暑さ対策デバイス―AMRセンサによる電源制御で品質管理工程を強化―Biodata Bankのメイン画像

暑さ対策デバイス―AMRセンサによる電源制御で品質管理工程を強化―Biodata Bank

2023年度、村田製作所が展開する共創プロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata」(以降「KUMIHIMO」と表記)において優秀賞を受賞したBiodata Bank株式会社(以降「Biodata Bank」と表記)は、デジタル技術を暑さ対策に活用した「熱中対策ウォッチカナリアPlus」(以降「カナリア」と表記)を開発・販売しており、村田製作所はBiodata BankにAMRセンサを供給しています。
Biodata BankはAMRセンサをカナリアの電源制御に活用することで、量産工程における品質管理の高度化を実現しています。暑さ対策デバイスを開発・販売するBiodata Bankと電子部品メーカーである村田製作所との出会いやAMRセンサの必要性、そして共創などについて、Biodata Bankの執行役員・技術責任者である塩津氏にお伺いしました。

1. ムラタとの出会い

――KUMIHIMOへの応募に至った背景をお聞かせください。

塩津氏:カナリアはすでに製品化し販売している製品でしたが、使い切り仕様である設計の都合上、起動した状態での完成品検査が困難でした。電源のON/OFF制御機能を実装することで、検査工程の精度を向上できないかと考えていたところ、村田製作所のハードウェアを用いて製品・サービス・ソリューションを開発する共創プロジェクト「KUMIHIMO」でAMRセンサが提供されることを知り、応募させていただきました。2023年度のKUMIHIMOで優秀賞に採択いただき、さらに短納期でAMRセンサをカナリア向けに新規開発・ご提供いただいたことに感謝しております。

塩津氏の画像1

2. AMRセンサの活用について

AMRとは「Anisotropic Magneto Resistance」の略で、異方性磁気抵抗という意味です。AMRは磁界が加わると抵抗が減少する機能を持つ素子で、その機能は素子に対する磁力線の方向に依存します。また、超低消費電力であることも特徴のひとつです。このようなAMR素子を搭載したAMRセンサは、カナリアでどのように活用されているのでしょうか。

熱中対策ウォッチカナリアPlusの画像
熱中対策ウォッチカナリアPlus

――カナリアというデバイスについてご紹介ください。

塩津氏:カナリアは、暑熱リスクの高まりを検知するウォッチ型暑さ対策デバイスです。独自のアルゴリズムにより、皮膚や体腔に機器を挿入せず非侵襲的に暑熱リスクを検知し、通知します。さらに、一度起動すれば約5カ月間に亘り連続動作する使い切り仕様で、ON/OFFのし忘れを防ぎます。これにより、暑熱環境下での安全な運動や労働をサポートします。

――暑さ対策市場の現状についてお聞かせください。

塩津氏:地球温暖化の影響を受け、暑さ対策市場は拡大しています。政府は、年間約1,000人に上る熱中症による死亡者数を2030年までに半減させる方針を閣議決定し、2025年4月には企業に対策を義務付ける法改正を公布しました。これにより、企業の責任は一層強化されました。しかし、WBGT(暑さ指数)や個々の感覚・経験則に基づく従来の対策だけでは、近年の酷暑に対応しきれないケースが生じています。そこで当社は「全世界から熱中症をゼロにする」というミッションのもと、より精度が高く実効性のある対策を実現させ、さらなる信頼性向上に向けた品質管理の強化を進めています。

AMRセンサの活用についてのイメージ画像
提供:東京パワーテクノロジー株式会社

――AMRセンサの搭載によって、どういった仕様が実現したのでしょうか。

塩津氏:販売の拡大に伴い、以前にもまして品質管理に重点的に力を入れていく必要がありました。しかし一度起動した後は電源を切ることができない使い切り設計であるカナリアは、電源が入っている状態での完成品検査に課題がありました。AMRセンサを搭載して外部磁界により遠隔で電源のON/OFF制御ができれば、起動状態の完成品を検査した上で、再度電源を切り、出荷することができるようになります。それによって、使用時により近い状態での完成品検査が実現しました。

3. 共創の印象と成果

――共創においてどのようなメリットがありましたか。

塩津氏:Biodata Bankにとって完成品検査による信頼性の向上は最重要です。カナリアの製造にもうひとつ大切なことは、春までに在庫を作って夏に向けて販売していくというビジネスサイクルに沿った量産スケジュールを組むことです。製品量産の時期は秋ごろから始まるため、KUMIHIMOでAMRセンサをご紹介いただいた時点で、すでに日程的に厳しい状態ではありました。
既存製品では当社の要求スペックにミートしないため、開発中の新センサを提案いただき、タイトなスケジュールの中で技術・試作サポートをいただきながら開発期限の順守と性能を両立させる成立解を両者で見出しました。その後の量産においても当社の生産計画に基づいて部品を確保していただいたため、量産時期の目標を達成することができました。

