企業間アライアンスによって創造する、村田製作所の新しいデータビジネスとは(後編)──持続可能な社会への貢献

村田製作所(以下、ムラタ)ではSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)を推進しており、事業を通して社会課題の解決に取り組んでいます。では、具体的にどのようにして持続可能な社会づくりに貢献しているのでしょうか。トラフィックカウンタシステムを担当するムラタの津守にSDGsの観点から話を聞きました。

トラフィックカウンタシステムの4つの「貢献」

──前編では、トラフィックカウンタシステムの企業アライアンスについてお話を伺いました。一方で、現地企業とのパートナーシップ、交通渋滞の解消という社会課題の解決、その結果として人々の生活の質の向上への期待など、公共性の高い事業とも言えます。

津守 そうですね。ムラタではクロスファンクショナルチームを立ち上げて、SDGs の推進に取り組んでいます。SDGsへの貢献という側面で、この事業を捉え直すこともできると思います。

──SDGsでは17のゴールが設定されています。

津守 それらのうち、トラフィックカウンタの事業が貢献できるのは9「産業と技術革新の基盤をつくろう」と、11「住み続けられるまちづくりを」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」の3つのゴールです。

この3つのゴールを説明する前に、まずこの事業がどのように社会に貢献しているかについて説明したいと思います。

トラフィックカウンタ事業の社会的価値

①「適切な交通インフラの開発」と、「それによる環境影響の低減」に貢献する

②「渋滞率の緩和」に貢献する

③「CO2、振動、騒音の監視」と、「それにもとづく低減策の提示」に貢献する

④「現地パートナー企業の経済的成長率」に貢献する

①「適切な交通インフラの開発」と、「それによる環境影響の低減」に貢献する

トラフィックカウンタシステムは、システムをただ提供する事業ではありません。取得した交通量データを継続して提供し、そのデータを現地で適切にオペレーションできるようにしています。そして、本当に現地が必要とすることを実現し、運用しています。こうしたシステム提供にとどまらない一連の取り組みを行うことで、現地の「適切な交通インフラ」の姿に少しずつ近づいていけると考えています。

また、交通データだけでなくCO2などのデータも取得しており、システムの拡張性を見越して開発しています。そのため、交通量が環境に与える影響を検証するためのデータ収集もでき、環境影響の改善につなげる提案ができます。

データを取得するセンサボックスは、2021年3月時点でインドネシア、タイ、マレーシア、日本に設置されている。

②「渋滞率の緩和」に貢献する

東南アジアの都市部では、非常に狭いエリアに何百万人という人々がひしめき合っています。特にジャカルタは、かつて世界最悪の渋滞都市とまでいわれた街で、「渋滞率の緩和」はとても大きな社会課題です。これまで現地で取得できなかった、質の高い交通データを提供しており、渋滞率を緩和させるための政策や施策に活用されています。

ジャカルタのエリアごとの交通量の推移を示したグラフ。本格導入となった2020年は、新型コロナウイルスによる外出規制の効果を検証するために活用された。

③「CO2、振動、騒音の監視」と「低減策の提示」に貢献する

トラフィックカウンタシステムは、交通量だけではなくCO2、気圧、雨の検知、さらには振動、騒音のデータも取得しています。取得したデータでCO2、振動、騒音の状態を監視することが可能になり、それらのデータ分析を通じて、CO2、振動、騒音を減らす対策に役立てることができます。また、気圧や雨のデータは、洪水被害の多い東南アジアにおいて雨の予測や洪水予知などにも活かすことができる可能性があります。

トラフィックカウンタシステムでは、交通量だけではなくCO2や気圧などの環境データも取得している。

④「現地パートナー企業の経済的成長」に貢献する

前編でお話ししたとおり、この事業では現地パートナーとのアライアンスを非常に重視しています。彼らとのアライアンスは、事業の成功につなげるという側面だけでなく、現地パートナー企業の経済的成長という側面からも、その価値を見出すことができると思います。

