IoT時代を切り拓く透明で曲がる新たな導電膜、新発想の応用を共に議論するパートナー募集のメインイメージ

IoT時代を切り拓く透明で曲がる新たな導電膜、新発想の応用を共に議論するパートナー募集(技術解説編)

現在、村田製作所(以下、ムラタ)は、これまでにない特長を備える新材料を開発しています。「透明性」「柔軟性」「導電性」「安全性」を兼ね備え、さらには多様な方法で回路パターンなどを簡単に描ける高い加工性を実現する新材料です。この新材料を応用することで、従来の電気・電子機器向け技術とは異なるアプローチで、新たな価値を創出できる可能性があります。ムラタは、新材料を利用して、新発想の応用を共に議論するパートナーを、業界・業種を問わず募っています。ここでは、技術解説編・応用イメージ編の2回に分けて、開発している新材料の特長と、現在ムラタが考えている応用の可能性を紹介します。

加工技術開発担当 成瀬、素材開発担当 小柳のイメージ画像
左から 加工技術開発担当 成瀬、素材開発担当 小柳

これまで人類の発展では、その背景に新材料の発明がある例が多くあります。自然の素材をそのまま使う石器が、土を焼き固めたセラミックスで作った土器へと変わることで、原始時代が文明の時代へと移行しました。その後も、青銅や鉄の発明で強大な国家が生まれ、半導体の発明で現代の情報化社会が築かれました。これら大きな飛躍の節目だけでなく、新材料の登場によって新しい道具や機器が生まれた例は枚挙にいとまがありません。新材料はイノベーションの源泉であり、その登場は新しい価値と時代の創造を予感させる出来事だと言えるでしょう。

未来のイノベーション創出に貢献する新材料の開発に挑戦

ムラタにおける電子部品事業の発展の歴史でも、新材料の活用が重要な役割を演じました。京都大学 田中哲郎助教授(当時)の協力の下で開発した高誘電率の新材料、チタン酸バリウムを応用したコンデンサを開発。小型でありながら大容量化を可能にし、その後の電気・電子機器の応用拡大とダウンサイジングを支える力の源泉となりました。そして、その後も一貫して、材料開発・プロセス開発・デバイス開発を一体化させていくことで、持続可能な技術の進化と事業の成長を可能にしてきました。

そして今、ムラタは、新たな時代を切り拓く、イノベーション創出の源泉となる新材料の開発とその実用化に挑んでいます。その素材開発に携わる小柳は、「開発中の新材料の特性を鑑みると、電子部品だけにとどまらず、自動車、産業機械、医療・ヘルスケア機器、さらにはエンタテインメントやスポーツなど多岐にわたる応用への可能性を感じます」と言います。ムラタにとって、従来事業の枠を超えた新応用を拓くための挑戦的材料開発です。

開発中の新材料は、現時点では、その組成や構造の詳細を明らかにすることはできませんが特徴の一部を切り出して、新材料の呼称を「透明で曲がる導電膜」と呼び、その可能性を紹介したいと思います。

「透明性」「柔軟性」「導電性」「安全性」を高いレベルで兼備

「透明で曲がる導電膜」の特長には、大きく、応用先の機能や性能を高める特長と、応用製品を開発・生産するユーザー企業に利用メリットをもたらす特長の2つがあります(図1)。そのそれぞれを、少し詳細に紹介したいと思います。その後、「透明で曲がる導電膜」の物質としての特徴と特性について、簡単に触れます。

ムラタが開発する「透明で曲がる導電膜」と特長のイメージ図
図1 ムラタが開発する「透明で曲がる導電膜」と、その特長

まずは、応用製品にもたらすメリットを紹介します。「透明で曲がる導電膜」は、その呼称の通り、透明でありながら導電性を備え、しかも曲げてもその特性を損なわない特長があります。

