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電池が拓く、クリーンエネルギーの未来(後編)

クリストファー・ジョンソン氏インタビュー

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クリストファー・ジョンソン氏のプロフィール

ブループラネットエナジーのCOO(最高執行責任者)。20年近く前に革新的で急成長中の非営利団体や企業とのコミュニケーションとコラボレーションを改善するためのソフトウェアを開発する技術コンサルティング会社を設立、経営。同社はジョージア州では初の、社会環境に配慮する企業に与えられるBコーポレーション認定企業となりました。以降、科学とサステナビリティの両分野で尽力。2017年に気候危機に対処するための製品ソリューションに焦点を移し、ブループラネットエナジーに参画、同社をクリーンエネルギーマイクログリッドのリーダーとして位置づけることに貢献してこられました。また、講演の機会も多く、より良い世界を目指す運動の構築に熱心です。五大陸で暮らされた経験をお持ちで、スペイン語も堪能。現在、サンフランシスコにご家族とお住まいで、毎日ご子息から刺激を与えられているそうです。

再生可能エネルギーを普及するために、欠けていた要素

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マイクログリッドは、再生可能エネルギーを効率的に利用し、地域内でエネルギーを自給自足できるシステム

Q:ブループラネットエナジーはどんなことを目的、使命としているのですか?

ジョンソン:ブループラネットエナジーの使命は、2045年までに再生可能エネルギー100%化を達成することを可能にし、人類を勇気づけることです。再生可能エネルギーを化石燃料よりも優れた代替エネルギーにするための情報、システム、ソリューションを提供することに尽力しています。過去数年は再生可能エネルギーを化石燃料よりも安価で、より信頼でき、また、安全で容易に利用できるものにすることを焦点としてきました。可能な限り最高のソリューションで、業界を啓蒙していきたいと考えているのです。再生可能エネルギーの導入にはバッテリが不可欠とされてきましたが、バッテリだけではありません。私たちは、再生可能エネルギープロジェクトにエネルギー貯蔵システムを導入する方法について多くの人々を訓練してきました。信頼されるパートナーとして、そうした技術の世界中での採用、展開が可能であることを保証してきたのです。

Q:ブループラネットエナジーは、マイクログリッド用のエネルギー貯蔵システムを製造されています。マイクログリッドとはどんなもので、なぜそれが今後重要になるのでしょうか?

ジョンソン:太陽光や風力などの自然エネルギーの活用が大きな話題になっていますが、送電網は断続的な電力に対応するのが難しい、という問題があります。太陽は出ているときもあれば出ていないときもあり、風も吹いているときと吹いていないときがあります。しかし、私たちが電気を必要とするのは、太陽が照っているときや風が吹いているときだけではないのです。太陽光発電の導入は進んできましたが、そのユーザーの多くはバッテリを持っていません。バッテリに蓄電しておかなければ、電力網がダウンしたとき太陽光発電は機能しないことも知らない人が多いのです。太陽が照っているのにシステムから電力が得られない、というのは直感的に理解しにくいことですがそれが現実で、バッテリとマイクログリッドを持つことが、レジリエンスの必要性に対する答えなのです。脱炭素化だけではダメなのです。もちろん、二酸化炭素を排出してオゾン層に穴を開けてしまうようなことはやめなければなりませんが、日々の気象変化への対応も考慮する必要があるのです。実際、暴風雨や火災、天候の変化で電力網が寸断されることも多くなっており、そうした問題の頻繁化にも備えなければなりません。こうした観点から見ても、マイクログリッドを含むソリューションならクリーンエネルギーでレジリエンスを実現できます。

マイクログリッドの構築には、大規模な電力網からシステムを切り離す「アイランド化」が必要です。まずは、家庭や企業、地域コミュニティを大規模な送電網から切り離せるスイッチを作ることから始まります。必要に応じてそのスイッチを切れば、その「島」は独自のマイクログリッド内において、安全かつバランスのとれた形で電力を供給することができるのです。

Q:マイクログリッドとはどのくらいの規模のものなのですか?一軒家や近隣地区内だけのマイクログリッドも可能なのでしょうか?

ジョンソン:何をもってマイクログリッドと呼ぶのかという正確な定義にとらわれている人も多いようで、一軒家は「ナノグリッド」などとも呼ばれていますが、そのような用語にとらわれる必要はないと私は思っています。建物や構造物を「アイランド」にして、複数のエネルギー源を持てば、それでマイクログリッドは成立します。すでに、近隣地区や地域コミュニティのレベルでもマイクログリッドは実現されています。米国では電力会社が関与した法規制も多いので法律的に難しい場合もありますが、技術的に困難というわけではありません。

重要なインフラのレジリエンスを強化させるためにもマイクログリッドが導入されるケースも増えています。プエルトリコではハリケーン「マリア」後の復興作業で、緊急避難所、地域コミュニティの給水システム、病院、診療所といったライフラインが停電で機能停止になるのを防ぐために、マイクログリッドを構築するプロジェクトが多く行われています。

よりスマートに世界に電力を供給する「ブルーイオン」シリーズ

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ブループラネットエナジーのバッテリシステム「ブルーイオンシリーズ」 *1

Q:ブループラネットエナジーは、先進的なエネルギー貯蔵システムのプロバイダーとして知られています。ブルーイオンシリーズとはどんなものなので、どんな特長があるのですか?

