発電したら無駄なく使う。統合型再エネ制御ソリューションによる、持続可能なエネルギー管理の最前線
2025年に改定されたエネルギー基本計画では、2040年までにエネルギー需給の40~50%を再生可能エネルギーにする目標が掲げられました。気候危機が深刻化するなか、エネルギー問題をどう捉えるべきかが問われています。
村田製作所では、AIを活用した統合型再エネ制御ソリューション「efinnos(エフィノス)」を開発。福井県・金津の自社工場をはじめ、自社施設5箇所における再エネ100%化への大きな足掛かりとして、2021年から運用実績を重ねています。
efinnosの技術的な特徴や今後の展望について、同社でエネルギー事業を担当する的野と向井に聞きました。
1. 太陽光発電の課題を解決するエネルギー管理技術
――efinnosについてお聞かせください。どのような問題意識から開発されたのでしょうか。
的野:efinnosとは、太陽光発電の設備と蓄電池を組み合わせて、エネルギーの安定供給を実現する仕組みのことです。太陽光発電は当然ながら、気候条件の影響を大きく受けるものなので、例えば雪が降ると発電量はほとんどゼロになりますし、晴れていても少し雲が掛かる時は発電量が低下します。
また実際に電気を使う工場においても、作業内容によって電力使用量は大きく変動します。たくさん電気を使う日にあまり発電していない、またはその逆で、それほど使わない時にたくさん発電しているといった需給ギャップが起きてしまう。それを埋めるのがefinnosの役割です。
向井:村田製作所は、事業で使用する電力を再エネ100%にする「RE100」に加盟していることもあり、自社の太陽光発電設備で作った電気を無駄にせず、もれなく使いたいと考えました。最適な制御のため、EMS(エネルギーマネジメントシステム)にAIを導入して、需給ギャップを埋めることを目指して開発したものです。売電せず自家消費することを前提にし、電力を細かく制御できるよう考えました。
efinnosは、気象状況や諸条件によって変動する発電量と消費量を鑑み、いつ蓄電するか、あるいは放電すべきかを判断しています。余剰電力を無駄なく蓄電池に貯めておくことで、結果的に太陽光発電を最大限に活用できるものになりました。この総合力が、efinnosの特徴だと考えています。
2. 電気代削減を実現する、ピークカット機能の仕組み
――自社工場5箇所での運用実績に加えて、外販を始めた初年度ですでに複数の企業がefinnosを導入したとうかがいました。どんな点に期待や評価が集まっていると思われますか。
的野:経済的な価値と環境価値、この二つを同時に提供できていることです。まず経済価値ですが、多くの企業が取り組む固定買取制度のFITに最適化した発電の場合、電力は全て売電するため、efinnosのような蓄電・放電の制御を行う必要性はありません。しかし買取価格が下がり電気料金が高騰した今、売電ではなく電力を自家消費することで「電気代を下げたい」と考える企業が増えてきました。
また、FITに基づいて売電した場合、その環境価値は企業ではなく国に帰属することになります。村田製作所も以前は売電をしていましたが、efinnosの開発以降、太陽光で発電された電気は全て自家消費することを選択しました。発電・蓄電・消費をトータルで制御するため、環境価値も村田製作所として保持でき、TCFD(気候変動の情報開示タスクフォース)への貢献につながります。また、efinnosが新しい技術として注目していただけることで、環境課題に対して積極的に取り組む企業姿勢を示せていると思います。
向井:efinnosには、AIが電力消費のピークを予測することで電力負荷を平準化する「ピークカット機能」があります。契約電力を抑えることにつながり、年間の電気代を下げることができる。これは、導入先の企業でも期待されている効果だと実感しています。
経済的効果を重要視する企業は多いので、導入前にしっかりシミュレーションし効果をご説明しています。また、efinnos導入後も定期的にお話をうかがって、追加のご要望にもお応えしています。
3. 挑戦の先に実績あり。前例なき試みとは
――2019年から開始したefinnosの開発は、先駆的な取り組みでした。そこから今に至るまで、社内の変化は感じられますか。
的野:私自身、もともとエネルギー関連の事業を担当するなかで問題意識がありましたので、早く実績につながるものを作りたいと思っていました。予算も掛かることですので、当初は本当にできるのか、と社内から疑問視の声も上がりましたが、私たちは「この技術が近い将来、絶対に必要になる」と信じていました。社風としても、新しいことには早めに取り組むことを推奨する風土があるので、経営層も応援してくれています。
