近距離無線用インダクタ
「100年に一度」の大変革期を迎えているといわれる自動車業界。
会員がクルマを共有するカーシェアリングや、自動運転や自動緊急通報などの機能を持つコネクティッドカーなどのサービスの登場により、カーアクセスの方法も急速に変化しつつあります。この変化の中、クルマとクルマのキーの共有や安全を保障するための技術がデジタルキーです。デジタルキーは何をツールとし、どのようなシステムで利用するのでしょうか。デジタルキーの特徴や従来のキーとの違い、デジタルキーに使用されている通信技術、さらにデジタルキーが想像する新しいカーアクセスについて説明します。
デジタルキーとは、物理的な鍵の代わりにスマートフォンに格納したデジタルデータを使用して鍵の解錠や施錠を行う仕組みのことです。
デジタルキーは、電子データで管理されているため物理的な鍵とは異なり、鍵を自由に複製し家族や友人に共有することもできます。また、鍵の利用履歴を記録し管理することも可能となります。
従来、クルマのキーとして使われてきたキーレスキーやスマートキーとデジタルキーの違いについて説明します。
キー本体のボタン操作でドアの解錠や施錠が行えるキーのことです。
エンジンを始動するときは、鍵穴に物理的キー差し込んで回します(図2)。
キー本体を持ってクルマへ近づくとクルマがキー本体から発する電波を認識し、ボタンを押すとドアの解錠や施錠が行えるキーのことです(図3)。
鍵穴に差し込まなくてもキーを差し込んでいるときと同じ操作が可能です。エンジンを始動するときは、スタートボタンを押します。
ほとんどの場合「イモビライザー*1」といわれる機能が備わっており、コピーキー・ピッキング・配線直結などの犯罪を防止することができます。
キー本体がなく代わりにスマートフォンがキーになります。キーとして認証されたスマートフォンを持ってクルマに近づくとクルマがスマートフォンをキーとして認識し、エンジンの始動はもちろんクルマの状態の表示やデジタルキーの共有など、さまざまなサービスを利用することができる、スマートカーアクセスにおいて重要になることが予想されるキーテクノロジーです。
*1 イモビライザー:電子的な照合によって専用のキー以外ではエンジンを始動できないようにするシステム。キーに小さな電子チップが内蔵されており、チップに記録されたIDコードとクルマ本体のエンジンコンピュータ内に記録されたIDコードを電子的に照合し、一致した場合のみエンジンを始動することができる。
クルマの所有者は自分のスマートフォンとクルマをペアリングすることで、自分のスマートフォンがデジタルキーになります。ペアリングには自動車会社が提供する、専用ツール(アプリ)などを使って行います。
デジタルキーとして使用する必要なデータは、スマートフォン内の高いセキュリティ領域へ暗号化して保管されるため、不正なアクセスから保護されます。またクルマの所有者は、一時的に家族や友人などにデジタルキー(フレンドキー)を発行/停止することができます。クルマの所有者の使用履歴やフレンドキーの発行/停止などの情報は、それぞれのスマートフォンメーカーのサーバ(クラウド)で管理されます。
デジタルキーは、スマートフォンに格納されたデータを使用して正規な利用者と認識し、クルマのドアロックの操作やエンジンを始動させることができます。正規な利用者であることの認識はクラウド上で行うため、非正規な利用者による不正アクセスなどに対して高いセキュリティ性能を有します。
また、物理的キーとは異なりスマートフォンに暗号化され保存されているデータをコピーするだけでキーを自由に複製しクルマをシェアすることができ、複製したデジタルキーの使用可能時間は任意で設定することも可能です。また、スマートフォンを紛失したり盗難に遭ったりした場合でも、リモート操作によりすぐにデジタルキーとしての機能を停止させることができます。さらに将来的には空気圧やバッテリー残量などクルマのコンディションもスマートフォンの画面上でモニタリングできるようになることが期待されています。