ジョンソン:バッテリは本当に重要ですが、バッテリだけではなく、バッテリから電力を取り出し、使える形に変換する方法も必要です。AC電源への変換や、すべてを管理し、バランスをとり、モニターするためのソフトウェアとコントロールのシステムも必要です。これらをまとめて、私たちは「エネルギー貯蔵システム」と呼んでいます。これらを組み合わせたものが、マイクログリッドの心臓部になるのです。ブルーイオンシリーズは、現在市販されているエネルギー貯蔵ソリューションの中ではまさに最高級といえるでしょう。グリッドやエネルギーの独立を実現するためのものです。そのためには、信頼性が高くなければなりません。また、安全で、長期間に亘って必要に応じて使えるものではければなりませんが、ブルーエナジーのシステムは堅牢性でも高い評価を得ています。エネルギー貯蔵システムといえば、万が一電力の自給が必要になった場合のバックアップのオプションと見られがちですが、ブルーエナジーのお客様の多くは、緊急時のみでなく、ブルーイオンシリーズを日常的に利用されています。毎日使われるものだから、重要なニーズに応えられるものでなければなりません。

Q:ブループラネットエナジーの製品やビジネスはこれまでどのように進化してきたのでしょうか?

ジョンソン:実はブループラネットエナジーの最初の顧客は創業者のヘンク・ロジャーズでした。ヘンクは先見の明があり、常に限界に挑戦し、より多くのものを求める人物で、ホノルルの彼の自宅にはブルーイオンシリーズの第一世代の製品があります。私の自宅には第二世代の製品があります。私たち自身がこの技術を愛用しているのです。そして今、ブルーイオンシリーズは第三世代の製品が市販されており、業務用製品も提供しています。ブループラネットエナジーのシステムは拡張性に優れていることも高い評価を得ている特長のひとつです。ヘンクはテトリスのように、うまく組み合わされたものが好きなのです。

ブルーイオンシリーズもシステムを積み重ねてカスタマイズしたソリューションとして提供できるようになっています。小型の製品から大型の製品に至るまでそうした拡張性を持っており、最近になって商業用融資のソリューションも追加しました。これは、企業や営利団体、非営利団体、政府機関がクリーンエネルギーのマイクログリッドを導入し利用する際の初期費用の障壁を取り除くものです。ソーラーパネル、設置工事、バッテリシステムなど、プロジェクト全体の資金を調達することができるようにしたもので、カリフォルニアとハワイで展開しています。

ブループラネットエナジーは信頼性の高い堅牢なソリューションのプロバイダーとしてすでに確かな地位を築いていますが、その上に、スマートな機能も追加しています。ユーザー自身が使用中のシステムの状態を知ることが重要だからです。ブループラネットエナジーのソリューションなら、システムの状態をプロアクティブに監視できます。太陽光発電は十分か?バッテリは十分か?設置業者やお客様自身でシステムを強化したり、変更したりする方法もご提案できます。また、ブループラネットエナジーが地球環境にもたらすインパクトも継続的にモニターしています。これまでに導入した何千ものシステムを通じて、エネルギーの脱炭素化に貢献できていると自負しています。

村田製作所の「FORTELION」シリーズは、安全性と信頼性を確保

Q:ブルーイオンシリーズには、村田製作所のFORTELIONシリーズのバッテリが使われていますね。村田製作所との協働はいかがですか?

ジョンソン:ブルーイオンのような製品を市場に送り出すには多くの労力が必要です。私たちの会社は人間関係の上に成り立っていますが、ブループラネットエナジーや弊社のお客様の信頼性を高めるコラボレーションが村田製作所となら可能です。今日、市場には実際には宣伝通りではない製品がたくさんありますが、村田製作所の製品には信頼保証があります。村田製作所とは誠実な協調関係が築けました。だからこそ、一緒に製品を開発することができたのです。私は村田製作所の福島の工場にもシンガポールの工場にも出向き、村田製作所には今後さらにラインを増やし、生産能力を向上させるキャパシティがあることも確信しました。また、村田製作所が自社のクリーンエネルギー化にも真剣に取り組んでいることも知り、大変うれしく思っています。私たちの誰もができることをやっていく必要がありますし、その過程で学ぶこともたくさんあります。

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ブルーイオンシリーズに搭載された村田製作所のオリビン型リン酸鉄リチウムイオン二次電池「FORTERION」搭載の蓄電池モジュール

Q:ブルーイオンシリーズは、どこでどのように活用されているのでしょうか?

