統合型再エネ制御ソリューションefinnos
SDGs×Murata
「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」
気候変動に関して科学的な評価を行う国際的な組織である、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第6次評価報告書の中でそう示しています。人為的な活動による温暖化の進行が明らかになった現在、カーボンニュートラルへの取り組みは喫緊の課題となっています。カーボンニュートラルとは、GHGをはじめとした温室効果ガス(以降「GHG」と表記)の排出量から森林による吸収量などを差し引いて、全体として実質ゼロにすることです。
これを達成するには国際的な取り決めだけではなく、実際に企業がGHG削減に取り組むことで果たす役割も非常に重要となります。今回は、GHGの排出量を算定し、報告するための統一的な基準であるGHGプロトコル―Scope1,2,3について基本から解説します。
事業者⾃らのGHG排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した量をサプライチェーン排出量といいます。原料の調達から製造、物流、販売、廃棄など、事業活動全体で発生するGHGが該当します。カーボンニュートラル達成に向けたGHG削減のためには、単一の企業だけではなくサプライチェーン全体の排出量を把握し、効果的な対策を講じることが重要です。
排出量の算定に使われる国際的な基準がGHGプロトコルです。GHGプロトコルでは、単一の企業から排出されたGHG排出量(直接排出)だけではなく、サプライチェーン全体の排出量をScope1・Scope2・Scope3に分けて算定します。
Link: サプライチェーン排出量算定の考え方(環境省)をもとに作成
企業自らが排出するGHGを指します。燃料を燃焼した際や化学的な加工を行った際に生じるGHGなどが該当します。
他社から供給される電気や熱、蒸気などのエネルギーが作られるときに生じるGHGが対象となります。供給元の電力会社が、化石燃料による火力発電をしたときに排出したGHGを、電気の使用量に応じて企業のScope2として計上する必要があります。
Scope1,2以外に、サプライチェーンの上流と下流で企業が間接的に排出に関わったGHGを指します。サプライチェーンの上流に該当する原料や部品の輸送、下流に該当する自社が販売した製品の加工・使用・廃棄などで発生したGHGが対象となります。Scope3は広い範囲を対象とするため、サプライチェーンの上流にあたるカテゴリ1~8と、下流にあたるカテゴリ9~15の計15のカテゴリで分類されています。
| Scope3カテゴリ | 該当する活動(例) | |
|---|---|---|
| 1 | 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
| 2 | 資本財 | 生産設備の増設 (複数年にわたり建設・製造されている場合には、 建設・製造が終了した最終年に計上) |
| 3 | Scope1,2 に含まれない燃料 及びエネルギー関連活動 | 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等) 調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
| 4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) |
| 5 | 事業活動から出る廃棄物 | 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送、処理 |
| 6 | 出張 | 従業員の出張 |
| 7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
| 8 | リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働 (算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、 該当なしのケースが大半) |
| 9 | 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
| 10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
| 11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
| 12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理 |
| 13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
| 14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
| 15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
| その他(任意) | 従業員や消費者の日常生活 | |
Link: 環境省 Scope3活動の各カテゴリへの分類
このように、企業が排出したGHGは直接または間接を問わずScope1,2,3のいずれかとして算定されます。サプライチェーン全体を通じたGHG排出量をScope1,2,3に分類し算定することで、具体的なGHG削減の対策と計画が立てやすくなります。
経営戦略や企業が行うサステナビリティの取り組みなどの非財務情報開示の要請は年々高まっています。サプライチェーン全体の排出量を正確に把握し、包括的なGHG削減戦略を策定し実行することが、持続可能な企業経営に向けた重要な鍵となります。
サプライチェーン全体におけるGHG排出量を削減する際、まず取り組むことができるのはScope1,2の削減です。これらは主に企業自らの燃料・電気の使用に伴うGHG排出量であり、排出量の算定や削減施策の実行が比較的容易であるためです。
Scope1,2の削減には、省エネルギー(以降「省エネ」と表記)化によるエネルギー使用量の削減や太陽光や風力などの再生可能エネルギー(以降「再エネ」と表記)の利用促進が有効です。
エネルギー資源の多くを海外に依存する日本では、化石燃料輸入の増大が深刻な貿易赤字を招き、主力産業の輸出額に匹敵する規模となっています。エネルギー自給率がわずか15.3%(2023年度)の日本では、経済安全保障の観点からも限られたエネルギー資源を効率的に利用することが求められています。
