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SDGs×Murata

ムラタが推し進める気候変動対策―金津村田製作所、再エネ100%工場への道(後編)―

INDEX

3. 独自のエネルギーマネジメントシステムで電力量を制御

4. 気候変動対策をかけ合わせた新しいものづくりの形を目指す

3. 独自のエネルギーマネジメントシステムで電力量を制御

太陽光発電と蓄電池システムを活用した金津村田製作所の気候変動対策。再エネ100%工場という当初からの目標の達成に向けて、全社横断にスケールアップしたプロジェクトが加速していきます。2021年9月から稼働したプロジェクトの大きな特徴として、ムラタ独自のエネルギーマネジメントシステム(EMS)が挙げられます。

向井「家庭用蓄電池のEMSを開発した経験はありましたが、産業用とは目的が異なるので、ほぼ新たに開発しました。今回のEMSの一番の目的は再生可能エネルギー利用率を高めること。従来のFIT型太陽光発電では余った電力を電力系統に逆潮流させることができましたが、今回のプロジェクトでは自家発電した電力は蓄電池システムに貯め、すべて無駄なく工場で使い切ることを目指しました。つまり、発電量が多すぎても無駄になり、少なすぎても再生可能エネルギー利用率が上がらない。ここが一番の課題でした」

その課題解決のために用いられているのがEMSです。

向井「EMSが担うのは、電力のピークを出さないための制御です。そのために、EMSにAI(人工知能)を導入し、太陽光発電による発電量、翌日の電力使用量の予測を行いました。太陽光発電なので天候が予測のパラメータになり、工場の稼働状況も踏まえなければなりません。翌日の電力使用量が少なければ蓄電池を空にして余剰電力の蓄電に備え、電力使用量が多ければ蓄電池を充電して余剰電力の放電に備える制御を行いました。蓄電か、放電か。ムラタ独自の基準を定めながらEMSを構築していきました」

AIによる発電・消費予測を行う独自のEMSイメージのフロー図
AIによる発電・消費予測を行う独自のEMSイメージ。
EMSの管理画面イメージ
EMSではエネルギー使用量を見える化し、発電状況をリアルタイムで把握しています。

太陽光発電と蓄電池システムによる自家発電・自家消費の比率は13%。残る87%の再生可能エネルギーをどう調達するかも問題でした。

酒井「ファシリティ部の勝間たちに何度も相談し、Jクレジット制度(温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度)の利用も一時は視野に入れました。そんなとき、電力会社からグリーン電力(再生可能エネルギーで作った電力)を調達できることがわかり、電力会社との調整に入りました」

向井「電力会社としても、この規模の自家消費型太陽光+蓄電池を系統連携することは前例がなかったようで、グリーン電力の契約も合わせて何度もやり取りを重ねました」

さまざまな課題や問題をクリアにしながら、2021年11月、金津村田製作所は太陽光発電と蓄電池システムによる自家発電・自家消費、グリーン電力の調達によってムラタ初の再エネ100%工場を達成します。

清水「RE100に加盟しているムラタの工場として、当初から再エネ100%工場を目指していました。正直なところ、2030年くらいまで時間がかかると思っていたのですが、想像以上にスピーディーに実現できました。新規事業推進部やファシリティ部のサポートや後押し、“全社横断”があってこそ成し遂げられたプロジェクトだと思います」

社内公募で選ばれた蓄電池システムのイラストのイメージ画像
社内公募で選ばれた蓄電池システムのイラストは、恐竜王国として知られる福井県にちなんでいます。

4. 気候変動対策をかけ合わせた新しいものづくりの形を目指す

ムラタ初の再エネ100%工場となったことは、金津村田製作所に大きな影響を及ぼしました。

清水「さまざまなメディアに取り上げられ、地元の人にも声をかけられるようになりました。組織評価アンケートでも『自分の勤めている工場が誇らしい』『モチベーションが上がった』といった声が寄せられ、帰属意識の醸成、モチベーションアップの効果が表れています」

酒井「屋外の蓄電池システムに描くイラストを社内公募した際は、8割以上の従業員からアイデアが寄せられました。気候変動対策のプロジェクトに従業員参加型の要素を加えることで、従業員の意識は大きく変わったと思います」

清水「以前は環境を軸に物事を捉える意識は希薄でしたし、あくまでも『これは環境に悪影響を及ぼさないか?』という視点でした。それが、今では『これは環境にどれくらい貢献できるか?』『地域にどれくらい好影響を与えるか?』といった視点が従業員の間に芽生えました」

そして、中心となってプロジェクトを推進した3人も、未来につながるさまざまな気づきを得たと言います。

向井「今回のプロジェクトで開発したEMSなどのソリューションは、社外に向けた新規ビジネスとして展開していくことを視野に検討を進めています。天候や発電量・使用量に基づく制御技術は大きな武器になると考えています。今後の道が拓けたという意味でも、今回のプロジェクトは本当にいい経験になりました。電力会社、施工業者など、調整や説明を行うパートの多さ、さらには蓄電池システムを設置する際の消防の許可など、細かな部分にも携わることができたので、今後に活かしていきたいと思っています」

酒井「ファシリティ部の勝間や藤原も言っていましたが、今回のプロジェクトを通して、経営判断や意思決定スピードの重要性を実感しました。プロジェクトの推進には、トップの決断力や現場のアイデアを受け入れる姿勢が不可欠だと思います。金津村田製作所の工場長は気候変動対策に対して強い信念や情熱を持っており、さまざまなアイデアを受け入れ、鼓舞してくれました。再エネ100%工場を達成した今があるのは、工場長の決断によるところも大きいと思います」

清水「グループの成長戦略である社会価値と経済価値の好循環にもつながりますが、気候変動対策をコストとして捉えるか、価値として捉えるか、これは重要な視点だと実感しました。コストとして捉えると、どうしても費用対効果や効率化の話になってしまいますが、価値として捉えると視点が大きく変わります。例えば、従業員のモチベーションアップや帰属意識の醸成、工場としての競争力や存在感の向上など、気候変動対策は“新たな価値を創出する源泉”だと思います。今回の気候変動対策の取り組みをきっかけとして、これまでものづくりで培ってきたノウハウや技術力を活かした、さらなる豊かな社会の実現に貢献していきたいと思っています」

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