MaaSに注目する自動車業界の動きのメインイメージ

MaaSが変える未来社会

MaaSに注目する自動車業界の動き

世界的な動きとして注目を集めるMaaSについて、その現在地と未来社会に対するインパクトを全4回にわたって解説する本企画。これまで移動手段の主役であった自動車は、MaaSの進化によりどのように変化していくのでしょうか? 第2回では、自動車業界の動きに迫ります。

楠田悦子氏のプロフィール画像

執筆者:楠田悦子(モビリティジャーナリスト)

自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較し、社会課題の解決にむけた活動に従事している。「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。著書に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)などがある。

自動車業界に与えるMaaSのインパクト

日本におけるMaaSの火付け役となったのは、大手自動車メーカーだ。2017年には第1回で紹介したフィンランドのパイオニア企業に出資しており、2018年にはアメリカのラスベガスで毎年開催されている世界最大級の家電見本市で、「自動車をつくる会社からモビリティ・カンパニーへの変革」を表明したことで話題になった。さらにこのとき、MaaS専用次世代自動車、MaaSビジネスにおけるモビリティのプラットフォームを発表。この大号令により、日本でもMaaSがキーワードとして着目されるようになった。

では、自動車業界がMaaSの実現にむけて動き出したのはなぜだろうか?

IoT、AI、ビッグデータ、ロボットなどが起こす第4次産業革命は、自動車業界にも大きなインパクトをもたらすと考えられている。アメリカの大手コンサルティング企業は、自動車関連産業の売り上げは今後、販売した商品の修理・メンテナンスなどのアフターサービス、常にインターネットなどに接続されたコネクティッドカーによって伸長すると予測している。この状況にシフトした場合、自動車業界では産業のピラミッド構造そのものが変化してしまうだろう。各自動車メーカーにとって、“クルマづくりに留まらない変革”は急務なのだ。

ゲームチェンジは起こるか?

自動車は、一足先にビジネスモデルの転換を迫られた携帯電話やPCと類似点が多いとされる。スマートフォンなどのデバイスは、製造・販売・メンテナンスといった“モノの売り買い”だけではなく、ユーザーと常にオンラインでつながり、アプリーケーションなどの提供により付加価値を高め、収集したデータを活用してサービスの幅を広げることで発展を遂げてきた。自動車の車両を携帯端末と同様に捉えるならば、同じ変化が生じることは十分に考えられる。

また、“クルマ離れ”という言葉に表されるように、自動車の保有に対する価値観も大きく変わってきた。環境問題への対応やインターネットの普及を背景に、自動車での移動を代替するサービスが増加している今、既存の自動車産業の考え方では社会に対応できなくなってきていると言える。こうした潮流により、自動車業界はMaaSに注力し始めているのである。

CASEとスマートシティとの関わり

自動車の変革を象徴するキーワードに「CASE(ケース)」がある。「Connected(コネクティッド)」「Autonomous(自動化)」「Shared&Service(シェアリング&サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字をとった概念だ。

しかし、CASEは自動車に限った変化を指す考えで、あらゆるモビリティとそのサービスを対象に“モビリティ・カンパニー”への移行を目指す自動車メーカーにとっては言葉不足となるだろう。こうした事情から、自動運転を含む多様な移動サービスを組み合わせ、個々のニーズに応えていくMaaSが視野に入れられるようになった。

また、MaaSは観光、医療、福祉、エネルギーなどとも密接な関係にある。モビリティサービス単体で価値を提供することが成立しないため、各企業の発想は自ずとスマートシティのような広範なモデルへと展開されていく。政府も「Society 5.0」の実現の場としてスマートシティに対して積極的だ。こうした流れから、CASE、MaaS、スマートシティは切っても切れない関係にある。

スマートシティのイメージ画像
ICTなどを用いて都市や地域の機能・サービスを最適化するスマートシティは、グローバルで実証実験が進んでいる

自動車大国ドイツの動向

ドイツの大手自動車メーカーもいち早くMaaSに取り組んでいる。クルマ離れが顕著になった2000年頃から、カーシェアなどのモビリティサービスの検討を開始。今では首都ベルリンをはじめ、各都市でカーシェア、タクシー、駐車場などの単体のサービス、それらを統合したMaaSサービスを提供しており、日常的に利用されている。

さらに、MaaSは「都市の中でどのように人が移動しているか」「自動運転が実現した時代、どのように自動車両を走行させるべきか」など、多くのデータを政府に与える“ツール”と考える企業もあるようだ。

日本でも、バスやタクシーなど「自動運転レベル4」のサービスを考える際、MaaSの概念を取り入れた実証実験が行われている。このように、各国では自動運転とMaaSがセットとして考えられており、自動車産業においてMaaSが果たす役割はきわめて大きいと言える。

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都市化と輸送の利便性への期待の高まりにより、世界中でMobility-as-a-Service(MaaS)の開発が推進されています。 このホワイトペーパーでは、MaaSにおける主要なソリューションについて説明し、エレクトロニクスがMaaSをどのようにリードしているかを示すケーススタディとテクノロジーを紹介します。

目次

  • Mobility as a Service (MaaS)の概要
  • ソリューション:主要事業者、 ケーススタディ、構成要素
  • MaaSの実現要因
    • ルート計画と決済
    • 自律走行とADAS
    • ヘルス・ウェルネス・ウェルビーイング
  • まとめ
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