省エネを効果的に推進するためには、PDCAサイクル(計画・実施・検証・見直し)に基づいた継続的な取り組みが重要です。まず、企業のエネルギー使用状況や設備の運転状況などを把握・分析し、省エネの目標を設定、運用改善と設備投資などを組み合わせた対策を立案します。そして、計画に基づき、進捗管理を行いながら着実に対策を講じます。対策の実施後は、効果測定を行い、目標との差異や課題を明確にすることで、改善策を検討してより効果的な省エネ対策へと繋げていきます。
さらに、省エネの取り組みは、個々の製造プロセスの見直しに留まらず、製品設計の見直しなどのより広い視点から対策を検討することも必要です。製品の小型化やリサイクル可能なデザイン設計への転換などを検討することで、より抜本的なGHG排出量削減に繋げることが期待できます。
再エネは、太陽光・風力・水力・地熱など、自然界に常に存在し持続的に利用できるエネルギーです。資源に限りがある化石燃料と異なり、資源が枯渇することなく永続的に利用できます。また再エネは、GHGを排出しないエネルギーであるとともに、国内で生産できることから、日本のエネルギー安全保障にも寄与できる重要な国産エネルギー源です。
しかし、再エネによる発電は、自然環境や気候状況の影響を受け発電量が変動するため、電源の安定化が課題となります。そのため、再エネ導入比率向上には、再エネ発電設備の設置拡大や技術開発だけではなく、需要と供給のバランスを調整する電源安定化の技術も必須となります。電力の需要に応じて発電量・供給量を調整する制御システムや、余剰に発電された電力を貯める蓄電池の開発・導入など、再エネを最大限に活用するためのソリューションが求められています。
多くの企業では、サプライチェーン全体の排出量においてScope3が大きな割合を占めています。
Scope1,2は、自社が利用したガスや電気の使用量を活動量として算定することが可能ですが、Scope3を算定するには、仕入先様など他社が使用したエネルギー量や排出したGHG量を把握する必要があります。多くの関係者との連携をする必要があり、高い精度でScope3排出量を算定するのは容易ではありませんが、Scope3の削減のためには実態に即した高い精度で算定することが必要です。
基本的にScope3は「活動量×排出原単位」という算定式を用いて計算されます。
活動量とは、企業の活動における規模を示すデータを指します。例えば、原材料の購入量、製品の輸送量などが該当します。排出原単位とは、活動量あたりのGHG排出量を指します。例えば、購入した原材料1tを製造する際に発生するGHGや製品1tを1km輸送する際に排出されるGHGが該当します。
このような「活動量」と「排出原単位」を掛け合わせることで、各活動に紐づくGHG排出量を算出し、それらを合算することでScope3全体の排出量を把握することができます。
排出原単位は、現状多くの企業が政府や業界団体が提供する業界標準値など画一的な二次データを使用しています。しかし、この算定方法では個々のサプライヤーの削減施策による差分を反映できず、実際のGHG排出量と二次データ排出原単位との差分が生じるため正確な算定が困難です。
そのため、取引先による実測値である一次データを活用して算定する方法が注目されており、段階的に一次データの収集に取り組む企業も増加傾向にあります。この方法であれば、より精緻な排出量の算定が実現できます。
Scope3削減のためには、サプライヤーをはじめ、物流業者、消費者などさまざまな関係者と連携した取り組みが必要です。
カーボンニュートラル実現に向け、省エネと再エネ活用によるScope1,2の削減、そして単独では対処が難しいScope3への対応が企業にも強く求められているなか、村田製作所は2050年度に向けた新たな目標を掲げました。
これまでも、2030年度までのScope1,2のGHG排出量46%の削減、Scope3は27.5%の削減達成に向けて活動を進めてきましたが、中期方針2027では、その取り組みを加速させ、気候変動対策を含めた環境問題に対する姿勢を示し、より先進的な目標を再設定しました。Scope1,2においては、2040年度にカーボンニュートラル、そして2050年度にScope3を含めたサプライチェーン全体のカーボンニュートラルという目標を示しています。
また、2020年に国際的イニシアティブRE100に加盟し、2050年度をその達成目標に再エネ導入を推進してきましたが、当初の目標から15年前倒して2035年度までに事業活動における使用電力の100%を再エネ転換することを宣言しました。
| Scope | 継続目標 | 新規目標 |
|---|---|---|
| Scope1,2 (工場での製品製造、事業所での使用電力などに 自社利用によって排出する領域) | SBT1.5°C目標として、 2030年度までに 基準年2019年度比46%削減 | 2040年度に カーボンニュートラル |
| Scope3 (原料調達や製品輸送、廃棄などScope1,2以外に 間接的に排出する領域) | SBT WB2°C目標として、 2030年度までに 基準年2019年度比27.5%削減 | 2050年度に カーボンニュートラル |
これらの目標達成に向けて、省エネの徹底と再エネ導入拡大を加速し、着実にGHG排出量の削減に取り組んでいます。
具体的には、グループ全体の各拠点で毎年目標を設定し、省エネ施策の立案と実行を行っています。また、自社開発のセンサを活用したエネルギーマネジメントシステムの工場導入などを通じて消費エネルギーの最小化を進めています。再エネにおいては、コーポレートPPA契約や系統電力契約による再エネ調達、太陽光発電設備と蓄電池をAI(人工知能)が制御する「統合型再エネ制御ソリューションefinnos」を開発・提供しオンサイトの再エネ率を最大化するなど、多様な手法で再エネ導入をさらに加速させています。
Scope3の削減に向けては、仕入先様と連携し、活動の実態に即した一次データを収集することで、Scope3データの精緻化に取り組んでいます。ほかにも、モーダルシフトや積載効率向上の実施による物流に伴う排出量削減など、サプライチェーン全体のカーボンニュートラル実現に向けて取り組みを推進しています。
村田製作所は、社内外のさまざまなステークホルダーの皆様とともにGHG削減施策を着実に実行することで、社会価値と経済的価値の好循環を生み出し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。