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超音波検査(エコー検査)で胎児を守る―「いつでも・誰でも・簡単に」を目指して

村田製作所(以降「ムラタ」と表記)が展開する共創プロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata」(以降「KUMIHIMO」と表記)で2024年度最優秀賞を受賞された株式会社Gifts(以降「Gifts」と表記)は、胎児エコー検査の自動化システムのハードウェアとソフトウェアの両方を開発しています。
GiftsのCEOである小笠原氏は、産婦人科医でありながら神経科学や深層学習の研究にも携わられてきたという経歴をお持ちです。そのような小笠原氏にKUMIHIMOへ応募した経緯やこのシステムを着想したきっかけ、現在の胎児エコー検査を取り巻く環境や課題、さらにGiftsが将来ムラタとの共創を通じて実現したいことについてお伺いしました。

1. 「瞬時に多方向からエコーを当てる胎児検査システム」とは

CEOの小笠原氏は、2023年に産婦人科医として医学博士も取得されており、研究室では脳波の研究にも携わられました。このような職歴の小笠原氏が開発に取り組まれている胎児エコー検査の自動化システムとはなにか、またその着想に至ったきっかけについてお伺いしました。

小笠原氏の画像
株式会社Gifts代表取締役(CEO)の小笠原氏

――Giftsが開発している胎児エコー検査自動化システムの概要についてお聞かせください。

小笠原氏:このシステムは、Giftsが独自に開発した胎児を検査するシステムです。多数のプローブを妊婦の腹部を覆うように配置することで、胎児の全体像を自動で検査することができます。各プローブには超音波センサが取り付けられており、センサからの反射波で胎児の形はもちろん、動きも測定することができます。エコー検査装置の装着や測定は妊婦自身で行うことができ、どなたでも簡単にエコー検査を受けることができます。

――従来の機器ではどのように推定体重や健常性*1、胎児の位置や向きを検査していたのでしょうか。

小笠原氏:従来のエコー検査もリアルタイムかつ非侵襲的で優れた検査ですが、細かな音響素子を線上に並べた凸型プローブを検査者が手で持ち、妊娠腹部に当てて手動で検査を行っていました。また、得られる画像は基本的に2次元断面像であり、胎児の体全体を一括して評価することはできませんでした。たとえば体重を推定する場合、胎児の頭・腹囲・太ももそれぞれの長さを測定し、計算式にあてはめて算出します。胎児の手足や体幹の動きの評価は目視によります。しかし、これらの手法では精度が医師や検査技師の技量に依存するためバラつきが大きく、また検査できる機会が地理的・経済的な理由によって制限されてしまうという問題があります。胎児超音波検査の頻度は、周産期医療の質に直結するため、よりこまめに正確な検査を行うことが望ましいです。

*1 健常性:現在の胎児状態が良好であること。

――このシステムを着想したきっかけについてお聞かせください。

小笠原氏:胎児検査における検者間誤差は5%-10%程あり、児頭や腹囲といった数cmある計測部位では数mmの誤差が常態化しています。一見これは問題のように思います。しかし逆に数mmの誤差が一般臨床では許容されていると考えると、これ以上の空間分解能が必要とされるのは精査が必要な状況などに限られます。妊娠の大多数は正常に経過するため、すべての胎児に最先端の検査を行う必要性は低く、異常な経過を適切に拾い上げるスクリーニングを高頻度広範囲に普及させる方が効果は高いと考えます。いつでも・誰でも・簡単にエコー検査を受けられるソリューションを開発できないかという着想から、このシステムが生まれました。

2. KUMIHIMOへの応募の経緯

ムラタという電子部品のメーカーが主催する共創プロジェクトであるKUMIHIMOに対し、医療業界の企業であるGiftsが応募しようと決意されたきっかけや受賞までの経緯についてお聞きしました。

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――KUMIHIMOに応募したきっかけについてお聞かせください。