ジョンソン:私たちのお客様は広範囲にいらっしゃいます。ハワイ諸島からカリブ海、カナダから中央アメリカまで、幅広い地域でご利用いただいています。お客様の使用目的の約半数は住居で、半数は企業です。小さな家から大きな牧場やリゾート施設まで、実にさまざまですが、基本的にはお客様は2種類に分類できます。ひとつは、このシステムを一生使いたいと考えてくださるお客様です。長寿命で長持ちする品質を好まれ、安全性、使いやすさを重要視されるお客様で、シンプルに機能し、長く使え、何もしなくていいという気楽さを好まれます。一方では、弊社のパートナーとしてブルーイオンシリーズを設置する側のお客様もいます。ソーラーパネルとシステムを統合し、すべてを地中に設置するのは彼らなので、システムの統合が簡単にできるようにするための努力をしています。エネルギー貯蔵はその一部に過ぎません。複数のシステムが組み合わせられて利用されるケースが多いのです。たとえば、ソーラーパネルを設置し、それをバックアップするために発電機を設置するといった具合です。私たちがハードウェアとソフトウェア、そして物理的な統合を容易にすれば、パートナーの皆様もさまざまなシステムを迅速に構築し、質の高い仕事を提供できることになります。

ジョンソン:実際の事例をいくつかご紹介しましょう。たとえば、コナ・レインフォーレスト・コーヒーは、ハワイ島のオフグリッド市場では有名で、いくつものハイパワーマシンを動かしてコーヒーを生産しています。私たちにとっては、困難な課題を乗り越えて実現させた良い事例です。ここではソーラーパネルから素早くバッテリに充電し、一日中すべてを稼働させる必要があります。エコツアーのような形で見学できるようにすれば、ブルーイオンシリーズの可能性を示すパワフルなショーケースになるでしょう。コーヒーを飲みながら、クリーンエネルギーシステムを体験することができるのです。このようなシステムが機能的で、今日すでに利用可能であることを、より多くの人々に紹介していくことはブループラネットエナジーにとっても不可欠です。こうしたシステムが理にかなっていることをご自分の目で確かめていただくことができるのです。

このケーススタディに関する詳細
(ブループラネットエナジーのウェブサイトが開きます。)

ジョンソン:プエルトリコでは赤十字の「ソーラースクール」プロジェクトに100校を超える学校が参画しています。緊急避難所としても機能できる学校が島のいたるところにあるのです。しかし、プエルトリコの電力網には問題が多いので、このネットワークの学校のほとんどは、ほぼ毎日、少なくとも短時間の停電を経験しています。暴風雨に襲われなくても停電はよく起きるのです。長い時間停電が続くところもあります。すべての地域コミュニティには停電に耐え得る施設が必要です。
緊急避難所に物資はあっても、電力供給のバックアップ用のエネルギー資源がなければ緊急避難所は役に立たないことを認識して、赤十字社がブループラネットエナジーのシステムの導入を決めたのです。その結果、各学校は太陽光発電による無料でクリーンな電力で、学校の電気代も節約しています。ヘンクと私がプエルトリコの学校を訪れたときには、バッテリルームで取材を受けている最中に停電になり、私たちのシステムが活躍している様子を目の当たりにすることができました。

この事例の詳細はこちら
(ブループラネットエナジーのウェブサイトが開きます。)

 

再生可能エネルギー100%化へ、世界を動かす

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常に進化を続けるブルーイオンシリーズ *2

Q:今後の展開についてお聞かせください。新たな目標は何でしょうか?

ジョンソン:今ご紹介したような事例は一例に過ぎません。ブループラネットエナジーもその製品であるブルーイオンシリーズも、オフグリッドという常に困難なニーズのある挑戦的な市場からスタートし、進化を続けています。エネルギー貯蔵市場において、私たちは非常に強力なブランドをすでに確立しています。そして、今回の復興支援プロジェクトでは、マイクログリッドと復興支援という新たな市場に参入しました。こうした市場は今後も拡大し続けると見ています。グリッド接続市場はエネルギー貯蔵の価値と、それが市場の機能をさらに高める価値を理解し始めたところです。電力網の脱炭素化には成し遂げなければならないことが数多くあります。今後15年で、これまでの1000倍にあたるエネルギー貯蔵システムの導入が必要で、これは大変なことです。約9,000GWhのエネルギーを貯蔵することになるからです。地域ごとにエネルギー資源を地元で確保する必要性が非常に大きくなるのです。

市場はグリッド用のエネルギー貯蔵の価値にも目覚め始めたところです。ブループラネットエナジーのテクノロジーもまだごく一部の方々にしか提供できていません。より手頃な価格で、よりアクセスしやすく、より広い社会にご利用いただけるようにすることが今後の課題です。これからも設置業者の優れたテクノロジーパートナーであり続け、お客様に素晴らしい体験をしていただけるよう、さらに努力していきたいと思っています。

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Blue Planet Energyのエネルギー貯蔵システムBlue Ionシリーズは、ムラタのFORTELION バッテリシステムを使用しています。

挿入画像の参照元

Top image  https://www.blueplanetenergy.com/solar-builder-selects-30-of-our-favorite-solar-products-from-2021/

*1  https://www.blueplanetenergy.com/blue-planet-energy-launches-zero-down-clean-energy-microgrid-financing-for-california-businesses/

*2  https://www.blueplanetenergy.com/solar-plus-storage-microgrid-spares-remote-alaskan-community-on-diesel-expenses-boosts-resilience/

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