同様に、透明で曲がる導電膜としてはタッチパネルの電極や配線などに利用されているITO(酸化インジウムスズ)系材料や、グラフェンコンポジット材料のインクなどがあります。「透明性」「柔軟性」「導電性」といった個別の特性だけに注目すれば、より優れた特性を示す材料は多く存在します。また、これら3つのうちの2つの特長を兼ね備える材料もあります。しかし、「透明で曲がる導電膜」のように、これら3つの特長を高いレベルで兼ね備えた材料はなかなか見当たりません。

一般に、透明な導電膜においては透明性と導電性がトレードオフの関係にあり、「透明で曲がる導電膜」もこれに従います。ただし、他の材料の特性と比較すると、同程度の光透過度のグラフェンコンポジット材料のインクに比べて、シート抵抗* が約2ケタ低く(導電性は約2ケタ向上)なります(図2)。一方、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに塗布した材料(数あるITO系材料の中で比較的曲げられる特性を持つ材料)と比較した場合には、現時点ですでに、同等もしくはわずかに劣る特性を実現できています。しかも、「透明で曲がる導電膜」は開発の初期段階にあり、「現在の特性は、今後さらに向上していく伸びしろがあります」(小柳)。

* シート抵抗とは、一定厚の薄い膜やフィルム状の物質の電気抵抗を指す

「透明で曲がる導電膜」と既存の透明な導電膜のシート抵抗と光透過度の実測値グラフ
図2 「透明で曲がる導電膜」と既存の透明な導電膜のシート抵抗と光透過度の実測値

そして、曲げても特性を損なわない特長に関してはグラフェンコンポジット材料やITO系材料を凌駕するほど優れています(図3)。「透明で曲がる導電膜」は基材に塗布した後に、はっきりと折り目がつくほど繰り返し折り曲げても、抵抗値が変わりません。通常の配線材料に使われる金属材料ならば、曲げによって配線が割れ、断線してしまいます。そして、既存の透明な導電膜も材料自体が硬いため、ある程度の曲げには耐えますが、折り目がつくほど曲げれば割れてしまいます。「透明で曲がる導電膜」の優れた柔軟性は、機械的な荷重が常に掛かる応用先にも適応可能なきわめてユニークな性質だと言えます。

「透明で曲がる導電膜」と既存の導電膜の折り曲げ耐性の比較グラフ
図3 「透明で曲がる導電膜」と既存の導電膜の折り曲げ耐性の比較

さらに「透明で曲がる導電膜」は、生体に触れても何の影響も与えない皮膚感作性の少ない「安全性」を備えています。金属アレルギーを引き起こしたり、人体に様々な悪影響をもたらす環境ホルモンとして振る舞ったりすることがありません。このため、生体情報のセンシングやウェアラブルデバイス、ディスポーザブル(使い捨て)デバイスなどの応用との相性がよいと期待されます。

あらゆる形状の基材に思い通りのパターンを描ける優れた加工性

ここからは、応用製品を開発・生産するユーザー企業にもたらすメリットを紹介します。一般に、新材料は、従来にはない特長を備えているため、既存の製品を作る加工装置などでは扱いにくいことがよくあります。いかに優れた特性を持つ新材料でも、利用しにくいのでは応用が広がりません。これに対し、「多様な既存の加工装置を使った塗布・加工との親和性が高く、様々な応用への適用が容易です」と、「透明で曲がる導電膜」の素材を基にインクなど利用しやすい形態へと仕上げる技術を開発している成瀬は言います。

「透明で曲がる導電膜」の素材は、親水性材料であり、溶媒の中に容易に均一分散させることができます。このため、加工法に応じたインクに仕上げて、既存の塗布や印刷手法を利用して、安定した特性を示す膜を形成できます。具体的には、インクジェットプリンタやスタンプ、スクリーン印刷、スプレーでの塗布、さらにはペンでの描画などによって、常温・常圧の環境下でパターンを描くことが可能です(図4)。もちろん、これまでにない画期的な塗布装置を新たに開発し、インクを最適化することで、未知の応用を切り拓くこともできます。