SDGsにどのように貢献しているのか

――なるほど。非常に社会的意義のある事業と言えそうですね。

津守 これらの観点から、SDGsの3つのゴールとの関連性が見えてくると思います。

9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

このシステムは、「現地に適合する」ということを重視しています。つまり、システムの都合に現地をあわせるのではなく、現地の都合にあわせて現地が必要とする運用方法を導入したシステムにしています。こうすることで、日本でも取得し得ないような、非常に質の高いデータを取得できる可能性も秘めています。さらに、これらのサービスを、現地のコスト感にあった費用で提供しています。例えばジャカルタ政府の要望にのっとってコロナ禍での交通規制機関毎の交通量を見える化することで、政策の効果をモニタしています。こういった取り組みが9「産業と技術革新の基盤」づくりにダイレクトにつながると思っています。

11. 住み続けられるまちづくりを

11「住み続けられるまちづくりを」も、同じく①〜③を通じて貢献しています。交通量の多い東南アジアの都市部は、CO2の濃度が高く、振動・騒音の問題が非常に起こりやすい環境です。このような問題は人々のライフスタイルに直結する問題です。データを利用して“見える化”すれば、その原因や解決策を検討することができます。結果が出るのはこれからですが、たとえば、交通量の変動とCO2変動の関係性を分析して、交通量を適切にコントロールすることに利用できないか、などの施策が検討されています。さらに、住んでいる人々の生活や環境への意識を高めていくことも可能であり、生活レベルの向上につながると考えています。

また、環境改善に役立てるデータを、「現地が活用できる状態」で的確に渡していることは、現地の実行可能性を引き上げることになり、ゴールへの関与をさらに強めていると感じています。

17. パートナーシップで目標を達成しよう

17「パートナーシップで目標を達成しよう」は、④と関連付けられます。

現地パートナーと一緒に取り組み、彼らが管理しやすいオペレーションの形をパッケージとして提供しています。しかし、ここでの貢献は、それだけにとどまらないと思っています。アライアンスのプロセスを通じて、彼らは日本の仕事のやり方やクオリティーを実践し学ぶ機会になっている、という側面もあります。やがて、彼ら自身の中に私たちのビジネスノウハウが蓄えられていくでしょう。そうすると、例えば、他の都市や国に新たにシステムを導入する場合に、我々から得たノウハウを生かして、パートナー企業自身が主体となってシステム導入に必要な人材教育を展開することも可能でしょう。この方法であれば、日本企業は発展途上国の抱えている課題に対してアクションを起こしながら、現地のパートナー企業との継続的な関係を構築できます。そしてビジネスパートナーの拡大、ひいては双方の企業価値の向上や地域への貢献につなげることができます。

「自ら持続性を生み出すこと」を支援する

──トラフィックカウンタシステムの今後の展開は、SDGsのゴールへの貢献をどう深めていくことになりそうでしょうか。

津守 トラフィックカウンタシステムでの屋外データの取得は、交通量やCO2のモニタリングといった単一的な見方ではなく、それらがどう影響しあっているのかという視点が必要です。さらに、他のデータとあわせて俯瞰的にみれば、生活環境を改善する指標を示唆することにもつながります。そうした経験から見出したモデルを活用すれば、新たにシステムを導入する地域でも現地のニーズを取り込みながらもスピーディーに質の高いインフラとして展開することもできるでしょう。こうした取り組みを通して各地のパートナー企業が付加価値を高めていけば、その国全体の価値の向上にも貢献できると思います。

SDGsの「持続可能(Sustainable)」という言葉に対して、開発途上国ではさまざまな制約があるため、持続性そのものを自分たちで生み出すことが困難なことも多いです。それを支援するために、日本企業発のプロダクトが持続性を生むきっかけになることがあってもいいと考えています。

──SDGsのゴールに貢献するためには、各地のパートナー企業とのアライアンスはますます必要になってきますね。

津守 そうですね。現在はコロナ禍で現地に行きづらいため、これまで我々で対応していたことをアライアンス先の彼らに託してみるという考えを持っています。このような状況では、これまで以上に常識にとらわれずに先入観を払拭して、柔軟に考えを変えることができる組織になっていく必要があります。一方で、現地に住む人々の生活環境を少しでも良くしていくためには、現在のような状況でもトラフィックカウンタシステム導入を推進していかなければなりません。そのためには、信用できる現地のビジネスパートナーとどう出会えるかが重要になってくるでしょうね。

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