自然界の物質にはない振る舞いで可能性を拡げる「メタマテリアル」とは
メタマテリアルとは ―構成や仕組み、特徴など―
メタマテリアル(metamaterial)とは、自然界の物質にはない振る舞いをすることにより、光を含む電磁波や音(音波)などの波動現象に対して、所望の制御を行うことができる人工物質のことです。なお、メタ(meta)はギリシャ語で超越という意味があります。
以下では、メタマテリアルの構成や仕組み、大きな特徴である負の屈折率、また、メタサーフェイスとの違いなどについて説明します。
メタマテリアルの構成や仕組み
一般に、メタマテリアルは大量に配置された微細な構造体で構成されており、それぞれの構造体は「メタ原子」や「メタアトム」などと呼ばれます。
たとえば、特定の波長の電磁波を制御するためのメタマテリアルにおいては、それを構成するメタ原子は制御したい電磁波の波長よりも十分に小さいことが特徴です。
メタマテリアルを構成するメタ原子の形状やサイズ、配置間隔などの設計により、次に紹介する「負の屈折率」のような、自然界の物質とは異なる振る舞いを可能とします。
メタマテリアルの特徴 ―負の屈折率とは―
メタマテリアルが持つ代表的な特徴として「負の屈折率」と呼ばれるものがあります。
図1が示すように、たとえば自然界では光は空気と水の界面での屈折により進路が入射方向に対し正の方向に曲がります。自然界におけるこの現象は正の屈折率といわれています。
一方で、この光の波長よりも小さい構造を持つメタマテリアルに入射させると、「く」の字を描くように負の方向へ屈折率を持たせることができます。このようにメタマテリアルは自然界の物質とは異なる振る舞いができ、電磁波(光・電波)や音波などの特定の波長に対する反射や透過などを制御することができます。
メタマテリアルとメタサーフェイスの違い
メタマテリアルの一種にメタサーフェイスと呼ばれる人工物質もあります。両者の違いはメタマテリアルが微細な3次元構造であることに対し、メタサーフェイスは表面に2次元構造を持っていることです。電磁波(電波)の反射特性の制御を目的としたメタサーフェイスなどがあり、次世代の移動通信システムなどへの応用が期待されています。
メタマテリアルの種類・活用例・展望
メタマテリアルは既に実用化されているものに加え研究開発段階のものも含めると多種多様ですが、代表的な種類として下記が挙げられます。
- 電磁メタマテリアル
- 熱メタマテリアル
- 音響メタマテリアル
以下では、それぞれの概要や活用例、展望などについて解説します。
「電磁メタマテリアル」の概要と活用例・展望
先に述べた負の屈折率の応用により、電磁波(光・電波)の特定の波長を制御することができます。たとえば、人は物体に反射した光でその姿を見ていますが、電磁メタマテリアルで負の屈折率を応用し制御することによって見え方を変えることができるため、無線通信の分野はもちろん、光学分野への応用も期待されています。
電磁メタマテリアルの活用例・展望
光学レンズで見えるサイズの限界は約200nmといわれますが、電磁メタマテリアルの応用で、さらに小さな物体が見えるスーパーレンズ(完全レンズ)や、凹凸のない平面レンズを作ることが理論上可能といわれています。また、光の屈折率を制御することにより背景の景色(光)を前面に迂回させれば、光学迷彩(透明マント)も作ることができるとされています。
一方、電磁波のなかでも6G(第6世代移動通信システム)で導入が検討されているテラヘルツ波(及びサブテラヘルツ波)といった通信電波においては、特定の波長を反射または受信する目的で電磁メタマテリアルの活用が期待されています。
「熱メタマテリアル」の概要と活用例・展望
熱の伝播を制御するためのメタマテリアルで、主に赤外線の波長を放射することによって放熱することにより、機器内部などの温度調節などに活用されます。
熱メタマテリアルの活用例・展望
電子機器やその内部の電子部品は高熱によってダメージを受けやすく、筐体内が狭くても放熱性を確保するために赤外線の放射シートとして熱メタマテリアルを活用することで、放熱性と小型化を両立することができます。
また、熱メタマテリアルには、屋外環境で使用する機器において、太陽光を反射させて機器内の温度上昇を抑える用途もあります。大気圏外の過酷な宇宙環境においても、使用する輸送機や人工衛星、探査機などの機器に対する太陽光の反射または吸収を制御し、電子機器を劇的な温度差から保護する研究が進められています。
さらに、赤外線を吸収するメタマテリアルを使った局所的な発熱で人為的に温度差を発生させ、熱エネルギーを電気に交換する熱電変換材料としての活用において、これまで乗り物や機械、設備から排出されるだけだった熱エネルギーの効率的な再利用も研究されています。
「音響メタマテリアル」の概要と活用・展望
超音波を含む音波や振動の吸収・反射を制御するメタマテリアルで、アコースティック・メタマテリアルとも呼ばれます。防音や遮音、制振といった目的では広く用いられます。また、通常は超音波などの音波が遮蔽される条件下において透過性を向上させるなど、さまざまな用途があります。
音響メタマテリアルの活用例・展望
音響メタマテリアルは音の吸収や反射の制御材として、工場や工事現場の騒音対策、オフィスの商談スペースや会議室などの音漏れを軽減する吸音パネル、集合住宅の課題である床の振動対策など幅広い活用が注目されています。また、自動車の分野においては軽量かつ効果的な遮音材として期待されています。
さらに、超音波の透過を制御する音響メタマテリアルは、従来は困難だった超音波センサの設置・運用方法や、医療における超音波検査の自由度の向上といった幅広い分野での活用が期待されています。
以下では、村田製作所が開発している音響メタマテリアル「超音波透過メタマテリアル」について紹介、解説します。
村田製作所の音響メタマテリアル「超音波透過メタマテリアル」
村田製作所では、バネ振り子構造を利用した共振メカニズムを用い、物質に対する超音波の透過性を高める音響メタマテリアル「超音波透過メタマテリアル」を開発しています。
バネ振り子構造では、図2のようにシート上に重り部とバネ部で構成した「極小ユニットセル」を周期的に配置し、重り部とバネ部の形状や大きさを調整することで、ユニットセルが超音波の入射によって動くバネ振り子の役割を果たします。それにより入射した超音波と垂直方向に共振し、音響インピーダンス*1に大きな差がある障害物を透過して超音波の伝送効率を向上させます。
*1 音響インピーダンスとは、音の伝搬のしやすさを数値で示したもので、「媒質の密度×媒質中の音速」の式で求めることができる。物体はそれぞれが固有の音響インピーダンスを持ち、超音波は音響インピーダンスの差が大きいと反射し、小さいと透過する特性を持つ。
超音波透過メタマテリアルの物質における超音波の透過性を高める性質を応用すれば、たとえば医療分野において通常は超音波が頭蓋骨を透過せず、脳検査に利用できなかった超音波エコー検査が可能となります。超音波エコー検査であれば、レントゲンやMRI、CTスキャンといったX線検査とは異なり、被ばくの心配がありません。
また、自動車のバンパー内に超音波透過メタマテリアルを利用して超音波の透過性を向上すれば、車体の外観を損ねることなく超音波センサを内蔵できるなど、多彩な活用法が見込まれます。下記の開発者インタビューも併せてご覧ください。
開発者インタビュー:
医療・自動車など超音波センサの利用シーンを拡大する「超音波透過メタマテリアル」
※この記事での「超音波透過メタマテリアル」の内容は、記事公開日時点の情報です。記事内で紹介している製品の仕様、外観は予告なく変更する場合があります。