デジタルキーはスマートフォンを使うため、インターネット上では4Gや5G、Wi-Fiなどにより通信を行います。では、クルマとデジタルキーはどのような技術で通信するのでしょうか。ここではデジタルキーを実現するためにクルマとスマートフォンがワイヤレス通信するための技術を紹介します。
Bluetooth®はワイヤレス通信を行う代表的な共通規格で、現在スマートキーにおいてもっとも普及している通信方法です。Bluetooth®には多くのバージョンがありますが、大きく3.0以前と4.0以降に分けることができ、4.0以降ではBluetooth® Low Energy(BLE)といわれる通信方式が使われており低消費電力での通信が可能です。BLEはスマートキーで広く導入されており、見通しで十数mの通信範囲を持っているため、一般的な駐車場では不足はありません。
一方で、通信が確立されただけでドアの解錠や施錠、エンジンの始動ができるためリレーアタック*2によるクルマの盗難の危険性が指摘されています。
*2 リレーアタック:スマートキーが常時発信する微弱な電波を中継(リレー)し、離れた位置にあるドアをロック/アンロックさらにエンジンを始動させてクルマを盗む手法。
UWBは周波数帯域幅に超広域帯を利用するワイヤレス通信の方式です。
ToF(Time of Flight)という送信から受信までの時間を測定することで正確な距離や位置の特定が可能であるため、リレーアタックへの有効な防犯技術としても注目されています。また低ノイズでの通信が可能であることから他の通信に干渉しにくく、低消費電力であることも大きなメリットとして挙げられます。
一方で、NFCやBluetooth®に比べてクルマへの普及が進んでおらず、スマートフォンへの搭載も少数機種に限られています。ただし、UWBは高いセキュリティ性と大容量通信が可能であることから、デジタルキーでの普及が期待されています。
NFCは近距離ワイヤレス通信技術のことで、通信可能距離は10cmほどです。
ドアのレシーバーにキーをかざすことで、ドアの解錠や施錠ができます。
レシーバーは電磁誘導方式という方法でICチップと交信するため、キー側には電池などの電力源は必要ありません。このため、スマートフォンやスマートキーのようにバッテリー切れによるトラブルの心配はありません。
ただし、Bluetooth®やUWBがハンズフリーでのカーアクセスが可能であるのに対し、NFCは通信距離が短いため「かざす」という動作が必要です。また通信容量も小さいため、多くの情報のやり取りには不向きです。
デジタルキーによるカーアクセスとしては、スマートフォン認証でのレンタカーのキーの受け渡しが実現されていますが、今後は以下のような新たなカーアクセスが可能になるといわれています。
スマートキーをはじめとする従来のキーにはない機能として、クルマの走行距離や走行経路の記録、空気圧やバッテリーレベル、メンテナンス情報など、さまざまな情報をスマートフォンで把握することが可能になります。さらにデジタルキーを持ったユーザーがクルマに近づくだけで、シートの位置やミラーの角度、オーディオの設定などを自動的に設定することができるようになります。
住宅では、玄関の鍵をスマートフォンで管理するスマートロックが普及しています。
クルマのキーであるデジタルキーとスマートロックの機能をスマートフォンに統合することで、デジタルキーはスマートロックとしても使うことができるようになり、日常生活に利便性をもたらすことが期待されています。
デジタルキーはクルマから物理的キーというツールをなくし、カーシェアリングでは欠かせない技術となりました。その普及は自家用車や社用車へと広がりを見せつつあり、家族や友人、従業員どうしでのクルマの共用に大きな利便性をもたらすものと思われます。さらに家や社屋のスマートロックの機能を兼ねることもでき、従来のキーという概念に大きな変化を迫る技術でもあります。
デジタルキーテクノロジーは今後も進化を続け、セキュリティの強化や互換性の向上により、多くのユーザーから支持を得ていくものと思われます。