電子部品の進化で、スマートホームの高度化・普及に貢献

丹教授は、スマートホームでは、住人の状態や状況にシステムが目配りするために多様なセンサを数多く利用する必要があると語っています。ただし、より円滑に高度な情報通信技術を家庭に導入し運用するためには、誰でも簡単に扱える技術に仕上げておく必要がある点も併せて指摘しています。

もちろん、すでに空気清浄機などの内部に搭載されているセンサを活用したスマートホームの実証実験が行われていることからもわかるように、既存のセンサや通信用部品を使ってもスマートホームを実現することは可能です。しかし、スマートホームをより高度なものへと改善し、より多くの家庭に普及させてゆくためには電子部品のレベルからの技術の進化が求められそうです。スマートホームの構築とその継続的な進化にむけて、従来のセンサや通信用部品とは異なる技術トレンドが生まれてくる可能性があります。

村田製作所は、家電製品からデータセンタなどで利用される高度な機器まで、さまざまな応用機器それぞれの要求に応えるセンサや通信用部品を開発・提供してきました。スマートホーム向けで求められる新たな部品の開発・供給においても貢献できることは多いと考えています。

丹 康雄(たん やすお)氏

北陸先端科学技術大学院大学 副学長、教授、情報化統括責任者(CIO)、デジタル化支援センター長、遠隔教育研究イノベーションセンター長、情報環境・DX統括本部長、リスキル・リカレント教育センター長、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)スマートホーム部会 会長

撮影協力:国立研究開発法人 情報通信研究機構

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