小笠原氏:ムラタのことは電子部品、それも小型・高精度の技術を持つ企業として知っていました。そして2024年11月にKUMIHIMOの公募を拝見し、プロジェクト説明会においてムラタの超音波センサやフレキシブル基板、さらに通信モジュールなどの技術は、Giftsが社会実装を進める上で必要となる技術と親和性があると感じました。また、当方からの問い合わせにも丁寧にご対応いただき、大きな安心感が得られたため応募に踏み切りました。

――応募後、ムラタとはどういったやり取りがありましたか。

小笠原氏:最終選考前に事前打ち合わせがあり、最終選考の限られた時間のなかでアイデアが伝わるよう、KUMIHIMOの事務局メンバーとのプレゼン内容のすり合わせが行われました。さらに最終選考時のムラタ役員を含む審査員方との質疑応答では、ハードウェアの回路やアルゴリズムの詳細など、技術面に関する踏み込んだ質問がありましたが、私自身がソフトウェアとハードウェア両方の開発も担当しているため、適切に回答することができたと思います。また、限られた時間内により多くのやり取りができるよう回答はコンパクトにまとめることを心がけました。エコー検査システムの仕様についても実験データを交えて回答し、知財ポートフォリオについても客観的にご理解いただけたと感じています。

3. 胎児エコー検査の課題

これまで行われてきた胎児エコー検査ですが、そこではなにが課題となっているのでしょうか。このシステムの開発を進めるにあたっては、小笠原氏自身が日本、オーストラリア、インドネシア、フィリピンで、産婦人科医35名および助産師8名、妊婦70名を対象にヒアリングを実施されました。そのなかで顕在化したニーズや、日々産婦人科医として妊婦に接している小笠原氏が抱かれている問題意識についてお伺いしました。

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――現在の胎児検査にはどのような課題があるのでしょうか。

小笠原氏:まず、医療へのアクセシビリティにおける地域差という課題です。世界各地域に比べて日本は総体的に医療アクセスがよく、都市部では真夜中でも産婦人科専門医を受診することが可能です。しかし、医療過疎地*2では医療資源が不十分である場合があり、胎児検査を十分に受けることができません。
また、不足しているのは人的リソース(医療従事者の数)だけではありません。現行の超音波診断装置は非常に高性能ですが、その分、高価で高機能化も進んでおり、使いこなすには熟練を要します。高性能な超音波診断装置とハイレベルな診断技術を持った医療従事者を全世界に配置させるのは非現実的ですが、簡便で安価な検査によって正常妊娠経過と異常とを切り分けられれば、限られた医療資源をより効率的に運用させることができると考えています。

*2 医療過疎地:医療需要に対して供給が不足している地域のこと。離島や山間部に限らず都市部近郊にも広く存在する。

4. 新たな胎児エコー検査システムが解決する課題

従来のエコー検査が持つ課題を、Giftsが開発するエコー検査システムを活用することで、どのように解決できるのでしょうか。解決できる課題と活用例、技術的革新性について、お伺いしました。

――解決を目指している課題についてお聞かせください。

小笠原氏:まず現場の医師の負担を軽減します。日本の乳幼児周産期死亡*3数が少ないのは、医師がエコー検査によって胎児の状態を把握できているからです。しかし、人手不足は産婦人科領域の長年の課題であり、医師の働き方改革や、団塊世代の医師の引退も進むなか、産婦人科医の過重労働は限界に達しています。Giftsが開発するシステムは、簡便かつ場所や時間の制約を受けないスクリーニング検査を提供できます。これにより、産婦人科医の負担を軽減し、リソースをよりハイリスクな胎児に割くことが可能になります。
次に妊婦のエコー検査の頻度不足を解消できます。我々が開発するシステムでは妊婦が自分で胎児の状態を検査することができるため、よりこまめに胎児の状態を把握することができ、妊娠期間中の安全と安心が確保されます。
医療施設においてはこのシステムの導入により、勤務医の負担軽減や対応可能な妊婦数の向上が見込めます。胎児の姿勢や動きなどを分かりやすく妊婦へ説明することができるようになり、病院と妊婦の信頼関係の構築に大きく貢献できると考えています。また、本システムで取得した情報を共有することで、正常妊娠経過ではより地域に密着した助産院やクリニックでの管理を、ハイリスクが見込まれる場合はより高次の医療機関と連携するといった医療資源配分の効率化にも資すると考えています。

