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MaaSが変える未来社会

MaaSと新たなモビリティサービス

世界的な動きとして注目を集めるMaaSについて、その現在地と未来社会に対するインパクトを全4回にわたって解説する本企画。第3回では、MaaSでは実際にどのようなサービスが展開されているのか、その具体例を見ていきます。

楠田悦子氏のプロフィール画像

執筆者:楠田悦子(モビリティジャーナリスト)

自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較し、社会課題の解決にむけた活動に従事している。「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。著書に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)などがある。

タクシーを変えるライドシェアと配車アプリ

スマートフォンの普及をはじめ、IoTやAIの活用、API連携などにより、モビリティサービスをリアルタイムでマッチング・予約することが可能となった。これにともない、MaaSは著しい進化を遂げている。

アメリカや中国では、タクシーの乗り手と送り手をマッチングする「ライドシェア」が早期に誕生した。その後、世界的に流行し、日本でもサービス展開を希望する声をよく耳にする。しかし、タクシーはサービスの質や法規制などが国ごとに大きく異なるため、導入に対して慎重になるケースも多い。日本の場合、一時はタクシー業界から猛反対を受けたが、現在は外国人観光客を誘客できるタクシー配車アプリとして共存の道が始まっている。

また、ライドシェアという脅威の到来を契機に、タクシー業界で変革が起きている。日本の全国ハイヤー・タクシー連合会は、国土交通省などの協力を得ながら2016年10月に打ち出した「今後新たに取り組む事項」11項目に加え、2019年6月に9項目を追加。初乗り距離短縮運賃、事前確定運賃、ダイナミックプライシング(需要に基づいた変動運賃制)、定額運賃(乗り放題のタクシー)、ユニバーサルデザインの導入、乗り合いタクシーの推進などに前向きになっている。

コロナ禍で大打撃を受けたが、高齢者で免許返納者が増えるなど、新たなニーズも見込まれるタクシー業界。これらをカバーするサービスの提供が期待されている。

AIによるデマンド交通の実現

日本において、ライドシェアの次に注目が集まっているのは「AIデマンド交通」だろう。デマンド交通とは、バスのように決められた時間・路線で運行するのではなく、利用者の予約があった場合にのみ運行する交通機関のことだ。すでに海外では取り入れられている事例もある。

従来型のデマンド交通は、利用者による前日までの予約が必要だった。運行者側も、導入する際にバスやタクシー事業者、自治体と綿密に調整しなければならず、これらの障壁から発展途上にあるのが実情だ。この従来型のデマンド交通にAIを活用し、システムが自動で最適なルートをドライバーに伝え、利用者と運行者のストレスを軽減する実証実験が進んでいる。

鉄道を軸に経済圏を構築する決済システム

定時性、安全性、ネットワーク、サービスの質など、世界最高水準にある日本の鉄道会社は、非常にユニークな経営を行っている。多額の税金を投入することで公共事業として鉄道サービスを提供する他国とは異なり、都市・宅地開発、生活サービス、観光、スポーツ観戦などと組み合わせた多角経営を行うなど、創意工夫を重ねてきたのが特徴だ。

そんな鉄道業界では、情報や決済の統合がMaaSとして注目されている。エリア内乗り放題が一般的な欧州に対し、日本には駅ごとに改札があり、多様な鉄道会社を乗り継ぐ際には複雑な支払いが必要になる。これをシームレスにつないだのが、すでに日常の中に定着している決済システム「交通系ICカード」だ。現在はバスやタクシーといったあらゆるモビリティサービス、飲食店やコンビニエンスストアの決済なども可能になっている。鉄道を軸とした経済圏を構築することで、今後の発展に期待が集まっているMaaSの事例だ。

交通系ICカードのイメージ画像
近年のキャッシュレス化の波を受けて、交通系ICカードの用途は拡大している

普及が進むシェアリングサービス

欧米や日本では、クルマを持たないライフスタイルを好む人が都市部を中心に増えている。同時に、クルマを共同使用する「カーシェアリング」の利用者も年々増加。交通エコロジー・モビリティ財団によると、2010年に1,300台に留まっていた日本のカーシェアリング車両台数は、2020年には約4万台、会員数は約200万人にまで伸びている。

自転車の「シェアサイクル」は、フランス・パリで提供が始まって以来、徐々に定着してきた。日本における導入都市は、2019年時点で225。通勤など日常の移動手段や、観光地めぐりの楽しみを増やすツールとして拡大している。

「電動キックボードシェア」については、2019年に日本の電動キックボード事業者が「マイクロモビリティ推進協議会」を立ち上げた。国会議員で構成される「MaaS議員連盟マイクロモビリティPT」や関係省庁で勉強会が重ねられており、急速に法整備が進んでいる。警察庁も連携するなど、事業者が一方的に普及を求めて行政と対立するのではなく、危険対策を講じながら、中低速モビリティの整理を行っているのがポイントだ。

警察庁では「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」が立ち上がり、最高速度に応じて「歩道通行車」「小型低速車」「既存の原動機付き自転車等」の3類型に分ける新たな交通ルールをまとめており、電動キックボード以外のモビリティシェアサービスへの展開も期待できるだろう。

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カーエレクトロニクスで次世代の交通手段とモビリティー体験を
創造する

都市化と輸送の利便性への期待の高まりにより、世界中でMobility-as-a-Service(MaaS)の開発が推進されています。 このホワイトペーパーでは、MaaSにおける主要なソリューションについて説明し、エレクトロニクスがMaaSをどのようにリードしているかを示すケーススタディとテクノロジーを紹介します。

目次

  • Mobility as a Service (MaaS)の概要
  • ソリューション:主要事業者、 ケーススタディ、構成要素
  • MaaSの実現要因
    • ルート計画と決済
    • 自律走行とADAS
    • ヘルス・ウェルネス・ウェルビーイング
  • まとめ
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