塩津氏の画像2

――試作段階におけるシミュレーション検証や製品情報の提供などのやり取りについて教えてください。

塩津氏:開始前までは、代理店を介したコミュニケーションでしたので意見交換の調整に時間を要することもありました。しかし共創スタート後は事業部と直接やり取りをできるようになり、仕様書に記載されていない情報もスピード感を持って教えていただけるようになりました。また、試作段階における技術監修の面でも迅速にサポートいただきました。カナリアの完成品検査で電源のON/OFF制御をするには、AMRセンサの取り付け位置が重要なポイントになります。電池との距離が近すぎると、AMRセンサの感度に悪影響を与えるため適切な電源制御が難しくなります。村田製作所からは、AMRセンサが正常に作動するベストの位置をシミュレーションしていただくなど、ご協力をいただきました。

――共創を通じて得た学びはありましたか。

塩津氏:村田製作所の技術チームとの共創を通じて、電子部品自体の機能的な性能を極限まで追求する姿勢に深い感銘を受けました。一方で、当社は「部品を活用して何ができるのか」を徹底的に探求し、価値を創造する企業としての役割を担っています。
最終的に提供する価値は異なるものの、日本を代表する企業が持つ性能や品質へのこだわり、技術に対する高い基準を直接学ぶ機会を得たことで、Biodata Bankのプロダクト開発や製造プロセスにもその知見を取り入れることができています。
今回の共創を通じて、Biodata Bankが単なるベンチャープロダクトの枠を超え、より多くの方に信頼されるものへと成長しつつあることを実感しました。

4. 共創の未来像

地球温暖化などの影響により、暑さ対策の重要性は増しています。そのような中で、これからのBiodata Bankとムラタが果たす役割についてお伺いしました。

集合写真

――これからのカナリアについて、今後の展望をお聞かせください。

塩津氏:まず、現在我々が抱える課題はカナリアの使用現場におけるウェアラブルデバイスに対するハードルの高さであると感じています。この課題を解決するには、より使いやすく安心して手に取りやすい信頼性の高いデバイスの提供が必要です。今後さらにお客さまの操作を可能な限り減らして、シンプルで使いやすいデザインを実現することが、普及の上でもポイントになると考えています。

――今後、ムラタとの共創に期待する役割についてお聞かせください。

塩津氏:思いついたアイデアを村田製作所に相談すると、窓口の部門だけでなく関連した技術を持っている他の部署からもアドバイスをいただけます。このように広く繋がりを持てるということは、プロダクトを実現する上で非常に強力な武器になると思います。今後も、村田製作所のAMRセンサをはじめとする電子部品を活用することで、多くの課題を解決していけると思います。

――具体的には、どのような取り組みを考えておられますか。

塩津氏:使用後のカナリアはBiodata Bankが回収し、データを収集・分析した結果をユーザ様へ提供しています。今後のモデルでは、カナリアのデータをLPWAなどの無線通信により、リアルタイムでの収集と分析を可能にしたいと考えています。データ収集の精度の高さは、カナリアの精度向上に直結するため、高品質な村田製作所の通信モジュールやセンサに期待しています。

5. まとめ―編集後記

近年、地球温暖化などの影響により、気温は上昇しています。自然環境の変化に起因する課題を解決するために生まれた製品がカナリアです。一方で製品を製造・提供する企業にとって品質や信頼の確保、スムーズな量産体制は重要課題です。社会のニーズと、それに応えようとする企業が抱える課題。共創とはその上に成り立つものであると感じています。
カナリアは、今後も高品質で使いやすいデバイスを追求するでしょう。そして無線通信を用いたバイタルデータの収集やリアルタイムでのデータ解析などにおいて、ムラタの電子部品が果たす役割はますます大きくなっていくと思われます。

塩津氏の画像3

塩津隆弘 氏
Biodata Bank株式会社 執行役員 技術責任者

トヨタ自動車にてエンジニアとしてのキャリアをスタート。車のワイヤーハーネス(電線)やメータの開発に従事。北米事業体への赴任を経て、帰国後は日本・フランス各工場での車両量産立ち上げを経験。2020年12月Biodata Bank株式会社に入社。設計や品質管理の知見を活かしてヘルスケアデバイスの原理検証、デバイス開発、アルゴリズム開発から量産までを一貫してモノづくりに取り組む。

KUMIHIMO Tech Camp with Murata、詳しくはこちら

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