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MaaSが変える未来社会

MaaSによって世界はどう変化するか?

世界的な動きとして注目を集めるMaaSについて、その現在地と未来社会に対するインパクトを全4回にわたって解説する本企画。進化するMaaSにより、世界はどのように変化していくのか? 第4回では、国内外の動向から今後の展望を考えていきます。

楠田悦子氏のプロフィール画像

執筆者:楠田悦子(モビリティジャーナリスト)

自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較し、社会課題の解決にむけた活動に従事している。「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。著書に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)などがある。

ビジネスシーンや日常生活の中でMaaSという言葉を耳にすると、突如現れた概念のように感じるかもしれない。しかし、デジタル化の中で個々のサービスや決済を統合し、生成されるデータを活用したり、業務効率を改善したりすることは、現代社会においてはきわめて自然な流れだ。テクノロジーを活用して社会を変革していくとき、大きなヴィジョンや方向性を描く指標のひとつとしてMaaSが存在するのである。そこで、MaaSがどのような未来にむかっているのかを考えたい。

世界各国のMaaSが歩む道

世界各国の事例を俯瞰すると、国ごとに地域課題やヴィジョン、公共交通の運行形態や新しい公共政策へのチャレンジ、道路空間の使い方、スタートアップ企業に対するサポート、新しいモビリティサービスの受け入れ方などが異なっている。

●アメリカ合衆国
カリフォルニア州などでライドシェア、自動運転、電動キックスケーターシェアなどの新サービスが発展している。シリコンバレーを擁するエリアだけに、デジタルテクノロジーを使って変革を起こそうと試みるスタートアップの存在が大きい。また、国土が広大であることから、公共交通網が脆弱であるという特徴も影響している。「まずは新しいサービスを導入してから、徐々に規制をしていく」という、柔軟な考え方がイノベーションを後押ししているのだ。

●欧州諸国
さまざまなMaaSアプリが活躍する欧州諸国は、交通政策の専門家の層が厚く、新しいテクノロジーやサービスを取り入れながら、クルマに頼らない持続可能な地域ヴィジョンを掲げている。また、公共交通は「税金を投入して維持する社会インフラ」という認識が強い。近年はデジタル活用に積極的で、地図や公共交通などのデータを集約する基盤を構築し、業務効率の改善と利用者の利便性向上を強化してきている。

●アジア
欧州や日本と異なり、公共交通網が整備されていない国も多いため、バイク型を含むタクシーが生活に浸透している。ドライバーがスマートフォンを持つようになったことが影響し、インドネシアをはじめ、総合的なサービスを展開するベンチャーが数多く誕生している。欧州や日本に比べて規制が厳しくなく、市場が成熟していないことから、想像を超えるユニークなサービスが誕生しやすいことも見逃せない。

●日本
世界最高水準のサービスレベルを誇る鉄道やバスを民間企業が展開してきた日本は、欧米やアジアと異なる“独自路線のMaaS”を検討していくことが求められる。しかし、持続可能なモビリティサービスと地域を、デジタルを活用しながら構築していくのは容易ではない。人口減少と少子高齢化、財政難、ドライバーの担い手不足、働き方改革、業務効率の改善と新たな利用者ニーズへの対応など、さまざまな問題を整理しなければならないからだ。そこで現在、包括的なヴィジョンを描きながら、民間企業と関連する省庁が一体となったチャレンジをしている。

2018年、国土交通省は総合政策局、道路局、都市局の連携により「都市と地方の新たなモビリティ懇談会」を、経済産業省は「IoTやAIが可能とする新しいサービスに関する研究会」を設置。さらに、経済産業省と国土交通省が連携し、「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」を立ち上げ、無人自動運転サービスの実現やMaaSの普及を目標とするなど、MaaSに関する方向性が整理されている。

自律走行試験運転のイメージ画像
スイスでは2021年に世界初の自律走行バスの試験運転が行われた

求められるモビリティの枠を超えた柔軟な発想

このように、日本では自動車、デジタル、道路などを担当する省庁がMaaSを支援していることが特徴だ。さらに、内閣府、経済産業省、国土交通省、総務省などのスマートシティ関連施策でも重要なワードとして扱われていることにも触れておきたい。

日本におけるMaaSは、公共交通でのデジタル活用、新たなモビリティサービスの活用という形で進んできた。各地域でのMaaSアプリ制作が一段落したことから、次のフェーズとして、あらためて地域全体の経済を活性化し、暮らしをより良くするためにテクノロジーをどう活用していくかについて、“仕切り直し”があると考えられる。そのためには、地域の未来を考えながら、各所の連携を促し、持続可能な組織とデジタル活用を計画できる人材が不可欠になる。また、「小売り×移動」「医療×移動」「福祉×移動」「観光×移動」など、モビリティの枠組みを超えた柔軟な発想も求められるだろう。

新しいキーワード、テクノロジーが生まれ、実証実験が行われる現在のようなフェーズは、さまざまな試行錯誤が行われ、成功事例が少なくなってしまう時期だ。しかし、大きな変革は自然に起こるのではなく、地道な努力の積み重ねによって実現する。企業、行政、地域が挑戦を持続することで、10年後、移動を取り巻く暮らしや経済は大きく変わっていくだろう。

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カーエレクトロニクスで次世代の交通手段とモビリティー体験を
創造する

都市化と輸送の利便性への期待の高まりにより、世界中でMobility-as-a-Service(MaaS)の開発が推進されています。 このホワイトペーパーでは、MaaSにおける主要なソリューションについて説明し、エレクトロニクスがMaaSをどのようにリードしているかを示すケーススタディとテクノロジーを紹介します。

目次

  • Mobility as a Service (MaaS)の概要
  • ソリューション:主要事業者、 ケーススタディ、構成要素
  • MaaSの実現要因
    • ルート計画と決済
    • 自律走行とADAS
    • ヘルス・ウェルネス・ウェルビーイング
  • まとめ
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