また、金津村田製作所への導入がスムーズだったおかげで、想定よりも早く運用実績ができました。工場には、発電や蓄電の状況をリアルタイムで見られるパネルがあり、日常的に再エネに触れることで、関係者の環境意識にも良い影響が出ているようです。
向井:efinnosが社内でも認知されるようになってからは、自宅で太陽光発電に取り組んでいる人や、蓄電池に興味がある人など、新しくプロジェクトに参加してくれるメンバーが増えました。今は10名ほどのチームで担当しています。社内展示などの際、省エネや再エネについて質問してくれる人も増えてきたと思いますし、環境意識の高まりを感じています。
――今だから言える開発時の苦労話を教えてください。
向井:技術的なことで言えば、物理的にサイズが大きいので、模擬試験をすることも簡単ではなかったです。普段、我々が作っているものは小さい商品が多く、実験も限られたスペースでできるので試運転までに必要なデータを収集できるのですが、efinnosの場合、実際に工場に入れるまで試運転はできません。シミュレーションを重ねたとしても、実際に動かしてみると、機器の応答や通信状況が想定と違うなど、現地での調整が求められました。そういった対応はちょっと大変でしたね。
的野:私は金津村田製作所での設備立ち上げ時に現地まで行っていたのですが、2021年はまだコロナ禍で頻繁に移動もできず、一人で長期滞在することになりました。地元の電力会社との調整では、電力系統側に悪影響がないことを示すために、かなり細かな説明も必要になるなど、想像以上に大変でした。
この規模での再エネの自家消費システムと蓄電池の連携は前例がなく、調整に時間が掛かってしまい、結局1ヶ月の予定が4ヶ月間福井に滞在することになりました。ただその時の細かな調整や説明も、今efinnosを導入いただく際に活かせています。
4. 広がる未来の利用範囲と、次なる制御対象
――efinnosは今後、どのような展開をしていきたいとお考えですか。
的野:今は社会的価値が高いシステムとして注目されていますが、環境課題に持続的に貢献していくためには、ビジネス的なメリットは欠かせません。現状はまだ初期費用が障壁になることもあるので、用途に応じた適切なスペック・仕様の蓄電池と接続することによるコスト抑制や、さらなる制御精度の向上によって導入側のメリットを高め、拡大につながる価値を作りたいと考えています。
そのためにも、より多くの方にefinnosのことを知っていただき、再エネの利活用を共に推進する仲間を増やしていきたいです。efinnosや再エネ活用の現場の様子を見学・体験いただけるような機会を作れたらいいなと考えています。金津村田製作所には、地域の児童や学生が環境教育の一環として見学に来てくれることがありますが、さらにご近所にお住まいの方や地元の企業など、多くの方に自由に見ていただけるような場があることが理想です。
向井:太陽光による発電が増えると、供給の不安定さによって電力網を圧迫する可能性があります。そのため電力会社では売電量の調整や、需給バランスを保つための整備が必要になると思います。efinnosの制御であれば、蓄電池を電力需給バランスの調整力として活用することができるため、電力安定化のためにも重要な役割を果たせると考えています。
また近い将来、太陽光発電の電力以外でも制御ができるよう、efinnosの利用範囲を拡大させる必要があります。特に大きな可能性があるのは、再エネを活用した水電解によって作られるグリーン水素です。発電した電力を蓄電池に貯める他、水素に変えてから貯めるなど、エネルギー活用の幅が広がります。AIのモニタリング精度向上など技術的な課題もありますが、課題を明確にするためにも、早めに取り掛かれるよう準備したいと考えています。
的野:以前は、人口減少や省エネ化の進行により、電力需要はこれ以上伸びないと言われていました。しかしAIの利用拡大が急激に進み、データセンターのニーズ拡大などによって、電力需給が増加する見通しが出ています。電力需要が拡大しても、再エネによる発電や利活用のシステムの安定に貢献することで環境負荷を抑え、カーボンニュートラルの実現を目指します。広域にクリーンなエネルギーを提供するにあたり、efinnosが一層貢献できるよう、私たちも使命感をもって取り組んでいきたいと考えています。
関連リンク
- 持続可能な未来に向けたムラタの挑戦 ~再エネ推進を支える担当者の想い~
- Murata Sustainable Actions
- 環境とムラタ
- RE100の達成時期を2035年度に前倒し、新たにカーボンニュートラル目標を設定