応用先の要求に応じた様々な手法で、配線パターンを形成可能なことを説明する図
図4 応用先の要求に応じた様々な手法で、配線パターンを形成可能

こうした多様な加工法を利用してパターンを描ける特長は、応用先の拡大を後押しします。たとえば、インクジェットプリンタを利用すれば、数百ミクロンの微細な線幅の配線を描くことができます。こうした加工法を利用すれば、マスクやエッチングのような除去工程なしで、思い通りのパターンを描けます。また、導線として機能する部分だけを描くことができるため、材料の有効利用や、環境負荷の軽減も実現します。一方、スプレーでコートする方法を採用すれば、三次元的な曲面を描く形状の基材にも、自動車のボディを塗装するのと同様の方法で被覆し、大きく複雑なモノの表面に導電膜を形成可能です。さらに、形状自体に意味がある道具や機器の表面にも、電気的機能を簡単に付加できます。

ITO系電極では、配線パターンなどを形成して導電性を発揮させるためには、何らかの高温処理が必要でした。たとえば、ITO系材料では、高温・真空環境下で行う蒸着プロセスで基材に膜を付着させる必要があります。その結果、加工工数の増加や塗布する基材の劣化が避けられず、応用先が限定されたり、コストが増大したりする欠点がありました。「透明で曲がる導電膜」では、こうした応用の拡大を阻む要因がありません。

また、パターン形成後の後処理が簡略な点も大きなメリットです(図5)。透明な導電膜を形成するための従来材料の一つであるAgインクは、パターンを描いた後に、微細なAg粒子同士をつなげて導電性を確保するため、150~200℃の焼成工程を加える必要があります。「透明で曲がる導電膜」ならば、50~100℃で水分を乾燥させるだけで導電性を発揮できるため、熱ダメージに弱い基材への成膜も可能です。時間を掛けてもよいのなら、自然乾燥だけでの利用も可能です。

「透明で曲がる導電膜」は、低温の工程だけで導電性を発現を説明するグラフ
図5 「透明で曲がる導電膜」は、低温の工程だけで導電性を発現

微小セラミックが生み出すユニークな物性

こうした数々の特長を備える「透明で曲がる導電膜」は、電気を流す性質を持つナノメートルオーダーの微小セラミックを素材にした材料です。微小セラミックの形状は扁平状であり、その微小さと形状に起因して金属とセラミックスと中間のような特性を示し、透明性と導電性が得られています。優れた加工性も、このサイズと形状によるものです。そして、この素材を分散させたインクを塗布し、乾燥させた後の膜では、微小セラミック同士が折り重なって、描いたパターン全体が通電する状態になります。

近年、炭素(C)原子が結びつくことで高い導電性を示すグラフェンのように、材料の組成ではなく、ナノサイズの微細構造や大きさでユニークな特性を示す物質が出てきています。「透明で曲がる導電膜」も、ありふれた元素で構成されたセラミックスを基に、同様のアプローチで固有の特長を生み出した材料だと言えます。新材料の実用化では生産技術が課題になることが常ですが、ムラタが保有する生産技術の適用が容易であるため、量産性にも優れています。また、レアメタルやレアアースを利用していないことから、原料の安価で、安定的な調達が可能です。

加えて、微小セラミックの組成や構造、サイズを最適化することで、さらなる特性改善や、特定応用への適性を高めるための調整の余地があります。つまり、これからさらに進化し、応用が広がる可能性を秘めた材料だと言えます。応用イメージ編では、現時点でムラタが「透明で曲がる導電膜」を基に開拓する可能性がある、新しいアプローチで実現する電子製品や工業製品、サービスのあり方について紹介します。

加工技術開発担当 成瀬、素材開発担当 小柳のイメージ画像


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