*3 周産期死亡:妊娠満22週以後の死産と早期新生児死亡の合計数。

本システムによるモニタリングのイメージ画像
本システムによるモニタリング(イメージ)。画面上には胎児の成長曲線や、今現在の元気さを表示していく予定です。

――具体的にはどのような場所に設置し、どのように検査するのでしょうか。

小笠原氏:イメージとしては、役所やスポーツジムなどに設置されている血圧計のように誰でも専門的な知識を要さずに気軽に扱える機器として導入できればと考えています。Giftsが開発するシステムでは、妊婦自身が自分の腹部に巻いて、簡単に胎児の状態を検査することができます。検査に医師や検査技師といった専門家が立ち会う必要はありません。そのため、妊婦が集まる場所に設置し、大勢の方にカジュアルに使っていただけます。これにより機器使用の回転率が上がり、一回当たりの検査費用を下げることができます。また、検査結果を病院に送信することで、万一胎児に異常が見られた場合はかかりつけ医や高次の医療機関への情報連携がスムーズとなり、適切な治療や措置につなげることが可能です。

――Giftsが開発する胎児エコー検査システムの技術的革新性はどこにあるのでしょうか。

小笠原氏:Giftsが開発する胎児エコー検査システムの革新性は、複数のプローブの間隔をあえて広げて2次元曲面上に配置することにより、3次元的な胎児の形や動きを自動的に把握できるようにした点にあります。当初、超音波の専門家からは、その設計では正確なデータが取得できないのではという指摘がありました。しかし、従来のエコー検査において検者間誤差は5%-10%程あり、児頭や腹囲といった数cmの距離がある計測部位では数mmの誤差が発生しています。現役産婦人科医の視点から数mmの誤差は胎児の健康管理上、大きな問題ではなく、このシステムによってより簡単に検査が実施できるメリットの方が大きいと考えました。このコンセプトは他の専門医からも広く理解を得られており、2025年5月に京都で行われた日本超音波医学会において産婦人科領域奨励賞を受賞するなど、現場に即したものとなっています。

胎児エコー検査システム デモ機の画像
胎児エコー検査システム デモ機

5. KUMIHIMOとの共創でムラタに期待するもの

小笠原氏:周産期医療の課題は社会的に認知度が低く、見過ごされがちな現場のニーズが多いと感じています。課題についての継続的な発信のみならず、実際に製品を開発し社会実装していくことが解決の糸口になると考えています。開発の実現に向けては、すでにムラタからは解析シミュレーションソフト「Femtet」をご提供いただいています。また、Giftsが開発するシステムに活用できる可能性がある技術や製品を持つ事業部や研究所を紹介してもらうなどの協力を得ています。今後は超音波センサやフレキシブル基板を用いた回路設計、通信モジュールなど、幅広い分野でシナジーを得られると期待しています。
Giftsという社名に込めた思いのとおり、我々は大切な「贈り物」である赤ちゃんが健やかに産まれるよう力を尽くす医師や妊婦をサポートしていきます。そのためにはムラタの技術は欠かせません。今回の受賞を契機に、共に歩んでいきたいと思っています。

小笠原氏と村田製作所の共創メンバーの画像
小笠原氏と村田製作所の共創メンバー

小笠原淳 氏
株式会社Gifts 代表取締役(CEO)

2013年に慶應義塾大学医学部を卒業後、亀田総合病院にて初期研修を修了。
母校の産婦人科医局に入局し、2018年に産婦人科専門医を取得。
東京大学薬品作用学教室にて神経科学と深層学習に関わる解析・実装(Python, MATLAB, C++を使用)を行い、2023年博士号取得(Nature communications 1報、Scientific reports 2報)。

上記のシステムは開発中のものであり、本稿で紹介される機能は特定の製品に関連するものではありません。現時点で期待される機能であり、特定の効果・効能をうたうものでもありません。

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